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第28剣『アリアと生還』

 金塊を全て片づけて宝物庫をキレイにして気が付いた。奥にさらに扉がついていたのだ。


「抜け道か、ウーゴットのやつここから逃げ出す気だったんだな」

「外は私が結界を張っていますから無駄な行為でしたが」


 引き返すよりも、抜け道を通った方が早く外に出れそうだったので、鎮也たちはそのまま抜け道を進むと庭の隅に通じていた。

 偽装された蓋を押し上げ庭に出てば、鎮也たちに気が付いたヤマトとトロンバトルナードが駆け寄ってくる。


「二人ともご苦労さん」


 仕事を果たしてくれた二頭に礼を言う。庭には大小二つの傭兵崩れの固まりが出来上がっていた。

 リストの束と睨み合っていたイクスも鎮也たちに気が付き寄ってくる。


「シズヤ殿、お疲れさまです。ウーゴットはどうなりました、シズヤ殿たちがご無事ということはもう」

「倒したよ」

「そうですか、みなさんの強さは理解しましたから心配はしていませんでしたが、思ったよりもかなり早かったですね」

「時間をかける意味がなかったからな」

「さ、さすがです」


 時間をかければ倒せる風には言わないでとイクスの顔には書いてある。

 理解したつもりだったが、まだまだ認識が足りなかったとイクスの頬が引き攣った。


「ところで、なんであれは二つに分かれてるんだ」

「私がやりました、カイザン総支部長の指示なので気にしないでください」


 カイザンの指示、後始末をするだけなら分ける必要も、あるのか、ただのチンピラと賞金首は扱えが変わってくる。


「ちゃっかりしてるな」


 分別作業をしたと言うイクスの手に持っている手配書の束から、小さい方の固まりが賞金首の連中だと察しがついた。そしてその賞金がどこに流れるかも。


「ギルドを運営するにも資金は必要なんで、総支部長が水道殿込の後始末代金だと思ってくれると嬉しいと伝言を預かっています」


 つまり、水道殿でアリアを解放させる代わりに鎮也たちが倒した賞金首を譲ってくれと遠回しに言っているのだろう。


「わかった、その辺に関してはそっちに譲るよ」

「ありがとうございます」


 イクスは鎮也の承諾をえるなり、使い捨ての信号弾を取り出し空へ向けて放った。発射された弾は青い煙を引きながら登っていく。

 すると連動するように街の各所から青い信号弾が上がり、円を描くように連鎖していき街中から数十個の信号弾が打ち上げられる。


「何だ、いったい?」

「ウーゴット組織崩壊を知らせる連絡です」

「後始末をするためか」

「そうですね、そうとも言えます」


 微妙に含みある言い回しだが、水道殿の許可を正式にもらえたのだから細かいことは流すことにした。


「みなさんはこれから宿に戻ってお休みになられますよね」


 休んで欲しいような聞き方。だが、鎮也たちは休むよりも先にやらなければならない事がある。


「このまま水道殿に行く、一刻も早くアリアを氷から出してやりたいからな」

「でも、疲れていませんか、戦闘の後ですし」

「この程度なら大丈夫、心配してくれるのは嬉しいですけど、俺たちは行きます」

「そ、そうですか、わかりました、私はここの後始末がありますので、ここに残らせてもらいます」


 意識を失っているとはいえ、これだけの連中を誰も見張らない訳にはいかないだろう。


「後始末よろしくお願いします」


 レオフィーナが結界を解除して屋敷を出ると、門にはすでに『この屋敷は冒険者ギルドレフティア総合支部が閉鎖した』と書かれた看板が冒険者ギルドのスタッフによって立てられていた。


「行動早いね」

「残ったウーゴットの資産はギルドが独占ですか」

「残ってればな」


 他にも隠し部屋はあるかもしれないが、ウーゴットの部屋にあった隠し部屋よりも大きいとは思えない。賞金首は譲ったんだから文句はないだろと入れ違いに屋敷へと駆け込んでいく冒険者ギルドのスタッフたちを見つめた。

