第19剣『後片付け』
「はい鎮也くん」
咲耶が取り戻した双頭槍剣を持ってきてくれた。
「おみごと」
「どういたしまして」
「やっぱり悪人が持っているだけあって、ひどいありさまだな」
受け取った双頭槍剣、精霊剣・炎弐型共に泣きたくなるほどの完全な灰色。鎮也は大きなため息をつく、これは元の状態に戻すにはまた森の屋敷に帰るしかない。
「まあ回収できたことで良しとしないとな」
「そうだね、これからもこんな展開は多そうだし」
鎮也は二本の聖雷剣を魔法のカバンへとしまう。
「咲耶、イクスさんの手当てをしてあげて」
「了解まかせて、彼らの回復薬を拾っておいたから」
「すみません、一日に二度もお手間を取らせてしまって」
「気にしないでいいですよ、おかげで剣を二本も取り戻せたし、いや三本かな」
鎮也がアレイに向き直る。
「さて、これで憂いも無くなったし、その剣を俺たちに売ってくれるよな?」
「仕方ないな、まあFの兄ちゃんも最後だけ活躍したけど、遅れて登場とか途中サボってたから料金を割増でならいいぞ」
「ちゃっかりしてんな」
鎮也たちが遅れてきた原因は、まだ屋敷の各所に残っていたゴロツキたちを逃がさないよう先に倒しに行っていたからであって、別にサボっていたわけではない。逃げられ増援を呼ばれることを警戒しての行為だったがアレイには知る由もない。
「ちょっとバカアレイ、シズヤ様に何て失礼なこと言ってるの!!」
「しょうがねぇだろ、教会も燃えちまったし、金稼がねぇと冬がこせないんだぞ」
「だからって恩人からボッタくるような恥知らずなことするな」
「でもよ、苦労して手に入れた短剣なんだぜ」
「盗んだだけでしょうが、何が苦労よ、私が誘拐されたのも、教会が燃やされたのもそれが原因じゃない!! まずは迷惑かけた私に謝りなさい!!」
「う、ごめんなさい」
リーザの勢いに押され素直に謝罪を口にする。
「いいよリーザ、お金はちゃんと払うから」
「でもシズヤ様」
「子供たちのためにも教会を直す必要はあるだろ」
「すみません、この恩は一生忘れません」
魔法のカバンから金貨の入った袋を取り出し、リーザはアレイから短剣の包みを奪うように受け取り交換しようとした瞬間。
「鎮也くん!」
危険を察知した咲耶が鎮也を呼ぶ。
数秒遅れて鎮也も察知した、袋を投げ捨てアレイとリーザを抱えて横へ跳ぶ。
気配の薄い殺気が鎮也たちの居た場所を走り抜け、金貨の袋と短剣の包みが切り裂かれた。
金貨は地面へ散らばるが、短剣は落ちることなく重力に逆らって空中で静止する。
「……短剣が」
「浮いてる……」
仰天するリーザとアレイ。
「姿隠しだ」
鎮也にはどうやって浮いているのかそのタネは瞬時に理解できた。
姿隠しのスキルを持った魔道具を使用しているのだろう。
姿を見えなくする魔道具は数は少ないが存在する。その中でも高性能な物は気配すら消すことができるのだ。咲耶や鎮也が寸前まで察知できなかったことを考慮すれば、かなりの高性能な魔道具を使っているか、あるいわ……。
「この剣は返してもらう」
低い濁声が聞こえたかと思えば、短剣が透明なカーテンに包まれるように姿を消してしまった。
「クソッ」
鎮也は追いかけようとしたがスローイングダガーが飛来、抱えているリーザとアイレを守るために透徹で防ぐ間に気配は完全になくなってしまった。イクスの手当てをしていた咲耶もその場を動くことができず追跡は行えなかった。
「ヤマト!」
それでも咲夜は、すかさずヤマトを狼に戻し匂いで追いかけてもらおうとしたが、あの姿隠しは匂いまでも完全に遮断していてヤマトでも追跡は不可能であった。
ヤマトが悔しそうに首を振り尻尾を垂らす。
「逃げられたか、気にするなヤマトお前のせいじゃないから」
鎮也は落ち込むヤマトの頭を撫でて慰めた。
「すみません、シズヤ様何度も助けていただいたのに、足手まといになってしまって」
「気にするな、俺たちもヤツらに合わなければならなそうだしな」
短剣は奪われたが、どうやら相手の組織はまだまだ聖剣を持っていそうだ。幹部の二人が装備していたのだ。ボスは当然、他の幹部も持っている可能性は高い。
「鎮也くん」
「レオナと合流して突っ込むか、あいつらのアジトに」
