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第30剣『オークションデート』

 交易都市レフティア近郊の山中の洞窟の前に、レフティア冒険者ギルド総支部長カイザンお抱えのギルドナイト三名の姿があった。


「まさかこんなところに、これだけでかい洞窟があったなんてな」

「俺も知らなかっぜ」

「仕方ないさ、昨日まではあいつらが勝手に縄張りを主張してたんだから」


 あいつらとは昨日までレフティアの闇に百年以上も君臨していたウーゴットの息のかかったガラの悪い冒険者たちのことである。ギルドナイトたちも詳しい理由は聞かされていないがウーゴットが倒れ、今まで目を瞑ってきた悪徳冒険者たちを一斉に捕縛したのだ。


「冒険者が縄張りを主張するなんて、そんなルールは無いんだけどな」

「しかたないさ、やつらに睨まれたらレフティアで暮らしていけなくなる」

「でももう裏のボスはいない、縄張りもなくなった。これからはレフティアのギルドはさらに活気づくぞ」


 縄張りと抑えられていた豊富な資源の眠る山が解放されたのだ。低ランクの冒険者には採取、高ランクの冒険者には魔物の狩場が増えたことになる。依頼を受注できる範囲が単純に広がるのだ。


「総支部長はすでに帝都の本部に伝えたらしいぜ」

「さすが表のボス、抜け目ないな」

「俺たちの今やってる仕事だってそうだ、他の冒険者に先こされる前にウーゴットの隠し財宝を頂こうってことだろ」

「頂くんじゃなくて、回収な、俺たちは正義のギルドナイト。これまで街から吸い上げられた金品を街のために取り返しにきたんだ」

「言葉が変わっただけじゃん、とにかく急ごうぜ、俺たちの役割分でも後五つは調査しないといけない地点があるんだ」


 この解放されたエリアに他の冒険者がやってくる前にウーゴット組織の隠し財宝のありかを見つける。これが昨晩ギルドナイト全員に与えられた任務だ。この三人以外にもいくつか別チームが山の調査を行っている。ギルドナイト総動員でここまで大がかりな調査をするのは初めてだ。


 何故ここまで大がかりになったのか、それはウーゴットが想像以上に滑稽な男であったからだ。ヤツは財宝の隠し場所は月によって移動させていた。だから総支部長カイザンが把握していた地点に財宝はなく、昨日捕らえた連中の証言から新たな地点が判明したがその数が多く、確認に時間を取られている。


