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第24剣『決戦、前半戦』

「野次馬が来るかと思ったけど、見事に誰もいないな~」


 レフティア中央部。富豪たちの豪邸が立ち並ぶ道はよく晴れた天気だというのに閑散としていた。別にゴーストタウンと言うわけでは無く。みんな嵐を避けるように家の中に閉じこもっている。


「それはそうですよ、誰も好き好んでハリケーンに飛び込みたいとは思いません」


 鎮也の感想にギルドナイトのイクスが突っ込みを入れる。


「ハリケーンみたいに周囲には被害はださないよ」

「その通り私たちは無差別な破壊を好まない、どちらかと言えば落雷だな、とても強烈な、落ちた地点だけを完全に破壊する」

「は、ははは、それは、よかった」


 イクスは決戦前だというのに大汗をかいていた。

 鎮也、咲耶、レオフィーナとイクスを加えた四人はウーゴットの屋敷を目指して中央部の大通りを普通に歩いていた。


 イクスが同行しているのは、昨日咲耶とカイザンが計画をすり合わせた結果、後始末を迅速に行えるようにとギルドからも人員を出すことになり、鎮也たちと面識もあるイクスに白羽の矢が立った。


「それで作戦はどのような?」

「作戦か、とりあえず広い庭一杯に待ち構えてるから、大き目の魔法を打ち込んで数を減らしてから突入かな」


 大勢を相手にするには先制の広範囲攻撃が一番である。


「マスターそれなら私が横薙ぎの火炎放射で燃やしますか」

「私が地割れおこしてもいいよ」


 鎮也と同じくアリアの事実を知った二人のお嬢様も手加減する気などまったくない。完膚なきまでに壊滅させる気まんまん。


「できれば近隣家屋に被害が出ないようにお願いします」

「安心して大丈夫だ、関係無い人たちを巻き込まないよ、レオナの炎は任意で焼くモノを選択できるし」


 できるけど敷地内に除外するものが有るとは思えないが。


「咲耶の地割れも地震を発生させないから周囲に被害は出ない」


 地震を発生させないこともできるけど、逆に発生させることもできる。


「それはよかった」


 もうそれしか答える単語が出てこないイクス。

 近隣の被害、そのあたりのことは鎮也たちもちゃんと考えている。そのことも踏まえ屋敷にいる連中を一人も逃さないように隔離するつもりだ。


「で、火炎も地割れも固有のスキルなのですか」

「いや、どっちかって分類するなら魔法になるか」


 正確にはスキルで習得している魔法である。


「でしたら、その方法は難しいかもしれません、ウーゴットの屋敷には帝都から取り寄せた、最新で高性能の対魔法結界が設置されたという噂があります。敷地内では一切の魔法が使用不能だとか」

「ああ、そう言えばそんなのが今は発達してるんだっけ」


 対魔法結界。結界内で魔法の使用を制限する魔道具。発達した魔導技術により生まれた道具で、これにより魔法技術が衰退したそうだ。


「だったら、魔法は使わずに正面から突撃で」

「「了解」」


 咲耶とレオフィーナは声を揃えて承諾。イクスだけが顎を外すほどに驚愕をした。


「正面から突撃って、こっちは四人しかいないんですよ!!」

「大丈夫だよ、それにイクスは後始末のための同行だってのは分かってるから、戦闘には参加しなくていいですよ」


 簡単にたった三人で三百人以上が待つ裏組織の本部を踏み込むと宣言する。戦力がこちらの百倍以上だろうが臆する理由はない、少しでも早くウーゴットとのケリをつけてアリアを迎えに行く、鎮也の頭の中はそれだけだった。




 そうこうしている内に屋敷の前に到着する。


 門には数十人の門番がいたが、目があった瞬間に屋敷の見張りをしていた六黒が門番すべてを影で覆い隠し、同時に踏み込んだ鎮也たちがイクスが瞬きを一度する間に倒しきった。