「突っ込むってウーゴットの屋敷にか」
アレイの口からとんでもない名前が転がり出てきた。
「……おい」
ウーゴット、それはアリアの置き手紙に残されていた百二十年前に聖雷剣を盗んだ盗賊の名前である。
「どうしたんだよFの兄ちゃん」
鎮也の腕がアレイの胸倉を掴みあげる。
考えての行動ではない、怨敵とも呼べる名に体が勝手に動いてしまったのだ。
「今、ウーゴットって言ったよな」
「鎮也くん落ち着いて」
アレイの首が締まりそうになり咲耶が慌てて鎮也を止める。
「お、おお、すまん」
「どうしたんだよ、ウーゴットのヤツと因縁でもあるのか」
鎮也の怒りを身近で感じたアレイは茶化すことはなかった。乱れた服を直しながらアレイは鎮也から一歩二歩と距離を取っていく。
「ああ、百二十年ほど掘られた深い因縁がありそうだ。アレイ、そのウーゴットってやつの根城を教えてくれ」
「ま、待ってください!!」
本日二度目の手当てを終えたイクスが両手を広げて鎮也の進路を塞ぐ、その顔には大粒の汗をかき必死の形相になっていた。
「奴の屋敷には腕に覚えのある護衛や傭兵くずれが大量にいます。いくらシズヤ殿たちでも返り討ちにあってしまいますよ」
「あいつら程度なら百人いても問題ない」
あいつらとは、ゴロツキどものことではなく、聖剣を使っていたナグルトやゾイトイを指している。いくら巨大組織といえど幹部が百人以上いるわけがない。戦力的には鎮也、咲耶、レオフィーナの三人がいれば事足りる。
「ウーゴットはこの街の中枢にがっちり絡んでいて他の組織にも太いパイプを持っています。彼に闇雲に手を出せば、この街はおろか帝国中の裏組織から追われることになりますよ」
「だから?」
イクスとしては最大限の脅しであったようだが、それでも鎮也の怒りを鎮めるにはいたらない。
帝国中の裏組織を敵に回すのはイクスのハッタリであったが、鎮也は別にそれを見抜いたわけでは無く、敵に回しても構わないと怒りにより思考が狭くなっていたのだ。
「行くぞ咲耶」
「ん~行くのは構わないんだけど」
咲耶もウーゴットの組織へ殴りこむこと自体は反対しない、イクスが鎮也を止められる最後の希望だと視線を送ってくるがそれを受け流して彼女は自分の考えを口にする。
「帝国中で追い回されるのは、今後の活動するのに少し面倒かも」
裏組織すべてを敵に回すことを少し面倒で片づける咲耶さん。
「う~ん、確かに剣の回収を邪魔される恐れがあるのか、殴りこむ前に対策が必要か」
今すぐ行きたいのが鎮也の気持ちだ。
奪われた短剣も先程はっきりと見ることができた。あれも間違いなく鎮也の制作した聖雷剣、一秒でも早く取り戻したい。
「で、でしたら、ギルドマスターに相談してはどうでしょうか、このレフティアのギルドマスターは周囲の冒険者ギルドを束ねる総合支部長です。きっといい知恵を貸してくれますよ」
「ん~~…………面倒を避けるのはそれが一番か」
長考の末、鎮也は今すぐに殴りこむことを我慢した。
聖雷剣の回収という目的のため、マグマのような怒りを腹の底に飲み込んだのだ。
「でしたらさっそくギルドへ」
「待って教会に戻ってレオナと合流しないと、それに子供たちも放っておけないわ、ギルド支部で保護してくれる」
「そうですね、掛け合ってみます」
本来の険者ギルドはそんなことはしない、でも断ればイクスは提案も却下されることを警戒したのだろう。ギルドナイトはギルドの規則よりも鎮也たちの暴走を恐れているようだ。
「決まりだな、後片付けをして教会に戻ろう」
「後片付け?」
「こいつらをこのままにしておけないでしょ。一か所に集めるぞ、手伝ってくれ」
「わかりましたシズヤ様、ほらアレイも早く動く」
「わかったよ」
鎮也のお願いにリーザは嬉々としてアレイは嫌々な感じでゴロツキどもを一か所に運んでいく。
「何をする気なのですか」
「だから後片付けですよ」
こうして鎮也の指示のもとナグルトたちも含めたゴロツキどもが一か所に集められる。
「咲耶」
「了解」
鎮也は魔法のカバンから陰翼刀・六黒を取り出し咲耶に一つの頼みごと、内容を聞かずとも理解しましたと、咲耶は刀状態のヤマトを掲げると空中に水の球を作り出しゴロツキどもに落とした。
「ブハ~」
