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第34剣『緊急招集』

 イクスに引きずられるようにやってきた冒険者ギルドは、いつもと雰囲気が違いどこかピリピリとした緊張が漂っていた。一階のホールには腕の立ちそうな猛者たちがテーブル席に座り、依頼を探すでもなくただ何かを待っているようす。


「今日は腕の立ちそうな人が多いね」

「あそこの集団など平均でランクBほどの実力はありそうです」


 鎮也の後を追いかけてきた咲耶とレオフィーナも彼らが実力者だと一目で見抜く。

 ウーゴットが倒れたというのに、この緊張感はなんだろうか。


「もうみなさん会議室に集っている時間です、シズヤ殿たちも急いでください」

「ちょっとイクスさん、説明だけでもしてくれ」

「時間がありません、説明はギルマスに聞いてください」


 いつもは総支部長と呼んでいるイクスがギルマスと言葉を省略した。それだけ切迫した事態がおこっているのか。

 連れて行かれたのは総支部長室ではなく、十数人は楽に収容できる二階の会議室であった。入り口ではカイザンの右腕、メガネのサブマスターが待っていた。


「イクスさん、よかった『七星剣』の方たちを見つけられたのですね。カイザン様がお待ちで、他の冒険団の方たちもすでに集まっています。代表様二名はお早く」

「ああ、これって緊急招集の会議ってやつか、なんだか懐かしいな」

「シズヤ殿、さきほどそう申したでしょ」

「いや~眠かったから」


 緊急招集。切迫した問題起こった時にその解決のためギルドマスターが指名した冒険者たちに召集する行為。ギルド登録者はこの召集を受ける義務があり、断る場合には相応の対価を払わなければならない。それが日ごろ冒険者ギルドからサポートを受けている冒険者の掟である。

 と以前に聞いたことが鎮也もあるが、めったに起きないことで、過去の世界でランクSだった時に二度ほどしか経験していない。

 その二回ともドラゴン関係の問題だったが。


「俺たち予定があるから、対価払って帰っていいかな」


 鎮也は睡眠。咲耶、レオフィーナは聖雷剣探しと大事な予定があるのだ。


「ふざけたことを言っていないで急いでください!」


 サブマスターに怒られた、冗談ではなく鎮也は割と本気で眠たいのだが。


「わかったよ、咲耶一緒にきてくれ、レオナは悪いけど下で待機だ」

「まかせて」

「了解しましたマスター」


 代表者は二名までなので三人の鎮也たちは一人入れない、リーダーである鎮也は当然として、この場合は嘘探知のスキルを持つ咲耶が選ばれるのが三人の暗黙の了解となっていた。

 待機になったレオフィーナも時間を無駄に使うことなく、一階にいた冒険者たちから情報取集をしてくれるだろう。






 咲耶と共に会議室へ入れば、そこには長いテーブルがあり上座にはカイザンが腰を下ろしていた。他には座っているのが五人、それぞれの後方に控えているのが五人の計十人、鎮也たち以外に召集を受けた冒険団の代表たちだろう。


「おお、シズヤ殿、よくきてくれた」


 鎮也を見たカイザンの厳つい顔がほころんだが、他の冒険団の代表からは少しだけ睨まれた。緊急招集に遅れたことを怒っているようだ。ただ一人、鎮也と咲耶を見て驚愕している男がいるがとりあえずは気にしないことにした。


「これで召集をかけた冒険団すべてが揃ったな」


 空いている席に腰を下ろす鎮也、その後方に咲耶が控えた。

 最後にサブマスターも入室したので、この会議室にいる人数はギルド側が二人に冒険団の代表が六組の全部で十四人となる。

 会議室は魔道具による空調が聴いており、心地よい室温で鎮也はまた眠気に襲われた。油断をしていると大アクビが出てしまいそうだ。


「それで今回集まってもらった件だが、まだ実態が把握できていない事を先に伝えておこう」


 把握できていなのに緊急招集をかけたのか、鎮也はてっきりドラゴンでも出たのかと思っていたが、どうやら単純な問題ではないらしい。


(まいったな、眠くて頭がほとんど回ってないぞ、難しい話は理解できないかも)


