第33剣『ちょっとだけ』
太陽が完全に沈んだ夜。鎮也が一日かけてようやく二振りの聖雷剣の修復を終えた。
一日中同じ姿勢で作業して固まった腰を伸ばしていると、屋敷の外を警戒してくれていた六黒が、レフティアに買い出しに行っていた咲耶たち三人娘が帰ってきたと教えてくれた。
区切りも良かったので出迎えるために屋敷を出てみると。
「すごいな、こりゃ」
荷馬車二台分の魔道具の山ができあがっていた。
「本当に爆買いをしてきたんだな」
「マスターただいま戻りました」
「おかえり、これだけの量はすごいなって、咲耶はどうしたんだ」
望んでいたはずの大成果を持って帰ってきたはずなのに、明らかに咲耶だけが落ち込んでいる。俯きぎみで前髪がたれ咲耶の瞳が隠れていた。まるで泣いているようにも見える。
咲耶以外に訪ねようとしたら、レオフィーナがどこか居心地の悪そうな表情を浮かべて視線を逸らした。
「ごめん、ちょっと疲れたから先に休むね」
「おい咲耶」
「鎮也くんその荷物は、二人の成果だから褒めてあげて、じゃおやすみなさい」
まだ休める部屋なんて一つもないのに、咲耶は廃墟の屋敷へ入っていってしまった。
「レオナ、さては」
「すみません、いつもの癖が出てしまいました」
察しがついた。咲耶はレオフィーナの趣味に振り回されて成果があげられなかったのだ。
「咲耶は真面目なんだから、あまり巻き込むなよ」
「いつもはマスターが止めてくれていたので、歯止めが」
「すみませんシズヤ様、私も熱くなりすぎました」
レオフィーナだけならまだしも、アリアまで暴走しては咲耶一人では抑えきれなかったのだろうと容易に想像できる。
「まったく、ちょっと行ってくるわ」
鎮也は咲耶の後を追いかけようとして。
「あ、忘れるとこだった、経過はどうあれ、それだけの魔道具を集めてくれてありがとな」
屋敷に入る前に一度足を止めた鎮也が二人へ振り返る。暴走した結果だとしても、勤めはちゃんと果たしてくれたのだから褒めるのは主の勤めである。
二人はどこかほっとした表情になり、それから笑顔に戻って主の礼を受け入れた。
屋敷に入った鎮也は咲耶を探す。
まだ掃除もされていない屋敷内は砂埃がたまっており、誰かが通れば足跡が残る。地下の工房へ向かっているのは鎮也の物だ。他にある新しい足跡は二階へと続いている。
鎮也は階段を上がり足跡を追いかけた。
向かった先はかつて五百十二本の聖雷剣が飾られていた大広間、すでに入り口の戸が無くなっている大広間に入ると、崩れた瓦礫の上に座り込む咲耶がいた。
鎮也は咲耶の隣に腰かける。
「だいたいの察しはついたから、気にしないでいいぞ」
「…………」
咲耶からの返事は返ってこない。
「ほら、暴走してもあれだけ魔道具が手に入ったんだし、結果を見て満足しようぜ」
「うう~~~~」
咲耶がうなって頭を抱えてしまった。
どうやらあの結果が咲耶を悩ませてるようだ、咲耶はさっき言っていた、あれは二人の成果だから褒めてあげてと、つまり咲耶は何も成果を上げられなかったのだ。
暴走を止められず、暴走者は結果をだし、自分は成果ゼロだったと鎮也は落ち込んだ原因を推理した。
この推理はかなり当たっているだろうと確信が持てる。
どうしたものか、何も言えずに鎮也はただ咲耶の隣に座り続けた。
頭の中ではどんな慰めの言葉を言えばいいのか必死で考えたのだが、何一つ浮かんでこない。
何もできないまま、時間だけが流れていく。
「……ごめんね鎮也くん、めんどうかけて」
ようやく心の整理がついたのか、咲耶の方から口を開いてくれた。
「やさしいね鎮也くんは、下手な慰めの言葉より、黙って一緒に居てくれた方が落ち着いて心の整理ができたよ」
(それは誤解です咲耶さん、ただ慰めの言葉が何も浮かばなかっただけなんです)