 本来なら昨晩のうちに財宝を押さえておきたかったのだが、有りかがまだ判明しない、三人が訪れたこの洞窟も確認場所の一つ。

 光る魔道具を松明変りに洞窟を進んでいく三人。


「おい、今何か聞こえなかったか?」

「いや俺には聞こえなかったが」


 三人の中で一番索敵に優れている者が何かを聞いた。それを勘違いで流すほどギルドナイトたちは緩んでいない。それぞれが愛用の武器に手をかけた。


「魔物住処か」

「俺たちはハズレを引いたのかもな」


 慎重に奥を目指していくと急に地面が、いや、洞窟全体が揺れた。


「何だ! 山崩れか!!」

「違う、奥で何かが暴れてるんだ!」


 揺れはさらにひどくなり、洞窟の壁をつきやぶり巨大な生物が飛び出してきた。


「ド、ドラゴンだと!」

「こいつが暴れてたのか」

「どうしてドラゴンが洞窟を壊すほど暴れてるんだよ!」


 天井に亀裂が入り落盤が始まる。


「外にでるぞ、もう財宝なんて気にしてられるか」

「おい、あれは何だ」


 一人のギルドナイトがドラゴンが穿った大穴を指差した。そこには禍々しい悪魔顔の巨人がいた。


「バカな、どうして、あれがこんな街の近くに」


 巨人の目が赤く光ったかと思えば、一気に落盤が加速し、三人の悲鳴が落盤の男にかき消されていった。






 レフティアのとある豪華なお風呂付の宿屋の一室で、ある儀式が行われていた。


「我、聖剣鍛冶師・星尾鎮也と」

「七星剣第一星・レオフィーナ」

「七星剣第二星・桜咲耶は」


 儀式を進行しているのは一人の鍛冶師の少年とその従者である二人の少女。


「「「汝を聖雷剣の使い手として認める」」」


 そして儀式を受けているのがマリンブルーの髪と瞳を持つメイド姿の少女であった。


「聖なる雷の剣の使い手として、その尊き魂に恥じぬよう願う」

「決してシズヤ様の名に恥じぬ使い手になることを誓います」


 儀式の中央に置かれていたアクアマリンがはめ込まれた二振りの聖雷剣が浮かび上がりメイド少女アリアの手へと吸い寄せられる。


「これで譲渡は完了した」


 聖雷剣譲渡の儀式。百二十年前から約束していた継承がようやくなされた瞬間である。受け継がれたのは珍魚落雁(アクアアリア)氷壺秋月(アクアアイス)、水と氷の曲刀だ。


 メイド服に曲刀の二刀差しは斬新なスタイルかもしれないが、アリア自身が鎮也のメイドであることにもプライドを持っておりこのスタイルで貫くそうだ。メイド服用の曲刀を差すためのベルトは昨晩鎮也が特注で制作している。


