第32剣『競売とは、競う買い物である』
「いい二人共、これはあくまでも買い物であって競争じゃないよ」
オークション大会二日目。朝一番で冒険者ギルドレフティア総支部に訪れた咲耶、レオフィーナ、アリアの三人は、アリアの冒険者登録と冒険団『七星剣』への入団手続きをすませた。
これから鎮也に頼まれた魔道具収集と聖雷剣探しを始めようとしているのだが。
「サクヤそれは違う、マスターの国の言葉ではオークションのことを競売と言うそうです。競争する売り物と、つまり競い合いは必須」
「そうなのですか!?」
冒険者になってもメイドスタイルをやめないアリアが驚く、朝一番なこともあり人は少なかったがギルド内でも大いに目立っていた。
「確かに競売とは言うけど……」
「多くの品を手に入れるために私たちもまた分かれて行動します。必然的に競争になってしまうのは仕方がありません」
「レオナ、真面目にやろうね」
「心外ですサクヤ、私はとても真面目です。私が言いたいのは今日の買い物で一番有益な商品をゲットした者がマスターに褒められるということです、これぞお約束」
「なるほど」
メイドのアリアさんが一気に戦闘モードに突入してしまった。腰に差された二振りの聖雷剣がキラリと光る。
「レオナ」
ラブコメ系の話でヒロインたちが主人公の欲しがっている物を、競い合って探す展開の事をレオフィーナはいいたいのであろうが、確実にアリアが燃えるように仕向けている。
「それではサクヤ様、レオナ様、私はこの街に不案内なので先に行かせてもらいます。でわ」
アリアはマリンブルーの髪をなびかせ返事も聞かずに人ごみの中へと消えていった。
「アリアはやる気を出してくれましたね」
「レオナ~」
「やる気を出すのは悪いことではないでしょう」
「それは、そうだけど」
自分の趣味を取り入れてはいるが、邪魔になっていないところが性質が悪い。
「それに本当に褒められる可能性も十分にあります。私とてサクヤたちに負けるつもりはありません、真面目に、そして全力で買い物をします。サクヤ、着物を乱さないようにゆっくり歩いていては私たちに大差をつけられますよ」
「私も巻き込みたいのね」
レオフィーナはあきらかに咲耶を挑発してきた。
「本当のことを言っているだけですよ、一人だけ少量の戦果ではサクヤ自身が居た堪れなくなりますよ」
間違いなくさっきのアリアの様子では大量に買い込むだろう。
レオフィーナも自分から言い出したことだ手を抜いたりはしないはず。
「私だって鎮也くんの頼みごとだもの、全力やるわよ」
「さすがサクヤ、私が認めただけのことはあります。お互いに健闘しましょう」
アリアとは逆の方向へレオフィーナも人ごみの中へと紛れていった。
「まったく、鎮也くんがいなくなるとレオナのお約束に振り回される」
大きくため息をつくと、咲耶も背筋を伸ばし人ごみへと赴いた。
咲耶が最初に訪れた店は昨日聖雷剣を探しにきた裏通りに店である。
「よお姉ちゃん、二日も連続できてくれるなんて嬉しいね、だが聖剣なんて上等なもんは流石に一晩じゃ入ってねえぜ」
「今日は魔道具も探してるの、昨日見た時確かいくつかあったよね」
「おう、確かにあった、さっきまではな」
「さっき?」
店員が店の一角、商品がすべて無くなっているスペースを指差した。
「青い髪のメイドがよ、あるだけごっそり買っていってくれたんだぜ」
「青い髪のメイド、その人って瞳の色も」
「おう青だったぜ」
一足違いで買い占められていた。昨日通ったルートなら急がなくても道を知っている分、咲耶の方が有利だと思ったのだが、アリアの行動力の方が上だった。
「なんでも大量に必要だって言うから、この通りで魔道具を売ってる店を教えてやったぜ」
この通りとは、咲耶が昨日通ったルートである。つまり咲耶の心当たりの有った店は、アリアに制覇されていることになる。
咲耶はやむを得ず別のルートを選んだのだが、そこで訪れた店でも……。
「すまねぇな、さっき金髪の騎士様に全部売っちまったのよ」
「明日以降に出す予定だった在庫はありませんか」
「それも全部買って行ったぜ」
「本当に全部、一つくらい残ってない?」
「見事に残って無いな」
スキル『嘘探知』を使って店主の言葉が嘘でないことは分かる。本当に魔道具の品物は一品も残っていないのだ。
この道にある商店もだめだと、頭の中の地図に印を付けて、次の移動先を考えた、確か東地区にも魔道具を扱っている店があったことを思い出した咲耶はそちらへ足を向けようとしたら。
