第21剣『水道殿』
「水源をウーゴットに握られている」
「過去のレフティアを御三方なら知っているだろ。道の交差点にすぎなかった時代を」
カイザンはレフティアの発展の歴史を語り始めた。
「多くの者がレフティアには商売の種が眠っていると考えていた」
帝国内最大の鉱山地帯であったライトゥスに向かうためには、地理的制限から必ずレフティアを経由していたし、地形も平坦なため他国へ向かう高速馬車なども多く通過していた。ここに街を起こせばお金は勝手に流れ込んでくる。
「先の目がある者なら誰しもが一度は挑戦したかったはずだ。しかし、この地には一つだけ弱点が存在した」
「それが水ですね」
「そうだ。ここに拠点を構えるには水源が圧倒的に不足していた。小さな井戸程度しか水が確保できず、宿を一軒補うのがやっと」
鎮也の記憶でも小さな宿が一軒だけあったことは覚えている。
「それが百二十年前、ウーゴットが無限に沸く水源をこの地に作りだしてレフティアは街となった」
百二十年。とても嫌な符合が一致した。
「レフティアの発展はウーゴットのおかげという訳ですか」
「残念ながら」
「ずいぶんとふざけた男ですね」
レオフィーナさんの周りに怒りと言う炎が立ち上る。
「あやつはそれで巨大な富を築いた。その資金に物を言わせレフティアの中枢に今でも居座っている。人族であるはずのウーゴットが現在も生きていることから、寿命さえも金で買ったと噂されているほどだ」
ウーゴットの財力の理由を説明するカイザンに咲耶の嘘を見抜くスキルが引っ掛かった。
「カイザンそれだけじゃないでしょ、あの男が財を築いたのにはもっと別の要因があるんじゃない?」
カイザンは言葉を詰まらせた。
どうやら咲耶の指摘は図星であったらしい。
話の流れは自然であったはずだと、横で聞いていたイクスなどはまったく違和感がないように聞こえただろう。だが咲耶のスキルをだますことはできない。
「この街でオークションが盛んなのは、過去にウーゴットが目玉となる。それこそ世界中の人が集まるような品を出品したかじゃない、違う?」
「……そ、そんなことは」
「カイザンあなたは知らなかったのかしら、私に嘘は通用しないって」
咲耶のスキルがカイザンの否定を嘘だと判断した。否定が嘘ならその逆、肯定が本当になる。
「申し訳ありません、おっしゃる通りです」
ギルドの長が深く頭を下げた。
「やっぱりね」
その出品物が何かは聞かない、聞かなくても分かってしまう。もし言葉で聞いてしまったら怒りが抑えられなくなってしまいそうだから。
「もういいや、あいつがため込んだ財はすべて俺たちから盗んだモノで築き上げたってことだろ」
「そうなります。ですが、ウーゴットが居なくなったらレフティアに暮らす人々は生きていけなくなります。特に水がなくなれば、どんな混乱が起こるか想像もできません」
カイザンは遠まわしにウーゴットに手を出さないでくれと情に訴えてきた。レフティアの住民のために怒りを流してくれと、だがそれは無理だ。
鎮也はウーゴットを許すことはできない。
でもだからと言ってレフティアを見捨てるほど鎮也も非情ではない。
「その水源をウーゴットから取り上げることは?」
「できません、ウーゴットが調整しなければ水はかれてしまう水源です」
本当にウーゴットはレフティアの生命線にがっちりと絡み付いている。
「つまり、水源さえ何とかすればウーゴットはつぶしていいんだな」
水が無限に湧き出す仕組みの検討は簡単につく、水系の聖雷剣を使用しているのだろう。水を生み出す剣はいくつかあったのでどれかまでは絞り込めないが。
「いえ、あの、それだけではなく」
厳つい中年のカイザンが、職場に慣れない新人スタッフのような小さな声で意見してくる。
「まだあるの?」
嘘を見抜く咲耶の瞳が真っ直ぐにカイザンを射抜く、足止めのための嘘は許しはしない。
「はい、もう一つ大きな問題が」
「どうだ咲耶」
「ホントみたい」
街の基盤はどれだけ握られているんだ、これじゃ保安隊がまったく手を出せなかったもの頷ける。
「ゴロツキどもに掛けた催眠も無駄だったかな」
出頭させたゴロツキどももすぐに解放されるかもしれない。
「いえ、決してそんなことはないと思われますよ、証拠とセットになっていますから」
「どういう意味だ」
カイザンがイクスに説明を求め、今日あった出来事を包み隠さず全部伝えた。
話を聞くうちにカイザンの顔が青を通り越して白色になっていく。
「そ、そうか、もう、戦闘まで、いくらなんでも衝突が早すぎるだろ」
「これで、こっちが手を引いても向こうから突っかかってくるな」
