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第20剣『総支部長カイザン』

 鎮也たちは透徹の瞬間移動を使い、今朝決闘を行った冒険者ギルドレフティア総合支部の裏手にある訓練場にやってきた。時間はすでに夕暮れ時になっており、訓練をしている冒険者はそれほどいなかった。


「そんな、支部内はすべて対魔法結界が張られているはずなのに」


 冒険者ギルドの建物はどんな小さい支部にも襲撃などを警戒した魔法封じの対魔法結界が張られている。訓練場内では訓練のために使えるが、それ以外の敷地内での魔法使用はもちろん、外部からの干渉も一切受け付けないようになっていたはずなのに、鎮也はそれを無視して瞬間移動で敷地内へ現れた。


 訓練場にわずかに残っていた冒険者たちも訓練の手を止め突然現れた鎮也たちや教会の子供たちを驚きの表情で見つめている。


「瞬間移動は透徹の固有スキルで魔法じゃないからな、対魔法結界じゃ防げないですよ」

「はぁ、そうなんですか」


 突然現れた集団にギルド側も気が付いたようで支部内からゾロゾロと職員が出てくる。


「イクスさん、一体これは何事ですか?」


 その中の一人、前に咲耶が魔核を売った買い取りカウンターの女性スタッフがイクスに気が付き事情の説明を求めてくる。


「早急に総支部長と話さなければならないことができたんだ、総支部長はいらっしゃるか?」

「ええ、忙しそうではありますが総支部長室に」

「よかった、すぐに話がしたいと伝えてくれないか、火急の用件なんだ」

「わかりました、お伝えしてきます」


 クールなイクスの切羽詰った様子に本当に火急な用件だと悟り、女性スタッフは支部へと引き返していく。


「イクスさん、ギルドマスターが忙しいなら別に無理に通さなくても、俺たちだけでも何とかできるから、子供たちだけ預かってもらえれば」

「いいえ、絶対に話を通しますので付いてきてください」

「いいのか?」

「ええ当然です、総支部長室の前で待ちましょう、いつ呼ばれてもいいように」


 どんなことをしても総支部長の前に連れていくというイクスの決意がみてとれた。


「了解、よろしくお願いします」


 ギルドナイト生命をかけているようなイクスの態度に、鎮也は黙って後を付いていく。状況がつかめず、ただ立ち尽くすしかできない他のスタッフたちもイクスの態度からただならぬ事態が起こっているのだけは感じ取ったようだ。





 リーザたち教会の子供をギルドスタッフに託して総支部長室の前に辿り着けば、先ほどの女性スタッフとその上司と思われる年配の女性が話をしていた。


「申し訳ないけど、総支部長は手の離せない案件を抱えてるの、お話なら次の機会でと伝えて頂戴」

「ですが、あのイクスさんの態度はただ事ではないと思うんです」

「今、総支部長が手掛けている以上の問題はありません」


 どうやらギルドマスターとの取り次ぎが上手くいっていないようす。


「あ、イクスさん」


 女性スタッフがこちらに気が付く。


「サブマスター。緊急な案件なんだ総支部長に合わせて欲しい」

「ちょっとイクスさん、あなたほどの方が呼ばれもしないで総支部長室にやってくるなんて礼儀知らずな事を!」


 まさに鬼のお局様。サブマスターと呼ばれていることから、このギルドのナンバーツーだとわかる。


「無礼は承知です。ですがこのレフティアの将来に係わる問題が、彼らを総支部長に合わせてください」

「レフティアの将来とは大きく出ましたね、彼らがいったいどんな……」


 サブマスターの女性が鎮也たちの存在に気が付いて固まった。


「あ、あなた方は、もしかして七星剣(セブンセイバーズ)の」

「はい、今朝に冒険団登録をしたばかりですが」

「し、失礼いたしました。ただちに総支部長にお伝えします」

「あ、はい、よろしくお願いします?」

「鎮也くん疑問形になってるよ」


 なぜ、鎮也たちを見てサブマスターは態度を急変させたのだろうか。


「すぐに総支部長がお会いになるそうです、こちらに」


 入ったと思ったらすぐに出てくるサブマスター、総支部長室の中からドタバタとした音が聞こえるが一体何があったのだろうか。


「忙しそうですが大丈夫ですか?」

「問題ありません、たった今、総支部長は暇になりましたから」


 暇になったって、いいのかそれでとも思ったが、理由が分からない以上鎮也たちがどうこう言える問題ではない。


 通された総支部長室はこげ茶色の絨毯が敷き詰められたダーク系の色で統一された部屋で、壁には総支部長が仕留めた勲章なのか、高ランクの魔獣の骨などが飾られている。これだけなら貫禄のある部屋であったのだが、隅に乱雑に積み上げられた大量の剣と机の上に広げられ整頓されてない書類の山が部屋の雰囲気を損なっている。


