第18剣『二本目、そして三本目』
「俺も一発ぶん殴りたい、あの赤い宝石の付いた剣の奴、教会を燃やしやがったんだ」
「教会を」
放火される前に攫われたリーザは火事のことを知らなかった。リーザはゾイトイを睨み付ける。
「私がおとなしく捕まれば、皆には手を出さないって言ったじゃない!」
「ああだからガキどもには手を出さなかったぜ、代りにボロい教会を焼いてやったのさ、街のゴミも掃除できてよかっただろ」
「テメェ」
また突進しよとするアレイをリーザが察知して剣の鞘でド突いて止める。
「ホントに学習しないわねバカアレイ、考えなしにあんたが突っ込むからイクスさんが生焼けになったんでしょうが!」
「リーザくん、その生焼けって表現はやめてもらえないかい」
確かに服は焦げ目だらけで腕にも軽度の火傷を負ってしまってはいるが、別に料理に失敗されたわけではない。
「ゴチャゴチャうるせえぞ、テメェら!」
取り囲んでいたゴロツキが一斉に襲いかかってくる。
イクスがそれにアレイがリーザを守るために勇気を出して迎え撃とうとしたが。
「ツリーサイクロン!」
リーザが剣を掲げて風魔法を唱えると、竜巻が発生しゴロツキどもを全員壁まで吹き飛ばした。
「はい?」
「ほらアレイぼさっとしない、道が開いたわよ」
「お、おお」
アレイがぶん殴りたい相手ゾイトイまでの間に障害物はすべて吹き飛ばされていた。
「なめるなガキが!!」
ゾイトイが巨大な炎を生み出すが。
「させない!!」
リーザが突風を呼んでアレイが走り抜ける風の道を作り出した。ゾイトイが生み出した濁った色の炎では風に阻まれアレイには届かない。
「うぉりゃ!!」
風の道を駆け抜けたアレイがゾイトイの腹を剣でおもっきり殴りつけた。だが斬れることはなく逆にアレイの剣が折れてしまう。
「あっ」
骨董店で買った安物の剣、無防備な腹を斬りつけてもダメなほどのなまくらであった。しかしそれでも腹を殴られたのだダメージは通っている。
ゾイトイは腹を抱えてたたらを踏んだ。
アレイは追撃しようと折れた剣を捨てて、拳で殴りかかる。
だがゾイトイもゴロツキどもをまとめる組織の幹部、姿勢を持ち直し真正面から踏み込むアレイへ剣を振り下ろしてくるが。
「だから、考えなしの真正面はやめなさい」
精霊剣・風二型を後ろへ構えスクリュウのようなかぜ気流をお越し推進力にしたリーザが地面を滑空して突っ込み、ゾイトイの顔面に強烈な飛び蹴りを食らわせた。
「って言ってるでしょバカアレイ!」
少女の蹴りとは思えない威力、ゾイトイの体は二回、三回と宙を舞い地面に叩きつけられた。
「あ、ああ、ごめん」
全身が悪寒に襲われ鳥肌がたったアレイはとても素直に謝った。
「う、うう、くそガキどもが」
「しぶとい」
「ギャァ!!」
叩きつけられても意識を失わなかったゾイトイへ風魔法を真上から叩きつけてトドメを指すリーザ。
「ふ~すっきりした」
譲渡されたばかりの聖雷剣をリーザは見事に使いこなしギルドナイトをも苦しめたゾイトイを撃破してみせた。
「おのれ!!」
この場で唯一残った敵、ナグルトがリーザへ斬りかかってくる。
リーザの持つ剣の性能に気が付き、最大戦力をすみやかに倒そうとしたのであろうが。
「あなたには借りがあるので、私の相手を先にしてもらいましょ」
ホウプシード改を拾いなおしたイクスが進行を止める。教会では想像だにしなかった奇襲で不覚を取ったが、汚名を返上しようとナグルトと対峙する。
「一度負けているのにいい度胸だ」
「イクスさん」
リーザが即座に援護できるように構えるが、それをイクスが止めた。
「リーザくん、手出し無用で頼む、こいつは私が」
「いちいちかっこつけるな」
ナグルトは双槍を回転させ遠心力で破壊力増しイクスを襲う。以前は剣が折れることを心配して受け流しに専念したイクスだが、今回はその攻撃を受け止めてみせた。
ホウプソード改は期待に応え双槍の攻撃に耐え、ヒビ一つ入ることはなかった。スキル『風の加護』も強化されており、刀身に纏った風は十分にその効果を発揮した。
「バカな」
以前は切り裂くことのできた剣に受け止められナグルトは大きく目を見開く。
それを隙と見たイクスは連続攻撃を畳み掛けた。
速度自慢のイクスの連撃、防戦になるナグルトはイクスに攻勢を崩すようにタイミングを計って双槍を分離させ二刀の短剣へとしたが。
「その技はもう知っている」
咲耶曰く初見殺し。まったく知らない相手ならば、そのギミックは絶大な効果を発揮するが、いざ警戒された相手に使ってしまった場合、意識を分離に向けてしまった瞬間、勝負は決定的なモノになってしまう。
「遅い!」
スキル『風の加護』と『初速』を同時発動、己の最大速度を出したイクスが分離した瞬間を狙って全力攻撃を打ち込んだ。その数六連。
