第16剣『人質救出』
鎮也が掲げた雷蛇鎚ミュルニョルより小さな稲妻がほとばしりホウプソードの欠片たちへと落ちていく。
ホウプソードは雷の魔力を纏い、レオフィーナの手から浮かび上がると、鎮也のまわりへ吸い寄せられるように集まり浮遊する。
さらに鎮也は魔法のカバンから加工用に残していたエッジオーグルの魔咳を取り出し、ミュルミョルで殴り付けた、雷撃を纏ったその鎚で撃たれた魔咳は砂の粒のように粉々に砕け鎮也の回りを土星の輪のように周回する。
「ホウプソード、お前の理想の姿を再現してやるぜ、早く鋭く、主と共に最速を目指せるように、甦れ」
鎮也がミュルミョルを振るう。
空中に浮かんでいるホウプソードへと振い落す。
青白い火花が飛び散り鎮也の魔力とホウプソードが共鳴する。カンカンカンととても綺麗な金属のぶつかり合う音を響かせながら。
「雷による錬成、これは伝説の……」
ギルドナイトであるイクスは鎮也の正体に気が付いたようだ。
鉄の剣は火によって鍛えられることは子供でも知っている常識、だが過去に一人だけ火ではなく雷を使った伝説の鍛冶師が存在した。
「まさか、あなたは」
「鎮也くんの作業中だから静かにね」
鎮也へ近づこうとしたイクスの前に咲耶が割り込み、人差し指を唇の前に立てて止めた。
「あ、ああ、すまない」
魔咳だった粉は鎮也の作業に合わせて、切断された場所へと流れ込んでいく、そこを鎮也が叩いて鍛え、さらに流れ込んでは鍛える。それを繰り返すこと十数回、ホウプソードはブロックでも繋げるように元の姿へと戻っていく。
「雷鎚錬成、生まれ変われホウプソード、新たな名は『ホウプソード改』だ」
雷光と共に新たな姿となってイクスの剣は復活を遂げた。
「―――――――――――――――――――――――
【名称】ホウプソード改
【製作者】ガジル・タターン&星尾鎮也
【使い手】イクス
【分類】長剣 【レア度】☆☆☆(2+1)
【長さ】122センチ 【重さ】2.0キロ
【魔剣核】魔核C級
【スキル】
『風の加護』……使い手の動きを風がサポートしてくれる。
『初速』…………瞬発力があがり一歩目から全速力が出せる。
【補足】
破壊されたホウプソードを鎮也が雷鎚錬成で改修した。素早さ重視のイクスの合わせ初速のスキルを追加。
―――――――――――――――――――――――」
「おし、完璧だな」
レア度も上がりスキルも一つ増えている。鎮也の狙った通りの仕上がりであった。
「はいイクスさん」
出来上がった剣をイクスへと手渡す。
「これは!!」
イクスも手に持った瞬間感じ取ったようだ、ホウプソードが強化されていることを。
「すごい、触っただけでこの剣の使い方が伝わってくる、以前とは比べ物にならないほど、剣としての格もあがってる」
「それが分かるようになったのは、そのホウプソードがイクスさんを主と認めたからですよ」
鑑定眼にもちゃんと使い手の項目が追加されていた。
レア度三で主を選ぶほどの意思を持つなど、ホウプソードを作った職人はかなりの腕の持ち主であったのだろう。
「ここまでしていただき、どんなお礼をしたらいいか」
「いいですよお礼なんて、こっちは好きでしただけ、やっぱりいい使い手にはいい剣を渡さないとね」
「ありがとうございます」
「それより多分大丈夫だと思うけど少し扱ってみて感想きかせて、違和感があったら修正するから」
「何から何まで感謝します。では少しだけ外させてもらいます」
深く頭をさげたイクスは少し場所を外し新しくなったホウプソード改の手触りを確かめに行った。
「いいなイクスの兄ちゃん、なあFの兄ちゃん、俺の剣も強くしてくれよ」
「まあ、やってやってもいいけど、あいつらの居場所がわかったぞ」
「ホントか!!」
先ほど飛び去ったばかりの鴉の内の一羽が舞い戻り、鎮也の肩に降り立った。
「見つけたんだろ」
当然ですと宣言するように、六黒は胸を張り翼を広げてみせた。
六黒の先導で辿り着いた場所は、人の住んでいる気配がない街の一角であった。
家は無数に点在しているのに人は全くと言っていいほどない、まだ昼間だというのに肌寒くさえ感じてしまうほどの静けさだ。
「なんかここだけゴーストタウンだな、同じレフティアなのか疑いたくなる」
「間違いなくレフティアですよ」
人質奪還にこのゴーストタウンにやってきたのは、アレイに鎮也、咲耶、そしてギルドナイトであるイクスの四人。レオフィーナは万が一また教会の襲撃されることを警戒して子供たちの守りに残ってもらっている。
「ここは以前、帝都からやってきた豪商が店を構えていたのですが、レフティアの裏を取り仕切る組織と敵対して」
