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第13剣『骨董店にて、整理をする』

 決闘を終えた鎮也たちはギルド総支部を出て街にくりだす。


 石で舗装されメインストリートに様々な露天が並び街は老若男女の人ごみで溢れていた。


「これがレフティア名物のオークション祭りか」


 人の多さに圧倒される鎮也、最近は工房に籠っていたので人が溢れている場所にくるのは久しぶりのことだった。未来に来てからは当然初めてだ。


「正確にはオークション開催前の前夜祭だよ、レフティアが三カ月に一度行う大オークション会に参加するために遠方からやってくる人たちをターゲットにいろいろな露天ができるんだって」


 咲耶がはぐれないように鎮也の腕に自分の腕をからませてオークションの説明をしてくれる。


「オークションは三日後だそうですが、それまでこの騒ぎを続くそうです」


 咲耶やレオフィーナが依頼で納品した魔物の素材や魔核もどこかで出品されているかもしれない。


「オークションには聖雷剣が出るかもって考えてたけど、これだけ露天があるなら、どこかに一本くらいありそうだな」

「お昼を食べながら探してみよっか」


 咲耶は目についた串焼き屋台から三本購入して代金を払う時に、剣の掘り出し物を扱う露店はないか尋ねると。


「露天じゃないけどよ、ちょっと行った路地にある骨董屋に古い聖剣が飾られてるって噂なら聞いたぜ」

「ありがとうおじ様、これ明日も買いにくるね」

「おう、ありがとよ姉ちゃん」

「たった串焼き三本で情報を一つゲットするなんて、流石はサクヤです」

「あの屋台が一番年期があったからね、情報には通じてると思ったんだ」


 咲耶はたまたま目についたからではなく、屋台の痛みぐわいから情報を聞く相手をピックアップしていたようだ。


 三人はさっそく教えてもらった骨董屋へ。メインストリートを一本路地に入れば、露天も少なくなり人通りもまばら、そこには大きな建物に挟まれて時代に取り残されたような古い木造の店がポツンと一つ小さく骨董店の看板を掲げていた。


「なかなかいい雰囲気の店じゃん」

「鎮也くんって、こういったお店好きだよね」

「隠れた名店とか見つけるとわくわくしない」


 ウキウキしながら鎮也が先頭で店内に入るとそこは狭いスペースにジャンル問わずいろいろな売り物が重なるように並べられていた。


 武器だけでなく、衣服や食器などの日用品まで売られている。これだけ数があると一度に鑑定眼で全てを見ることはできない、入ってくる情報が多すぎてまともに読み取れなくなるのだ。効果範囲を絞って一つ一つ見ていくしかない、だからこんな時は素直に店員に聞くのが一番。


「すみません、こちらに古い剣があるって聞いてきたんですけど」

「古い剣?」


 高く積まれた品物の間に背中の丸まった老人がいた。


「剣なら、その右側の網棚のどっかにあったような~」

「右側って」


 教えられた網棚には、箒や釣り竿など長い物がいろいろ絡み合いながら収まっていた。


「下を抜いたら崩れそうだな」


 みごとなバランスで積み上げられている。これは上から順番にどかしていくしかない。


「マスター、これは骨が折れそうですね」

「聖雷剣があるかもしれなんだ、がんばっていこう」


 鎮也たちにとって可能性がある限り、あきらめるという選択肢を選ぶことはできない。




 網棚をあさり始めてから二時間、やっと棚に並んだ長い品物の中から一本だけ剣を見つけ出すことができた。


「――――――――――――――――――――――――

【名称】ホウプソード

【製作者】ガジル・タターン

【分類】長剣   【レア度】☆☆(2)

【長さ】120センチ 【重さ】2.2キロ

【剣核】魔核C級

【スキル】

『風の加護』……使い手に風の加護が備わる。

【補足】

 若き鍛冶師が鍛冶の鍛錬のために鍛えた剣。付属効果を付けることに成功した。四〇年ほど前に製作された剣。

――――――――――――――――――――――――」


「確かに古い剣ではあったな」

「でも外れだね」

「結局、私たちは商品を整頓しただけですね」


 串焼き屋のおやじの情報は間違っていなかったが、聖雷剣ではなかった。鎮也だけでなく咲耶とレオフィーナも肩を落とす。


「そう簡単にはいかないか」


 ようやく発見した剣を元の網棚へと戻す。


「そちらはお買いにならないのですか」


 客など鎮也たちしかいなかった骨董店に別の男性客がやってきた。年齢は鎮也より少し上の十八歳くらい整った顔立ちの青年であった。紋章のない軽量の鉄の鎧を着ていることから判断して剣士タイプの冒険者のようだ。