まばたく間に六本の斬撃を受けたナグルトは抗うことはできずに地面へと沈む。
「ふ~」
大きく息を吐いたイクスが残心を切ってホウプソード改を鞘に納める。
ナグルトが倒れたことにより、この玄関ホールにいたゴロツキどもはすべて倒しきった。
「やったぜイクスの兄ちゃん、俺たちの勝利だぜ」
「あんたは足を引っ張っただけでしょうが、調子にのんな」
「イテ、イッテエってリーザ」
リーザに耳を引っ張られたアレイは涙を瞳にためる。
「いいじゃんか勝ったんだから、それよりそのすごい剣どうしたんだよ、まさかリーザもあいつらから盗んだのか」
「あ、あんたと一緒にしないでよ!!」
引っ張りだけでなくリーザはねじりまで加えた。
「アガッー!」
リーザからしたらアレイの短絡的行動で散々な目にあったばり、それなのに同じ組織から盗みを行うなど発想すらない。そんなことを口にするアレイの方がどうかしていると、耳をつかんでいた指に手加減が無くなる。
「イイッテ、千切れる耳が千切れる!!」
「よりにもよって何てこと言うのよ、この剣はシズヤ様が私に下さったのよ!」
「シズヤ様って誰だよ」
リーザの口から男の名前が出たとたんにアレイは不機嫌になった。
「私を助けくれたとてもすごい人よ」
何せ伝説の聖剣鍛冶師。
幼いころ、まだ教会が孤児院として機能していたころ、リーザはシスター見習いのトレイシアに聖剣鍛冶師が活躍した昔話をよくしてもらっていた。一番最初に憧れた伝説の偉人。
そんな憧れの人物をバカにするアレイにリーザはとても信じられなかった。
「アレイくん、一緒に来ただろ、彼らは裏手からリーザくんの救出に向かってくれたんだ」
「裏手じゃなくて真ん中からだったけどね」
「は? 真ん中ですか」
瞬間移動のことを知らないイクスには理解できないだろう。
「シズヤ様ってFの兄ちゃんのことかよ、ぜんぜんすごくないじゃんか」
「何てこと言うのこの口は!」
今度は耳ではなく唇を捻りあげた。
「ヒテェ~、ヒテェよリーサ」
口が変形してアレイはまともな言葉も発声できなくなる。
「リーザくんその辺で、そろそろここを出よう――危ない!!」
突如リーザへ目掛けて剣と火球が飛んできた。
完全に油断していたリーザとアレイを体を張って庇ったイクスの腕が火に焼かれ肩口を切り裂かれる。
「イクスさん!!」
「イクスの兄ちゃん!!」
いったいどこから飛んできた。
一番可能性が高いのはあの幹部の二人だと、倒れた場所を見れば、倒したはずのナグルトとゾイトイが起き上がってくる。
飛んできた剣はナグルトの分離した片割れで、火球はゾイトイが放ったモノだった。
傷が深く膝をつくイクス、倒れるのを我慢するのがやっとで全身を襲う激痛で立ち上がることすらできない。
「どうして、倒したはずだ」
斬られた肩を抑え、やっとの思いで声を絞り出した。
「まさかこいつを使わされることになるとな」
ナグルトが空の小瓶を投げ捨てた。
「高回復薬か」
ギルドナイトであるイクスはビンの正体を知っていた。ランクBであるイクスでも数回しか使用したことの無い高級な回復薬、飲めば致命傷でも数秒で完治させるほどの効能を持つ薬だ。
めったなことでは一般に出回らず、高位の貴族などが戦場に赴く際、数本だけ所持する程度だ。だからオークションに出品されようものなら、金貨百枚を超えることすらある。
そんな薬をナグルトとゾイトイは持っていた。
「高い薬使わせやがって、三人とも燃えカスにしてやる」
「ボスの剣の回収を忘れるなよ」
「わかってるよ」
ナグルトが残った片手剣をかざすと、投げつけた片割れが磁石のように吸い寄せられ元の双槍へと戻る。
傷がふさがり、武器も手元に戻したナグルトとゾイトイ、それに対しイクスは負傷で動けず、アレイは最初から戦力外、まともに戦えるのは聖雷剣を装備したリーザだけ。
いくら聖剣を装備していようとも、相手の二人も聖剣を持っている。そんな相手にイクスとアレイを守りながら戦うなどリーザには不可能である。
「小娘、貴様を先に始末してやるよ」
ナグルトが頭上で双槍を回転させながらジリジリと間合いを詰めてくる。
「簡単には殺さねぇ、まずは足を焼いて、次は腕を焼く、それから体のはじからジワジワを焼いてやるかな覚悟しろよ」
濁った色の火球を生み出し、そのトカゲのような長い舌で聖剣を一舐めしようとした所に。
「汚ねぇベロで俺の剣を舐めるんじゃねェ!!」
突如、何もない空間から姿を現した鎮也が、舌が剣に触れようとした瞬間、まさにギリギリのタイミングでゾウトイの顔面に蹴りを入れ舐めるのを防いだ。
顔面を蹴られたゾイトイ、先ほどのリーザの時は三回転だったが、チートボディの鎮也の手加減無用の蹴りは助走もつけていなかったのに、ゾイトイの体をきりもみさせ、壁をぶち抜き庭に頭から突き刺さった。
「あぶねぇ、危うく汚い唾液を付けられるとこだったぜ」