 鎮也は自分の脳がもう半分以上寝かけていた。


「把握できてもいないのに、緊急招集をかけたのか!」


 後ろに控えていた一人の男がカイザンを怒鳴った。全身に鎧をまとった優男、どこかで見たことがあるような気がする鎮也だが、眠くて思考が働かず思い出せない。


「おさえろ。把握できなくとも、このレフティアに危機が迫っているとカイザンギルドマスターは判断したのだな」


 把握できていないカイザンを怒るではなく、怒鳴っている男を止めたのはその前に座っているこちらも全身鎧をまとった女性であった。長い赤髪を一纏めにした凛とした女性、鎧は炎のように赤い色に染められた鉄製であった。

 鎮也は何の気なしに鑑定眼を発動させる。


「――――――――――――――――――

【名称】耐火の鎧

【製作者】レゾン・バードル

【分類】全身鎧   【レア度】☆☆☆(3)

【重さ】12キロ

【魔核】なし

【スキル】

『耐火』……炎耐性が付いている。

『軽量』……装備者への重量負担を半減させる。

【補足】

 魔核は無いが、用いられた金属が火の精霊により鍛えられた鉄でできているため、色は赤く耐火のスキルが付いている。また直接書き込まれた魔法陣により重量も半減している。

――――――――――――――――――」


 なかなかの鎧を纏っている。


 この時代に来てから、鎮也が目にした鎧の中で一番の性能だ。そしてそれを纏っている女性も鎧に負けていない雰囲気がある。おそらく彼女が集まった冒険団の中で一番の実力者だと鎮也は判断した。

 彼女の存在のおかげで眠気さが少しだけ消えてくれた。


「把握はできないが何かが起こっているのは確かだ」


 カイザンはテーブルの上にレフティア周辺の地図を広げた。


「この山で何らかの異変が起こっている」

「おい、ここって」

「ああ、触らずの山じゃねぇか」


 触らずの山とは、鎮也には聞き覚えのない言葉であった。


「失礼、私たちは普段首都ロードイリアで活動をしているのでこの辺りの地理にはうとい、その触らずの山について説明を願えないか」


 鎮也以外にも山の事を知らない人物がいた。先程の赤鎧の女性だ。


「そ、それは」

「ちょっとな……」


 冒険者たちが口を噤んでしまった。よほど言いにくいモノなのか。

 静かになった会議室でこのままでは進まないとカイザンが触らずの山についての説明をはじめる。


「この街を拠点にしている冒険者なら誰でも知っている有名な山だ、資源は多く、素材となる魔物の種類も多い、冒険者にとってまさに優良の狩場となる環境が整っている山だ」

「それがどうして触らずの山になっているのだ?」

「つい先日まで乱暴な冒険団がここは自分たちの縄張りだと主張して他の冒険者たちを締め出していた」


 乱暴な冒険団って間違いなくウーゴットの配下だろ。鎮也は思わずツッコミを入れたくなった。もう倒した相手なのに、まだこんなにも恐れられているのかと、鎮也の認識ではウーゴットは街のチンピラ程度だったので大いに驚かされる。


「このレフティアはそんな横暴がまかり通るのか」


 たった一つの冒険団のわがままで冒険者ギルドそのものが振り回されるなど、首都で活動する赤鎧の女性は信じられないようだ。


「あやつはドラゴンまでも手懐けていた、うかつに手を出せば街に被害が出てしまうのだ」

「それでそいつらの悪事は見逃されていたのか、嘆かわしい」

「その点については返す言葉もない」


 不機嫌になる赤鎧の女性、彼女は人一倍正義感が強いようだ。これまでは彼女のような存在が現れるたびに、あのドラゴン擬きをけしかけ黙らせていたのだろう。


「だが、その乱暴な冒険団の首領が、どこかの冒険団に倒されてな、その縄張りも消滅したんだ」

「おや、どこかの冒険団ですか、それはもしかすると我々のことかもしれませんね団長代理、確かレフティアに到着する直前に盗賊団を一つ壊滅させましたよね」


 どうやら後ろに控えている男はカイザンが名前を伏せたことをいいことに自分たちの手柄にしてしまおうとしている。

 仮にカイザンが否定しても勘違いでしたと流せるように逃げ道まで作って。

 そもそも盗賊団の時点で違っている。カイザンは冒険団だと言っているのだから。


「やめなさい、どう考えても違う組織だ、縄張りを主張できるほどの集団が、たかだか二十人程度なわけがない」


 つまり二十人ほどの盗賊団を壊滅させたことは本当らしい。彼女の冒険団がどのくらいの人数かはわからないが、取り逃がしなく壊滅させたのなら、彼女だけでなく組織としても優秀なのだろう。

