第31剣『いきあたり緊急会議』
大オークション会。鎮也にとって衝撃だった一日目が終了した。レフティア最大のイベントでも期間が七日間もある。最終日を除き、日が落ちればオークションは終了となり翌日の準備に追われる。
鎮也たち四人も宿屋へと戻ってきていた。
成果を報告し合うまでもなくゼロだと分かっている。オークション会場で聖雷剣を一本も見つけることができなかった。
「これだけ大きなイベントだから一本か二本くらいは出ると思ったんだけどな」
「そうだね、でも鎮也くん、オークションに集まった品物が全部一日目に出るわけでもないんだって」
単純に品物が多すぎるのだ。売れたら後ろに控えている品物が店に並ぶ。
オークション会といっても本当に競売をしているのは中央広場だけであり、他の店は祭り騒ぎに便乗した普通の販売だ。
「控えにある可能性は」
「低いとみるべきですマスター」
聖剣ほどの一品が出るなら、噂くらい立ちそうなモノ。でも集めた情報の中にそれらしきものはない。
「あるとすれば最終日の目玉かな」
「サプライズ出品ですか、会場の雰囲気次第ですが値が上がりそうですね」
アリアは鎮也のサプライズを受けてからサプライズ好きになっていた。
「でも、だからって最終日までほっとけないよな」
どこかでふいに出品される可能性はわずかにでもあるのだから、毎日通わなければならない。
「いっそのこと冒険者ギルドに依頼出すか、オークションで聖剣出たら代理で買っておいてくれって」
「あ、案外いいかもね、お金はすっ飛んで行きそうだけど」
「もともと偶然手に入れた金だし、使い切ったらまた稼げばいいさ」
「しかしマスター、屋敷の修繕費は残しておいた方が」
「ああ、それもあったな」
鎮也の屋敷は破壊されたまま、いや経年による劣化や風化も加わってくるのでさらに酷くなっている。
「屋敷、それは森の屋敷の事ですか」
アリアが屋敷と言う単語に反応した。
彼女は破壊されている現場は知っていても、破壊された後の現場はしらない。
アリアの懇願で透徹の瞬間移動を使い森の屋敷へと帰ってきた。宿の部屋はそのままで明日の朝にはまた戻るつもりでいる。
薄暗い月明かりが廃墟となった屋敷を照らしていた。
「外観が残っているだけでも奇跡ですね」
「何とか工房だけは使えるように修繕したんだけどな、他は手つかずだ」
「そうですか」
アリアは崩れかけている壁に手を添えた。
「守れなくてごめんなさい、でも、生きていてくれてありがとう」
アリアはもう廃墟にしか思えない森の屋敷を生きていると言った。
「私がかならず直してあげます」
「直すってアリアがか」
「はい、私とてただメイドをしていたわけではありません、屋敷のことならすべて頭に叩き込んであります。建築建造の技術も習得しました。メイド魂にかけて完全に直してみせます」
メイド魂が燃え上がる。
「咲耶、メイドって万能超人のルビだったけ?」
「えっと、少なくとも私は建築現場でメイドさんを見たことないわ」
どこをどう繋げれば、メイドが建築技術に繋がるのだ。
「完璧ですアリア、お約束のハイパーメイドにまた一歩近づいたのですね」
「ありがとうございますレオナ様、これからご鞭撻よろしくお願いします」
あ、アリアをこんな子にした犯人はあいつだ。
「メイドになるよう勧めたのもレオナだったな」
初めから計算づくだったのか。
「マスターこれもお約束、いえ、異世界にメイドはすでに常識の域です」
「言い直さなくていいぞ~」
ある意味、レオフィーナはメイド大好きの叔父の作った娘のような存在、叔父の血は確実にレオフィーナに受け継がれていた。
「でもまあ、屋敷は直さなくちゃいけないんだし、みんなで取り掛かるか、まずは瓦礫の撤去からか?」
「いえ、それはなりません。シズヤ様は聖雷剣たちを治してあげてください」
「いいのか」
「はい、もちろんです」
確かにすぐにでも修繕に取り掛かりたい鎮也にはアリアの申し出は有難かった。
鎮也は鍛冶師であってもさすがに建築技能は納めていない。戦力になるとすれば力仕事ぐらいだが、それなら五剣獣のみんなに頼んでも変わりは務まる。
「ならお言葉に甘えて」
どれから修繕しようか魔法のカバンを触ってリストを見たら、とても厄介な懸念事項ができてしまった。
「あ、やばいかも」
「シズヤ様、何か問題が」
「たった今、重大な問題があることに気が付いた」
「重大な問題ですか」
