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第35剣『敵の名は睡魔』

 隠し事があるなら依頼は受けない、代表の女性がそう宣言したのに、代表の後ろに控えていた男がそれを覆してきた。


「いいじゃないかカナリー、君と僕がいればどんな依頼でも簡単さ」


 赤鎧の女性の名前はカナリー。彼女は背後の男の考えのない公言にわずかだが目を細くした。この二人、冒険者としての在り方が違いすぎる。鎮也はよくここまで違って同じ冒険団でやっていけるなと不思議に思った。


「ギルマス、受ける冒険団が半分になったんだから、当然報酬金額も倍になるのですよね」


 男は会議室の空気も読めず軽い感じで話し続ける。依頼の難しさやあやしさになど気にも留めていない。


「やめろエルラーク、今の冒険団(レギオン)の団長は私だ、依頼を是非は私が決める」

「チィ、わかりました団長代理、あなたの意見に従います」


 あからさまな舌打ちをして男は引き下がった。とても従っている者の態度ではない。

 エルラークと名前を聞いて鎮也はやっと見覚えのある男を思い出した。この男はレフティアに到着した日、冒険団登録をした時に決闘を挑んできた演劇用の剣を装備していた見せかけ男だ。


(あんな見せかけの腕でよくランクAの実力者まで行方不明になった依頼を受けるなんて強気な発言ができるな)


 逆に鎮也は感心してしまった。


「カイザンギルドマスター、連れの発言は無効だ、こちらが納得できる説明がいただけないなら私たち『真紅の秩序スカーレット・オーダー』も降ろさせてもらう」

「わかった、君にも降りられてはさすがにこちらも困る」


 先程の冒険者たちは引きとめもせず見送ったのに、今度は引きとめたカンザン。

 それだけ冒険団『真紅の秩序』は実力派なのだろうか、エルラークを見ていると鎮也には信じられないのだが、団長代理だというカナリーはなかなかの腕のようだから、もしかしたらエルラークは冒険団の経理や会計を担当しているのかも、などと鎮也はどうでもいいことを考えていた。


「さて、どこから説明するか」


 まだすんなりと説明を始めないカイザンに鎮也も少しだけイラっとした。眠気もあり感情の起伏が激しくなっていたのかも。


「最初からでいいだろ、ウーゴットを倒してからまだ三日だ、いくらなんでも捜索から行方不明までが早すぎる」


 地図に載っている山までどんなに急いでも半日はかかるだろう。そして伝令がすでに半日かけて戻ってきている。


「ウーゴットが倒されることを想定して、初めからやつらの縄張りの山で活動しようとしていたな」


 そうでないと時間的に無理があるだろ、半日で賞金首の捕縛を終えたギルドナイトたちが触らずの山へと向かい、到着した瞬間に行方不明なんてありえないのだから一日は活動をしているはずだ。


「それと調査も嘘だろ、本当は山に隠してあるウーゴットの隠し資産を独占しようとしたんじゃないか?」


 ウーゴットを倒したと同時に賞金首の一斉捕縛なんかやらかしているんだ。


「それは違うぞ、あくまでも未知の領域であったがため、依頼を作成するためにも調査を」


 普通なら核心をつかれた場合動揺しそうなものだが、これでも数多くの経験を積んできた総支部長のカイザン、動揺の欠片も見せずに真実を隠してきた。だが。


「嘘ですねカイザン。あなたは隠し資産を最初から狙っていた」


 今まで沈黙していた咲耶が口を開く、こちらには嘘の通じない彼女がいるのだ。


「うッ……」


 動揺は表面には出ていなかったが、内側ではあったようだ、咲耶の嘘探知スキルのことを忘れていたのだから。


「どうして答えられないのですか」


 咲耶が二択の質問を迫れば、真実を選ぼうが、虚偽を選ぼうが関係ない、答えた時点でそれはすべてバレてしまうのだから。

 カイザンは眉間によった皺を指で伸ばしてから観念したように口を開いた。


「そうだ、隠し資産を狙っていた」

「総支部長!?」


 サブマスターが仰天の声をあげる。彼女は咲耶のスキルの事を聞かされていないようだ、カイザンが真実を話したことを驚いている。


「最初から話せよな」

「こちらとて、いろいろ問題を抱えている何でも素直に話せるものか」


 開き直ったカイザン。

 ギルド運営がきれいごとだけで勤まるとは鎮也も思っていない。でもだからと言ってだまされて利用されるのだけはごめんだ。こちらを利用するならそれなりの代償を払い、互いの妥協点をすり合わせる必要がある。