 ほどなくして、また屋敷の中より赤い信号弾が打ち上げられた。


「色の違う二度目、鎮也くん何の合図かな?」

「応援要請とかじゃないか、倒した数も多かったし」


 自分たちには関係無いと鎮也たちは水道殿を目指す、透徹の瞬間移動はまだ昼間ということもあり、目立ち騒ぎになるかもしれないからやめてくれとイクスに頼まれた。

 仕方なく鎮也たちは徒歩での移動をする。






「総支部長、青い信号弾が上がり待機していたギルドナイトは一斉に動き出しまた。同時に手配書の配布も開始します」

「そうか、ご苦労」


 イクスが上げた青い信号弾。ウーゴット打倒、全ギルドナイト行動開始の合図である。信号を確認したギルドナイトは自分も青色の信号弾を打ち上げ行動開始の合図を出し、遠方の場所に知らせる。こうすることで誰よりも早く重要度の高い人物からギルドで確保できる仕組みだ。

 一般の冒険者には不平等で申し訳ないがこれも冒険者ギルドのため、窓の外には手配書を見た冒険者たちだろう一斉に飛び出して行く姿が総支部長室から見て取れた。


「これで街の膿はかなり取れるはずだ」


 一つの裏がなくなれば、また別の裏が現れるものだが、ウーゴットの裏の力は大きくなりすぎていた。

 今までが闇に大きくバランスが傾いていたのだ。これでバランスが正常に戻ればやっと落ち着けつと、愛用のカップに秘蔵の酒を注ぎ口に着けようとした瞬間、赤い信号弾が上るのが見えてしまった。


「な、もう向かったのか!?」


 赤色はイクスに万が一鎮也たちが直接水道殿に向かった場合は上げてくれと、念のために渡していた物、まだ水源の魔道具を製作していないことを知っていたカイザンは、まさか赤色が上がるとは無いと考えていた。


「あの人たちは!!」

「総支部長!?」

「後は任せる!」


 サブマスターにギルドを任せ、カイザンは部屋から飛び出して行った。向かう先は水道殿、床には秘蔵の酒が注がれていたカップが絨毯にシミを作りながら転がっている。






 街がいつもよりも騒がしい。

 オークション大会を明日に控えて準備に忙しいのかとも思った鎮也だが、どうやら少し雰囲気が違う。どう見てもフル装備の冒険者たちが街中を駆け回っているのだ。


 魔法のカバンが一杯なので五匹の剣獣をカバンの中に戻せず、そのまま鎮也たちが装備していた。大剣のトロンバトルナードなど街中では浮くかと思えばそうでもなかったのだ。


「クッソ、放しやがれ、オレの後ろには誰が付いてるのか知らねえのか!!」

「誰もいないのは知ってるんだよ、お前たちのボスはもういないんだぜ」

「今まで好き勝手暴れやがって、日ごろの恨みだ、テメェだけは俺たちが保安隊に突き出してやる」


 屋台をなぎ倒し、冒険者数人に取り押さえられる男。


「鎮也くん、これって」

「もうウーゴットのことが知れ渡ってるんだな」

「あの信号弾ですね」


 気が付けばそこら中にギルド発行の手配書が張り出されている。


「この手配書すごい、手配犯の住処から立ち寄り先まで書かれてるよ」


 とても詳しく分かりやすい手配書だ。普通は賞金以外、似顔絵と簡単な身体的特徴しか書かれていないのに、これには事細かく記されていた。これまで追っている側は居場所を見つけてもウーゴットの傘下に入った途端、手出しが出来なくなっていたのであろう、逃げる側もそれが分かっていたから潜伏場所がばれても堂々としていた。


