第22剣『水道殿にて、再会する』
「待ってくれシズヤ殿、約束が!!」
カンザンから何度も壊さないでくれと念を押していたのに、それでも我慢ができなかった、武器を振りかざした鎮也、それを止めようとカイザンが邪魔をしてくる。
「本体には傷つけない、カバーを剥がすだけだ!」
壊さなければいいんだろ、鎮也にはどうしても確認しなければならない事ができたのだ。
「この魔道具は帝都の科学者にも解明できなかった代物だぞ、どんな誤作動が!」
「マスターの邪魔はしなでもらおう」
鎮也に詰め寄ろうとしてきたカイザンの進路をレオフィーナがオジロの光剣で遮った。
「ハァアア!!」
激怒を孕んだ強烈な突きを魔装具を覆っている鉄板へと叩き込んだ。
金属のぶつかり合う音が響きわたる。
「な、なんてことを……」
『粉砕』のスキルを持つ突撃剣トロンバトルナード。粉砕は任意で選ぶことができ鎮也が選択したのは鉄板のみ、本体の水晶には傷一つつけていなかった。
鉄板が粉々に砕け散り中の水晶が露わになる。
狙い通り水晶にはかすり傷すらついていない。つけられるわけがない。
「鎮也くん、鑑定で何を見たの?」
「…………」
鎮也は無言のまま答えない、ここまで怒りをあらわにした理由、鑑定の結果が鎮也の逆鱗にふれたからだ。
咲夜がその原因が何かを確認する。
「―――――――――――――――――――
【名称】『水晶のアリア』
【製作者】ウーゴット
【分類】魔道具 【レア度】☆☆☆☆☆☆(6)
【長さ】260センチ 【重さ】6トン
【魔道核】アクアエルフのアリア
【スキル】
『仮死』…………水晶の中に眠る存在を仮死状態にして眠らせる。
『無限放水』……無限に水を放水し続ける。
『鉄壁氷』………マグマに落としても耐えることのできる氷の壁。
『無限再生』……水晶は砕かれてもすぐに再生する。
【補足】
百二十年前、主に忠義尽くした少女を封印した氷の水晶。彼女の装備していた二本の聖剣の力で氷の壁を作り出した。たとえ壊せてもすぐに再生してしまう。その再生スキルをウーゴットに目を付けられ、無限に水を湧き出させる魔道具へと作り変えられてしまった。
――――――――――――――――――――――」
「そんな、うそでしょ」
咲耶が水晶に閉じ込められていた少女の姿に声を震わせる。
「……アリアさん、なの」
過去の時代、鎮也が築いた森の屋敷でメイドとして働いてくれていた少女がそこにいた。氷の水晶の中、両の手に聖雷剣を握りしめて眠っている。身に着けている服は鎮也にも覚えがある森の屋敷で着ていたメイド服だ。
封じこなれる前に激しい戦いに赴いていたのだろう、綺麗好きであったアリアのメイド服は泥で汚れ痛んでいる。
「カイザン、お前はこのことを知っていたのか」
冷たい、とても冷たい声で鎮也はカイザンに問いかける。
「い、いや、しらなかった、魔道具の中に少女が封じ込められているなんて、決して知らなかった」
知っていればカイザンが直々にここまでの案内をするはずがない。
「鎮也くん、カイザンは嘘は言ってないよ」
「そうか」
ダメだ怒りで何も考えられない、鎮也はこのまま水道澱を破壊し尽くしたい衝動に襲われる。
トロンバトルナードを握る腕が震えだし抑えることができない。
「鎮也くん、怒りをコントロールして、感情で動いても状況は好転しないわ、いいイメージして、今の鎮也くんの怒りは体の中に炎のように燃えたぎっているの、マグマよりも高熱の怒りよ、それは全てを破壊したくなるような怒りよね」
「ああ、その通りだ」
「その怒りを腹の底に集めるようにイメージして、真っ赤な太陽ような怒りの塊よ」
「ああ、はらわたが煮えくりかえりそうだ!」
「まだよ、もっと小さく集めるの」
鎮也の中で新たな大陸が誕生しそなほどのエネルギーが集約される。
「今にもヘソが噴火しそうだ」
「いいのよそれで、ひとまとめになったら上を向いて」
鎮也は咲耶の言われた通り、腹に怒りを抱えて上を向く。
「準備よし、一斉に吐き出せ!」
咲夜がスイッチを押すように鎮也の背中を叩いた。
「ウオアァァァァァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァ!!」
喉が裂けそうなほどの絶叫!
