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第17剣『聖剣譲渡』

 鎮也と咲耶はリーザを追いかけた。リーザはアレイたちの怒鳴り声が聞こえる場所へと向かって走っており、途中で遭遇したゴロツキはリーザの風の魔法を纏った蹴りで吹き飛ばされていく。


「結構いい腕してるな彼女、風魔法を使うのか」

「接近戦闘の補助として使ってるね、足技が多いのは普段手には武器を持っているのかな?」


 追いかけながらリーザの戦闘スタイル分析する鎮也たち、今までは策敵の結果から遭遇するのも一人二人なので止めずにきたが、そろそろアイレたちの居る場所に到着する。さすがにあそこには相当数の敵が待ち受けているので待ったをかけた。

 玄関ホールにたどり着く前に鎮也がリーザの前に瞬間移動して抱き留める。


「ちょっとストップだ」

「放してください、早く行かないと、アレイを叩く前に殺されちゃいます!」

「アレイ哀れだ」


 心配して言っているのだろうが、助けにきた相手にひどい言い回しである。


「とりあえず落ち着こう、アイレにはギルドナイトが一緒なんだ簡単には殺されないさ、それよりリーザが素手で殴りこむ方が危険だ」

「でも」

「君のさっき言っていた通り、きっかけはアレイがあいつらから剣を盗んだからだ、この場は逃げ出してアレイとは無関係と主張すれば君も教会にいた子供たちも、もしかしたら見逃してくれるかもしれないぜ、それでもアレイの元へ行くのか?」


 少しずるい言い回しをする鎮也、事実このままリーザに逃げてもらった方がアレイとイクスの救出も楽に実行できるのだが。一つだけ見極めたいことがあった鎮也はあえて自分たちがゴロツキどもを倒すという選択肢を提示しなかった。


「せっかくの助言ですが、すみません。あいつは手のかかる弟のような存在で、自分の命が危ないからって見捨てることはできません。助けてもらった恩も返せずごめんなさい、どうかお二人だけで逃げてください、私は一人で行きます」


 リーザは鎮也を真っ直ぐに見つめ返して逃げないと宣言した。


 とても強い心の持ち主の少女リーザ、そんな彼女の想いに魔法のカバンに中にしまわれている一振りの聖剣が反応を示した。


「うん、合格」

「は?」

「風の使い手という所にも運命を感じちゃうね鎮也くん」


 鎮也が合格と言い渡したことを咲耶も自分のことのように喜んでいる。しかし当のリーザが自分が何を合格したのか理解していない。


「運命か確かにそうかも、まだ手元にはこの一振りしかないのにな、咲夜決めていいよな」

「もちろん、レオナも反対しないよ絶対」

「あ、あの何の話でしょうか?」

「リーザちゃんは選ばれたんだよ、おめでとう」

「選ばれた?」

「そう、こいつにリーザは選ばれたんだ」


 鎮也は悪ガキのようなニヤリとした笑みを浮かべ魔法のカバンの中から一振りの剣を取りだした。風を纏い埋め込まれたエメラルド石が緑色の光を放つ星色の聖剣を。


「そ、その剣は」

「こいつは聖雷剣シリーズ、シリアル13『精霊剣・風弐型(エアー・エレメントⅡ)』だ」

「エアー・エレメントツー」


 リーザの視線が精霊剣・風弐型に釘付けになる。リーザの瞳には剣しか写っておらず、埋め込まれたエメラルドにはリーザしか写っていない。鎮也はリーザと精霊剣・風弐型が共鳴していると感じ取り、間違いないと確信する。


「これをリーザにあげるよ」

「えッ!!」


 見るからに高そうな剣をくれると言われたリーザは目を見開いた。


「我、聖剣鍛冶師(ライジングスミス)・星尾鎮也と」

「七星剣第二星・桜咲耶は」

「「汝リーザを聖雷剣の使い手として認める」」

「聖剣鍛冶師ってお伽話に出てくる伝説の……」

「聖なる雷の剣の使い手として、その尊き魂に恥じぬように願う」


 精霊剣・風弐型が鎮也の元から離れリーザの腕に吸い寄せられるようにおさまった。


「これで譲渡は完了した」

「すごい、まるで風が語りかけてくるみたい、剣の使い方が流れ込んでくる」

「――――――――――――――――――

 聖雷剣シリーズ シリアル13

【名称】「エアー・エレメントⅡ」

【和名】「精霊剣・風弐型」

【製作者】星尾鎮也

【使い手】リーザ

【分類】長剣    【レア度】☆☆☆☆(4)