「それはよかった」
そう結果よければ今は良しとしよう、さっき鎮也自身がそう言ったばかりだ。
「結果だけ出せばいいって考えは少し危ないと思うけど、結果の出せない私が言ってもね」
「まあ時と場合だな」
「今回はその時と場合になったと言うことで、気持ちを切り替えるよ、だから私と違って成果を出したあげた二人はちゃんと褒めてあげてよ」
暴走したとはいえ、そうとう頑張らなければあそこまでの数は集められない。
「それはもちろん、ここに来る前にも言ってきたけど、あとでちゃんと褒めるよ」
「うん、七星剣の名前はもうレフティア商人たちの間では知らない人はいないと思うから、その分も褒めてあげてね」
「は?」
たった一日で名前が知れ渡るって、どんな買い方をしたんだ。
「私はホントに今日何もできなかった、せっかく聖雷剣の手がかりを見つけても、本体は見つけられなっかたし」
「ちょっと待った!!」
聞き捨てならない言葉がさらりと出てきた。
「どうかしたの?」
「どうかしたのはそっちだ、何だよ聖雷剣の情報って聞いてないぞ」
「あ、言ってなっかたね」
落ち込んでいて咲耶は何も語っていなかった。
「えっと、どう説明すればいいのかちょっと難しいんだけど……」
咲耶は聖雷剣の探し方を変えた事から話してくれた。灰色に変色しているなら、鑑定できない人が売りに出せば聖剣だと気づかない可能性があり、見た目が剣じゃないなら武器屋以外の場所にもあるのではと。
その結果、リーザから情報を得て工具店に行ってみればタッチの差で逃してしまったことも包み隠さず話してくれた。
「聖雷剣の情報を見つけたのか」
「でも逃しちゃって、もっと早く気が付いてれば、今日はホントに役立たずだったわ」
「そんなことはないぞ」
そんなことはない、鎮也は心からそう思う。咲耶の発見はこれからの聖雷剣探しの大きな前進になる。鎮也はガバリと咲耶の両肩を掴んだ。
「昨日は手掛かりすら見つけられなかったんだ。それが見つかったんだぞ、とっても役に立ってるよ!」
「あ、ありがとう」
情報だけでもとても大きな成果だと、ウソ偽りなく伝える。
その想いが伝わり帰ってきてから、ようやく笑顔になってくれた咲耶。
「それで、剣じゃないならどんな道具として売られてたんだ?」
「え、え~とね」
言いよどむ、よほど剣とはかけ離れた道具として売られていたのだろう。
「大丈夫だ、現実を受け止めるためにも知っておきたい、頼む」
「農業用だって」
「の、農業用か」
別に農業をバカにしているわけではないが、大国の皇帝が欲しがった聖剣が農業用道具と勘違いされるなんて、ただただやるせない気持ちになった。
「人を慰めてる時に自分が落ち込まないでよ」
コツンと咲耶の頭が鎮也の肩に寄りかかってきた。
「ごめん」
「まったくもう鎮也くん、なんだから……」
しばらく二人がそのまま動かずに夜の静けさに身を任せていたら、咲耶の小さな寝息が聞こえてきた。本体は剣で今は擬人化した姿だとしても、完璧なる擬人である。食事は当たり前にするし睡眠もとらなければ体調が悪くなる。
「昨日は徹夜でしたたらね、無理もありません」
咲耶が完全に眠りに落ちると大広間へレオフィーナがやってきた。
「これに懲りたら、お約束で暴走するなよ」
「申し訳ありません、しばらくは自重します」
「しばらくかよ」
レオフィーナに続いてアリアもやってきた。この大広間に四人が揃うのは百二十年振りのことになる。部屋は荒れ果て剣も無くなってしまったが、掛け替えのない仲間は昔のまま変わっていない。
「シズヤ様、一部屋だけ横になれるように清掃しました」
「お、さすがアリア、気が利くじゃん、今夜は宿に戻らずにここに泊まるか」
なんだかんだで昨日は全員徹夜している。鎮也もけっこう眠気がきていた。寝ている咲耶を起こさないように担ぎ上げるとアリアが掃除してくれた部屋へと向かう。