鎮也が襲撃を仕掛ける分には戦闘地点が選べるが、相手から襲撃があった場合、街のどこで戦闘が起きるか見当もつかない。保安隊も手なずけているんだ、襲撃場所など選びはしないだろう。
だったら最悪の状況よりも、悪い状況を選んだ方がましである。
「それで最後のウーゴットを倒してはいけない理由はなんですか?」
「防衛力です」
「防衛力? この街には結構な数の冒険者もいただろ」
実際にギルドの一階には今も多くの者たちがいる。街の防衛なら戦争でもしているわけでもなし、十分たりているように思われる。
「ドラゴンだ」
「は? ドラゴン?」
ドラゴンは当然知っている。魔物の中でも最強を誇る種族だ。レオフィーナもスキルでドラゴンへと変身できる。だがドラゴンは人の寄りつかない秘境などが主な生息域だ、街を襲うなどめったにないことである。
「ドラゴンの襲撃があったのですか?」
「ああ、それも定期的に襲ってくる」
「分かっていて迎撃できなかったの? カイザンあなたなら倒せそうだけど」
イクスはスピード型なので大物の相手は難しいがカイザンならブラットアックスもある。それほど強力なドラゴンだったのか。
「あのドラゴンは街に高ランクの冒険者がいない時を狙って飛来する。ワシは一度も遭遇したことがない」
「おい、それって思いっ切り怪しいだろ」
あからさま過ぎる。高ランクの冒険者がいない時に限って飛来して、ウーゴット配下のゴロツキどもが追い払う公式、子供が見ても誰が裏で糸を引いているか丸わかりだ。
「高ランクの冒険者を常駐させては」
レオフィーナがとても単純な解決策を訪ねる。
いるときに襲撃がないならずっといればいいと。
「やってみたさ、結果は常駐の間の数年は襲撃はなかった。だがこれでは高ランクの冒険者を飼い殺しと変わらない、問題はもう起きないだろうと冒険者が常駐をやめたとたんドラゴンの襲撃が再開された」
「う、わ~~」
開いた口が塞がらない。
きっとドラゴンの被害を一番食らうのはウーゴットと敵対した組織なのだろう。
「もしかして今日行った、元豪商の屋敷も」
「はいドラゴンの襲撃を受けました」
いくらなんでも、豪商の対しての嫌がらせで近隣住民が全員いなくなりゴーストタウン化するなんてどんな嫌がらせだよと鎮也は思っていたが、ドラゴンなら納得だ。
「あっ」
「鎮也くん、どうかした?」
元豪商の屋敷にドラゴン、この二つの単語で鎮也はあることを思い出した。
「ああ、そういうことか、わかったよ」
「何が分かったんだすか」
「ドラゴンの襲撃のカラクリ、大丈夫、この問題はウーゴットを倒して俺の剣を取り戻せば終わりだ」
「なるほど、そういうカラクリですか」
レオフィーナも真相に気が付いたようだ。アレイが盗んだ剣、あれはドラゴンに関するスキルを持っていた。
「ウーゴットが躍起になって取り返そうとするわけだ」
「鎮也くん、今度、危険度リストでも作っておいた方がいいかも」
「そだな」
昼間見ていたのにすっかり忘れてしまっていた。
確かに咲耶の言う通り、悪用されると厄介な聖雷剣はリストアップしておいた方がいいかもしれない。
「いったい何の話ですか」
「ドラゴンの問題は俺たちが解決できるって話」
「ホントですか!?」
レフティアにとってもっとも頭の痛い問題の一つが解決できると鎮也が断言、カイザンが思わず立ち上がる。
「ああ、保安隊とかの資金問題はそっちで解決してもらえれば、残るは水源の問題だけだな」
金で解決できるなら鎮也が口を挟む必要はない。
「水源の魔道具はウーゴットの屋敷にあるのか?」
「いえ、街の中央に建てられた水道澱に設置されていますが」
「ちょうどいい、今から見に行こう」
「今からですか」
窓の外はすでに夜になっていた。
「今からです」
「わかりました、ワシが案内しましょう」
根負けしたのはカイザン。長いエルフ耳を垂らしながら鎮也の提案を受け入れてくれた。
「ただし条件があります。絶対に水源を破壊しないでいただきたい。この条件が飲めなければ敵わずとも全力でお相手いたします」
決しの覚悟を抱いて鎮也を睨んでくる。街を守るための決意をこめた男の瞳。
鎮也もその睨みを真正面から受け止めた。
「わかった約束します」
「絶対に破らないでいただきたい、それでは準備ができ次第向かいましょう。用意がありますのでシズヤ殿たちは下のホールで待っていてもらえますか、時間はかけませんので」
「了解」
鎮也は咲耶とレオフィーナを伴い総支部長室から出て行った。
残されたのはカイザンとサブマスター、それにイクスの三人。
