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第15剣『初見殺し』

「咲耶、消火だ! レオナはイクスの手当てを!」

「ヤマト行くわよ」

「了解マスター」


 燃える教会、倒れているイクス、さらにはおびえて蹲っているアレイよりも年下の子供たち、現状を見て鎮也が素早く指示を飛ばす。


「アレイ、教会には何人いたんだ」

「え?」


 あまりの惨事に固まってしまっていたアレイの意識を呼び戻し、教会にいたであろう子供たちの人数を確認する。


「ここには何人いたんだ!」

「じゅ、十三人」


 震えている子供たちは十人しかいない、まだ三人は教会の中にいるのか。


「トルナード」


 魔法のカバンから突撃剣トロンバトルナードを取り出し、その巨大な刃を地面に突き刺した。そしてスキルの一つである『策敵』を発動、教会の中に人はいないかを瞬時に調べる。

 反応はあった、教会の中に二つの小さな気配、動いておらずその場でうずくまっている。自力での脱出は不可能そうだ。


「咲耶、教会を崩さないようにな」

「もちろんよ任せて!」


 狼から太刀へと戻ったヤマトを使い、咲耶は水を呼び出し消火していく。


「透徹」


 今度は大十手・透徹を取り出して気配を探知した場所へスキル『瞬間移動』を発動させる。トロンバ・トルナードと透徹のスキルを組み合わせたコンボ技。


 鎮也の体が瞬時に教会内部へと移動する。

 教会の中はすでに視界が全くきかないほど黒煙が充満していた。


「弱めのツリーサイクロン」


 鎮也は風魔法で小さな竜巻を作り出す。ツリーサイクロンはその場に留まって樹木のように動かない竜巻を作り出す魔法、黒煙は竜巻に吸い寄せられ視界をクリアにした。


「やっぱり二人しかいないか」


 テーブルの下に身を寄せ合って意識を失っている小さい女の子たち。


 協会内でさらに『策敵』を行うが他の反応はない、アレイから聞いた人数には一人たりないがまずはこの二人の手当てが先と割り切り鎮也は女の子たちを抱え外へと瞬間移動した。


「アチェ、ノーチェ!」


 助け出した二人の女の子を見てアレイが駆け寄ってくる。


「レオナ、この子たちも頼む」

「了解」


 イクスの手当てを終えたレオフィーナがすぐに駆けつけ容体を診てくれる。


「大丈夫、息はある。これならすぐに手当てできる」


 アレイを落ち着かせる意味もこめてはっきりと口に出して診断したレオフィーナは陽翼剣オジロを掲げると、太陽のような温かい光が女の子たちに降り注いだ。光属性の回復魔法『シャインヒール』である。苦痛の表情で意識を失っていた女の子たちの顔が和らぎ、呼吸が規則正しい寝息へと変化していった。