「この剣のことですか」

「はい、買わないのでしたら自分に譲ってはいただけませんか」

「別にいいですよ、探してる剣じゃなかったし」

「助かります、愛用していた剣が折れてしまいて変わりを探していたんです」


 青年は剣を受け取ると購入するために老人に代金を渡した。


「では、譲ってもらってありがとうございました」


 急ぎの用事があるようで、青年はすれ違い様に挨拶をして早々に骨董店から出て行くさわやかなイケメン系であった、ハリボテっぽいイケメン系であったエルラークとはオーラが違った。


「あの人、なかなかの使い手かな」

「ランクで言えば本物のBっといったところか」


 すれ違いざまの姿勢だけで咲耶は青年を評価し、レオフィーナはランクを推測する。本物と称したのはギルドで決闘を挑んできたエルラークと差別したからだ。


 鎮也たちもやることが無くなってので青年の後を追うように店を出ると一人の少年を数人の男たちが取り囲んでいた。


「なんでお前らがここにいるんだよ」


 囲まれながらも少年は男たちに威勢のいい声を張り上げている。


「お前らガキグループが、いつも手に入れたガラクタをこの店に売りに来てるって聞いてよ、見張ってたんだ」

「ガキ、お前がボスの大事な物を盗んだのは分かってるんだ、素直に返せば許してやるかもしれないぜ」


 まさしくゴロツキといった厭らしいニヤニヤ笑みをうかべながら、ジリジリと囲みを小さくしていく。


「何のことだよ、俺は何も知らねぇぞ」


 少年の声がわずかに震えだしている。あれでは事情は分からない鎮也にも囲まれている少年がガラの悪いゴロツキどもに何かしでかしたのは丸わかりだ。


「とぼけんなよ、その抱えてる包みがボスから盗んだ剣だろ」

「ちげぇよ、これは魔物の角だ、テメェらの興味を引きもんじゃない」

「だったらその布を取って見せてみな!」


 ゴロツキの一人が布を掴むのではなく少年の頬を殴り付けた。少年の体は吹き飛び囲っていた別の男の足元まで転がされ、今度は中心に戻るように蹴り返された。

 少年の体は転がりながら元の位置へと戻される。


「はじめから痛めつけるつもりですね」


 レオフィーナが男たちに向かおうとした所、先に出ていた青年に止められた。


「ここは私に任せてください」


 青年は購入したばかりの剣の鞘を持ち、いつでも抜ける姿勢を取りながらゴロツキたちへ近づいていく。


「君たち理由は知らないがその辺にしておけ」

「なんだテメェ、関係ない奴は引っ込んでろ、このガキは俺たちから物を盗みやがったんだ」

「それでもやり過ぎだ、盗難にあったのなら治安隊に引き渡せば済むことだろ、それで盗まれた物も返ってくる」


 レフティア交易都市には独自に治安を守る治安隊が組織されている。外から襲ってくる魔物は冒険者が中心に退治するが、都市内での人間同士の揉め事は主に治安隊が活躍していた。


「ここに犯人がいるんだ、そんな面倒なことしてられるか、とっとと失せろ」

「そういう訳にもいかない」


 ゴロツキに睨まれても怯むことなく堂々とした態度を崩さない。


「テメェ治安隊の人間か?」

「いえ、私はこっちの人間です」


 青年が取りだしたのは冒険者ギルドのギルドカードであった。交差した三本のラインに星が一つ、咲耶たちと同じランクBのギルドカードだ。ただ咲耶たちのカード一つ違うのはカードにはさらに旗のシンボルが刻まれていた。


「旗のシンボル、お前、ギルドナイトか」

「ギルド長の飼い犬がなんのようだよ」


 ギルドナイト。ギルド長直属の部下であり冒険者が引き起こす問題などを取り締まっている。


「その少年も君たちもギルド登録の冒険者だろ、総合支部で見かけた覚えがある。だったら私が手を出す理由には十分だ」

「たった一人で俺たちを相手にするつもりか」


 ゴロツキたちが次々に光モノを抜き放つ。


「して欲しいなら、相手になろう」


 青年は向けられた刃に臆することなく、相手が全員刃物を抜くのを確認してから自分もゆっくりと鞘か剣を引き抜いた。


「かっこつけんなよ!」


 ゴロツキは五人、普通なら圧倒的にゴロツキ側が有利であるが、ギルドナイトには優秀な冒険者をギルド長が直々にスカウトするのが基本で、ギルドナイトであるイコール腕の立つ冒険者であるということ。


