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第38話『突貫作業』

 咲耶たちが食料の買い出しに向かったあと、鎮也とトレイシアは牧場の裏手にある廃材置き場へとやってきた。

 そこには牧場から出た廃材が多く積み上げられていた。


「これ全部使っていいのか」

「はい、廃材なので好きに使ってください」

「ありがたい、助かった」


 これで材料を探す手間が省ける。

 鎮也は廃材を確認すると、その殆どが壊れた柵であった。木材と鉄材が半々ずつ、さっき見た牛の魔獣がぶつかればそれは柵も壊されるだろう。廃材が多いのも納得だ。これだけあれば四台の馬車を作るには十分すぎる料であった。


「シズヤさん、まずは車輪から作りますか」

「そうだな、均等に作らないといけないから、先に車輪に使えそうな材料を探そう」

「わかりました」


 二人は最初に廃材の仕分けから始め、それから車輪作りへと取りかかった。






 作業開始から大凡四時間ほどで食料を買い出しに行っていた咲耶とレオフィーナが戻ってきた。二人とも買い込んだ食料を大きな荷車の乗せて引いてきた。


「鎮也くん、これも馬車に材料に使えるんじゃない」


 咲耶たちは食料をまとめ買いするからと交渉して店から荷車ごと買って来たようだ。


「いいじゃないか、馬車の本体をどうしようか悩んでたんだ」

「森の屋敷にも魔道具を買い込んだ時の荷車が二台ありますよマスター」

「それだ」


 四台をそれぞれの馬車の中心部分に使えば全部均等な車体が作れる。出来上がりの見栄えもそれなりに揃えることができるだろう。


「レオナ、割るけど屋敷に戻って荷車を持ってきてくれるか」

「了解しました」


 鎮也が瞬間移動のできる透徹をレオフィーナに渡す。


「ああ、あと、アリアに今回の事情も説明しておいてくれ、それと修復の終わった聖雷剣が二振りあるから、それも持ってきて」

「聖雷剣もですか」

「もしかすると、選ばれるかも」


 鎮也が視線を向けた先には馬車用の車輪を作っているトレイシアの姿があった。


「なるほど、確かにトレイシアも女性ですね、それもどことなく咲耶にタイプが似ています。ハーレム要員としては申し分ない」

「そんなよこしまな考えはない!」

「なんですと!?」

「そこに驚くなよ」


 鎮也がハーレムを築くことはレオフィーナにとって何物にも変えがたいお約束であるらしい。伯父が鎮也のために一番初めに製作したNPC、鎮也を物語の主人公にするためのサポート精神は魂にまで刻み込まれているようだ。