「アレイ、教会にはこの二人しかいなかったぞ」

「そんな、リーザは、じゃリーザどこだ!」


 リーザの名前は、アレイが教会に火の手が見えた時にも叫んでいた。この少年にとってリーザという少女は大切な存在なのだろう。


 いなくなった大切な人を探すアレイの姿が鎮也にはほんの一瞬ではあるが、伯父がいなくなった時に自分の姿と重なった。


「どこにもいない、まさかもう」


 気配が無いことに最悪の結果を想像したようだが。


「いや、彼女、リーザ君は奴らにさらわれたんだ」


 だが、その最悪をイクスが否定してくれた。先に手当を受けたためにもう傷は完治しており治った傷口を確かめるように慎重な足取りでやってくる。


「もう大丈夫ですか」

「おかげさまで、剣士なのにすごい回復魔法ですね」

「そんなことはどうでもいい! リーザはどこに連れて行かれたんだ!!」


 アレイがイクスに掴みかかろうとするのを鎮也が襟首を掴んで止めた。


「何するんだよ!!」

「焦らなくてもイクスさんは説明してくれるって、そうでしょ」

「ああ、リーザ君は攫われたんだ、馬車で連れていかれてしまった」

「さっきのすれ違ったヤツか!!」


 今度は馬車を追いかけようとするのでまた襟首を掴んで止める。


「何するんだよ!!」

「逃げた方角以外分かってないだろ、今探してやるから焦って行動するな」


 鎮也は陰翼刀・六黒を取り出し馬車の走り去った方角へめがけて投げ放つ。


「スキル『六分身』からの『剣獣化(鴉)』」


 六黒は回転しながら飛んでいき空中で六本へ分身すると、その全てが鴉の姿へと変化し別々に飛び去っていく。


「……剣が烏に、なんだあれ、もしかして伝説の聖剣なのか、今投げた剣が、嘘だろ、ランクFの持ってた剣だぞ……」


 この時代、剣が聖獣に変身できる話は有名である。


 子供のころに聞くおとぎ話などにもよく登場したりするのだ。しかしそれはあくまでも伝承や物語の中の話であり、たいていの人々はそんな存在を信じていない、だがそんな存在が目の前に現れた。仲間を攫われ興奮していたアレイの思考にも衝撃を与えるには十分であったようだ。