夜の水道澱に鎮也の声が反響し、木霊のように飛び回る。流れる水に波紋を作り、やがて水に吸収されていった。
全力で叫んだ鎮也は酸素が足りなくなり膝に手をつき全力で深呼吸。
「どう、少しは怒りをコントロールできるようになった」
「ああ、助かったよ咲耶、なんとか冷静さは取り戻したと思う」
「よかった」
おさまったわけでは無いが、取り込んだ空気の冷たさが体と思考を少しだけ冷やしてくれた。
鎮也は咲耶から視線を外して水晶の中で死んだように眠っているアリアを見つめる。屋敷に残されていた最後のメッセージには逃げると書いてあったのに。
「マスター、アリアは最後まで残り戦ったようですね」
水晶に閉じ込められてなお放すことの無かった二本の聖雷剣。
「忠義の士と褒めるべきなのでしょうが、マスター、私にはアリアを素直に褒めることができません」
そう、アリアはおそらく逃げることなく最後まで森の屋敷で戦ったのだろう、残されていたメッセージは鎮也に充てた伝言ではなく遺言だったのだ。剣を盗まれるくらいならと、自分ごと氷の水晶に封印したのだろう。
そうであったと確信がもてる。彼女がもっている剣が何よりの証拠だ。
「―――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル300
【名称】「アクアアリア」
【和名】「珍魚落雁」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】アリア(仮)
【分類】曲刀 【レア度】☆☆☆☆☆(5)
【長さ】96センチ 【重さ】1.3グラム
【聖剣核】アクアマリン
【スキル】
『雷魔法(小)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:小)
『水魔法(大)』……使い手が水魔法を扱えるようにする(効果:大)
『水中呼吸』………使い手は水中でも呼吸ができる。
『人魚化』…………人魚となり水中を自在に動き回れる。
【補足】
聖雷剣シリーズの記念すべきシリアル300番。節目にこだわる鎮也が、メイドとして一番献身的に尽くしてくれる水辺の妖精族のアリアへ、お礼の意味も込めて彼女専用に製作した聖剣。彼女が憧れる伝説の存在人魚へとなるためのスキルを備えている。
聖雷剣はアリアを使い手として認めたが正式な継承がされていないため(仮)。
――――――――――――――――――――――――」
「―――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル301
【名称】「アクアアイス」
【和名】「氷壺秋月」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】アリア(仮)
【分類】曲刀 【レア度】☆☆☆☆☆(5)
【長さ】93センチ 【重さ】1.3グラム
【聖剣核】アクアマリン
【スキル】
『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『製氷』……………水がある限り氷を生み出す。
『凍結耐性』………氷点下でも薄着で快適に生活できる。
『氷像操作』………生み出した氷の像を操れる。
【補足】
氷を生み出し、氷を操る聖剣。また聖雷剣でもあるため、電気を帯びた氷というありえない物質を生み出すこともできる。シリアル300のアクアアリアと対になるよう製作されたため、二本を同時に扱うと能力が上昇する。
聖雷剣はアリアを使い手として認めたが正式な継承がされていないため(仮)。
――――――――――――――――――――――――」
シリアル300の珍魚落雁これはアリアのためだけに制作された聖雷剣、512本完成の暁には譲渡すると約束をしていた。
アリアは恐縮しながらも喜んでくれたことを覚えている。そしてシリアル301の氷壺秋月は曲刀二刀流が得意であったアリアの為に珍魚落雁と対になるように制作した。これは譲渡の時のサプライズのつもりであったのだが、形状から薄々感づかれていたのかもしれない。
アリアの水晶がレア度6なのはアリアと一緒にレア度5の聖雷剣を同時に二つも内胞したがためだろう。
「アリアさんこの剣たちだけは盗られたくなったんでしょうね」
「マスターとの絆の証だ、私にもその気持ちは理解できる」
この世界にきて初めて灰色化していない聖雷剣との再会は、もう会えないと思った仲間との再会でもあったのに、鎮也も咲夜もレオフィーナも喜ぶことができなかった。