「潰されたのか」
「ええ、かなり強烈な嫌がらせがあったみたいです。その結果、豪商だけでなく近隣の住民までこの地区から離れていきました」
「どんだけ力があるんだよ、その裏組織」
近隣の住民にまで被害が出るほどあからさまに動いて、保安隊から見逃されているなんて。
「ヤツらはこのレフティアの発展に大きく貢献したのも確かなんです。保安隊の活動費の半分はヤツらの出資という噂もあります」
「最大のスポンサーなんだ」
「そうとうお金を持っているのね」
保安隊に収益はなく、出資してもバックマージンは入るわけではない。自分たちの悪事を見逃してもらうにしても採算はとれていないだろう。
「この街一番の金持ちなのは間違いありませんね。そんな組織がアレイ君の持つ剣一本を必要に狙うのは少し違和感がありますが」
「金持ちなら剣の一本ぐらい見逃してくれってんだよ」
元はアレイが剣を盗んだことが原因とはいえ、かなりの数のゴロツキを動かし剣を取り戻そうとしている。確かに聞くだけの資金を持っているなら剣の一本ぐらいに目くじらを立てるのはおかしいと普通なら思うであろうが。
「この剣の本当の価値を知ってるってことだな」
「覚悟はしていたけど、やっぱり鎮也くんの剣が悪用されているのは気分が悪いわ」
咲耶の表情が少しだけ暗くなる。分かっていても望んでいない現実を突き付けられるのは辛いもの。まだアレイの抱えている剣が何かを確認してはいないが、聖雷剣の中でも高レアの代物であるならば城一つを買うほどの大金をつぎ込んでも無駄にはならないだろう。
「Fの兄ちゃん、これは俺の剣だからな」
アレイは絶対に渡さないと両手で掴み直した。教会では冷静さを取り戻したようであったが、リーザという少女が捕まっている場所に近づくにつれまた冷静さを無くしつつある。
「そのことは後できっちり話をつけようぜ、この件が片付いたら」
一つの屋敷の前に五羽の鴉がとまって監視していた。ここが誘拐された少女が監禁されている場所、周囲の家屋よりも二回り以上大きかった。
「さっき話にでた豪商の屋敷か」
「今は潰した連中の根城になってるのね」
荷物を整理するためだろか、庭も大きく作られているのが崩れた壁の隙間から見て取れる。
「さてどう動こうか」
人質がいる。素直に剣を渡しても人質を返してはくれないだろう。なにせ相手はこの街を裏を仕切っている組織だ。目的の剣を取り戻せば仕返しに襲ってくる可能性の方が高い。
「そんなの決まってる、リーザをすぐに取り戻すんだ!!」
「あ、おい」
制止する暇もなく、アレイは正面から門を蹴り破って堂々と乗り込んでいってしまった。
「剣を持って来たぞ、リーザを返せ!!」
傷んでいた門は蹴りで倒され、その奥からアレイの叫びが響いてくる。
「あ~あ、真っ正直から行っちゃたよ」
「私はアレイくんを追いかけます、鎮也殿たちはリーザくんを探してください」
「了解、俺たちは裏に回ってこっそり人質を探します」
「よろしくお願いします」
イクスもアレイを追いかけ正面から飛び込んでいった。
「鎮也くん、けっこうあの二人気に入ったでしょ」
「まあね、イクスさんはホウプソードと出会ってなかったら、聖雷剣を譲渡したくなる剣士だよな」
「アレイくんの方は」
「ん~、譲渡者としては現状は保留かな、まだ一度も剣を振るった姿を見てないし」
屋敷の中から戦闘音が聞こえてきた。
「始まったみたいだよ」
「こっちも開始しますか」
鎮也は魔法のカバンから突撃剣トロンバトルナードを取り出し地面に突き刺した。
「『策敵』」
屋敷を対象に策敵のスキルを発動、屋敷内に複数の人が動き回っていることが手に取るように伝わってくる。
玄関近くの小さな気配はアレイでそれを守るように動いているのがイクスだ。二人を囲むように動きまわっているのはゴロツキたち。
鎮也は探索の範囲を屋敷の奥へと飛ばしていくと、厚い壁に囲まれた区画を見つける。ここは元豪商の屋敷、おそらく商品などを納めていた蔵だろう。その蔵の中に数人の動く気配と一つ全く動かない気配、これが捕まったリーザという少女だろう。
柱に縛り付けられ動けないようだ。
「発見、咲耶」
「うん」
咲耶がトルナードを握っている鎮也の腕に自分の腕をからませてくる。
鎮也は空いている手で透徹を取り出すと『瞬間移動』を発動させた。火事の教会で使用したのと同じ『策敵』からの『瞬間移動』コンボ。籠城などをしている相手に最適な方法だが、人質救出などの奇襲作戦にも絶大な効力を発揮できる。
瞬間移動した先は薄暗い部屋であった。まだ昼間で太陽が天高く登っている時間なのに窓が少なくロウソクで明かりを取っている。
「やっぱり元は蔵だな」
