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第26剣『決戦、後半戦』

 長い耳をくるくる揺らしながら透徹が一枚の壁の前で足を止めお座りをした。


「ここか」


 振り向いて透徹はコクコクと頷く。


「じゃ頼んだ」


 もう一度コクンと頷くと、壁へ向き直り角をわずかに放電させ軽くコツンと壁に当てる、ただそれだけで、今まで壁だったモノが重低音を響かせて横にスライドしていく。


「やっぱり隠し扉かよ、しかも魔導装置で自動化してるし」


 この世界に自動扉があるなど鎮也はしらない、これも飛び越えた百二十年の間に開発されたのだろう。それでも透徹のスキルの一つ『解錠』の前には無力であった。


「よくやった透徹」


 役目を果たした透徹は鎮也の体を登り肩に乗っかてくる。鎮也はその頭を指先で撫でて褒めてやる。透徹はうれしそうに目を細め鼻をヒクヒクとさせた。


「マスター行きましょ」

「ああ」


 残るは二階のみ、一階でも百数十人は確実に倒している。もうウーゴットの配下もそれほど残っていないだろう。

 これまでと違い階段では一度の奇襲もなく登りきることができた。

 二階は廊下にまでふかふかの高そうな絨毯が敷き詰められており、置かれている花瓶や絵画などはどれもこれも高級品なのであろう。

 丹精こめて制作した職人たちはウーゴットの屋敷なんかに飾られてどう思うだろうか、そんなことを考え少しだけ気を緩めてしまった瞬間、鎮也めがけ凶刃が飛んできた。


「マスター!」

「大丈夫」


 鎮也はとっさに桜咲耶の柄で凶刃を防いでいた。

 重たい衝撃によろめいてしまったが怪我はしていない。鎮也目掛けて飛んできた凶刃の正体は、鉄線に連結された刃であった。


「蛇腹の剣」

「へぇ~~、よく防いだじゃねえか」


 蛇腹が伸びてきた先より、どぶとい声が聞こえそこには筋肉質の大男がいた、肌丸出しの上半身にそままショルダーアーマー付けた、まるで剣闘士のようないでたちをしている。

 筋肉男が防がれた蛇腹の剣を手首を返して引き戻すと、分かれていた刃は接続されていき大剣の形となり収まった。


「このブルーガン様の初撃をよ、よく防いだとほめてやるぜ、こりゅあ~なかなか楽しめそうだ」

「ようやくお出ましか」


 鎮也は鑑定眼を発動させた。


「―――――――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル130

【名称】「スネークウェイト(灰色化)」

【和名】「蛇腹剣」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】未登録

【分類】鞭剣    【レア度】☆☆☆★(4-1)

【長さ】120~720センチ 【重さ】2.7キロ

【聖剣核】メノウ(緑とオレンジの混色)

【スキル】

※封印中『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『鞭化』…………剣の属性を残しながら鞭へと変化できる。

『鞭操作』……鞭を自在に扱えるようになる。

【補足】

 鞭シリーズⅠ型。蛇腹剣。刀身を六倍まで伸ばすことができ、鞭操作スキルで鞭未経験者でも使用者の意思どおりに操ることができる。見た目から桜咲耶に『これって聖剣?』シリーズと命名された。

 使い手は未登録であり、現在の所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。

―――――――――――――――――――――――――――――――」


 踏み込んでから初めてお目にかかることができた聖雷剣。

 当たってほしくない予想通り、聖剣にはとても似合わない男が所持していた。

 なのにどうして。


「いい剣だろ、俺の魔剣はよ、俺はこいつに巻きつかれた獲物の悲鳴を聞くのが好きなんだよ~」


 どう贔屓目に判断しても聖雷剣にふさわしい男ではないのに、外見は蛇腹剣とマッチしっているのが鎮也にとってとても腹立たしかった。


「それに今回は女もいるんだろ、なおさら悲鳴を聞くのが楽しみだぜ、ってもう一人の女はどうした、黒髪の女がいただろ、いたぶってやるからさっさと出せよ」


 とことん癪にさわる男である。


「レオナ手出し無用だ、こいつは俺がやる」

「御意」


 レオフィーナは鎮也の気持ちをくみ、従者として素直に主の命に従った。

 鎮也は廊下の中央まで移動して居合の構えを取った。


「おいおい、男をいびるのはあきてるんだ、女を出せよ!」


 先ほどは鎮也のことを面白そうだと語っていたのに、舌の根も乾かぬうちに主張が変化した。


「男はお呼びじゃねぇ!!」


 ブルーガンが再び蛇腹剣(スネークウェイト)を鞭にして鎮也へ攻撃してくる。それを鎮也は桜咲耶を抜くことなく鞘を当てて軌道をずらし、鞘を削ってさらに後ろへと伸びていく蛇腹の剣、本来ならここで電撃を使えば防がれても追加のダメージを与えられる仕組みになっているが、剣に認められていないブルーガンでは使いこなすことはできない。