 あまりの早技と、六黒の影魔法のサポートで音などは一切出ず、門の中にはまだ襲撃が始まったと伝わらない。


「やっぱり、装備している武具は程度の低いモノばかりだ」


 聖雷剣どころか、安価の魔剣すら装備していない。


「ではマスター、作戦通りにまずは私から」

「おう、よろしくなレオナ」


 ただ突撃といっても作戦は考えている鎮也たち、しかし長年共に行動している三人は話し合わなくても自分の役割を把握しているが、それを知らないイクスにはまったくの考えなしに突っ込むように見えてしまっている。


 陽翼剣オジロから光刃を伸ばしたレオフィーナが光魔法を発動させる。


「サンクチャリドーム」


 イクスから聞いた対魔法結界がどの程度の性能かは分からないが、レオフィーナが使ったのは広範囲の防衛結界魔法であり別名聖域魔法、それを対魔法結界のさらに外側、屋敷全体を包み込む形で展開した。


「これは、失われた高位結界魔法、光の聖域を形成して何者の侵入も許さない」

「それだけじゃないぜ、これは外からの侵入を防ぐだけじゃなく、中からの脱出も防いでくれるんだ」

「え?」


 過去でも使い手が少なかったので知られていなかったが、この聖域を作り出す結界は、侵入だけでなく脱出も不可能、その境界線を許可なく越えることを絶対に許さない。だからこそ聖域結界と名が付いている。


「つまりは、光の檻ってことだ、これなら外に被害は絶対に出ないだろ」

「そうですね、少なくとも私には突破できそうにありません」


 施された結界にふれないようギリギリまで近づいたイクスがそうこぼす。


「さぁ準備は整った、奪われたモノを返してもらいに行きますか」


 魔法のカバンから突撃剣トロンバトルナードを抜く。レオフィーナが結界を操作して門の部分だけを解除した。

 この一撃が決戦開始ののろしだ。


「『粉砕』!!」


 スキルを発動させ門へ強烈な突きを打ち込んだ。


 豪快な衝撃音を響かせ、鉄製の門は飴細工のように砕け散りった。

 砕けた門の向こうにはウーゴットの配下が溢れかえっている。

 最大警戒されている中での襲撃、相手も準備万端に待ち構えていた。


「テメェらが、予告してきたバカどもか」

「俺たちに戦争しかけるとかどこの田舎もんだよ」


 傭兵崩れの男たちが使いこまれた武器を携え近づいてくる。圧倒的な数差、門を破壊する力を見せつけても怯む様子はない。

 そんな彼らに鎮也はトロンバトルナードを地面に叩きつけ口上を述べる。


「我らは冒険団『七星剣』。お前らに奪われた百二十年、すべて返してもらいに参上した。我らが怒り、その身で受けたい者からかかってこい!!」


 鎮也の口上と共に神速で踏み込んだ咲耶がヤマトをきらめかせ傭兵崩れをなぎ倒す。


「降伏は聞かない、これまでしでかした悪事を反省しながら大地に沈め」


 咲耶は最初から全快だ。

 敵兵の群れに躊躇することなく斬り込んだ。

 舞姫の二つ名の通り、群がる男の攻撃を舞うように潜り抜け、すれ違った男たちがいつ斬られたかもわかれず地面に沈んでいく。

 きらめく刀は三日月のごとし、夜の闇は無謀で愚かな者に優しくはない。


「レオナ、結界を閉じてくれ」

「了解」


 レオフィーナは四人が門をくぐると聖域結界を完全に閉ざす。これでレオフィーナの許可なくこの屋敷から出られる者は誰一人いなくなった。


「ではマスター私も参加します」

「おう、存分に暴れてきな」

「御意」


 光剣を携えレオフィーナも突撃する。


「さあ、お約束の時間だ、群がる悪の雑兵は一撃のもとに光となれ」


 一振りすれば相対した相手の武器を破壊して、二振りすれば三人ほどが吹き飛び、三度振り抜けば七人ほどが飛んでいく。光刃を相手に防御は不可能、剣の間合いに入ればそれは敗北を意味する。