「奴らは隠れる気もないだろうからすぐに見つかるさ」

「……あ、ああ、助かる」

「さて、六黒が奴らを探している間に、イクスさんここを襲った連中のことを教えてほしいんだけど」


 鎮也はイクスの着ている鎧の状態を見た。そこには真新しい傷が縦に二本両肩から腹の部分にかけてできている。骨董店のときにはなかった傷だ。


「あなたほどの冒険者が遅れをとるとは相当な使い手だったんだろ」


 軽量とはいえ鉄の鎧を切り裂くなどそこいらのゴロツキには到底できない芸当である。


「これはあの連中の持っていた剣にやられたんです」


 イクスが斬られた鎧の留め金を外しながら説明してくれた。ここまで破壊されてはこの鎧はほとんど防御力を失っている。外してしまった方が身軽で動きやすい。


「剣、ですか?」

「はい、自惚れではなく剣の腕は間違いなく私の方が上でした。ただ装備していた剣に性能の差が有り過ぎました」

「マスターこれを見てください」


 レオフィーナが折れた剣を拾ってきた。それは鎮也が骨董屋の棚から掘り出しイクスが購入したあの剣であった。


 折れた断面を見れば鋭利な刃物で切断されていることがわかる。力で強引に折られたのではなく、鉄の剣が斬られていた。


「剣を斬れるほどの強力な剣か」


 並大抵の切れ味じゃない、こんなことができるのは。


「あれは間違いなく聖剣、魔剣の類でした」






 骨董屋の前でゴロツキから協会襲撃を聞きたイクスは教会へと直行した。


 イクスはアレイたち年長者が冒険者としてお金を稼ぎ、幼い孤児たちの面倒を見ていたことを知り、陰ながらアレイたちを支援していた。


 イクス自身も貧しい村の出身であり、飢饉で両親を亡くしているため人ごととは思えなかったのだ。


 その教会が危ない、イクスは全速力で教会を目指す。


 そんなイクスの気持ちに答えるように、購入したばかりの剣『ホウプソード』が反応、スキル風の加護を発動させ移動速度をわずかであるが加速させてくれた。


「次の剣が見つかるまでの代用品と考えていましたが、支部長の言っていた聖剣でもなかったですし、このまま使い続けたくなりましたね」


 速度が自慢のイクスにはとても相性がいい。


 教会へ到着してみれば、すでにゴロツキどもが子供たちを取り囲んでいる現場で、一人の少女が幼い子供たちを守るために必死で体を張っていた。


「あんたたち、いい加減にしてよ!」

「おいおいお穣ちゃん、オレたちはあんたの仲間がボスから盗んだ剣を返してくれれば大人しく帰るって言ってるんだぜ」

「そんな剣ここにはないわ、だからもう帰って!!」

「嘘だってわかってるから、帰るわけにはいかないな~」


 ゴロツキどもは怯える子供たちの様子に顔を醜くゆがめて笑っている。盗まれた剣を取り戻そうとしているのは事実だろうが、その方法は完全に自分たちの遊びが含まれている。


「貴様ら、何をしているか!!」


 イクスは少女の前へ割って入った。


「大丈夫かいリーザ君」

「あなたイクスさん、どうしてここに」

「不審なやからがこの教会を襲うって聞いてね、来てみたのさ」

「なんでぇテメェは!?」

「私はイクス、このレフティア冒険者ギルド総合支部長よりギルドナイトの職を頂いている」

「ギ、ギルドナイトだと」


 ギルドナイトの称号にゴロツキどもがたじろく。


「本来冒険者ギルドは冒険者同士のいざこざには係わらないのが基本だが、限度はある。貴様らの行いはやりすぎだ。速やかに引け、さもなくば冒険者ギルドを敵に回すことになるぞ」


 骨董店にいたゴロツキ程度ならこの脅しで十分通用するはずであった。だが、この教会にきたゴロツキどもの中に格の違う存在が混ざっていたのだ。


「ギルドナイト様か、ガキをいたぶるよりは面白そうな相手だな」


 逃げ腰になっていたゴロツキどもを押しのけ逆立った髪の細身の男がイクスへ歩み出る。


「ナグルトさん」


 ゴロツキにナグルトと呼ばれた男はギルドナイトの名に恐れることなく、背中に担がれていた槍を手に取る。


 その槍は灰色であり歪な形をしていた。


「面倒な仕事だと思っていたが、とんだ獲物が転がり込んできたぜ。ギルドナイト様よ、オレと遊んでくれや」


 両の先端に薙刀状の刃が付けられた独特の形状をした双槍。


「ずいぶんと個性のある武器だね」

「使いこなせば強いぜ、こいつは」


 その形状は槍の基本戦法である突きから外れた武器であり、旋回させ遠心力を利用した斬撃を繰り出す使用方法。二つの刃から繰り出される連続攻撃は人間の体など粉々にするほどの威力を持つ、しかし、バランスの悪い形状から使いこなせる者はめったにいない装備者を選ぶ武器でもある。


「魔力を感じる槍、魔槍の類か」

「残念、外れだ」


 ナグルトは上段で双槍を旋回させながらイクスに斬りかかってくる。


「これは聖剣だぜ!」


 遠心力を伴った強力な斬撃、イクスは体をずらすことで交わすがすぐにもう片方の穂先が襲ってくる。


「こいつの連続攻撃からは逃げられないぜ、ギルドナイト様よ」


 一撃でも食らえばイクスの薄い鉄の鎧など簡単に引き裂かれてしまうだろう。瞬きのする暇もない連続攻撃、イクスは後ろへ後ろへと押されていく。


 見守るリーザたちの顔に恐怖が浮かんだ。

 だが、攻撃を受けている当のイクス自身は涼しい表情を崩さない。


 遠心力を利用している以上突きはない、逆回転も一度止めなければ無理、したがってイクスほどの使い手になれば斬撃の軌道を読むのは簡単な部類に入る相手であった。


「だいたい把握した」


 伊達にギルドナイトの称号を持っているわけでは無い。


 避けるのは終わりだとイクスはナグルトへ踏み出す。繰り出される凶刃をホウプソードの腹を当て受け流し、懐へと踏み込んでいく。


「その武器では近距離の対処は不可能です」


 イクスは振りかぶりを最小限に、威力を落としてすばやく動き手数でナグルトにたたみかける。


 攻撃する余裕をなくしたナグルトは槍の柄を盾にして受け止め、なんとか距離をとろうとさがるが、イクスはそれを許さず、近距離を維持したまま攻撃の手を緩めない。


 優劣が完全に逆転。


「調子にのるな、地獄を見せてやる」

「見苦しいマネはやめて降参しませんか?」

「誰がするかよ」

「だったら終わりにしましょう」

「そうだな、でも貴様の終わりだ!」


 戦いの主導権は完全にイクスが握ったように見えた。

 しかし、連撃に体制を崩したナグルトへ決着をつけようとイクスが踏み込んだ瞬間、双槍の柄の中心部が突然離れ二つへ割れた。

 柄を打ち上げ勝負を決めようとしたイクスの剣が標的を失い空を切る。


「な!?」


 一つの双槍は二つの剣に分かれていた。

 決めにいったイクスは予想外のいなされ方で完全にバランスを崩された。


「ほら、約束通りの地獄だぜ」


 風の魔力を孕んだ二刀がイクスへと振り下ろされる。


 振り抜いた姿勢で硬直してしまったイクス、間接が悲鳴を上げるのを無視して剣を引きもどし盾にするが、繰り出された攻撃は強力、ホウプソードを切断し鎧など無かったかのように体ごと切り裂いた。