 鎮也は鞭を受け流した力を利用してクルリと体を一回転させると、鞭をたどるように神速の踏み込みでブルーガンのふところへと潜り込んだ。


「なんだと!」


 慌てて蛇腹剣を引き戻そうとするが、それは遅すぎる行為だ。

 鞘から放たれる刃の方が何倍も速い、ブルーガンには防ぐ手段なし、居合いを無防備で受けたブルーガンは白目をむいて倒れる。


「こいつがお前の探してた女だよ」


 振りぬいた桜咲耶を掲げてブルーガンに見せてやるが、こいつの意識はすでに無くなっていた。






 蛇腹剣を回収した鎮也たちは二階を捜索する。一階とはうってかわり二階ではブルーガン以外と接触することはなかった。手当たり次第に扉をあけ、寝室を見つけたのでベッドをひっくり返しもしたが誰もいない。

 いないはずがない、どこかにウーゴットはいるはずだと、探し回った結果ようやく一つの他とは作りの違う扉を見つけた。


「マスター、ここから人の気配が」


 白兎の透徹も耳を動かし音が聞こえると教えてくれる。


「では、懐かしの対面と行きますか」


 鎮也は扉を開けるのではなく蹴り破った。留め金が外れ扉は室内へと飛んでいく。


 障害がなくなり部屋へと踏み入るとそこは闇の中であった。厚手のカーテンで窓はすべてふさがれ、ロウソク一つない室内は慣れない目には闇そのもの、光源は蹴り破った扉から差し込むささやかな廊下の明かりだけ。