【長さ】120センチ  【重さ】2.0キロ

【聖剣核】エメラルド


【スキル】

『雷魔法(小)』…………使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:小)

『風魔法(大)』…………使い手が風魔法を扱えるようにする(効果:大)

『小・身体強化(すばやさ)』……少しだけすばやく動けるようになる。


【補足】

 エアー・エレメントⅡ型。内包する魔力は雷と風の両属性を使い手に与え、すばやさを上げる身体強化をかける。スタンダードの長剣よりも刀身が若干薄いスピード型。スキルの雷魔法を弱体化させ代わりに風魔法を強化した。

――――――――――――――――――――――」


 鑑定眼でも間違いなく使い手はリーザとなっている。聖雷剣初めての譲渡は無事に成功した。






 時はアレイが屋敷に踏み込んだ時間まで撒き戻る。


「剣を持って来たぞ、リーザを返せ!!」


 正面から踏み込んだアレイは、一階と二階が吹き抜けになっている広い玄関ホールで屋敷中に響き渡るように大声で叫んだ。

その叫びが山彦のように屋敷に広がっていくとゴロツキどもが奥から庭から、横の控室からゾロゾロと姿を現した。


「ちょっとアレイ君、いくらなんでも考え無さすぎだ」


 追いついたイクスが現状に天を仰ぐ。

 人質がいる圧倒的不利な状況で取り囲まれるなど考える限り最悪の展開だ。


「いせいのいいガキだな、まだこの場所も伝えてないのにどうやって分かった」

「鳥に教えてもらった」

「……アレイ君正直すぎる」


 アレイは嘘のつけないタイプだとイクスは確信する。

 いまどきここまで真っ直ぐな少年は珍しいが時と場所を考えてほしい。連れてきたことを後悔するギルドナイト。


「鳥だ? まあいい、早く盗んだ剣を返しな」

「リーザが先だ、リーザはどこにいる」

「剣を返せば解放してやるさ」

「お前らの言うことなんて信じられるか、奴隷だって売り物にしてるのは知ってるんだ!」


 イクスもリーザとは何度か冒険者ギルドであったことがある。ブラウンの髪のかわいいと凛々しいが合わさった少女、奴隷として売りに出されれば高値で買う富裕層はいるはずだ。

 そんなことはイクスよりもこいつらの方が分かっている。素直に返すはずなど無い。

 取り戻すにはどうやったって戦いは避けられないだろう。でも少しでも有利な状況を作り出さなければとイクスは必至に思考をめぐらせた。


「アレイくん、剣を私の方に差し出してくれ」

「なんでだよ」

「リーザくんを取り戻すために私に作戦がある」

「なんだかわかんなけど、わかった」


 アレイはイクスに指示通りに包みに包まれたままの短剣をイクスの方へ差し出す。


「リーザくんの解放と同時に剣は返そう、彼女はどこにいる!」

「奥で丁重に扱っているさ」

「今すぐここへ連れてきてくれ、さもなければ、この短剣にキズをつけさせてもらう」

「な、なんだと」


 動揺するゴロツキどもを信じ込ませるために、修復してもらったホウプソード改を抜き放ちスキル『風の加護』を発動、風を纏い唸りをあげる剣を短剣へと近づける。


「ま、待って、そんなことをすればボスが黙っていないぞ」

「だったらすぐにリーザくんを連れてくるんだ」

「グッ」


 ゴロツキが悔しそうに唇をかみしめる。

 リーザを連れてこない限り本気で実行すると脅しをこめて剣をさらに近づける。


「おい、小娘を連れてきな」

「でもナグルトさん」

「いいから連れてこい、この男はホントに実行しかけねぇ」


 ゴロツキどもと睨みあっていると、奥から一人の逆立った髪の細身の男が姿を現した。教会でイクスを斬り伏せた男、初見殺しの聖剣を持つナグルトだ。

 ナグルトはリーザを連れてくるように指示を出す。


「やけに素直ですね」

「素直じゃこまるのか。それよりよく生きていたな、ギルドナイトさんよ」


 イクスの狙いはここで時間を稼ぎ鎮也たちの救出に賭けたのだが、作戦が裏目に出てしまった。まさかここまで素直に要求を聞くとは、迎えに行ったゴロツキと鉢合わせしないことを願いながら、こちらに連れてきてくれるなら自分が助け出すと瞬時に作戦を立て直す。