 それはまるで太陽、近づきすぎた者は、その熱で身を滅ぼす。


「イクスさんは適当に隠れていてください」

「わかりました。巻き込まれそうですからね」


 イクスは素直に手ごろな岩影に身を隠してくれた。


「さて、俺も暴れるか」


 突き刺したトロンバトルナードを地面から引き抜くと、咲耶を回り込んだ男たちが襲いかかってくる。

 突撃剣の名の通り、突きを主体とするトロンバトルナード、目標を一番頑丈そうな盾を持った男に決めると迷うことなくそこを突く。

 ただでさえ大剣であるトロンバトルナード、一度使えば大きな隙ができる。盾で受け止めた隙に周囲の男たちが一斉に襲いかかろうとしたが。

 盾は受け止めるができずに砕け装備していた男は突きの勢いで周囲を巻き込み後ろへと吹き飛んでいく。


「距離を取れ、投石だ!」


 接近戦では三人に傷すら負わすことができないと、全身に鎧を着こんだ指揮官らしき男が投石を命じる。

 間合いに入らなければいい、命令を聞き逃げる男ども、だが動きは三人の方が早い、重装備の者たちから追いつき斬り伏せる。

 特にトロンバトルナードとオジロ、この二本を相手にするには動きを鈍らせる重装備などハンデにしかならない。


 それでも数だけはいる。

 離れた者がクロスボウや大砲型の魔道投石機を使い遠距離攻撃をしてきた。

 対魔法結界内では魔法は使えないのに、魔道具は使えるようだ。


「咲耶、離れ過ぎだ!」

「ごめん、少し進行を緩めるね」


 先行した咲耶に攻撃が集中するが、戻るとは言わない。

 飛来する矢や石弾を、居合いからの連続した斬撃ですべて切り落としていく。


「むちゃくちゃすぎでしょ!!」


 叫んだのは多分、相手の指揮官ではなく後方にいるイクス。


「マスター!」

「はいよ」


 飛び道具が出てきたからって、鎮也たちが後退するほどの脅威ではない。

 トロンバトルナードの上にレオフィーナが飛び乗り、鎮也がそれをフルスイングして打ち出した。向かう先は投石機、光剣をかざし打ち出された石弾ごと発射台を両断する。


「怯むな、投石機はまだあるんだ!」

「無駄です」


 レオフィーナを囲む投石機は三台、その全てが照準を合わせてくるが、レオフィーナは光刃を伸ばして真横に円を描くように振る抜くき、三台まとめて鉄くずへ変えた。


「光の剣に長さの限界はない」


 そして投石機を斬った刃は、指揮官の兜にも届いており、天辺を切り落としていた。見事にツルツルのお皿が出来上がっている。


「く、くそぉが!! クロスボウ隊並べ、一斉射だ! あそこを狙え!!」


 意味のなくなった兜を脱ぎ捨て、ハゲになった指揮官が命令を出すのだが、その命令がアバウトすぎて矢の飛ぶ方向が定まらない。あそことはどこなのだ。ハゲた頭を押さえているので分からないだろう。


「アイツが指揮役か」


 レオフィーナのおかげで指揮官にとても目立つ印ができた。

 鎮也は六黒を取り出し、先に指揮官を潰そうと思ったが、あの無能な指揮なら、残しておいた方が敵は混乱すると判断して近くにいる敵から確実に倒していく。


 庭にいた傭兵崩れたちはあらかた片付けた。残るはハゲ指揮官と鎮也たちの強さに恐れをなし逃げようとした半端者だけ、屋敷の塀を乗り越えて逃げようとしているが、光の壁に閉ざされて逃走できないでいる。