アリアだけでなく、咲耶とレオフィーナも重大な問題とは何かと鎮也に注目が集まる。
「聖雷剣の保管場所がない」
鎮也の魔法のカバンはすでに一杯である。この中に入れておけば安全なのだが、次から見つかった剣を入れておく場所がない。治しても譲渡者が見つかるまで保管しておく安全地帯がないのだ。もし数十本取り戻せたら持ち運ぶのは実質不可能になる。
ウーゴットの屋敷で気が付いていたはずなのに、すっかり忘れていた。
「気が付かなかった」
「うっかりしてましたね」
「屋敷を治しただけでは防衛力不足で、剣を置いていけませんね」
「アリア、悪いが屋敷を修繕する前に緊急会議だ、どの問題から解決するか優先順位をつけていこう、二人もいいよな」
鎮也の提案に反対する者はいなかった。
「それでは新生冒険団『七星剣』第一回緊急会議を始める、進行は咲耶頼んだ」
「了解、まかされました」
感情で暴走してしまうことのある鎮也やお約束優先のレオフィーナでは進行が脱線してしまう。こんな時はいつも咲耶が担当してくれていた。
アリアは緊急会議を行うと宣言した瞬間から土の地面を均し小枝を拾いペンのように持つと、地面を用紙代わりに議事録を作成する構えをとっている。とれも気が利くメイドさん。
「明かりが必要ですね」
レオフィーナが火魔法で松明サイズの火球いくつか作り周囲に浮かべる。
これで手元が明くるなりアリアの作業も楽になる。
「ありがとうございますレオナ様」
「じゃまずは問題を全部あげてから、解決策を考えて、まとまったら優先順位を付けていく流れで」
こうして真夜中の森の中でいきあたりばったりの会議が開催された。
あげられた問題点などをアリアが地面に箇条書きで書き出していく。
・森の屋敷の修繕
・聖雷剣の修復
・聖雷剣の保管場所
・保管場所を屋敷にする場合の防衛力の強化
・オークション会での聖雷剣探し
「あと、アリアさんのギルド登録もしないとね」
・アリアの冒険者登録と七星剣への加入手続き
以上六項目が上げられた。地面に書かれた文字なのにきれいでとても読みやすい。
「やっぱり屋敷の修繕が最初か」
「それでは時間がかかってしまうのでは、先に防衛力を上げれば廃墟のままでも仮の保管場所として使えますし、効率がいいかと」
「私もレオナの意見に一票かな、昼間はオークションに行かないといけないし、修繕までは時間が取れないよ」
レオフィーナと咲夜が屋敷よりも防衛力強化が優先と主張する。
「防衛力か、だったら破壊された警備用ゴーレムを改修するか、幸い最新のゴーレム核が手に入ったんだし、結構パワーアップできるはずだ」
鎮也は魔法のカバンからゴーレム核を取り出して見せる。
魔法は衰退したが魔導技術は進歩している。今ならマルチなゴーレムが作れるはず。戦闘だけでなくいろいろな機能も付ければ、鎮也の脳内にピカリとひらめきが浮かんだ。
「建築技能を持ったゴーレムを作れば、屋敷の修繕にも使えるんじゃないか!」
「おお、マスターナイスなアイデアです」
「確かにいいかも」
鎮也の工作好きはみんな当然知っている。そして作り始めると暴走してとんでも機能を取り付けてしまうことも、先日の馬車の魔改造がいい例だ。普段なら咲耶がやりすぎだと止めるのだが、今回に限っては暴走してどんな高性能な建築技能を付けようと困ることない。
「じゃ、私たちの最優先事項は防衛力と建築技能を持ったゴーレムの改修で決まりだね」
「異議なし」
珍しく魔改造に反対されなかった鎮也の職人魂が燃え上がる。
「次に行動の割り振りだけど、鎮也くんはオークションには行かずゴーレムの改修をやってもらって私たちは――」
「異議なし!」
「鎮也くん、話は遮らない」
結局暴走気味になって怒られる。
「ごめんなさい」
「まったくもう」
やれやれと首を振る咲耶。
「鎮也くん、改修に何か必要な物ある。せっかくのオークション会だからいろいろと揃うと思うけど」
「魔導技術で動くモノ全般だな、どれだけ技術が進歩したのか調べるにもちょうどいい機会だし」
「対魔法結界なんてモノも作られてたし、技術調査も必要だね」
「結界関係の魔道具もオークションに出るのかな」
「ん~どうだろ、剣探しで他の道具は見てなかったし、鎮也くんの方は?」
「俺も細かく見てなかった」
緊急会議はいつの間にか鎮也と咲耶だけの話し合いになっていた。アイディア出しなどの段階ではレオフィーナも参加できるのだが、行動方針が決まってしまうとこの二人だけ話をさせた方がスムーズにいく。それは議事録を取っているアリアもしかり。