「ずいぶんと派手な登場だな」


 渋めの声が闇の中から聞こえてくる。

 どうにか慣れてきた目に、うっすらと椅子に座る男のシルエットだけが捉えられた。


「ウーゴットか」

「…………やはり、お前だったか、百二十年ぶりだな」

「ああ、会いたかっぜ」

「こっちは会いたくもなかったぞ」

「ずいぶん強気の発言するじゃないか、昔は年下の俺にヘコヘコしながら敬語で話してたのに、なぁ舌先のウーゴット」


 舌先のウーゴット、それは昔、嘘八白を並べ立てるだけで、自分一人では何もできない悪党ウーゴットを馬鹿にした盗人たちが付けた通り名である。


「どれだけ時間が過ぎたと思っている。オレとて成長するさ、今じゃ帝国では俺の名を知らない者はいない」

「へ~そうなんだ知らなかった、でも、それだって俺から盗んだもので作った偽りの成長だろ」

「オレは盗賊だ、盗むのが仕事、盗んだ物をどうしたってオレの力だ」


 座っていた影ゆらりと立ち上がる。鎮也の挑発にウーゴットは徐々に感情をあらわにしてきた。


「そうかい、でも盗賊なら討伐者がやってきて最後にはやられるんだぜ、今がそうだ、盗んだ物を返して俺に討伐されろ」


 桜咲夜を鞘から抜き戦闘態勢を取る。


「わかった、俺とて帝国と戦争したあんたの力は知っている。罠も全てやぶられた大蛇までやられては降参するしかあるまい」

「大蛇?」


 ここにくるまで蛇となど戦闘をしていない、鎮也が首をかしげる。


「マスター、蛇腹剣を持っていた大男では」

「そうだ、あいつは百人殺し大蛇のブルーガンだ、防衛の指揮を取れと言ったのに一人で遊びおった、あやつが指揮をとっていれば」


 やる気をだせば部隊指揮すらできる男であったようだ。鎮也は知らないがかつては傭兵部隊の隊長にもと考えられた男、しかし性格に難があったため候補の段階で落選していた。


「あいつって通り名がつくほど強かったのか!?」


 他の相手と同じく一撃で倒していたので鎮也にとっては聖雷剣を持っていた男という以外の印象はなかった。


「あいかわらず理不尽な強さだ、百二十年の魔導技術もあんたには通用しないか、本当に降参だ、剣を返そう」

「だったら最初から盗むなよ」


 影がゆっくりと鎮也たちに近づいてくる。次の瞬間、廊下の明かりも消え完全な闇が襲ってきた。それと同時に今まで感じなかった複数に気配が鎮也たちへ襲いかかる。


 降参を偽装し油断を誘ってから視界を奪って奇襲、なかなか見事な作戦ではあったが、鎮也側には自前で光を放てる存在がいる。


「ハアァァァー!」


 陽翼剣オジロから伸びる光剣が室内を照らし出し、襲いくる黒ずくめたちも浮かび上がらせた。さしずめウーゴットお抱えの暗殺部隊だろう。

 暗殺部隊とレオフィーナの激突。

 闇に走る光の剣閃、鎮也に迫る悪意をレオフィーナは髪の毛一本たりとも通すことを許さなかった。襲撃者は誰一人として鎮也まで届かずにレオフィーナによって撃ち返された。


「今のが最後の罠なのか、ウーゴット」


 レオフィーナが光剣を突き付けると、発する光でウーゴットの顔が照らし出す。

 まさかご自慢の暗殺部隊がやられるなど信じられないといった顔をしていた、だがまだ絶望はしていなかった。まだ隠し玉があるのだろう。

 隠し玉を考え以前にウーゴットの手下と戦闘になったことを思い出す。あれはリーザを救出した元豪商の屋敷の時に。


「いや、そうだった」


 鎮也はわずかな殺気を感じた。

 以前に一度だけ同じモノを感じたことがる。


「そこだ」


 鎮也が何もない空間を指させば肩に乗っていた透徹が大ジャンプ、示した空間にその角を突き立てた。


「これがホントに最後の罠か」

「……なぜ、わかった」


 透徹が角を突きたてた空間から、苦痛のうめきが聞こえ、顔を包帯で隠したローブ姿の男が現れた。


「お前とは一度、元豪商の屋敷で会ってるだろ、タネが分かってれば簡単に発見できるぞ」


 豪商の屋敷で襲ってきた姿なき襲撃者の正体、アレイが持っていた短剣を奪って姿を消したもの者。これがウーゴットの部屋にずっと息をひそめて隠れていた。

 見た目だけではなく、気配も音も匂いもほとんど消していた。暗殺者としては最高に相性の良いスキルであっただろう、しかし襲撃者本人は隠せても鎮也が展開した鑑定眼にはしっかりと写っていた。


「―――――――――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル281

【名称】「スケルトダイン(灰色化)」

【和名】「無音透明」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】未登録

【分類】細剣    【レア度】☆☆☆☆★(5-1)

【長さ】100センチ  【重さ】1.4キロ

【聖剣核】トルマリン

【スキル】

※封印中『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)

『姿隠し』…………空間に溶け込み使い手の姿を消す。

『無音』……………使い手の出す音を消す。

『無臭』……………使い手の出す匂いを消す。

【補足】

 幻覚系細剣。姿を隠し無音無臭で相手に忍び寄る。暗殺に特化した剣。咲耶に『これって魔剣じゃないの』シリーズとも呼ばれている。

 使い手は未登録であり、現在の所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。

―――――――――――――――――――――――――」


 それに、剣自体が使い手を認めていなかったため、スキルの精度がさがり完全な姿隠しではなくなっていた。


 透徹は無音透明を口でくわえ奪い取ると、体を回転させ回し蹴りを叩きこみ壁まで吹き飛ばした。見た目はただの一角兎でも聖獣である透徹は蹴りで人間を飛ばすくらいの脚力は持っている。


「チィ!」


 本当に罠が無くなったのだろう。ウーゴットが窓へめがけて走りだした。


「逃がすか」


 鎮也はウーゴットの進路を塞ぐように桜咲耶を投げ壁に突き刺した。進路を刃に塞がれたウーゴットが尻もちをつく。


「ここまできて逃げられると思ってるのか」

「思っているさ、このまま俺を逃がした方が被害が少なくて済むと思うぞ」


 ウーゴットが懐に手を伸ばし何かを掴んだ。


「それに俺は逃げたんじゃない、あいつに巻き込まれないように端によっただけだ!」


 鎮也に見せつけるように懐から灰色の短剣を引き抜く、それはアレイが持っていた短剣であった。ウーゴットが大量の配下を動員して取り戻した代物、ヤツにとって正真正銘最後の切り札なのだろう。


「こい、餌の時間だ」


 短剣に埋め込まれたガーネット石が赤い光を放つと、天井を突き破り一匹のドラゴンが乱入してきた。


 すべてを噛み砕く鋭い牙、天井を突き破ってもかすり傷すらつかない強靭な鱗、これが全種族の中で最強と称えられるドラゴン。


「そいつらを食らえ!!」


 でもドラゴンと言ってもピンからキリまである。すべてが最強なわけでは無い。

 こいつがカイザンが話していた高ランクの冒険者がいない時だけ襲撃してくる姑息なドラゴンで間違いないだろう。


「なんだ、街を恐怖に落とし入れるドラゴンって話だったのに、想像よりも小さいな」


 天井の瓦礫が降る中、鎮也はドラゴンに怯えることも無くたんたんと感想を述べる。そしてその手にはいつのまにか『竜にして竜殺し』の異名を持つ竜王剣レオフィーナが握られていた。


「ウーゴットごときに尻尾を振るドラゴン擬きが、いっちょ前にドラゴンぶるなよ!」


 天へと向けてレオフィーナを振り下ろす。

 その剣風は落下する瓦礫を吹き飛ばし、その太刀筋は空の雲を左右に割り、その斬撃はドラゴンを両断した。

後半戦終了。次回は若干の延長戦になります。

これまでに回収した剣512/5

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