「日ごろの行いがよかったので、素晴らしい出会いがありました」

「それは結構なことだな、こっちはボスの剣を取り戻さないと俺たちがただじゃ済まないんでね、小僧、小娘を連れてくるまで大事に剣を抱えてな」

「それはちょっと慎重になり過ぎじゃねぇかナグルト」


 二階のテラスから暑苦しい男の濁声が降ってきた。


「ゾイトイか」


 テラスより赤い服をきた厳つい男が飛び降りてくる。ゴロツキたちが畏怖と敬意を払っているナグルトにタメ口をきくことから、この男もナグルトと同じ組織の幹部なのだろう。腰に真っ赤なルビーが嵌め込まれた長剣を差し、顔には大きな刀傷、いかにも脛に傷を持っていそうな男。


「ナグルト、こんなやつら袋にして剣を奪い返せばいいじゃねえか」

「それではボスの剣が傷つく可能性がる。仕返しは剣を取り戻してからでも遅くはない」

「傷なんてつかねぇよ、あれは伝説の聖剣だぜ!」


 ルビーの嵌め込まれた長剣を抜き放つ、その刀身はナグルトの持つ初見殺しの槍剣と同じように灰色に濁っていた。


「ちょっと手荒に扱っても問題ないね!!」


 ゾイトイが振りかぶった剣を振り下ろしと、濁った色の火柱が一直線にアイレに飛んでくる。


「危ない!」


 イクスは風を纏ったホウプソード改で炎を切り裂いた。


「やるねぇ兄ちゃん」


 炎を弾かれても悔しそうなそぶりは見せず、逆に面白い獲物がいたとでも言わんばかりに舌舐めずりをする。


「ヤツはギルドナイトだ」

「へぇ、なるほどね、それなら少しは楽しめそうだな」


 ゾイトイの口が吊り上り邪悪な笑みを作り、口からトカゲを思わせる長舌を出す。まさに獲物を前にした爬虫類のような男であった。


「炎を噴き出す剣、あれも魔剣の類か」

「残念外れだ、これは伝説に数えられる聖剣の一本だぜ」

「炎使い」


 炎のキーワードからアレイは一つの事案を思い出したようだ。


「炎、さてはテメェが教会を焼いた犯人だな!!」

「おお、ナイスな推理、正解だぜ」


 ゾイトイは手を叩いてアレイの推理を賞賛した。


「テメェ、俺たちの家をよくも焼いてくれたな!!」


 包みを懐にしまい、アレイは自分の剣を引き抜くとゾイトイに斬りかかる。


「なんだよギルドナイトが向かってこないのかよ」

「いけないアレイくん!」


 剣を突き出し突撃していくアレイ、それをゾイトイは楽に交わしてアレイの腹を蹴り上げた。剣を使わずに蹴りにしたのはゾイトイが余裕をかましたわけではなく、アレイのすぐ後ろから追いかけていたイクスを警戒してのこと。


 ゾイトイはアレイを足で押し出しイクスの斬撃を受け止める。

 濁った色の炎が吹き上がり、ホウプソード改を溶かそうとするが風の加護を発動している刀身は溶けることなく耐えてみせた。


「なかなかいい剣じゃないか、俺の剣と刃を合わせて溶けないなんてなかなかだぜ」


 ゾイトイの剣の刀身が灰色と赤を混ぜたような色に染まり、つばぜり合いをしているイクスの鼻に焦る匂いが届く。炎を出すだけではなく、剣自体が高温となっている。こんな剣の斬撃をまともに受けたら重装鎧でも切り裂かれてしまうだろう。