「おい聞いたか、東地区にあった魔道具を爆発的勢いで買いあさってるメイドがいるらしいぜ」
「聞いた聞いた、なんでも伝説の冒険団『七星剣』の名前で登録できた新進気鋭の集団に仕えているメイドらしいぜ」
「駆け出しなのに、もうメイドを雇える余裕があるのかよ。流石は『七星剣』を名乗るだけはあるな」
咲耶が言ったコネ作りもちゃんとしているようだ。
東地区はダメ、だったら正門近くの露天に掘り出しものが。
「正門前の露天でも魔道具類は一切なくなったらしいぞ」
「オレもさっき聞いた、金髪で騎士風冒険者が買占めっていったんだろ」
またも咲耶の知り合いと合致しそうな噂話が飛び込んでくる。
「その金髪の冒険者だけど、どうやら光剣の騎士らしいぜ」
咲耶はまた足が止められてしまった。正門近くの露天ももうダメだ。
「光剣の騎士ってたった二週間でランクBになった噂の冒険者だろ、すげ~な」
もはやオークション会場の重要お得様に位置づけされたはず。これだけ噂が広まれば、来店するだけで店の方が魔道具を出してくれるだろう。
残っていれば。
「いらっしゃい」
「私は『七星剣』に所属する冒険者ですが、探しているモノがありまして」
「おお、あんたもあの冒険団か、さっきはありがとよ、長期在庫の魔道具まで買ってくれてウチは大助かりだぜ」
買い物に向かった先でお礼を言われてしまう。
「それで今度は何を探しているんだ」
「え、いえ、たいしたモノではなかったです、では」
咲耶はそそくさと店を後にした。
「あの二人が、ここまで本気だとは」
レオフィーナも全力で爆買いに走っている。荷物はどうやって持っているのか疑問だが、あの二人が通った後には魔道具が一欠片も残っていない。
「もしかしてこのまま買い占めてたら、街に品薄になって、混乱とかおきないよね」
魔道具は生活の必需品ではなく、どちらかと言えば嗜好品が多いから大丈夫なはずだが。
「それにしても困ったわね」
「あれサクヤさん、どうされたんですか」
「リーザさん」
咲耶が悩んでいるところにやってきたのはブラウンのショートヘアーの少女、先日の誘拐事件で助け出し、聖雷剣を譲渡した相手だ。彼女は手押し式の台車に荷物を載せて運んでいる途中だった。
「悩んでいるみたいですけど、もしかして魔道具の大量購入に関係してますか?」
「リーザさんも知ってた」
「もうそこら中で噂になってますよ、私たち『導く翼』はオークション期間中、荷物の運搬搬入の依頼を受けてるんです」
大変だけど命の危険がない依頼、低ランクの冒険者たちにとってオークション期間はいい稼ぎになっていた。リーザの台車に積まれているのも依頼品の一部である。
「これもどこかのお店の商品」
「そうですよ、これから届けるところです」
「この中に魔道具ってある?」
「あれだけ買ってまだ集めるんですか」
あれだけって、どれだけレオフィーナたちは集めたのだろうか。
「ちょっと鎮也くんの頼みで、あれば有るだけ欲しいんだ」
「シズヤ様の頼みですか。それは聞いてあげたいのですが、これは残念ながら普通の日用品です。魔道具が無くなった店が急きょ別の品で補填しよとしていて」
「そうなんだ」
残念なことにまたしてもハズレであった。もうレフティアで魔道具を手に入れるのは不可能かもしれない、このままでは咲耶一人だけが手ぶらで鎮也の元へ帰ることになる。
それだけはご免だと、咲耶は方針を切り替えることにした、もう魔道具は無理だとキッパリ諦めて、本来の目的である聖雷剣探しを再開する。まだこっちの方が可能性を感じられる。と思うから。
「リーザさん、どこか聖雷剣がありそうな場所って心当たりない」
「シズヤ様がお造りになった剣ですよね、私も仕事のついでに探してはいるのですが、なかなか、聖剣ほどのすごい剣が売りに出れば絶対に噂になるので見逃したりはしてないと思います」
「そうよね」
売りに出れば噂になって当たり前。
「あれ、でもライトゥスの武器屋は噂になってなかったような」
店に堂々と飾られていたのに誰にも見向きもされていなかった、鎮也たちから聞いた理由では見た目が汚くて店主が聖剣と信じていなかったらしい。
「もしかして」
聖剣って気付かれていない場合は聖剣で探しても見つからないのでは、咲耶にそんな考えが浮かんできた。
「ねぇリーザさん、見た目は灰色で石みたいだけど、使ってみると性能のいい道具の噂って聞いたことないかな」
「見た目の悪い道具ですか…………そう言えば、性能がいいかは分かりませんが、灰色で絶対に壊れない道具があるって、さっき荷物を運んで店で聞きましたよ」
