表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/109

第23剣『決戦前日の、襲撃予報』

 交易都市レフティア最大のイベント、オークション大会を二日後に控えた朝。レフティア冒険者ギルド総合支部長室では、ギルドマスターであるカイザンが徹夜で働いていた。

 明日にウーゴット組織の壊滅が決定したのだ。レフティアへの被害が出ないようにするのは当たり前であるが、せっかく掴んだ情報である。これを最大限に生かさずしてどうする。


 残念なことにこのレフティアの街には帝国中からやってきた多くの賞金首などが潜んでいる。みんなウーゴットの庇護下に入り、保安隊などの追跡から逃れているのだ。

 こいつらはウーゴットの直接の配下ではなく、献上金を払って守ってもらっているだけ、組織が壊滅すれば即座にこの街から姿を消すだろう。だが、こいつらを冒険者たちが捕らえることができれば報酬は冒険者のモノ、それをギルドナイトが討伐したとなれば、支部にも資金が流れ込んでくる。


 カイザンはすでに直属のギルドナイト全てに潜伏中の賞金首の情報は伝えてあるし、組織が崩壊した瞬間に居場所付きの手配書を大々的に配布する準備も着々と進めている。

 街道の関所への検問手配も昨晩の内に済み。


「このカイザン、だてに七十年もギルドマスターをしてはおらん。経験ならワシの方が上だぞシズヤ殿」


 速さが勝敗を左右する。鎮也たちがウーゴットを倒して喜んでいるうちに、組織がため込んだ財産をカイザンは全て確保するつもりでいた。

 ギルドナイト諸君には重労働を強いるが、賞金首の捕縛が終われば、そこから本命の仕事が残っている。


「捕縛は奇襲が成功すれば夜までには方がつくはず」


 カイザンは鍵付きの引き出しから一枚の地図を取り出した。レフティア近郊の地形が詳細に書かれた地図であり一般には出回っていない貴重な品。その地図にはレフティアの東側にある山に一つだけバツ印が書き加えられていた。


「さすがのシズヤ殿でもこの情報は掴んでいまい」


 ウーゴットがため込んだ、組織の隠し財宝を収めた地点。

 カイザンはそこを深夜のうちにすべて接収してしようと考えている。膨大な量があるはずだから一晩で運び出すのは不可能、だがこの場所をギルド管轄の砦を築いて誰も近づけなくさせれば、後は時期を見て少しずつ運びだせばいい。