「アリア体の方は問題ないか?」

「はい、オジロの回復魔法で完璧な健康状態です」


 陽翼剣オジロの光魔法スキル。光魔法は回復系の魔法が多く氷から助け出してすぐに掛けており、氷のように冷たくなっていた体も一晩寝れば正常に戻っていた。


「これでようやく三本の譲渡ができましたねマスター、お約束通り相手は全員女性ですが」

「ちょレオナ、全員女性ってまだアリアで二人目だろ」

「まだ二人目なんだ、まだってことはこれからも」

「ちょっと咲耶さん、世界には男性と女性の二種類しかいないじゃないですか、そこは流して欲しいです」

「つまりこれからも増やすと」

「もう勘弁してくれ」

「冗談よ、鎮也くん落ち込まないでよ」


 からかいすぎたと咲耶が鎮也に笑いながら謝った。そんな光景を目の当たりにしたアリアも笑顔になる。


「お三方とも昔と何もお変わりないですね」

「まあな、百二十年経過していても、俺たちには数週間の出来事だからな変わりようがない」

「そうでうね、ところでシズヤ様」

「ん?」


 笑顔だったアリアが真面目な表情に戻して鎮也に問いかけてくる。


「その一人目の女性譲渡者を教えて欲しいのですが」

「え、あ、ああ~、リーザのことか、この街で出会った小さい女の子でな、えっと、小さいといっても別にとっても小さいわけじゃなく、ちょっと大きい、えっと」

「まったくもう鎮也くんは」


 慌てる必要はないのに、しどろもどろな説明をしてしまった鎮也に変わって咲耶が適格にリーザという少女のことをアリアに説明してくれた。


「なるほど、聖雷剣を持つに相応しい子なのですね、会ってみたいです」

「この街に居るんだし、ぶらついてれば会えるかもな」


 ちょうど話題が区切れたと、鎮也が話しをまとめた。


「それでは今日の予定について話すぞ」


 ふざけあいもここまで、鎮也たちにはやらなければならないことがある。その手がかりを探すために今日から開催されるオークション会は絶好の機会だ。


「今は少しでも情報が欲しい、今日はみんな分かれて情報収集だ、もし運よく剣を見つけられたら即購入だ資金はきにしなくていい、巨大な球があるからな」


 ウーゴットから聖雷剣を盗んだ賠償金としてもらってきた金の固まり、これで落札できない品はそうそう無い。


「それじゃ三つに分かれましょ」

「三つ、四つじゃないのか」

「いい鎮也くんは、百二十年も待たせたんだから今日はアリアさんにサービスしてあげなさい」

「そ、そんなサクヤ様!」


 今度はアリアが慌てる番だった。


「そうですね、私もサクヤの意見に賛成です」

「レオナ様まで、そんな、シズヤ様に悪いです」


 白浜のように白かったアリアの顔が太陽のように赤くなる。


「わかった、感謝と謝罪を込めて今日は俺がアリアの従者になろう、立場の逆転だ」

「シズヤ様が私の従者!? む、無理です、不可能です!!」


 また笑いに包まれる。

 鎮也がもう戻らないと思ったアリアとの時間が百二十年後でもまだ続いていた。






 レフティア最大のイベント、三カ月に一度行われる大オークション会。期間は一週間、その間に全国から集まった様々な品物が出品される。メイン会場となる大広場を中心に店から露天まで各種様々なオークションが開かれている。


「それでアリアお嬢様、私たちはどちらから見て回りましょうか」

「シズヤさま~、もう許しください」


 メイド姿のアリアが自分の主人からお嬢様と呼ばれ涙目になっている。

 謝罪と感謝のつもりが、つい反応がおもしろくてイジリになってしまっていた。


「悪い悪い、流石にふさげすぎた」

「ホントですよ、心臓が止まる思いです」


 心底嫌がっているわけではなく、照れくささがアリアの限界を超えてしまったようだ。


「こっからは普通に行こう」

「よろしくお願いします」

「咲耶とレオナはメイン会場の裏の方から回ってるから、俺たちは表からだ」


 裏は少し危ない雰囲気を漂わせた店が多く点在しているらしい、ウーゴットが倒れても悪人がいなくなったわけではないので、そちらのドロドロ雰囲気は咲耶たちが率先して担当してくれた。


「サクヤ様とレオナ様に感謝ですね」


 回復したばかりのアリアを気遣ってくださいと二人からの鎮也へのメッセージでもあった。そのことはアリアも気が付いており感謝を口にする。


 鎮也たちは一度正門から続くメインストリートに出て、そこから中心部へと向かうルートを選んだ。こちらは日用品が多く武器などの類は少ないがまったく無いわけではない。もしかしたらライトゥスの目利きのできない武器屋みたいに価値の分かっていない人物が聖雷剣を出品している可能性もある。


「私の知っているレフティアとはまったく違いますね」

「だろ、俺も最初は驚きしかなかった」


 アリアもまた鎮也たちとは別の方法で百二十年を飛び越えた存在だ。時代の流れに感覚がまだ追いついていない。


「一緒に慣れていこうぜ」

「はい、シズヤ様」


 二人は剣だけでなく、昔には存在しなかった新しい道具なども含めてオークションを見て回った。


「見てくださいシズヤ様、この生地、濡れてもすぐに乾くそうですよ、これでメイド服を作ればこの()たちを使ってもすぐに乾きます」

「濡れること前提なんだ」

「当然です。この()たちの力が一番発揮できるのは水の中なのですから」


 鎮也が想定したのは水辺であって水中ではないのだが、確かにこの二振りを装備したアリアに水中戦で敵う者などいなそうだが。


 それに水中戦ならメイド服にこだわらず、水着を着た方がいいのではと鎮也は考えてしまう。

 この剣と魔法の異世界で、水着などの元の世界の産物があるのかと鎮也は思った時期もあったが。


「おうそこのメイドさん、泳ぎが得意なのかい、だったらこれなんてどうだ、去年帝都で発表された水着でよ、使われている生地は超希少で、このレフティアにだってようやく流れてきた代物だぜ」


 生地が希少というだけのことはあり、生地面積がとても少ないビキニタイプの水着である。そうこの世界にも水着があるのだ、それだけではない、セーラー服やナース服までも存在する。これもきっと鎮也の伯父の仕業である。