「それよ!」
鎮也の作りだした聖雷剣の中には見た目が剣に見えないモノもある。
「それどこのお店!」
「あの道の角を曲がった工具店です」
工具店。武器屋ではないからチャック対象にはなっていない、一般的な工具店なら魔道具など置いていないだろうから二人も調べていないはず。
「ありがとうさっそく行ってみるわ」
咲耶はリーザにお礼を言うと工具店目指して駆けだした。
教わった角を曲がれば工具店はすぐに見つかった、木造の小さい工具店、従業員を雇わずに家族だけで経営をしていそうな雰囲気のお店。
オークション会期間中だというのにあまりお客は入っていなかった。
店に入った咲耶は聖雷剣がないか、灰色に変色した道具がないかを探すが見当たらない。
「いらっしゃいませ」
来店の気配を感じた店員が店の奥から顔を出す。のんびりとした雰囲気の老人であった。
「何かお探しですかな」
「ここに灰色で頑丈な道具があると聞いてきたのですが、まだありますか?」
「灰色、ああ、あの農業用フォークですか」
「農業用フォーク?」
いくらなんでも、農業用に間違われるなんてことは。
(ありえない、とも言えないのよね。鎮也くんの剣だし)
農業用の道具と勘違いしそうな形状の剣も確かにあったと咲耶は記憶している。
「それでそれはどこに」
「つい今しがた売れてしまいましたわ、まさか十年以上も棚の肥やしになっていたあの道具を探しにくるお客さんが一日に二人もくるとはな」
老人は今しがたと言った、咲耶は慌てて店を飛び出し左右を確認するが、オークションで集まった人の多さに、見つけることはできなかった。
「すみません、その購入された方がどなたかわかりませんか? 名前とか住んでいる場所とか」
店へと引き返した咲耶が購入者の特徴を訪ねる。
「すまんの、初めて見るお客だったので名前もきいておらん」
まさかのタッチの差で逃してしまうとは、魔道具が見つからない以上に悔いが残ってしまう。
「外見の特徴でも何でもいいので教えてもらえないでしょうか」
少しでも情報を、せっかく見つけた手がかりなのだ。
「特徴か、やさしい感じのきれいな娘っこだったの、歳はお前さんと同じくらいか」
咲耶と同い年くらい、十六から十七歳くらいの優しくきれいな娘。
これだけの検索キーワードでは対象人物を特定するのは難しい。
もう日が沈みだす時間になっていた。オークションも終わりを迎える時間、肩を重くした咲耶が鈍い足取りで宿屋へと戻っていった。
太陽が完全に沈んだ夜。レフティア冒険者ギルド総支部長室は重たい雰囲気に包まれていた。ギルドナイトのリーダーが送ると言っていた伝令がまだ帰ってきていない。正確には『明日までに伝令を送る』だったので到着が遅れているだけの可能性も捨てきれないが、カイザンには嫌な予感がしていた。
そもそもランクAの冒険者が行方不明になるだけで大問題である。
不安の正体はわからないが、ウーゴットの隠し財宝はただの宝探しでは終わらなそうだ。
「まだシズヤ殿たちは見つからんのか」
カイザンは嫌な予感への対策として鎮也たちをギルド本部へ来てもらえるように召集をかけたのだが、その召集依頼が鎮也をはじめ『七星剣』のメンバーに伝えることができていなかった。
「朝方、新たなメンバーの冒険団加入登録に訪れているのですが、それ以後の居場所が掴めていません」
サブマスターが申し訳なさそうに報告をする。
「まさかもう街を出てしまったのか」
「いえ、オークションエリアの各所で目撃情報があるので街の中にはいるようですが、彼らは一か所にとどまることは無く、話を聞いて探しに行ってももう姿が無いそうで」
「そうか」
カイザンは自身の椅子へ深く座り込んだ。
最善策は『七星剣』に協力を要請することであったが、それは叶わなかった。その場合の次点の策を取らなければならない。
「明日の朝までに伝令が戻ってこなかった場合、レフティアにいる高ランク冒険者全員に召集をかけろ、今までにない最大の危機が迫っているかもしれない」
「了解しました」
サブマスターが手配ため退出しようとするとカイザンが呼び止めた。
「念の為、シズヤ殿たちが取っている宿にも知らせが行くようにしておいてくれ、もしかしたら明日の朝に帰ってくるかもしれないからな」
「了解しました」
カイザンの不安がぬぐえないままレフティアの夜が深けていく。
一睡もせずに伝令を待ち続けたが、やはり伝令が戻ってくることはなかった。