「いいか、俺が言いたいのは彼女なら使い手にふさわしいってことであって」

「分かっています。このレオフィーナ、どんな時でもマスターの味方です。私の前では建前は不要、ハーレム候補が増えたことは咲耶とアリアには黙っておきますので」


 いや黙っているって言っても。


「私にはバッチリ聞こえてるよ、レオナ」


 会話しているすぐ隣に咲耶さんはずっとおりました。


「おっと、これは配慮が足りませんでした、それでは私は屋敷に荷物を取りに参ります」


 言いたい事だけ言って、レオフィーナは森の屋敷へ瞬間移動していった。


「たっく、お約束はしばらく控えるって言ってだろうが」

「しかたないよレオナだもん」


 先日レオフィーナのお約束に振り回されたばかりの咲耶は鎮也を責めることなく、互いに励まし合うように視線を絡めた。


「がんばろう」

「そうだね」


 お約束さえ持ち出さなければ、完璧な美少女騎士なのだが、ちょっとだけ残念成分が混じっている。


「それで鎮也くんたちの作業はどこまで進んだの」

「やっと車輪が作り終わることだ、後はトレイシアの分で最後」

「シズヤさん終わりました」

「今、車輪が全部完成した」


 一台に車輪は四個、それが四台分なので合計十六個の車輪が完成した。


「鎮也くんの作業にしては時間がかかってるね、てっきりもう一台ぐらい出来てると思ったけど」

「森の時は馬車の原型は残ってたからな、一から作るとなると時間はどうしてもかかるさ」


 鎮也がすべての車輪を確認すると一個の車輪の中心の高さがずれていた。


「これは修正は無理そうだな」


 材料が足らずに一個だけ別の素材で作ったら完成時に歪んでしまっていた。


「作り直しですね」

「ちょうどいいから荷車の車輪を材料にしよう」


 失敗したときには引きずらない、無理に直すよりも新しく作り直した方が早い時もある。


「私にはみんな同じに見えるけど、これでも作り直しなの?」


 物造りにはうとい咲耶には鎮也たちがどうしてダメを出しているのかわからなかったようだ。目視ではわからないが、目安棒で計るとわずかにずれていることが分かる。


「車輪の高さが違うとまっすぐ走らないんだ、ごまかして強引に走ることもできるけど、即席の馬車じゃ途中でバラバラになる恐れもあるしな、ここは妥協しちゃいけない部分」

「確かにもうバラバラは、いやだね」


 鎮也も咲耶も高速で走らせていた馬車が粉々に分解して振り落とされた経験を持っている。


「それに引く馬にも負担をかけてしまいます。最悪足に怪我をさせたら馬車は動かなくなりますよ」

「だよな、馬の負担も考えて作ってやらないとって……馬?」

「「あ」」


 馬車を作っても肝心の引いてくれる馬がいなければ動かない。そのことを全員がすっかり忘れていた。さすがのトロンバトルナードでも五台を引くのは無理。体の数的に。


「トレイシア、この牧場って馬のレンタルしてない?」

「魔獣専用ですから、ここは」


 普通の馬なんかがいれば、エサになってしまうだろう。調教で食べるなとしつけても、馬の方がストレスで死んでしまいそうだ。


「鎮也くん、馬車を列車みたいに連結させるとかは?」

「面白いアイディアではあるな」


 それならトロンバトルナードの力があれば引けるだろう。だが問題はぶっつけ本番になってしまうことだ。完成品を試し走行する時間がない。


「馬車が五台も引ける馬がいるのですか?」


 牧場の手伝いをしているトレイシアなわかる。普通の馬は馬車一台を引くのがやっとなのだ。


「俺たちの馬はヤマトと同じ聖獣だからな」

「馬の聖獣、もしかしてユニコーンですか」

「それに近いけどもっと上の存在だ」


 分類はブレードユニコーン、世界に一頭しかいない最上位のユニコーンだ。


「それはすごいですね、ですが、やはりテストもしないでいきなり他の人たちを乗せるのは勇気がいりますね」


 トレイシアもユニコーンのさらに上と言われとても気になっているようだが、時間がないことを考慮してくれて問題の解決を優先していくれたようだ。話しをできるできないで語ってくれる。


「だよな、ぶっつけは無理だ」


 作れそうな気もする鎮也だが、想定とは違い途中で壊れたら、最悪三つの冒険団が全員馬車から振り落とされることになる。


「私が以前手伝いに行っていた牧場なら馬は残っていると思うのですが」

「そっちも問題が?」

「気性が荒くて言うことを聞かない子たちなんです」

「ああ、なるほど」


 馬車を引くには不向きな馬だから残っていると、それに今回は狼型の魔獣を同行させる。暴れるな確実に。


「こうなったら馬も作るぞ」

「作れるのですか!?」

「俺なら作れる」

「すごいですシズヤさん」


 探してないなら作ればいい、鎮也はいつもそうしてきた。森の屋敷にはまだ魔道具が残っている。それを使えばやってやれないこともない。


「ようは馬車を引く動力になればいいんだろ、足が四本ある魔導ゴーレムを作ればいいだけだ」

「時間は大丈夫なの」


 最大の問題は結局同じ、時間があれば普通の馬車が用意できるが、時間が無いから作ることにしたのだ。


「ん~~…………」


 馬車を四台作るだけで朝日が昇りそうだ。今こうして話し合っている時間さえもったいない。


「仕方がないかな。鎮也くん、ちょっと私の力を見せることになるけどいいよね」

「あまり多くの人目にさらしたくないけど、しょうがないか」


 使いたくはなかった最終手段。


「まだ方法があるのですか?」

「私の魔法で土の馬を作るの」

「魔法で馬を、それって、土の魔法の究極と呼ばれている造形魔法ですかッ!?」


 トレイシアが両手で口を覆って驚いた。土魔法の究極、土さえあれば術者のイメージを全て具現化してくれる魔法。魔力しだいでは一個軍隊をも造形できると伝わっており、過去、魔力ブーストされた魔法使いが土で魔獣の群れ作り出したとも言われている。