 鎮也たちが水道殿にたどり着くまでに三回ほど捕縛現場を目撃した。


「手回しが早いなカイザン」


 水道殿にはすでに息を切らしたカイザンが待っていた。ウーゴットの屋敷とギルド支部からでは支部の方が近いので遅れて出たカイザンの方が先に到着していた。


「そちらこそまだ早いのでは、水道殿からの解放は水源の魔道具が完成してからの約束のはず、もう完成したのか」

「いいや、まだだけど」

「だったら――」


 だったら約束を守れ、そう言おうとしたカイザンの言葉を最後まで喋らせない。


「でもこれから作るから問題ない」

「これからッ!?」

「水を出すだけの魔道具だろ、それほど難しくない」

「出すだけ……だと」


 言葉にすれば簡単だが、それだけで魔道具が作れるなら誰も苦労はしない。

 鎮也はカイザンの横をすり抜けアリアの元へ。


「待ってくれ」


 我に返ったカイザンが慌てて追いかけてくる。

 約束は守る。街には水源の事で被害は出さない、鎮也にとってこれは仕事の契約と同じ職人として完璧な仕事をして見せると意気込んだ。


 階段を下り、水道殿の中核へ。


 六黒で掛けた幻影の魔法を解除すれば、そこには変わらず氷漬けになっているアリアがいた。


「シズヤ殿、これから作るとはいったい?」

「そのままの意味だ、この場で作るんだよ」


 鎮也は魔法のカバンから金の塊を取り出した。


「これは!?」


 七十年ギルドマスターを務めているカイザンですら見たことも聞いたこともない、巨大過ぎる黄金の玉。


「ウーゴットから返してもらった剣の代金だ、だいぶ少ないらしいけど」

「少ない、か、そうか、確かに少ないなか?」


 あまりの巨大な金の球にカイザンの思考回路が軽く混乱を起こしたようだ。


 鎮也はベルトからミュルニョルを引き抜き金の塊に一撃、打たれた塊は波をうちまたスライムのように柔らかくなる。鎮也はそこに手を差し込み宝石箱の中からマリンブルー色の宝石、アクアマリンを取り出した。


「水系ならやっぱりアクアマリン(これ)だよな」


 今度は魔法のカバンからゴーレムの核を取り出す。


「それは!? そんなのどこでって、あそこしかないか」


 流石はギルドマスター、このゴーレムの核が最新のモノだと知っているようだ。それを鎮也は躊躇うことなくハンマーを振り下ろした。

 たったの一撃で雷光がほとばしり、ゴーレム核が変形する。


「おいー!、それがいくらすると思ってるんだ!!」


 知らないけど聖雷剣よりは価値はないだろう。変形したゴーレム核にアクアマリンをはめ込み、さらにハンマーを振るう。

 細い稲妻が精密機械のように複雑な魔法陣をアクアマリンへ描き刻みこんでいく。


「これが伝説の、聖剣鍛冶師の雷電加工」


 それから数分、水源となる魔道具の心臓部が完成した、あとはこの心臓部を守るためのボディが必要なのだが、最初はゴーレムの装甲の残骸でもと考えていた鎮也だがうっかり持ち運び手段を用意していなかったのであきらめた。だから。


「これでいいよな」


 金の塊からハンマーで金を一掬い、薄く伸ばして心臓部を包み込み、ハンマーを振って固めていくと、アクアマリンの埋め込まれた黄金の杭が出来上がった。


「よし完成」


 鎮也の手には黄金の杭型聖剣が握られている。


「これが水源の魔導具、なんと神々しい、しかしこれは存在がバレたらすぐに盗まれてしまいそうだが」

「その心配はないぞ、跳躍帰還ってスキルを付加しといたから」


 鎮也が鑑定眼を発動させる。


「―――――――――――――――――――

【名称】水源の杭聖剣

【製作者】星尾鎮也

【分類】杭   【レア度】☆☆☆(3)