「目についた魔道具をかったぱしから爆買いで、金ならいくらでもあるから」
「まあ今回は資金があるからいいか」
咲耶は爆買いという言葉の響きがあまり好みではなさそうだが、必要なことだと割り切ってくれた。
「どうせやるなら最大限の効果が出るようにしましょう。レオナ、アリアさん。買い物は私たちが手分けして行いますが、そのときは冒険団『七星剣』の名前も売り込んできてね」
名前を売り込む、高額な買い物をしてくれるお客は店にとってありがたいお客様。
「商人とのコネを作って損はなし、仲良くなれば出品していない品物の情報も入ってくる可能性があるから」
「なるほど、では明日は最初にアリアの冒険者登録をした方がいいですね」
冒険団の名を使うなら正式に加入しておいた方がいい。
女性の三人は朝一で冒険者ギルドへ申請に行って、そこから爆買いだ。
「決まりだな」
第一回緊急会議は終了した。鎮也はこのまま屋敷に残り、咲耶たちは朝日が昇るのを待って透徹を使い宿屋の部屋へと戻っていった。
「さて、材料が揃うまでの時間を使って修復作業をやってますか」
鎮也は工房へと向かい一振りの聖雷剣を魔法のカバンから取り出した。
同時刻、レフティア近郊の山中にも朝日が差し込んできていた。ここは山の中でも木々がなく開けており、夜営をするには快適な場所である。
そこに夜営を終えたカイザン直属のギルドナイトたちの姿があった。
「戻ってきませんでしたね」
ギルドナイトの中では最年少のイクスが今回のチームリーダーである年配のギルドナイトへ話しかける。戻ってこなかったとは、この山でウーゴットの隠し財宝を捜索していた三つのチームの内の一つが待ち合わせの時間になっても帰ってこなかったのだ。
「あいつらの担当は東ルートだったな」
捜索は北と西、そして東の三ルートで行われていた。
「はいそうです、あのリーダー、そのことなのですが」
イクスが言いにくそうに口ごもる。
「なんだ」
「北と西のルートはハズレでしたので残る東ルートで財宝を発見したのではないかと」
リーダーがギラリとイクスを睨み付ける。
「まさかあいつらが宝を独占して逃げたと言いたいのか」
「いえ、違います」
イクスは人一番正義感の強い人間である。信頼する仲間を疑うなどありえない。
「ウーゴットの屋敷には帝都でも最新の戦闘用ゴーレムがありました。もしかしたら財宝の隠し場所にも強力なゴーレムなどが設置されていたのでは……」
「ゴーレムごときに遅れをとる三人だとは思えんが」
戻ってこない三人の内の一人はイクスのランクよりも高いランクAであった。
冒険者の多いレフティアでも個人でランクA所有者は十人にも満たない。
「ウーゴットの屋敷では強力な対魔法結界との相乗効果でかなり苦戦する相手になっていました」
イクスも風の上位魔法を使える。何もない平原での戦いなら一対一でも勝てる可能性はあった。しかし対魔法結界の中では勝てる気がしない。結界内でゴーレムが素材にしか見えない鎮也たちの方が異常なのだ。
「対魔法結界か」
ウーゴットが倒れた後はギルドナイトたちは多忙で、イクスの苦悩が刷り込まれている報告書に目を通している者はいない。だから対魔法結界のことも戦闘用ゴーレムのことも知らないでいた。
魔法が使えないとなると、魔道具を装備していない限り、肉弾戦しかできなくなる。そうなればいくらランクAとはいえ、リーダーは悩んだ末に決断を下す。
「あいつらが向かったルートは分かっているな」
「はい」
「これより仲間の捜索に向かう」
財宝探しが任務であったが、ここに集まった二チームはそれぞれの担当の場所の捜索は終わっている。あとは報告さえしてしまえば任務は完了。
「イクス、お前の足ならここからでも半日で総支部へ帰れるだろ、報告はお前にまかせた」
「了解です」
「明日までにはもう一人伝令を走らせるとカイザンに伝えてくれ」
ギルドマスターを呼び捨てにできるほどの実力を持つ歴戦の冒険者。彼が一緒ならどんな高難易度の任務もこなせると安心と自信を与えてくれるリーダーシップ。
リーダーの判断は的確であると信じイクスは調査結果をカイザンに伝えるため一人レフティアへと引き返した。
このときはまだ誰もがウーゴットの隠し財宝は金塊や宝石類などだと思い込んでいた。
鎮也くんの小学校の時の一番好きな授業は図工でした。