「よくいらしてくれた、冒険団『七星剣』の方々」


 出迎えてくれたのは顔に大きな傷を持つ中年のエルフの男性であった。歴戦の戦士の雰囲気をまといエルフには珍しい筋肉質の体はギルドマスターにふさわしい貫禄を備えている。しかし、その額に汗をかいているのはなぜだろうか。


「ワシがレフティア冒険者ギルド総合支部を任されているギルドマスターカイザン。スタッフなどからは総支部長などと呼ばれている」

「はじめまして七星剣リーダーの鎮也です。こちらは咲耶とレオフィーナ」

「咲耶です」

「レオフィーナだ」

「この三人で今朝作ったばかりの弱小冒険団をよくご存じでしたね?」


(弱小冒険団がウーゴットの組織を潰そうなんて言えるわけないでしょ!!)


 一緒に入室したイクスが声にできない叫びを上げた。


「ははは、御冗談を、その冒険団名で登録できた時点でただ者じゃないことはわかりますよ」


 厳つい顔に似合わず鎮也に対して敬語を使ってくるカイザン総支部長。


「その名前は伝説の冒険団と同じ名前、これまで多くの者たちがその名を名乗ろうとして実力不足とギルドシステムに弾かれてきました」

「さすが伯父さんの作ったシステム」

「何か?」

「いえ、なんでもないです」


 聞こえないようにボソリと呟いたつもりの鎮也だったが、流石はエルフ、いい耳をしている。


「それで私に話があるそうですが」


 落ち着いたところでサブマスター自ら全員分のお茶を入れてくれた。


「ウーゴットの組織を潰すので後始末をお願いします」

「ブッハーー!」


(もうウーゴットの存在に気が付いたのか!)

(相談が後始末に変化している!!)


 カイザン、イクスがそろってお茶を吐きだした。

 カイザンはわずか一日でウーゴットの存在に辿り着いた鎮也たちについて。

 イクスは内容がさらに過激になっていたことについて。

 お茶が喉を通ることはなかった。


「「ガッホ、ガッハ、ゴッホ」」


 二人が顔を真っ赤にして咳こむ。


 鎮也の考えが変わったのは、総支部長室へ来る道中に熟考する時間があったからである。鎮也にとってウーゴットをつぶすのは決定事項、だったら敵に回した時の相談など不要になってしまう。


 そこで思いついたのが、依頼として冒険者ギルドに後始末を頼んでしまおうというモノであった。


「もちろん、冒険者ギルドへの正式な依頼としたい、報酬金額を提示してくれないか」


 冒険者ギルドから依頼を受けるには冒険者登録が必要だが、依頼を発注する側は誰でもできる。冒険者が依頼を出しても問題になることはない。


「このカイザン、七十年ギルドマスターを務めてきましたが、このような依頼は初めてです」


 カイザンは即座には返答はせずに、言葉を濁してきた。


 冒険者ギルドにとって、ウーゴットと問題を起こすことは慎重にならなければならないことだと鎮也たちもギルド側の態度から感じ取っている。


「カイザン、どこかで聞いた名だと思いましたが、あなた冒険団『戦慄の斧(ホーリーアックス)』の新人カイザンですね」


 なかなかにやり手でありそうなカイザンの顔を見つめていたレオフィーナが過去の時代に彼と合っていたことを思い出した。


「ワシを覚えているのですか」

「戦慄の斧ってあれか、斧こそが最大の武器だって言って俺に突っかかってきた、あの」

「そうです、咲耶の居合いで自慢の斧を全て切断された、あの戦慄の斧です」

「ああ、そんなこともあったね」


 昔話を懐かしむように話す三人だが、ギルド側として会話の内容がただ事ではなかった。


「サブマスター、総支部長がかつて所属していた戦慄の斧ってランクAの冒険団でしたよね」

「ええそうです、ですが所属していたではなく、現在も所属なさっておられます。戦慄の斧と言えば、斧を振るえば山をも砕くといわれた帝国でも最強の冒険団の一角ですよ」

「へ~ランクAまで上がったんだ、昔、素材を集めるから斧を作ってくれって土下座してきた連中だよな」


 鎮也の記憶では戦慄の斧のランクはCくらいであったはず。


「ランクAに上がれたのは、あなたに斧を鍛えてもらった後ですから」


 カイザンは山積みにされていた剣の後ろから一本の戦斧(バトルアックス)を取り出す。それは黒い刃を持つカイザンの相棒、レフティアの冒険者なら知らぬ者はいない最強の斧だ。