 百二十年前に咲耶がこの魔法を使ったときは悪目立ちしてしまい、大変な目にあった。


「今じゃ対魔法技術があるから、そんなに目立たないよな」


 ウーゴットの屋敷に張られていた対魔法結界の出力なら触っただけで造形魔法は崩壊してしまうだろう。だから昔ほど恐れられていないはず。


「私も詳しくはわかりませんが、目立つと思いますよ」


 さすがのトレイシアに魔法職にまでは手を出していなかった。との程度騒がれるかわからないが、でも他に方法がない。過去ほど騒がれないことを祈る。


「咲耶、申し訳ないけど頼んだ」

「なるべく穏便になるようにするね、できればだけど」


 これで馬の問題は解決したことにする。

 鎮也は細かいことは考えるのはやめ、あらためて車輪を作り直しはじめた。

 辺りはだいぶ暗くなり、松明を立てて作業を続ける。


「鎮也くん、私にも手伝えることある?」

「じゃあ、このサイズの鉄材を探してくれ」

「まかせて」


 製作を直接手伝えない咲耶が単純作業を手伝ってくれた。それだけでも完成までの時間はかなり変わってくるだろう。


 そして、レオナもそう時間をかけずに森の屋敷から戻ってきた。


「マスター、荷車を持ってきました」

「おう、待ってたぜ」

「それとこれを」

「さんきゅ~、でもこれは後回しだな」


 頼んでいた聖雷剣を差し出してくる。それを受け取った鎮也はすぐに魔法のカバンへとしまった。今は作業に追われているので確かめている時間はない。

 これから依頼を一緒にこなすことになるんだ、確認する時間は後で取れる。


「私もサクヤを手伝います」

「頼む」


 こうして四人は突貫作業で馬車を作製した。






 何とか四台の馬車が完成したのは、松明が燃え尽き牧場に朝霧が降りたころ、もう完全に明るくなっていた。


「何とか間に合ったな」

「よかったです」


 ハイタッチを交わす鎮也とトレイシア。まだ出発もしていないのに、二人の顔にはやりきったような表情になっている。


「眠い」


 これで眠れれば幸せなのだが、そうはいかない。

 結局鎮也はとうとう一睡もできなかった。ついに自己記録と並ぶ三徹目に突入だ。以前はここで睡眠をとったのだが、今回はこれから依頼のため山へと向かわなければならない。


「レオナ、もう一回、回復頼むは」

「マスター」


 さすがのレオフィーナも心配そうな顔になる。


「大丈夫だよ、みんなには悪いけど行きに馬車の中で眠らせてもらうわ」

「そうだね、そのほうがいいね」


 咲耶もレオフィーナも、事情を聴いたトレイシアも鎮也が眠ることには反対はしなかった。でも出発するまではリーダーとして起きていなければならないだろう。


「後一時間ぐらいだけど、それまで休む」

「いや今寝たら、もう当分起きれないから踏ん張る」


 絶対の自信を持って言える。このまま丸二日は寝れる自信があると。ってことは馬車で寝てもまずい気はするが、そこはどうにしかして起こしてもらおうと、鎮也は割り切った。


「回復をかけます」


 オジロを抜いたレオフィーナが鎮也へ回復魔法をかけてくれる。降り注ぐ光で体のだるさはなくなり残ったのは頭の眠気だけ。


「これで少しはもちそうだ」


 チートの体でなかったら間違いなくぶっ倒れているだろう。逆にこのハイスペックの体がここまで疲労したのは世界をわたってから初めてかもしれない。帝国とケンカしたときよりも辛いと鎮也は感じていた。


「さて、集合場所に行く前に俺たちの荷物の最終確認をしよう」


 作業中に手の空いた咲耶とレオフィーナが四人分の荷物を用意してくれていたから、ホントに確認程度すむ。


「咲耶の装備を変えておかないとな、今回ヤマトには剣獣形態でいてもらうから、咲耶の剣はどうする。トルナードも馬車を引いてもらわないといけないし」


 今回は捜索のため、狼としてのヤマトの能力が必要になる。そうなると普段ヤマトの刀を使用している咲耶は武器が無くなってしまうのだ。


「私が刀になって鎮也くんに使ってもらってもいいけど、無理だよね」

「すまん」


 肝心の鎮也が寝不足で不安定、これで頭数を一人減らすのは得策ではない。オジロはいつも通りレオフィーナが装備しているので、そうなると残る選択肢は陰翼刀六黒と大十手透徹になる。


「六黒でお願い」

「わかった」


 刀使いである咲耶は短くとも同じ刀である六黒を選んだ。

 鎮也は魔法のカバンから取り出した六黒を咲耶へ渡し、鎮也は十手状態の透徹を腰のベルトへ差し込んだ。


 これで準備完了、あとは待ち合わせ場所に行き合流するだけだと思ったのだが。


「すみません、少しまってください」


 トレイシアに止められてしまった。


「馬車に飼葉を敷くの忘れてました」

「ああ、そうだった」


 自分たちの荷物は終わっても魔獣たちの用意が終わっていなかった。五台ある馬車の内、一台は魔獣用、捜索に全力が出せるよう狼たちを乗せるために用意されていたのだ。

 いつの間にか飼葉を運んできたトレイシアが一人で馬車に飼葉を乗せはじめる。


「ごめん、手伝う……よ」


 作業を手伝おうとした鎮也の動きが止まる。


「鎮也くん?」


 咲耶たちはついに鎮也が力尽きたのかと駆け寄ってくるが、そうではない。鎮也はトレイシアが持つ農業用フォークを見て固まっていたのだ。


「ウソだろ、なんでそれがそんな所にッ!!」


 朝の牧場に鎮也の絶叫が木魂した。

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