「私はそこで倒れ伏せました。それから奴らはここに目的の品が無いとわかると教会に火を放ち、リーザ君を人質として攫っていきました。アレイ君の持っている品と交換だと言って」

「くっそ!」


 アレイが包みを悔しさに任せ地面に叩きつけようとしたので鎮也が腕を掴んで止めた。


「おいおいそれは俺が買う剣だぜ、丁寧に扱ってほしいな」

「な、まだ買う気だったのかよ、これがないとリーザが!」

「今捨てようとしただろ」

「捨てるわけないだろ! それにもう売れねぇよ、聞いてただろリーザを助けるためにコレが必要なんだ」


 鎮也の腕を振り払い叩きつけようとした包みを誰にも取られないように抱え込む。


「まあいいよ今は売ってくれなくて、とりあえずアレイが安心して剣が売れるように救出に協力させてもらうから」

「どうしてそこまで」

「剣が買えなくなると困るからな」


 鎮也はアレイにニヤリと笑った。ギルドナイトのイクスを倒す相手がいるというのに気にしない鎮也の姿はアレイの瞳には頼もしく写ったようで、わずかではあるが顔に余裕が戻る。


「ありがと、兄ちゃん」

「気にするな」


 大切な存在がいなくなる寂しさ悲しさは鎮也も知っている。だから奪還してやりたいと思う。


「でもランクBの姉ちゃんたちならともかくFの兄ちゃんじゃな、役に立つの」


 余裕と共に生意気な口も戻ってきた、さっそく鎮也のランクをネタにからかってくる。


「あはは、これは手厳しい、でもちゃんと役に立つこと証明してやるぜ」

「マスターこれを」


 鎮也がどうしたいのか、指示をしなくても理解しているレオフィーナは三つに切断されたホウプソードを鎮也へ差し出してくる。


「それは私の剣、せっかく譲ってもらったのに購入した日に壊してしまうなんて」

「まあ、相手が悪かったとしか言えないな」

「なんせ初見殺しが相手だったもんね」


 消火を終えた咲耶も話に加わってきた。鎮也はもちろんのこと咲耶、レオフィーナ共にイクスの話を聞きどんな剣を相手にしたか検討がついていた。灰色の刃だったことからもほぼ間違いないだろう。


「初見殺し、確かにそうですね、私も繋ぎ目などがあれば分かれることを警戒していたはずです。なのにあの剣には一切そんなモノは無かった、第一あれだけ振り回しても大丈夫な分離できるギミックを仕込むなんてどれほどの技術がつぎ込まれているのか」


 悔しそうに切断されたホウプソードを見つめる。


「気に入った剣だったのですが、あんなのが相手では薄皮同然でしたね」

「そうでもないぜ、こいつは主人を守ろうと頑張ったんだ、その証拠に初見殺しの斬撃をくらってイクスさんは生きてる」


 ホウプソードが斬撃の威力を弱めた証拠だ。


「こいつは、まだまだ成長できる」

「どう言うことですか?」

「アレイ、俺が役に立つところを見せてやるよ」


 鎮也は魔法のカバンから雷蛇鎚ミュルニョルを取りだした。


「剣は折れたり曲がったりするのは当たり前、そんな剣を修復するのも鍛冶師としての俺の仕事だ」

「趣味が仕事になってる鎮也くんは幸せ者よね」


 作業着姿のランクFの冒険者。その従者たちは主の服装が少しダサいとさっきは言っていたが、いざ作業を始めると凛々しく見えてしまうので困ると愚痴をこぼした。

やっと二本目、三本目の影がチラリと、これから剣の登場は加速していく予定です。

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