「なんだか、勝負に負けたサクヤが一番得をしていますね」
レオフィーナが少しだけ頬をふくらませ軽い愚痴をこぼした。
損傷の少なかった部屋の瓦礫をどかして砂埃を掃いただけだが、吹きさらしの外で野宿するより天井があるだけかなり楽だ。瞬間移動で宿屋に戻ろうとも鎮也は思ったが、あの大量の魔道具は宿の部屋には収まらない。
鎮也は寝る前にようを足そうと部屋を出た時、庭に積み上げられたままの魔道具が目に付いた。念のため狼状態のヤマトが護衛として魔道具の山のそばで寝そべっている。
「ちょっとだけ」
足音を忍ばせて庭へと出る。
寝ていたヤマトが鎮也に気が付き首を持ち上げた。
「いいよ寝てて、ちょっと見るだけだから」
積み上げられた魔道具の山、鎮也の知らない百二十年で発展した技術で生み出された道具たち、見た目ではどのような用途があるのかさっぱりわからないモノが多い。
鎮也は鑑定眼を発動させた。
「――――――――――――――――
【名称】魔導ミキサー
【分類】魔道具
【魔核】魔核C級
【補足】土をかき混ぜる。粘り気のある粘土を作りだせる。
――――――――――――――――――」
「お、これなんて屋敷に修繕に使えそうじゃん、便利な道具が開発されてるんだな」
細長い棒の先端にヘラが付いた魔道具はミキサーであった。
「これ、ゴーレムの腕の嵌め込めば修繕用のゴーレムになるよな」
破壊され庭で傾き鎮座しているゴーレム。あの破壊された腕に繋げられないか魔導ミキサーのボディカバーを外してみる。
「単純な魔導回路を使ってるな、この程度なら俺でもいじれそうだ」
鎮也が回路に魔力を流し込むとミキサーがゆっくりと回転した。
「おお、動くじゃん」
技術は違うが聖剣にスキルを授けるのと似ている。魔力回路の仕組みから考察して魔力の流し方を制御して一定の成果を生み出すのが魔導の基本。
「これはこれで面白いな」
初めておもちゃをさわった子供のように鎮也のテンションが上がってく、眠気など完全に吹き飛んでいた。
「でも魔力の消費が激しいよな、低級の魔核じゃすぐに魔力切れ起こすんじゃないか」
魔道具は金持ちしか使わない。
それはこの時代の常識であったが鎮也はそれを知らない。魔道具は性能が高くなればなるほど、相乗して使用する魔力が多くなる。また魔核を使い捨てにする道具が多く、庶民にはなかなか維持ができない。だから人気はそこそこで、下手に売れ残ってしまうと在庫を数年も抱えてしまう店が多い。
その在庫をレオフィーナたちが買いあさったのだ、店側は感謝し七星剣の噂を広めてくれた。
鎮也が別の魔道具を手に取った。
「これは動かないか、何かの欠片でセットじゃないとダメなんじゃないか、この方割れどこかにあるのか?」
鎮也が魔道具の山をかき分け始めた。もう「ちょっとだけ」ではなくなっていた。
寝ることも忘れて鎮也は魔道具をかきあさる。
「鎮也くん、これはいったい何かな?」
「あ、ああ、警備用ゴーレムだな」
温かい朝日が差し込む森の屋敷の庭で、鎮也は従者である咲耶に追い詰められていた。額からは大粒の汗を流しじりじりと後ろへさがっていく。
「鎮也くん、ウチって警備用ゴーレムが二体もあったけ?」
「いえ、昨日までは一体だけです」
「じゃあ、アレは何かな?」
昨日まで半壊していたゴーレムが傷一つない新品となって甦っており、さらにそれが二体に増えていた。外見もかなり変わっている。
そして昨夜はあった魔道具の山がほとんどなくなっている。ゴーレムの材料がなんであるか、この状況を見てわからない者はいない。
「いや~、魔道具の中にゴーレムに使えそうなパーツがけっこうあって、ちょっと試すつもりが」