【長さ】12センチ 【重さ】0.5キロ

【聖剣核】アクアマリン

【スキル】

『無限放水』……水を無限に出し続ける。

『跳躍帰還』……移動させても指定されたポイントに戻ってくる。

【補足】

 アリアを助けるために鎮也が制作した聖剣。刀身が全て金で作られていることから、盗難を恐れスキル『跳躍帰還』を付加した。

――――――――――――――――――――」


「跳躍帰還だと」

「そう、決められた場所に盗まれても自動的に帰ってくる。もちろん場所はあそこを指定した」


 アリアの氷が置かれている場所を差す。


「マスターそれは私が」

「頼んだ」


 鎮也は水源の杭聖剣をレオフィーナに渡す。


「咲耶、力を貸してくれ」

「もちろんだよ、まかせて」


 咲耶の黒い着物が舞い上がり星の輝きを放つと、鎮也の手の中に大太刀となって収まった。

 鎮也は腰を落として居合いの構えを取りアリアと向き合う。


 百二十年前と同じ、鎮也の記憶のままで眠るアリア。手にはちゃんと送るつもりで準備していた二振りの聖雷剣が握られている。


 思い返せば、咲耶とレオフィーナは元の世界からの仲間なので、異世界に渡ってきて最初に仲間になったのはアリアであった。

 攫われて奴隷となった所を救出。レオフィーナが喜ぶお約束展開そのままの出会い。

 それからはメイドとして従者としてよく鎮也たちに尽くしてくれた。

 もう会えないと知った時の絶望は鎮也にとって伯父が居なくなった時と同レベルの衝撃な出来事であった。


「不謹慎だけど、どんな形でもまた会えて嬉しいぞ」


 スキル『神斬撃』発動、このスキルは選んだモノは全てを切断し、選ばなかったモノは絶対に切断しない。


 渾身の踏み込みからの光を越えた閃の一刀。


 桜咲耶の刃はアリアを封じ込めていた氷の水晶をすり抜けた。

 引かれた剣閃の後を追うように、刃が通った道から亀裂が入り水晶全体に広がっていく、咲耶が人の姿へと戻り鎮也の後方へと邪魔をしないように下がっていく。


 亀裂が広がり切った水晶は、次の瞬間、弾けるように砕け封じ込まれていたアリアを解放した。鎮也は両手を広げてアリアを受け止める。


「レオナ」

「了解です」


 水晶が設置されていた場所へレオフィーナが水源の杭聖剣を突き立てて魔力を流し込むと、地下水が逆流したのでは疑いたくなるほどの水を放出した。


「ホントに水がでている。シズヤ殿、この魔道具はいったいどのくらい持つのだ」

「さぁ、定期的に魔力を注げば永久的に持つんじゃないか」

「永久だと、魔力だけでいいとか」


 魔道具とは調整などに技術とお金がかかる物だと思っていたカイザンは魔力を注ぐだけでいいという簡単すぎる方法に改めれ伝説の力を思い知らされていた。


「調整資金が浮いて万々歳だが、ワシの心配はいったい何だったのだ」


 カイザンはその場に座り込んでしまった。災厄水道殿の崩壊までも危惧していたが、それは全くの取り越し苦労でしかなかった。


 放水量が増した水道澱は水しぶきを鎮也たちへと降り掛けてくる。鎮也の腕の中にいるアリアの顔にもかかり、その浜辺のように白い瞼がピクリと動いた。


「アリア」


 アリアの目覚めに気が付いた鎮也が顔を覗き込むと、瞼が開きアクアマリンよりも美しい瞳が目を覚ました。


「これは夢ですか」

「いいや現実だよアリア」

「げんじつ」


 アリアが手を持ち上げ細い指で鎮也の顔に触れる。鎮也の頬にひんやりとしたでも暖かい手のぬくもりが伝わってくる。

 現実だと理解したアリアは真っ直ぐに鎮也を見つめ返して。


「シズヤ様、お帰りなさいませ」


 満面の笑みでのお帰りなさいをしてくれた。

 アリアは鎮也の百二十年振りの生還を喜んでくれた。その笑顔は昔まま、いつも冒険から森の屋敷に帰れば出迎えてくれた笑顔。

 残っていた。

 ここに一つだけ時を超えても変わらないモノが残っていた、それが鎮也にはたまらなく嬉しかった。


「ただいまアリア」


 鎮也は百二十年待ってくれていた少女に『ただいま』を伝えることができた。

これにて一章完結になります。読んでくださった皆様ありがとうございます。

次回は外伝をはさんでから二章へ突入したいと思っています。

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