「魔法が使えないのは不便だな」

「私も、多数を同時に相手にする技って少なし」

「私は手加減が難しい、本気を出すと結界を突き破って近隣に被害が出る」


 剣の使い手であると自負のある三人はこれまで極力剣技で乗り切ろうとだが、やはり大勢を相手にした時、魔法の便利さは痛快させられる。

 魔法が使えれば一瞬で方が付くのにと。

 この時の三人の後方で聞いていたイクスが、後日カイザンに提出したレポートに『剣技だけで、それも息も切らすことなく百以上を倒しといて、何のたまわってるんですか』と愚痴が添えられていた。


「魔法が廃れた原因がよくわかった」

「ホントに使えないのかな、アースバリィ」


 咲耶は試しにヤマトを地面に差して地割れの魔法を唱えると、地割れが発生、割れ目が伸びていきハゲ指揮官が片足を取られて倒れ込む。威力としては落とし穴程度、人を落とすほどの大きな地割れはできなかった。


「できちゃった」

「できたね」


 できない筈の対魔法結界内で魔法は使えた。


「しかしサクヤ、この魔法はもっと威力のあるものではなかったか?」

「感覚からして上級魔法が下級魔法程度の威力に落とされるみたい」

「なるほど、ゲイルブラスト」


 風魔法のスキルを持つトロンバトルナードを使って強風を発生させる魔法を使ったら、ちょっと人がよろめくくらいの風が起こせた。

 このことも、イクスのレポートには記載されていた『総支部長、対魔法結界の中でも上級魔法なら使えるらしいですよ、でも、私も一つだけ使える上級魔法を試してみましたが、ダメでした、どうしてでしょう、あはは』とレポートが進むにつれて、言葉の選び方も雑になり、文字もだんだん歪んで読みにくくなっていったが、そのことでカイザンがイクスを叱ることはなく特別に休暇が与えられたらしい。


「遊びやがって、おい、アレを機動させろ!」


 地割れから足を引き抜いたハゲ指揮官が後方へ命令を出すと、庭に置かれていた倉庫からゴーレムが姿を現した、その数三体。


「まさか、たった三人を相手にコレを使うことになろうとは」

「最初から使えばよかったのに」

「うるさい!!」


 ハゲ指揮官が逆ギレ。きっと庭に構成員を多く配置しすぎて出すスペースが無かったんだろう。

 鎮也が鑑定眼を発動させる。


「――――――――――――――――

【名称】帝国製バトルゴーレム・メイン

【製作者】グノリス・ロパライト

【分類】戦闘ゴーレム【レア度】☆☆☆(3)

【全長】250センチ 【重さ】3.5トン

【魔導核】帝国製ゴーレム核m8

【スキル】

『硬化』…………ボディの硬度を上げる。

『オート戦闘』…単純な命令で戦闘できる。

【補足】

 帝国で評判のゴーレム職人が今年開発された最新のゴーレム核を用いて製作された。ボディ表面には対魔法コーティングが施されている。魔導回路が搭載されており、戦闘中でも登録者の命令で行動を変えられる。

―――――――――――――――――」


「最新型か、いい素材発見」


 ハゲた指揮官は切り札のつもりで出したようだが、鑑定眼を発動させた鎮也には、探していた素材にしか映らなかった。


「咲耶、レオナ。一人一体担当だ。核は使えそうだから壊さないように確保」

「まかせて」

「また手加減、気をつけます」




 最新のゴーレムを前に余裕の三人をギルドナイトのイクスはもう驚くことはしなかった。対魔法結界の中で魔法を使う時点でもう開き直っていた、驚くことに疲れてしまったのだ。

 隠れることもやめている。イクスはカイザンの指示にしたがい倒れている傭兵崩れどもの中から賞金首がいないかをリスト片手に探し回っていた。


「あ、発見、こいつは賞金がかかってるな」

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