ホントにちょっとだけ見て鎮也は寝るつもりでいたんだ。ただ魔道具の仕組みが思いのほか面白くて。
「ちょっとじゃ終わらなくなったと」
「はい」
鑑定眼を使えば、見知らぬ物でもその正体がわかってしまい、これとこれを組み合わせれば面白そうと、ブロックのような感覚で半壊していたゴーレムを直して、まだまだ魔道具が残っていると、勢いで二体目まで作ってしまった。
「まったくもう、鎮也くんなんだから」
二体目が完成したころには太陽が顔を出しており、目を覚ました咲耶たちが部屋からいなくなった鎮也を探して庭にやってきたのがついさっきのことだ。咲耶が鎮也へ詰め寄っている間、レオフィーナとアリアは新しくなったゴーレムを観察していた。
「これはマスター的にはお約束の行動でしたね。私としたことが迂闊でした」
昨夜はぐっすりと寝てしまったレオフィーナが、珍しいモノがあれば改造したくなる鎮也のお約束を見逃したと悔しがる。
「リィリィ」
「ロォロォ」
「あの、シズヤ様、このゴーレムたちがしゃべっているように聞こえるのですが」
ゴーレムたちから明らかに稼働音ではない音が聞こえてくる。
「ああしゃべってるぞ、なんか人工知能みたいな回路があって組み込んでみたらこうなった」
人工知能もどき、まさかこんな魔道具まであるなんて、世界観が違うとは鎮也も思ったが、あったのだから使ってみた。そしたらこうなった。外見もゴーレムというより、SFアニメなどに出てくるロボットに近く、剣よりもライフルが似合いそうだ。
白をベース赤いラインが入った多目的マルチゴーレム一号機を『リリィ』青いラインの二号機を『ロロォ』と名付けてみた。
「あぶなくないの?」
正体不明の魔道具で喋るようになったゴーレムを咲耶が心配する。
「大丈夫だろ、主人登録機能もあって、俺たちが主ってことで登録したから逆らわないよ」
全身魔道具のマルチゴーレム。こいつを使えば屋敷の修復もはかどるはずだ。
「アリア、今日から屋敷の修復に入ってくれ、リリィとロロォはアリアのサポートだ。回収した聖雷剣も置いていくから護衛にはトルナードを残す」
「シズヤ様、護衛はこのゴーレムたちで十分です。屋敷のことは私に任せ七星剣のみなさんは御側においてあげてください」
「いいのか」
「当然です。もう二度と聖雷剣を奪われるような失態はいたしません。どうかシズヤ様はご自身の目的に全力で取り組んでください」
屋敷の護衛はこのゴーレムたちがいれば問題無いと鎮也の申し出をアリアは断った。
「そうか、じゃあ屋敷は頼んだぞ」
「はいお任せください」
屋敷の警護、一度失敗をした仕事。今度こそは成し遂げようとアリアは屋敷修繕のため一人屋敷に残って作業する。
鎮也は屋敷の修繕をアリアに任せ、咲耶とレオフィーナを連れて宿の部屋へと戻ってきた。
「ふわ~~~」
部屋のふかふかなベッドを見るなり大アクビをする鎮也、徹夜を二日も続ければ無理もない。
「鎮也くんは今日一日寝てて、体が丈夫でも限度があるよ」
「すまん、助かる」
落ち着いたらどっと眠気がきた。本来の予定では今日の内にゴーレムを製作する事になっていたので、昨夜と今日の昼間が入れ替わっただけ、鎮也が休んでも問題は無かったのだが、それは第三者によって妨害された。
「やっと見つけましたよシズヤ殿!」
ノックもなしに部屋へと飛び込んできたのはギルドナイトのイクス。
イクスがベッドに倒れ込んだばかりの鎮也を無理やり引き起こす。
「緊急な案件が発生しました、ギルドマスターが呼んでいます至急総支部にいらしてください!」
「二徹明けで眠いんだけど」
「それは申し訳ありませんが、こちらも緊急なので急ぎましょう」
「おいこら」
イクスに似合わない強引は行動で、鎮也は引きずられるようにギルドへと連れてこられた。
鎮也が眠りにつけるのはまだ先のようである。