 イクスや他のギルドナイトに任命された者は助長しないよう、一度ならずこの斧で叩きのめされ自惚れなどを一切合切吹き飛ばされている。


「ああ、懐かしいな確か黒甲竜ドラゴンタートルの甲羅から作った斧だよな」


 鑑定眼発動。

「―――――――――――――――――――

【名称】ブラッドアックス

【製作者】星尾鎮也

【使い手】カイザン

【分類】戦斧   【レア度】☆☆☆(3)

【長さ】230センチ 【重さ】6.2キロ

【魔剣核】魔核A級

【スキル】

『重量軽減』……使い手に伝わる重量を半減させる。

『切れ味強化』…切れ味を強化する。

『甲羅斬り』……甲羅を持つ魔獣相手に斬撃力がアップする。

【補足】

 冒険団『戦慄の斧』の団長に代々受け継がれた看板を背負う武器、現在は三代目団長のカイザンが使い手となっている。甲殻系の魔物に対してとても相性が良い。レア度3でスキルを三つ備えることに成功した数少ない武具。

 星尾鎮也に土下座して作ってもらったことは戦慄の斧にとって最重要機密である。

―――――――――――――――――――――」


 鑑定結果に少し失礼なことが含まれていた。もしかしたら、鎮也たちが部屋に入ったときカイザンが汗をかいていたのはこの斧を隠す為に慌てていたからかもしれない。


「そこまで知っているとは、やはりシズヤ殿なのですね」

「総支部長、お知り合いなのですか?」

「会話を聞いていれば察しがつくだろ、この方は伝説の聖剣鍛冶師殿だ」

「ほ、本当に本物なのですか」

「ああ、過去にワシはお会いしているからな」


 カイザンは鎮也の正体に気が付いていた。


「そっちは最初から俺たちのことを覚えていたみたいだな」

「今朝の決闘を見て記憶に引っ掛かり、冒険団の名前を聞いて思い出しました」

「あの新人君が成長したな~、完全に年齢抜かれたし」


 鎮也の記憶にあるカイザンはアレイくらいの年齢であった。口数の少ない大人しめの少年エルフ、面影は耳くらしかないが、よくレオフィーナは気が付いたなと感心させられる。


「いろいろ経験を積みましたから、そちらは昔のままお変わりない」

「ウーゴットの奴がとんでもない悪戯を仕掛けてくれたからな」


 ギルド側メンバーの表情が青くなった。向こうとしては話を別の方向に持っていきたいのだろうが、そんなことを鎮也は許しはしない。


「回りくどいのは無しにしよう。ぶっちゃけ冒険者ギルドはウーゴットが倒されると何が問題なんだ?」

「あのウーゴットを倒せるおつもりなのですか? いくら伝説の聖剣鍛冶師だとしてもたった三人だけですよ、相手は数百人の構成員がいる大組織ですよ!」


 声を上げたのはサブマスター、彼女だけがこの部屋の中で鎮也たちの実力をしらない人物であった。


「倒せるさ、彼らなら確実に」

「総支部長!?」


 彼女にとって答えが意外な方向から返ってきた。雰囲気的にウーゴットとの衝突を止めようとしているカイザン自身がウーゴットを倒せると保障したのだ。


「確実にウーゴットが倒されるから困っているのだ」


 カイザンの本音が見え始めたので、鎮也は咲耶にアイコンタクトを送る。三人の中で交渉事は咲耶が一番向いている。現状は過去の関わりから鎮也たちに敬意を払ってくれるカイザンだが、彼もこのレフティア冒険者ギルド総合支部の長だ。街を守るためならどんな策略を仕掛けてくるかわからない。


 会話の主役を咲耶と交代する。


「それほどまでにあの男はこのレフティアの中枢に絡んでいるのですか、イクスさんより保安隊の運営資金の半分を賄っているとは聞きましたが」

「それだけなら、苦しくはなりますが首都に応援を要請すれば何とかなるでしょう」


 保安隊の弱体は確実だが、街の中のもめごとも冒険者などに依頼を出せば、しのげないこともない。


「では、最大の問題は?」


 カイザンが一番懸念していることは、ウーゴットの組織がこの街であれほど好き勝手できる要因は何なのだ。


「水だ」


 観念したかのようにカイザンは重たい口を開いた。


「この街の水源はすべてウーゴットに握られているのだ」


 発展著しい交易都市レフティアの実情。お金の力だけでは解決できないライフラインを裏組織に完全に握られていた。

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