 これで資金不足は、いや、かつてないほどの資金が手に入るであろう。


「後の準備は」


 一般の冒険者、それも高ランクの冒険者集団をできるだけ街の中に引きとめておく必要がある。

 理由が説明できないため、高額の依頼などはあらかじめ引っ込めてしまった方がいいだろう。スタッフたちにも足止めを指示しておかないと。


「総支部長ッ!!」


 サブマスターの女性が慌てたようすでカイザンの元へやってきた。


「君か、ちょうどいいことに、依頼の掲示なのだが」


 徹夜で仕事をしていた、それも全力で行っていて精神をすり潰していたカイザンはサブマスターの焦った表情に気がつかなかった。


「それどころではありません、七星剣の方たちが!!」


 七聖剣の名を聞いてカイザンの頭が覚醒する。

 サブマスターの慌てよう、まさか、まさか。


「まさか、もう殴り込んだのか!」


 早すぎる。このままではカイザンの念密な計画が崩壊してしまう。


「いえ、それはまだです」


 まだと聞いてほっとするカイザン、計画はまだ死んではいなかった。


「ですが、ですね」


 言いずらそうに口ごもるサブマスター、カイザンも七星剣の名前がでて小事だとは考えない。


「はっきり言え、もうそう簡単なことでは驚かん」

「……では、七星剣がウーゴット商会に対して襲撃予告を出しました」

「なッ!!」


 驚かないと言ったのはあくまでも簡単なことであって、これは簡単で収まるレベルの話ではなかった。

 目まいがしたのか、カイザンの前の空間が歪んで見えた。

 だがそれは目まいではなく瞬間移動して現れた黒髪の少女であった。


「失礼しますカイザン」


 何もない空間から咲耶が総支部長室へ登場。腰の帯にはいつもの海軍刀ヤマトではなく大十手・透徹が差さっていた。


「これが瞬間移動か」

「突然でごめんなさい、でも周りに知られずにあなたに合うにはこれが一番の方法でしょ」

「確かにそうだな、配慮に感謝する」


 カイザンも今はできるだけ目立つ行動はしたくない、ただでさえ昨日の決闘騒動で目立っている咲耶を二日連続で総支部長室に呼ぶのは騒ぎにしかならないだろう。


「それで、今日はいったい何の用ですかな、準備で忙しいのだろ、それにウーゴットに襲撃予告まで出したと聞いたぞ」

「明日の計画について詳細を伝えようと思って、その方がカイザンも動きやすいでしょ」

「うッ」


 バレてる。カイザンは確信した。裏でいろいろ動いていることがすでにバレている。相手は嘘を見抜く咲耶。下手な誤魔化しは通用しない。


「……よくお分かりで」

「ギルドや街を守るための行動だと理解しています。それについてはこちらも騒ぎを黙認してもらうので、口を出したりはしませんよ」

「そ、そうか」

(黙認するなど一度もいっとらん!!)


 咲耶は嘘を見抜けても心の声が聞こえるわけではない。


「ではまず、どうして私たちが襲撃予告を出したかを説明するね」


 笑顔で襲撃予告とか言わないで、カイザン心の叫び。


 カイザンは思い出した百二十年前のことを、鎮也たち七星剣は悪意を持ち敵対したモノには容赦はしない、相手が皇帝であろうと徹底的に叩きのめす冒険団であった。


(ウーゴットめ、なんて怪物たちを怒らしてくれたんだ!!)


 鬱憤をすべて込め、カイザンはウーゴットへ呪いの言葉を心の中で繰り返し唱えた。





 襲撃予告。鎮也たちが堂々と名乗ったわけではない。ただ明日、ウーゴットの屋敷を何者かが襲撃すると予想できる出来事をウーゴットの部下たちに仕掛けているのだ。


「いいかみんな、聞いてくれ、俺はウーゴット商会の人間だった。だが俺は今日限りでそこをやめる。それは何故か、それは人として許せないことをウーゴットの野郎がしてやがったからだ」


 一人の男がオークションの準備で多くの人が集まる広場で突然演説を始めた。


「ウーゴットの野郎が水源を支配して調整料と称して大金をせしめているのはみんなも知っての通りだが、野郎の調整なんて実は必要なかったんだ、その証拠がここにある!」


 男は小さな箱型の魔道具を取り出し、広場にいる人たちへと見せる。


「この中の商人で鑑定ができる者はいないか、これを鑑定してみてくれ」

「俺ができるぜ」


 名乗りでたのは一人の若い行商人風の男性。

 行商人の若者が男から箱を受け取り鑑定のスキルを使う。この若者の鑑定スキルは鎮也をSとするならCかBくらいであろう。したがって見える鑑定結果は。


「――――――――――――――――

【名称】吸水の箱

【レア度】☆☆☆

【スキル】『吸水』…………湖ほどの水を吸収できる。

―――――――――――――――――」


とこんなところだ。


「これは吸水の箱って魔道具だ、効果は湖くらいの水を吸収すること」

「その通り、この箱をウーゴットの野郎は水道澱に仕掛けていやがったんだ!」


 この演説はオークションのために他の街からやってきた者たちにはそれほど効果はなかったが、レフティアの住民たちの反応は違った。住民たちは街の税が水道澱調整のためにウーゴットへ高額の報酬が支払われることを知っているのだから。