「私はメイド服を着ると決めていますのでごめんなさい」

「そこまでこだわらなくてもいいんじゃないか」


 メイドになる前に水辺の妖精族の民族衣装、干した海藻で編んだ薄手の服はメイドになってから一度も袖を通していない。露出度は高いのにエロくない清楚な感じの衣装は鎮也はけっこう好きだったのだが、口にすると変態っぽいので口にはださない。


「いえ、これは私にとっての決意であり戦闘服なのです」

「そ、そうか」


 少しだけ残念な感じが外に出てしまった。それをアリアが勘違いして受け取ってしまい。


「あ、あのシズヤ様、シズヤ様がどうしても着てほしいと言うのなら、こちらをメイド服として着用いたしますが」

「いやいやいや、それはやらなくていいから!」


 どこの世界に生地の少ないビキニをメイド服にする。異世界だってありえないだろ。メイド大好きな鎮也の伯父ならもしかしたら実行したかもしれないけど、鎮也はしない。


「そうですよね、私のような華奢な娘が着ても似合いませんよね、やはりレオナ様みたいな凹凸のあるスタイルでないと、わかりましたレオナ様のお土産として購入しましょう。大丈夫です、私が着てくれるように説得しますから」

「まったまった、それもまった!」


 レオナなら、これもお約束ですねとかいって着てしまう可能性がある。

 そうなれば間違いなく咲耶の機嫌が悪くなる。百パーセントの確率で悪くなる。それだけは阻止しなければ。


 どうにかアリアの水着購入を阻止することのできた鎮也たちは、結局剣の一本も見つけられないまま中央広場に到着してしまった。

 ここでは特設舞台で高額商品のオークションが行われている。この広場でオークションは出品物が事前登録され目録が作られているので聖雷剣が出ないことは分かっていた。


「それでは続きまして次の商品です」


 ちょうど商品の切り替わるタイミングで到着したようだ。


「こちらは今年帝都で発表されたばかりの水着、使われている生地は超希少で、このレフティアでも初登場の品物です」


 ついさっき聞いたばかりのうたい文句にそっくりであった。違いは去年から今年になっている所ぐらいだ。


「それでは金貨三枚からスタートだ」

「高いのですね、あの水着」


 咲耶たちとの合流まで時間ができてしまったので、オークションを眺めながら時間を潰す、あの水着は地方貴族が金貨十七枚で落札した。


「帰ったら早速ウチのメイドに着させるか、ウヒヒ~」


 見事な変態貴族であるようだ。


「この時代、水着とはメイドの制服なのですか」

「ないない、絶対にないからな、お願いします」


 アリアさんがとても大きな勘違いカルチャーショックを受けてしまった。このまま勘違いが定着してはまずいと訂正する鎮也。


「くそ、伯父さん、変な文化を広めないで下さいよ」


 鎮也は尊敬する伯父へ悪態をついた。


「続きまして次の商品です。有る意味これは世界最高峰の宝といっても過言は無いかもしれません、先ほどのビキニをはじめ、帝都で流行をおこしたセーラー服、ナース服などなどの製法が書かれた古文書です」

「へ、古文書ってなに?」


 広めたのは伯父ではないのか。

 舞台の中央に運ばれてきたマニアックな服の発信源たる古文書、それは。


「げッ!?」

「シズヤ様、どうかされました」

「いや、な、何でもないぞよ」

「ぞよ?」


 鎮也の語尾がおかしくなる病が発症してしまった。


「それでは、ファッションの起源たる古文書『征服パラダイス・サマー』金貨三十枚からスタートだ」


 それは百二十年前鎮也が特典としてこの世界に持ち込み、金銭を得るために売り払った伯父の宝物の一つであった。つまり元の世界のマニアックな衣装を広めたのは伯父ではなく。


「犯人は俺だ」


 両手で顔を覆った鎮也の元へ、とてもきれいな笑顔の咲耶さんが近づいてきたのは、このすぐ後のことである。

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