「へへへ、やっぱりこの山にお宝が眠ってやがったのか」


 残った代表の中で一人発言をしていなかった男が初めて放った言葉はとても下品な笑いであった。


「知っていたのか」


 鎮也ははじめて残った代表を正面から見た。ショルダーの無い皮の鎧の男、外見から長い槍などを使う軽装戦士タイプだと判断する。


「ああ、ちょっと耳を澄ませていれば入ってくる情報だぜ、この街の裏のボスがこの触らずの山に大量の荷物を運びこんでるってな」

「冒険者の間にも情報は流れていたか」


 カイザンは悔しそうにつぶやいた。


「もっともさっきの奴らは知らなかったみたいだがな、俺たちは冒険者だぜ情報の重要性を理解しなきゃ上にあがれねぇよ、そうだろ表のボス」


 男はカイザンが情報を隠そうとしたことを言っている。

 情報を持っていないから悪い、だから持っている者にだまされても文句はつけない。そう言いたそうな雰囲気を出している。


「そうだな」


 うなずくしかできないカイザン、同じ情報を持っていても依頼を断ることのできる男の方が有利にみえる。


「あいつの隠し資産か、狡賢いトラップ満載な気がするな」


 鎮也は屋敷に襲撃をかけたとき、スライドする壁や毒を噴き出す箱、戦闘用ゴーレムに対魔法結界などさまざまな仕掛けと出くわしていた事を思い出した。


「もしかしてギルドナイトたちって、トラップに捕まった」


 配下の構成員は鎮也たちがほとんど倒している。

 ランクAがいるのだ、屋敷と同レベルの無人トラップなら全滅はさすがにしていない、考えられるのはどこかに閉じ込められ身動きができなっている場合だろう。もしドラゴンがいたらその限りではないが、ウーゴットはドラゴンを操りきれていなかった。


「俺たち『梟の暗視(ベィル・サーチャー)』は参加してやってもいいぜ、その財宝探しとついでのギルドナイトの捜索を、んでよ、報酬とは別に財宝見つけら当然俺たちの物にしていいんだよな、もう持ち主はいないんだからさ」


『梟の暗視』は情報収集には自信がありそうだ、持ち主がいないと発言していることから、もう配下がいないことも掴んでいるのだろう。


「私たちも参加しよう」

「流石は団長代理、ご英断です。僕たちも参加するのですから財宝は早い者勝ちということで」


 エルラークも見た目通り、お金には相当執着があるようだ。


「勘違いするなエルラーク、私たちの任務はあくまでもギルドナイトと行方の分からなくなった冒険団の捜索だ、見つけた資産はこの街の返すのが道理だろ」

「な、なんだと冗談じゃねぇ」


『梟の暗視』の代表がカナリーに噛みついた。宝を独り占めにしようとするやからだ、街に返すなどと一銭の得にもならないことを了承するわけがない。

 しかし、カナリーの眼力は相当なもので、怒鳴りつけた男を睨み一つで黙らせた。


「冗談などではない、情報を持っているなら、その資産がどこから集められていたか分かるだろ。この街の仕組みをしらない私とて想像がつくぞ、持ち主が分かるなら返すべきだ」


 カナリーは人一倍どころか、数倍は正義感が強かった。


「そこの君もそう思うだろ」


 今まで場外に置かれていた鎮也にカナリーが話しを振ってくる。


「そうだな、俺も資産の中にある特殊な聖剣を全部譲ってくれれば他はいらないぞ」

「それこそふざけるな、何だその条件は!」


 噛みつく先がカナリーから鎮也へと移った。


「俺の本業は鍛冶師で作った剣をウーゴットに盗まれたんだ。それは返してもらってもいいよな」

「当然の意見だ、持ち主が分かっているなら返すべきだ、もっともそれが本当に君の剣ならばの話だが」

「だとさカイザン」

「ウーゴットが所持する強力な剣の殆どはそこのシズヤ殿の持ち物であることは、このカイザンの名にかけて保障しよう」


 だまそうとしたカイザンの名にどこまで信用が有るかは分からないが、総合支部長である男が認めた権利だ、冒険者の間では通用するだろう。


「決定、発見した刀剣類は返してもらう。もちろん、鑑定の結果で別だと判明されればそれはいらない、それと探している剣を見つけてくれた冒険団にはそれ相応の対価を払う。それなら文句はないだろ」

「それなら、まあいいか剣にかんしては納得しよう」


 対価を払うと言ったら男は引き下がった。


「だが報酬が金貨百枚じゃ、もう納得できないぞ」

「報酬は倍の二百枚にしよう。後はギルドナイトたちを救出できたら色をつける、それ以外は成果次第で検討でどうだ」


 カイザンにしたら大盤振る舞いの大譲歩。だが資産の独占に比べたらとても安くなる条件、がめつい冒険者を代表してそうなこの梟男は納得しないだろうと鎮也は思ったが、想像に反して。


「わかったよ、しょうがねぇ」


 意外なことに『梟の暗視』代表はカイザンの出した条件を承諾した。


「感謝する。これで返答が聞けていないのはシズヤ殿たちだけとなったが、まだ残っているということはシズヤ殿たちも参加と考えていいのだな」

「俺たちの剣がある可能性があるからな」


 参加が正式に決まった三つの冒険団。承認するかどうかだけでかなりの時間がかかってしまった。

 これから捜索のやり方を決めるわけだが、また眠気が襲ってきた。鎮也の体が傾きかけるが、テーブルに肘をついてどうにかこらえた。

 さすがに寝るわけにはいかないと踏ん張ったのだが、話は右から左に流れていって頭の中には殆ど留まらなかった。


「――では、頼んだぞ」


 いつのまにか話がまとまり鎮也以外が席から立ち上がる。


「鎮也くん」


 一人動かない鎮也を咲耶が心配して声をかけてくれる。


「大丈夫、ちょっとカイザンに話があるんだが」

「いいだろう、このままここで聞くシズヤ殿は少し残ってくれ」


 とっさにカイザンに話があるから立たなかったという雰囲気を作ったが、苦しかったかもしれない。他は騙せても咲耶にはバレバレだろう。背後で小さく溜息をつくのが聞こえた。