窓が少ないのは商品を湿気や乾燥から守るために太陽の光をできる限り入れず、室内の気温を一年を通して変わらないように作られている。
「ちょっと離れなさいよ変態!!」
「いい声じゃねぇか、オレ様にもっとその声を聴かせてくれよ」
蔵の奥から少女の叫びが聞こえてくる。柱に縛り付けられている少女にいたずらをしようとしている現場であった。
「はい、そこまで」
「フンギャ~」
蔵の入り口を警戒していたゴロツキたちは、突然蔵のど真ん中に現れた鎮也と咲耶に度肝を抜かれ、少女にちょっかいをかけていたゴロツキは鎮也に尻を蹴りあげられるまで、その存在に気が付きもしなかった。
「君がリーザで間違いない」
鎮也はゴロツキどもを無視して柱に縛り付けられているブラウン色の短い髪をした少女に質問をする。少女は驚いた表情のまま首を縦に振って質問には答えてくれた。
「助けにきた、咲耶は彼女の保護を」
「了解まかせて」
蔵の中にいるゴロツキは全部で六人、この程度なら鎮也一人で十分だ。
「カッコつけんなよツナギ野郎!」
トルナードを室内で使うには威力が有り過ぎて倒壊の恐れがあるので、トルナードを魔法のカバンにしまい鎮也は透徹のみでゴロツキどもの相手をすることにする。
大十手・透徹。十手とは十本の手ほど使い道があるから十手と呼ばれるようになった。単純に相手を打ち倒す棒としても使えるし。
「グフ!」
一人のゴロツキが脳天に透徹を食らって失神する。
他にも十手の使い道として、形状を利用した武器破壊などもできる。
「俺の剣が!?」
剣をへし折りまた一人の意識を刈り取る。
「飛び道具を使え!」
ここは室内である派手な魔法は使えないため、ゴロツキたちは鎮也から距離をとり壁に掛けられていた弓矢を取る。
「うん、これがただの十手だったら間違ってない対処だけど、残念」
飛来する矢を鎮也は苦も無く透徹で叩き落とす。
「こっちにも飛び道具あるんだな」
矢の攻撃がわずかに止んだ瞬間、鎮也は透徹で床を思いっ切り叩いたと同時にスキル『飛打撃』を発動、叩かれた床にはキズ一つ付かず、打撃の衝撃は床を伝って飛びゴロツキどもの足、正確には弁慶の泣き所へ直接打撃をくわえた。
「っぁあ!」
「タンスの角に小指をぶつけたような悲鳴だな」
弓を構えていたゴロツキたちはまともに悲鳴を上げることもできずに足を抱えて倒れこむ。
だが一人、痛みで涙を浮かべながらも弓矢を放ったゴロツキがいた、それも鎮也を狙ったのではなく人質で柱に縛り付けられているリーザを狙って。
だがすでに咲耶がリーザの守りに付いていたので。
「セイ!」
流れるような居合い斬りで矢は縦に真っ二つに斬り落とした。
「さすが咲夜」
「うそだろ!」
「おまえも大人しく寝てろ」
咲耶の離れ技に愕然としたゴロツキは鎮也の接近に気が付かず透徹を食らわせて意識を刈り取った。
わずか数分で蔵の中にいたゴロツキどもは鎮也たちによって制圧された。
「あ、あの、ありがとうございます」
咲耶によって拘束から解放されたリーザが鎮也の元までやってきてお礼をのべる。
歳はアレイと同じくらい十二、三歳位の少女であった。
「どういたしまして、さぁ脱出しようといいたいけど」
透徹を使いえばこのまま外へ逃げられる。人質も救出したしそれが一番楽な方法であるのだが。
「鎮也くん、あの二人を回収しないと」
「そうだよな」
蔵の外から男たちの激しく言い合う声が厚い壁越しでも聞こえてくる。
「外でも誰か戦っているんですか?」
「ああ、君の仲間のアレイとギルドナイトのイクスさんって人が」
「アレイ、アレイもここにきてるの!?」
「君を心配して、助けるって一番に飛び込んでいったな」
「アレイが……」
リーザは俯き体を震わせる。
「リーザちゃん、大丈夫」
咲耶が心配してリーザに駆けよる。人質にされていた時の恐怖がここにきて襲ってきたのかとも思ったが、それは勘違いであった。
「あんにゃろ! 何が私を助けるよ元はと言えばアレイが剣を盗んだから私がこんな目にあったんでしょうが!!」
どうやら体が震えていた原因はアレイに対しての怒りによるものだったらしい。
「一度、引っ叩いてやらないと気が済まないわ。ついでに私を誘拐した連中もぶん殴る!」
「あ、おい」
人質だったはずのリーザという少女は、救出にきた鎮也たちを蔵に残しアレイたちの声がする方向へ走って行ってしまった。
「ねえ鎮也くん」
「なんだ」
「リーザちゃんとアレイくんってけっこうそっくりだね」
「ああ、俺もそう思ってたとこ」
とりあえず追いかけるかと、どっと疲れた感じてしまった鎮也と咲耶は重い足取りでリーザの後を追いかけた。