目を覚ましたゴロツキども、そこにすかさず鎮也が影魔法『催眠』を使用、強力な魔力に誰一人逆らうこともなく催眠状態へとなる。
やることは骨董店の時と同じだが、ウーゴットの手下とわかった以上、手心を加える必要は無くなった。
「いいかこれからお前たちは、これまで自分のしでかした悪事を保安隊本部で包み隠さず暴露するんだぞ、出頭する前には証拠もできる限りそろえて持って行け」
自分の悪事の証拠を抱えて出頭しろなど大金を積まれたとしても悪人が聞くはずがないのだが。
「わかった」
当たり前のように承諾した。
「なんて強力な催眠だ」
「そうなのですか?」
驚愕するイクスに、魔法のことをよく知らないリーザが尋ねる。
「精神操作系の魔法は難易度がとても高いのに、かける相手の精神力しだいでは抵抗されることが多いんだ。それなにこれだけの人数に一度にかけて誰も抵抗できないなんて信じられない」
聖剣を使っていたナグルトもゾイトイも同様に催眠にかかっている。幹部クラスにもなれば機密も扱うので精神支配への対策や訓練はしていたはずなのに。
「おっと忘れてた、追加でお前らが焼いた教会の修繕費を払え、有り金全部を教会に寄付しろ」
「わかった」
「ありがとうシズヤ様」
教会の修繕費と聞いてリーザが喜ぶ、彼女の前にゴロツキどもの財布が積み上げられていく。
「ほらアレイも頭をさげなさい」
「イッテ、わかってるよ、Fの兄ちゃん、ありとがとな」
耳を引っ張れながらもアレイもリーザと一緒に頭を下げてくる。
「どういたしまして」
魔法を知らないとは平和である。ただでさえ難しい催眠に追加注文をつけるなんて、鎮也の離れ技を一人理解している、いや理解してしまったイクスは言葉を発することができなかった。
「ああ後、武具や防具はもう必要ないだろうから売り払うことも忘れるな」
「わかった」
「また追加してるし」
傷は咲耶が回復薬で完全に治してくれたはずなのに頭が痛み、ギルドナイト様の常識が落としたガラスのように砕け散った。
後片付けを終えた鎮也たち五人は透徹の瞬間移動で教会へと一瞬で帰ってくる。
「すげぇ、ホントに一瞬だった!」
単純なアレイは瞬間移動に興奮して騒ぐが、このスキルの凄さも理解しているイクスはもう数えきれないほどの驚きの中にいた。イクスの知る移動系スキルは光魔法だけであり、使用の際は熟練した魔法使いでもかなりの精神を消耗する。
それを鎮也は対した集中もすることなく、隣の部屋に行くような感覚で使ってみせたのだ。
「これが伝説に謳われた力」
一人燃え尽きかけいるイクス。
鎮也たちの帰りに気が付いたレオフィーナが教会の子供たちと一緒にやってきた。子供たちは攫われたリーザの無事な姿を見て笑顔になる。
「お疲れ様ですマスター」
「こっちは変わりないようだな」
「はい、あれからは襲撃もなく平穏でした。マスターたちの方は何かあったようですね」
七星剣第一星として鎮也共に長く付き合ってきたレオフィーナは鎮也の中で渦巻いている怒りを感じ取ったようだ。
「ウーゴットの奴が生きていた」
「なッ、そうですか」
普段は余裕をもって行動するレオフィーナも表情を動かすほどの情報。
「その可能性もあったか、失念していました」
レオフィーナも鎮也と同じ結論に達したようだ。ウーゴットが同名の別人ではなく、本人である可能性を。
「ああ、俺も奴の名前を聞くまで考えが至らなかった。聖雷剣を奪ったのが奴なら生きていても不思議じゃなかったのに」
ただの人間だという固定概念から鎮也たちはウーゴットが死んだモノと勝手に決めつけていた。しかし聖雷剣の中にはあるのだ。ただの人間を百二十年の時を生かすだけの力を持った剣が。
「それではこれから殴り込むのですね」
表情はいつもの余裕をもった凛々しいお顔に戻っているのに、考えは鎮也と同じくものすごく過激になっていた。
「それがイクスさんの提案で、後々の面倒にならないようにウーゴットのつぶし方をギルドマスターと相談することになった」
「いえ誰もつぶし方の相談とは言っていないのですが」
イクスの提案はあくまでもウーゴットを敵に回した時の相談であってつぶし方ではない。
イクスは胃のあたりに穴が開いたような痛みに襲われた。