「俺たちは先に行くぜ」

「我々もお先に失礼する」


 最初に『梟の暗視』が続いてカナリーたち『深紅の秩序』が会議室を後にした。


「それで話とは何かね」

「ああ……」


 眠りかけていたことを誤魔化す言い訳だったので、とくに話などなかった。

 必死で何か話をと考えるが、頭がフワフワするだけで考えがまとまらない。


「カイザンあなたに、いえギルドに依頼があります」

「ほう、依頼ですか」


 何も話せない鎮也に変わり咲耶が会話を引き継ぐ、鎮也の状態を把握している咲耶の助け舟であった。


「私たちはオークションが終われば聖雷剣を探す為に、この街を出ようと考えています。ですが三カ月に一度オークション会が開かれるこのレフティアには聖雷剣が流れてくる可能性は十分にあります。私たちが依頼したい事とは、もし聖雷剣が出品された場合の落札と保管です」


 これは、鎮也が以前につぶやいていたアイディア。咲耶が咄嗟に起点でそれを採用したのだろう。もう今回のオークションで聖雷剣を見つけることはほぼ不可能なのも事実、だったらこのタイミングで依頼を出すのは好機、カイザンも依頼を出しているのだから断りにくいはずだ。


「資金は当然、こちらが出します。鎮也くん」

「おう」


 咲耶が何をもとめてきたか、眠い頭でもそれくらいは分かる。魔法のカバンから黄金の球を取り出した。


「これは、水道殿で見た」

「これを資金にしてくれ」


 大きさは魔道具の爆買いで半分ほどになってしまったが、それでも十分な大きさだ。

 これだけあれば聖剣でも十本前後は確実に購入できる。


「わかった、引き受けよう」

「よろしく頼む」

「やったね鎮也くん」


 鎮也がゆっくりと立ち上がると、咲耶が依頼ができたと喜び鎮也に抱きついてくる。普段の彼女ならしない行動だが、これは抱きつくと見せかけて、倒れそうな鎮也を支えてくれたのだ。


「じゃ、俺たちも失礼する」

「捜索の件よろしく頼む、牧場の方にもよろしく伝えてくれ」

「了解、伝えておくよ」


 牧場ってなんだと鎮也には分からないまま、咲耶に支えられて会議室を出る。膝や肩の関節が痛くなってきた、そろそろ本当に寝ないと体の限界がきそうだ。鍛冶仕事で最大三日の徹夜をしたことがある鎮也だが、今回は慣れないゴーレム作りをしていたため、限界が二日で訪れた。


「鎮也くん、大丈夫」

「大丈夫とは、言えないな」


 まだ幻覚は見えていないから、限界は突破はしていないと思われる。


「でさ咲耶、牧場ってなに?」

「ああ、あっぱり話しは聞いてなかった」

「聞いてたと思うよ一応」


 寝てなかったら聞いていたはずだ、ただそれが頭に記憶として残っていない。


「私が一緒でよかったね。明日から捜索に魔獣を使うことになったのよ、匂い追跡とかにね、牧場って言うのはその魔獣を飼育している牧場のこと、私たちが魔獣を借り受けにいく担当になったから、今日中に挨拶に行って魔獣をかりないと」


 魔獣の中には調教できる種がおり、数は多くないが魔獣を調教できる調教師(テイマー)と呼ばれる職業がある。


「なんで俺たちが担当になったんだ」

「それは鎮也くんが『うん』って返事したからだよ」


 返事をしたって、咲耶曰く、調教師への協力要請へギルドの人員が減ってしまいできないので、誰かやってくれないかという話になり、ちょうどいいタイミングで鎮也が『うん』と返事をしたらしい。カイザンがホントにいいのかと尋ね返すとさらに『うん』と答えたらしい。

 そんなこと、鎮也はまったく覚えていなかった。


「他にも、馬車の手配に食料の確保とか雑用は殆ど私たちが担当になってるよ」


 それもすべて鎮也が寝ぼけて返事をしてしまっていた。補佐の咲耶には代表が返事をしてしまったことを覆すのは無理だった。鎮也は大きなミスを犯してしまっていた。

 出発は明日だ、ホントにこれだけの準備が間に合うのであろうか。


「なんてこった」


 あまりの衝撃で眠気が吹き飛んでしまったことは、喜ばしいことではない。

一度だけ二日徹夜したことがあります。そのときは膝関節がしびれるような痛みが走り歩くもの辛くなりました。でも頭はなんかフワフワして変な感じでした。


今回の鎮也くんの描写は体験談が多く含まれています。徹夜明けの授業とか会議ってほぼ頭に入りませんよね。

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