「総支部長、差し出がましいかもしれませんが、総支部長ご自身が案内をしなくても」
「そうもいかん、水源にはシズヤ殿の剣が使われているのは確実、約束はしてもいざ目にした時どう動くかわからんのだ」
「ですが、今日一日共に行動しましたが話せばわかる御仁たちでした。街の現状も把握してくれましたし、このまま剣を水源として使わしてくれるのでは」
共に人質救出に赴いたイクスには、鎮也たちは話せばわかると感じていた。
「そうです。私も話し合いによる解決を提案します。水源はレフティアの生命線、その使われている剣を正式にギルドで買い取ると言うのはどうでしょうか」
イクスにサブマスターがそれぞれ自身の意見を述べる。
「それは無理だ。彼らは絶対に剣を諦めたりはしない、昔話にもあるだろ、剣を寄こせと脅した帝国と戦い打ち倒し当時の皇帝に土下座させたことを。あれは実話だ」
「へ?」
「え?」
「あ、あの、総支部長、土下座は初めて聞きました」
イクスもサブマスターも皇帝が土下座など聞いたこともない。
皇帝とは帝国の象徴。それが土下座など口にするだけでも重罪に思えてしまう。
昔話では、悪政をひいた皇帝から伝説の剣を守るために戦った聖剣鍛冶師とその従者たちが勝利を収め皇帝を改心させたとしか伝わっていない。
「そうだったか、秘密だったかもしれん、すまん忘れてくれ」
「総支部長!?」
いきなり国の機密を暴露されて忘れてくれと言われても困るだろう。皇帝が地に頭をつけるなど、最大の屈辱だ。歴史上からその事実が末梢されていてもおかしくない。
「とにかく、彼らは望まぬ相手が剣を持つことを許しはしない、絶対に」
総支部長室の窓から見える今日の月は三日月の形をしていた。それはカイザンにとって喉元に突き尽きられた鋭い刃のように思えた。
「怖い形をしてやがる」
カイザンは万が一に備えて、魔力を帯びた鎖帷子を服の下に着こむのであった。
オークション大会を三日後に控えたレフティアは夜も眠らずの大騒ぎ。
鎮也たちはそんな騒ぎには背を向けてカイザンの先導の元、街の要である水道殿へとやってきた。白を基調とした神殿風の建造物、四方へ水を送る用水路があり豊富な水を送り出し続けている。
「ウーゴットの見張りはいるのか?」
「いつもはおるはずなのだが、今日は見当たらないな」
オークションの準備で忙しいのか、昼間に鎮也たちが倒したゴロツキどものせいで、こちらまで回す人員が不足したのか、理由はわからないがどちらにしろ鎮也たちにとっては有難いことである。
「好都合、さっさと水源を拝見しよう」
「何度も言いますが、絶対に壊さないでいただきたい」
「善処するよ」
水道殿の中は外よりもヒンヤリと涼しく透き通った水が整備された水路を流れていく、とても清潔感のある内装で、ここだけ見ればとても裏組織が牛耳っているとは信じられない雰囲気だ。
「なんか、懐かしい感じがするのはどうしてだ?」
「鎮也くんも、わたしも家にいるような安心感が沸いてくるような、でもどこかせつないような、ふしぎな気分」
「それはウーゴットの設置した水源のせいでしょう。感覚の鋭い者はあれから気配のようなモノを感じると言っています」
「魔道具から気配?」
さすがに鎮也が制作した聖雷剣でも気配を出すものは、数点しかない。だがそれと水を湧きあがらせる剣は別物。どうなっているのだと鎮也は首をかしげた。
石造りの階段を下り水道殿の心臓部へとたどり着くと、そこには強大な魔道具が設置されていた。
人が楽に入れそうな棺桶サイズの水晶を鉄板で覆っているだけに見える不思議な形状。
「これが水源の魔道具なのか?」
「はい、これがウーゴットがレフティアにもたらした魔道具です」
てっきり剣が刺さっているだけの光景を予想していた鎮也はそのギャップに驚かされる。
「確かに水が流れ出てるね」
咲耶が魔道具に近づき屈みこんで観察すると、鉄板の下に備え付けられている管から絶えず水を噴き出している。
「マスター鑑定してはいかがですか」
「あ、ああ、あまりの予想外で忘れてた」
鎮也が鑑定眼を発動させ魔道具を鑑定すると。
「な、なんだよこれ!!」
怒りを爆発させた。
「鎮也くん?」
「マスター?」
突然の豹変に咲耶とレオフィーナが鎮也へ振り返る。その彼女たちの瞳には驚きから怒りの形相に変わる鎮也が映し出されていた。
鑑定の結果、それは鎮也にとって信じがたく、とても許しがたいもの。未来に飛ばされてから一番の怒り。
気配を感じるとは、こんなにも惨い意味であったのか。
「トルナード!!」
鎮也は魔法のカバンより、破壊に特化した七星剣『トロンバトルナード』を引き抜いた。