 ただ後ろに控えている男は優秀に見えない、見覚えがあるこの男はどちらかと言えばウーゴットのような子悪党に近い匂いがする。


「それでその首領が倒れたのと緊急事態とどう関係があるのだい?」


 話題をそらすように男は咳払いをしてカイザンに話の続きを促す。


「ああ、縄張りが解放されたのでな、そこの山に何があるかギルドナイトの三チームを調査のために派遣をしたのだ」


 調査ね、どこかカイザンの言い回しがあやしい。


「鎮也くん、カイザンは嘘をついてるよ」

「やっぱりか」


 後ろに控えていた咲耶がこっそりと鎮也にだけ聞こえるようにささやく、彼女には嘘探知のスキルに偽りは通用しない。何が嘘かまではわからないが、緊急招集をかけるほどだ。ろくでもないことが起きているに違いない。


「だが、派遣したチームの内の一つの行方が分からなくなり、探しに行った他のチームからも連絡が無くなった。今回の君たちを召集した理由は、行方が分からなくなった者たちの捜索と原因の究明を依頼したいからだ。報酬はかく冒険団に金貨百枚を出そう」

「百枚!?」


 冒険者の誰かが声をあげた。

 金貨百枚とは相当に破格値段である。一度の依頼で金貨百枚などあまり聞いたことが無い。

 金額だけならランクS並だ。


「俺たちは参加させてもらう」

「我らも参加だ」


 報酬に釣られ詳細も聞く前からいくつかの冒険団が参加を表明する。


「ちょっといいですかカイザンギルドマスター」

「何かね」


 興奮する冒険者の多い中、冷静だった赤鎧の女性がカイザンに質問を投げかけた。


「依頼内容と報酬が釣り合っていないようだが、その理由は?」

「緊急招集まで使ったのだ、これぐらいは必要な額であろう」


 それは冒険者を集める口実であって、仕事の内容に対する答えではなかった。


「私は首都で一度だけ取集を受けたことがあるが、その時の報酬は金貨三十枚」

「帝都とレフティアでは相場が違ったのでしょう」


 あくまでも誤魔化そうとするカイザン。


「カイザン、その行方不明になったギルドナイトのランクは、ランクAは何人含まれていたんだ」


 今度は鎮也が質問をした、その聞き方にカイザンの眉毛がわずかにつりあがり、それから何かを諦めたかのようにため息をついた。


「ランクAは二人いた」


 興奮していた冒険者たちに冷水を掛けるには十分な効果があった。

 ランクAとは冒険者の頂点とも言うべき称号だ。本当はさらに上にランクSがあるのだが今の帝国にランクSは存在していない。


「ランクAまで行方不明になったのか」


 鎮也の質問でなければ誤魔化していた可能性もある。だがカイザンは鎮也に嘘が通用しないことを知っている。それが分かっていてこの場に呼んだのだから遠慮などしない。


「そうだ、加えるなら行方不明になった冒険者はギルドナイト八名と、未確認だが昨日この山に入った二つの冒険団も戻ってきていない」

「山に入った者がほとんど帰ってきていない、一人伝令役になって帰ってきたギルドナイトはいるがな」


 たった二日でランクAを含む複数の冒険者が行方不明、その原因の調査なら金貨百枚も頷けるかもしれないが、今度はそれでも割に合わないと考える者たちもでてきた。


「冗談じゃない、ランクAが通用しない山になど誰が行くか、対価は払うので我々の冒険団はこの依頼辞退させてもらう」

「こちらも同じだ」

「同じく」


 三つの冒険団が辞退を表明した。


「わかった、辞退を認めよう」


 引きとめるかと思いきや、カイザンはあっさりと辞退を認め、これで数的には一気に半数になってしまった。


「残りは受けてもらえると思っていいのかね」


 カイザンが残った鎮也と赤鎧の女性、そしてもう一人の代表の男に最終確認をしてくる。


「それはこれからの対応しだいかな、隠していることを全部話してくれたら考えるよ」


 鎮也は嘘をもう付くなと釘を刺す。

 カイザンはまだ本当のことを話していない。スキルを使わなくてもそれぐらいは鎮也でもわかる。


「それは同感ですね。こちらも別の目的があってレフティアにきました。信用のできない依頼を受ける気はない」


 どうやら赤鎧の女性も鎮也と同じくカイザンの隠しごとに気が付いているようだ。

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