「並みの剣ならドロドロに溶けているところだぜ」

「確かに剣はすごいかもしれないが、使い手が二流なら私にも勝ち目はある」


 アレイがされたことのお返しとばかりの、イクスもゾイトイの腹を蹴り上げた。


「グホ」


 うずくまった隙の斬りつけようとしたか、それはナグルトが許さず双槍を突き出してきてイクスは後方に下がらされた。


「油断のしすぎだぜゾイトイ」

「誰が助けろといった、あのまま近くにいたら確実に燃やしてやったによ」


 ゾイトイの剣から炎が噴き出す。


「おいテメェらそいつらを取り囲め」


 周囲にいたゴロツキどもがイクスとアレイを取り囲み逃げ場をふさぐ。


「いいか、逃げようとしたら円の中心に押し戻せよ」

「なんだよこいつら!」


 アレイが取り囲む連中にどなりつけるが、ゴロツキどもは楽しそうに歯茎をだしてニヤリと笑うだけで答えない。


「そいつらは檻だよ、お前らを逃がさないためのな」


 ゾイトイが大きな火球を作り出しながら説明を始めた。


「これからこのゾイトイ様主演の公開ショーが始まるのよ、舞台はその円の中そこにこの火球を打ち込んでやるからよ、素敵なダンスを踊ってくれや」

「公開処刑ショーか」

「さすがギルドナイトだ、その通り少しは楽しませてくれよな、すぐに燃え尽きるんじゃねえぞ」


 円の中心に向かって火球が投げ込まれた。


「クッ」


 その火球をイクスがホウプソード改で切り裂いて防ぐ、そばにはアレイがいるので避ける選択は選べない。


「イクスの兄ちゃん!」

「大丈夫だこれくらい」

「さすがさすが、それでこそ俺たち冒険者が憧れのギルドナイト様だ」


 ギルドナイトに正面から戦いを挑むなど本来なら考えられないことだ、世界規模の組織である冒険者ギルドを敵に回すなど支部のある街には立ち寄ることさえできなくなるのに、この街レフティアだけは特殊な地域であった。それだけ裏の組織が力を持っているといこと。


 次々に投げ込まれる火球をイクスは必死に防ぐが、数の多さに徐々に防ぎ切れなくなっていく。飛び散る火の粉が服を焼きイクスの肌を焦がす。


「兄ちゃん!!」

「大丈夫」

「いいね、よく粘るね」


 長いベロで舌なめずりをするゾイトイ、完全に遊んでいる。


「畜生、遊びやがって!」


 アレイは我慢しきれずゾイトイへと向かって走り出すが、取り囲んでいるゴロツキたちに妨害され円の中へと弾き返され転がされる。


「痛って~」

「そら、痛がってる暇はないぞ」


 ゾイトイがイクスから離れたアレイを狙って火球を放つ。


「ゾイトイ、そのガキが剣を持っているんだぞ」

「問題ねぇよ、小僧を消し炭にしても剣は焼きのこらぁ」


 倒れこんだアレイには避けることができない。


「アレイくん!?」


 体力を消耗させられたイクスも反応が遅れてしまった、いくら腕を伸ばしてもアレイへ向かう火球には届かない、最後の手段として。


「頼むホウプ!」


 ホウプソード改を火球へ直接投げつけた。

 火球はアレイに当る前に破裂したが、イクスの武器が無くなってしまった。


「おおさすがギルドナイト様だ、ナイトと名乗るだけのことはあるぜ」

「チィ」


 普段は下品な行為だと舌打ちを嫌っていたイクスが思わず舌打ちをしてしまう。


「でもこれからどうすんだ」


 無数の火球がイクスを襲う、いくらギルドナイトといっても剣がなければ防ぐことはできない、イクスは無念を抱き死を覚悟したのだが、思いもしなかった助けが風に乗って舞い降りてきた。


「っこのバカアレイッ!!」


 イクスとアレイの周りに竜巻が起こりすべての火球を吹き飛ばす。


「この声リーザか?」

「リーザかじゃない、このバカアレイ」


 二人の間に重力を無視し鳥の羽のようにフワリと舞い降りたのは、捕まっていたはずの少女リーザであった。


「お前、つかまってたんじゃ」


 アレイ、それにイクスはリーザを助け出すために奮闘していたのに、助け出す前にリーザ方から自分たちの元へやってきた。


「とっくにシズヤ様たちに助けてもらったわよ」

「え~~」

「え~~でもない、あんたは考えもなしに突っ込んでイクスさんにも迷惑をかけるな!」


 助けに来たはずの少女から説教されるアレイ、イクスはさすがにアレイを哀れだと思ってしまった。


「おいナグルトよ、人質がどうして自分から飛び込んできたんだ」

「逃げられたんだろ、小娘一人満足に閉じ込めておくこともできないのか」


 仕切り役の二人は機嫌悪く唾を吐き捨てる。


「おいガキ、小娘は返してやったんだ、さっさとボスの剣を返せ」

「ふざけんな、リーザは自分で脱出してきたんだろ、だったら返す理由はないね」

「ふざけているのはどっちだ、殺さないようにやさしくしてやってりゃ付け上がりやがって、おいお前ら、もう手加減はいらねえヤレ」


 囲んでいたゴロツキどもが光る得物を一斉に抜き放つ。


「何がやさしくだ、剣を返せばどうせ殺すつもりだったんだろ」

「リーザくん、僕の後ろへ何とか突破口を開くから、アレイくんと一緒に逃げるんだ」


 ホウプソード改を手放してしまったイクスは素手のまま二人を守るように前へ出る。剣があってもできるかわからないことを、イクスは命を懸けてもやり遂げると闘志を燃やしたのだが。


「その必要はありませんよ、突破口は私が作ります。それにあいつらは一発ぶん殴らないと気が済まないから、まだ逃げない」

「へ?」


 イクスの闘志が消火されるほどの言葉がリーザから返ってきた。

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