 だが怒りの表情は浮かべても、声高に文句を口にする者はいない。皆ウーゴットの報復を恐れているから。

 演説をする男もそれは分かっていると、もう一度広場の注目を自分に集めさせる。


「安心しろみんな、ある人が俺にいってくれたんだ、明日みんなが怯える問題をすべて解決してくれると」


 男は指を差した。その先にはウーゴットの屋敷がある。


「その証拠に明日にはあそこに住まう害獣をすべて退治してくれるそうだ」


 近くにいた年配の女性が悲鳴をあげた。それはこの街では言ってはいけない最大のタブーであった。あの建物の持ち主を害獣などと表現して明日まで生き残れるかもわからない。

 広場を警備していた保安隊もこれ以上はまずいと演説男を取り押さえ連行していく。


「いいか、明日だぞ、明日にはあいつの天下は終わりだ!!」


 連行されながらも男は叫び続けた。


 その姿を鎮也は路地の影から眺めていた。


「うまく行ってるな」


 何故ウーゴット配下のゴロツキが突然ボスを裏切るように演説を始めたのか、それは鎮也たちが仕組んだことである。


 レフティアのちょっと治安の悪い地域、まっとうな住民が立ち寄らない地区を咲耶とレオフィーナというきれいどころを連れて歩けば、向こうから勝手に絡んでくる。

 それを返り討ちにして、昨日掴んだ水道澱のカラクリを演説で住民に説明しろと暗示をかけ、さらに明日には屋敷を襲撃するという予告紛いなモノも言いふらせと指示をしていた。


 演説はこれで四回目。そろそろ効果があるころだと鎮也は睨んでいる。






「ボス、指示通り街中の配下を呼び寄せましたが、本当にここまでする必要がありますかね」


 ウーゴットの屋敷の執務室。

 そこにはボスである初老の男であるウーゴットと高級な服がとても似合わない筋肉質の大男、そして顔中に包帯をまいたローブの小男の三人がいた。


「ブルーガン、ボスの指示は絶対だ」


 庭に集まった男たちをまるで無駄なことをしているといったニュアンスを出す大男ブウーガンに包帯男がしゃがれた声で叱責する。


「わかってるよ、俺たちを挑発してるバカがいるんだろ。それも明日にはここに攻めてくるって予告までしてるそうじゃないか」


 ニヤニヤが止まらないブルーガン。頭の中ではどうやってバカどもをいたぶろうかと考えているに違いない。


「油断するのはお前の悪い癖だ、ナグルトもゾイトイもそれでやられたようなもの」

「そいつはあの二人が弱かっただけだ、魔剣を貰って調子に乗ったんだろうよ」

「魔剣ではなく聖剣だ」

「どっちでもいいだろ、細かすぎるぞバルバ、第一、このオレ様に聖剣なんてなよっちい剣はにやわねぇ、魔剣って呼び方の方がしっくりくるだろ」


 ブルーガンはバルバに腰差した大剣を叩いてみせる。緑とオレンジが混ざり合った宝石がはめ込まれた灰色の体験、確かにガラの悪いブルーガンが持っていればとても禍々しく見えてしまう。


「これが聖剣に見えるかよ、この迫力まさに魔剣だぜ、ダハハ~」

「うるせえぞ、オレはお前たちのケンカを見るために呼んだんじゃね」

「すみませんボス」

「すまねぇなボス」


 ボスであるウーゴットの一括で押し黙る二人、軽口を叩いていたブルーガンもボスの命令には一応従う。


「人数を集めたのは念のためだ、挑発してきた連中がナグルトたちを倒したやつらなら、もしかしたら特殊な剣を装備している可能性がある」


 聖剣使いを二人も倒したのだ、相手も聖剣を持っているに違いない。それにウーゴットには襲撃予告を出してきた人物に心当たりがあった。だが同時にそんなことはありえないとも知っていた。