「カイザン、ウーゴットはつぶす。そしてアリアを水晶から解放する。止めるならお前も敵と判断するぞ」
「だろうな、承知したもう止めはしない」
「安心しろ、水源は俺が用意する。アリアを解放したから水が無くなったなんて言われたくないからな」
優しいアリアのことだ、水の問題を知ればきっと傷ついてしまう。
「作れるのか!?」
先ほど叫んでいた、帝都の科学者も解明できなかったと。レア度6の魔道具ともなれば、そう簡単に解析などできないであろう。どうやらカイザンは鎮也が作れるのは聖剣だけだと勘違いをしているようだ。
それは間違いではないが、正しくもない。
「作れるぜ」
鎮也が生み出せるのは聖剣だけ、だから聖剣鍛冶師、だが鎮也がこれは聖剣だと思いこめばどんな形でも制作できる。現に聖雷剣の中には見た目にはとても剣に見えない作品がいくつも存在している。
ようは水を無限に生み出すだけの聖剣を作れば良いのだ。
形は剣でなくても、思い込みしだいでいくらでも製作できる。
「しかし製作してからもメンテナンスが必要だろ、それはワシらにもできるモノなのか」
「メンテナンス?」
「ウーゴットが、月に一度メンテナンスを行わないと、この魔道具は放出する水量が減ってしまっていた」
「水が減るって、そんなわけないだろ」
鎮也の鑑定ではこの水晶は無限の水を湧き出させる魔道具だ、水量が減る要因なんて一つもなかった。あるとすれば、核となっているアリアの生命力かもしれないが、それはウーゴットがいじった程度でどうにかなるはずがない。
「ああ、これか」
鎮也が鑑定眼で再度確認すると、水晶の下部に別の魔道具が設置されていた。それは単純に水を吸収するだけの魔道具。それを外してみれば水量がわずかにだが上昇した。
「それは?」
「吸水の魔道具だな、ただ水を吸い続けるだけの。ただこれは限界がある。だいたい一カ月ぐらいで要領をオーバーするんじゃないか」
「それでは、あやつが一カ月ごとに行っていたメンテナンスは」
「水を増やす作業じゃなくて、減るように細工していたのね」
とことん悪知恵の働く男だ。水が減るからメンテナンスをしていたのではなく、水を減らすためのメンテナンスを行っていたのだ。
「何という事だ、水を減らされるために、レフティアは毎月高い金を払っていたと言うのか」
毎月法外なメンテナンス代を請求されていたようだ。
本当に外道だね。これだけわかればカイザンもウーゴットつぶすのにもう反対はしない。
「アリア、待ってろすぐに迎えにくるからな」
鎮也の中で聖雷剣の奪還よりも優勢順位の高い奪還目標ができあがった。
六黒を取り出し、破壊した鉄板部分を影魔法の幻術で覆う。触ればばれるが見ただけでは壊れる前と区別がつかない。
長い間待たせるつもりはない、短い期間ならこれで十分であろう。
水道澱を出た鎮也は高速で思考を回転させる。どうすれば一番早くアリアを救い出せるか、何通りのも方法を練り上げる。
「シズヤ殿、もはやウーゴットの叩くのに反対はしない、だができれば決行の日は教えて欲しい、冒険者ギルドとしてもできる限り協力する。最短で決行するのはどのくらいを考えているのだ?」
「早くて四日後」
全力で作戦を練っていたので、鎮也は聞かれるままに素直に答える。というよりは考えていることが口からこぼれた感じだ。
「四日ッ!?」
本当に四日が最短か。
ウーゴットとその配下をまとめて倒す為には一か所に集める必要がある。その工作に一日、水源の聖剣を作るために材料集めに一日、製作に一日。準備期間は合計三日、そうなると襲撃は四日後がやはり最短か。
「シズヤ殿、いくらなんでも四日は早すぎるのでは」
「いや」
材料をウーゴットの屋敷で調達できたらどうだ、これだけ大きな裏の組織だ、多彩な素材を保有しているに違いない、だったら材料集めの時間も必要ないし、製作は殴りこんだ後に回しも構わないだろう。だったら工作に用いる一日だけですむ。
「明日の準備だけで十分だな、明後日決行する」
「たった二日か!?」
たった二日、されど二日。一秒でも早くアリアを助けた鎮也にとってはそれでも時間を長く感じてしまう。だが準備をおこたって失敗はしたくない。
「流石に一日で殴り込むのは後始末が大変になりそうだ、組織の構成員を取り逃がしそうだし、どうしてもというなら、頑張ればできなくも――」
「――二日でお願いします!」
カイザンもやる気を出して賛同してくれた。これで後顧の憂いなし。
奪還計画は決まった。あとは決行までに準備を完璧に整えるだけ。
「待ってろよウーゴット、お前の天下もあと二日だけだ」
三日月に向かって鎮也はウーゴット組織の壊滅を誓った。