ゾイトイを蹴り飛ばすと同時に回収した剣に鑑定眼を発動させる。
「―――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル23
【名称】「フレア・エレメントⅡ(灰色化)」
【和名】「精霊剣・炎弐型」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】未登録
【分類】長剣 【レア度】☆☆☆★(4-1)
【長さ】120センチ 【重さ】2.4キロ
【聖剣核】ルビー
【スキル】
※封印中『雷魔法(小)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:小)
『火魔法(大)』…………使い手が火魔法を扱えるようにする(効果:大)
『小・身体強化(力)』……少しだけ力が強くなる。
【補足】
フレア・エレメントⅡ型。内包する魔力を調整して火魔法をより強化されている。炎と相性の良い力を上げる身体強化も付加。形状はスタンダードな長剣。
使い手は未登録であり、現在の所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。
―――――――――――――――――――――――――――」
「ゾイトイ何をしている早く薬を飲んで立ち上がれよ!」
「まだ持っているのか!?」
イクスは組織の財力に戦慄したようだ。これでは不死身の存在を相手にしているようなモノだと、しかし、ナグルトが庭へ向かって怒鳴りつけても反応がない。
「ああ無駄だぜ、意識失ってるから目覚めるまで薬なんて飲めないよ」
スキル『瞬間移動』は透徹のスキルであり装備していた。だから透徹のもう一つのスキル『雷魔法』を使い、足の裏にスタンの魔法をかけての蹴りであったのだ。
全身がしびれているはずなので、仮に意識が残っていたとしても電撃のショックで当分は指一本動かすことはできない。
「その剣も俺のだから返してもらうぜ」
ゾイトイは片付いたと、今度は双槍を構えるナグルトへ鎮也は手を差し出す。
「お前はそいつの使い手として不合格だ」
「ふざけるな、お前に不合格など言われる筋合いはねェ!!」
「それがあるんだよ」
鎮也は鑑定眼を発動させる。
「――――――――――――――――――――――――――
聖雷剣シリーズ シリアル77
【名称】「ダブルザッパー(灰色化)」
【和名】「双頭槍剣」
【製作者】星尾鎮也
【使い手】未登録
【分類】二対特殊剣 【レア度】☆☆☆★(4-1)
【長さ】160センチ 【重さ】2.8キロ
…分離後片方…【長さ】80センチ 【重さ】1.4グラム
【聖剣核】ブラウンクォーツ
【スキル】
※封印中『雷魔法(中)』……使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:中)
『分離合体』………ギミックの分離と合体を使い手が任意で使用できる。
『吸着』……………分離後、両方は磁石のように引き合っている。
【補足】
ゾロ目シリアルのダブルシリーズ。双頭剣、両端が刃となっており、柄の中心で分離、合体が任意で可能。また片方を投げても、もう片方が手元に残っているなら帰ってくる。不意打ちに特化した初見殺しのギミック剣。ちなみに初見殺しとは桜咲耶の命名である。
使い手は未登録であり、現在の所持者がふさわしくないためレア度がマイナス1、スキルの効果も軽減され灰色化している。
――――――――――――――――――――――――――――――」
「やっぱり俺の剣じゃないか」
鑑定眼を使わなくても一目で聖雷剣だと分かっていたが、状態が知りたかったのだ。灰色化に雷魔法が封印されていたのは、先の精霊剣たちと一緒である。
これは早急に回収して修繕しなければならない。
「鎮也くんと私たちの剣、返してもらいます」
鎮也の空間跳躍飛び蹴りのインパクトが強すぎて誰も気が付かなかったが、咲耶の共に瞬間移動してきていた。気配を殺してナグルトの死角に回り込んでいたのだ。
すでに槍の間合いよりも内側に踏み込み、ナグルトは慌てて双頭槍剣を分離させ二刀になるが、咲耶の速度はヤマトの一刀でナグルトの二刀の速度を凌駕した。
「ハァ!」
気合の掛け声とともに、ナグルトの両手の甲を峰で内ち抜く、ナグルトの握力を奪い双頭槍剣を手放せさせ、続く首筋へ打ち込みで意識を刈り取った。
「峰内ちなのを感謝してよね」
咲耶が振りぬいた姿勢で止まると、彼女の後を追いかけ尻尾のように舞っていた黒く長い髪が肩口に舞い降りる。
こちらも意識を完全に奪ったので回復薬を使用して復活することもできない。
こうして裏組織の幹部が持っていた二振りの聖雷剣を回収することに成功した。
ようやく三本目の回収。512/3