 だから可能性が一番高いのは、伝説をマネした正義気取りのバカどもが、たまたま聖剣を手に入れて調子に乗っていること。


「なるほど、だから人数を集めたのですか」


 しゃがれ声のバルバがボスの考えを理解し頷く。


「どういう意味だ」


 一人ブルーガンだけが理解できていない。


「お前も聖剣使いであればわかるだろ、剣の能力を使えば著しく体力を消耗する」

「当然知ってるぜ、まぁオレ様にかかれば能力の連発もできるがな」

「それでも使用回数には限りがある。そういう手合いには数で押すのがもっとも有効」


 どんなに強力な武器を持とうと、いや、強力なら強力すぎるほど、使い手の体力は消耗させられる。

 屋敷に集まった組織の構成員は三百人以上、その半分を庭に配置すれば、屋敷に辿り着く前に力尽きるだろ。


「なんだよ、それじゃオレ様の出番は無しってことじゃねぇか、俺も庭に行っていいか」

「ダメだ、万が一ということもある、ブルーガンお前は屋敷内で警備の指揮を取れ」

「あ~あ、わかりやしたよボス」


 ブルーガンはやる気をなくした態度で執務室から出て行った。


「ボス、あの男は危険です」

「あれで戦場に出れば無敗の男だからな、うまく使えば戦力になる」


 傭兵崩れのブルーガン。傭兵たちの間では大蛇のブルーガンと呼ばれている。とある戦争に参加した時は群がる敵兵百人を相手に一人で叩き伏せた逸話もある。ブルーガンの振るう大剣は相手の防御を悉く無にする。盾だろうが鎧だろうが、砦の壁だろうが、その大剣で斬りつけられた物体は問答無用で破壊される。


「念のためだ、庭にはあれも配備しておけ」

「そこまでする必要がありますか」

「相手が聖剣使いだった場合、テストには丁度いいだろ」

「は、了解しました」


 バルバはウーゴットへ深く頭を下げると、お湯に落とした氷のように空間に溶け込むがごとく執務室から姿を消した。


 ウーゴットは懐にしまわれた二本の短剣を確認する。


「あれから百二十年、魔導技術は飛躍的に進歩した、もし本物だったとしても、もうあんたの時代じゃない」


 太陽はもう完全に昇っているだが、ウーゴットが部屋のカーテンを開けることはなかった。






 街での細工を終えた鎮也がウーゴットの屋敷を見張っていたレオフィーナと合流する。


「どんな感じだ?」

「マスターの計画通りになりました。ウーゴットの屋敷に街中からガラの悪い男たちが集まってきています」


 鎮也の計画。それはウーゴットと一緒に組織の構成員も残らずぶっつぶす作戦。


 聖剣使いの幹部二人が倒されているのだ、このタイミングで襲撃を仕掛けると予告を出せば配下を屋敷に呼び寄せると考えた。作戦は見事に的中、ウーゴットの配下が続々と集結していく。


「数はおよそ三百と言ったところでしょうか」


 屋敷の偵察は早朝からオジロと六黒を飛ばして空から事細かに調べ上げていた。


「三百か、思ったよりも多いな、それで聖雷剣を持ってるやつらは何人くらだ?」

「それが、外に群れている連中には一人もいません、おそらくは屋敷内を警備している者たちが持っていると思われますが」

「外には百人以上いるんだろ、数が少ないな」


 盗まれた剣は五百本以上、鎮也はウーゴットの組織が百本近い聖雷剣を保有していると思っていたが、そうではなかった。


「ほとんどを売ったってことか」

「おそらく」


 ここで大量に奪還できると考えていた鎮也の当てが外れてしまった。


「それにしても、庭にいる傭兵崩れたちが装備している武具は低能すぎるだろ」


 聖雷剣が百本もあれば襲撃は相当手こずると想定していたが。


「これなら、今からでも襲撃は大丈夫そうだけど」

「カイザンと約束してきたから、残念だけど明日だね」


 冒険者ギルドのカイザンの元へ赴いていた咲耶が瞬間移動で帰ってくる。

 後始末を依頼した手前、カイザンとは歩調を合わせる必要がある。結構な無理を言っていると鎮也にも自覚があるのでこれ以上無理は言いにくい。


「しょうがないか、決戦は明日だ」


 仕込みは終わった。

 後は宿に戻って明日のために英気を養うだけ。


「今日はゆっくりお風呂入らないとね」

「アリアを助けたら森の屋敷の風呂も直さないとな」

「綺麗好きでしたからね、今の屋敷を見たら気絶するかもしれませんよ」


 鎮也は咲耶から透徹を受け取ると、見張りに六黒の分身を一体残して三人で宿へと瞬間移動した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