 ギルドナイトの剣が振るわれる。それは流れる風のようであった。


 ゴロツキどもの武器を弾き飛ばし、殺さないように手加減しながらゴロツキどもを倒していく。


「うごッ」


 馬車に引かれたゴブリンのような声をあげて最後のゴロツキが壁に叩きつけられる。


「強いな、買ったばかりの剣をもう使いこなしてるよ」

「素早い動きが基本戦術みたいだから風の加護との相性もいいね」

「これが本当のランクBの実力ですねマスター」


 完全に観客と化していた鎮也たちが青年の動きを褒めたたえる。


「君、冒険団(レギオン)導く翼(アヴァニール)のアレイ君だね、彼らにいったい何をしたんだい?」


 青年が助けた少年アレイに話しかける。鎮也としてもアレイが抱えている包みは非常に気になっていた。


「ギルドナイトには関係のないことだ」

「あ、アレイ君!」


 アレイは素早く身を翻すと建物と建物の間、路地ともいえない狭い隙間に飛び込み大人の体格ではとても入れない道を駆け抜けていってしまった。


「へへへ、バカなガキだぜ、いくら逃げても無駄だってのに」


 壁にもたれかかったゴロツキが、苦痛で顔を歪めながらも無理やり笑ってくる。


「どういう意味だい?」

「あのガキは俺たちのボスを怒らせたのさ、ガキだけじゃなく、その仲間にも怒りは降りはふりそそぐぜ」

「まさか教会を襲う気か!?」

「なぜ教会?」


 青年は血相を変えて走り去って行った。おそらく口走った教会へと向かったのだろう。


「教会ってどういう意味だ」


 鎮也はうずくまっているゴロツキの一人に尋ねる。


「誰だお前ら、関係無い奴は引っ込んでろ!」

「まあ、素直には答えてくれないよな」


 魔法のカバンから陰翼刀・六黒を取り出した。


「なんだよ、拷問でもするつもりか?」

「そんな残酷なことはしない、でも知ってることは話してもらうぞ」


 六黒の刀身が黒い輝きを放つ。


「なんだその剣は!?」

「俺の愛剣の一振り」


 鎮也は六黒のスキルである『影魔法』を発動、催眠の魔法で相手を催眠状態にした。


「もう一度聞くぜ、教会ってなんだ」

「さっき逃げたガキとその仲間が教会跡地をねぐらにしてるんだ、そこにもオレらの仲間が向かってる」

「なるほど、それで血相を変えて走っていったんだ」


 青年は逃げたアレイ少年と面識があったようだった。襲われると察知して助けに行ったのだろう。


「まあ、あれだけの腕があればゴロツキには負けないだろ。それより、あの少年はあんたらから何を盗んだんだ、これだけの人数をかけて取り返すなんて相当な物だろ」

「聖剣、ボスはその聖剣の力で組織を大きくした」

「聖剣だって」


 思いがけない所で聖剣の情報がころがっていた。


「それはどんな特徴を持っている」

「灰色の短剣、見た目には石でできたような剣だけど、魔力を流すと白銀の色を出す」

「当たりかも」


 ライトゥスで見つけた剣も持ち主拒絶で灰色と化していた。それに白銀に光るのも聖雷剣の特徴の一つだ。


「どうする鎮也くん、私たちも教会を目指す」

「いやそれよりも、剣を持っているアレイって少年を探そう」


 教会はあの青年が向かったのだから、出遅れた鎮也たちは直接聖剣を持っているアレイを見つけることを選んだ。


「マスター、このゴロツキはどうしますか」

「そうだな、おい、お前たちは悪さをしているな」

「している。強盗、恐喝、誘拐、ウチのボスはこの街の黒幕だ」


 催眠にかかっているのにどこか自慢げに話された。黒幕の部下でいることに心底喜びを感じているのだろう。このまま放置したら組織に戻ってまた悪さをするに決まっている。


「へ~そんな奴が聖雷剣を使ってるのか」


 握られている六黒から膨大な黒い魔力が噴出した。今にもゴロツキたちを底なしの沼へ引きずり込みそうなほどの怒気を孕んで。


「鎮也くん!?」

「マスター、街の中です流血沙汰は」

「わかってるよレオナ、咲耶もそんな心配そうな顔するな、殺したりしないから」


 いつの間にか両脇に移動していた咲耶とレオフィーナに腕を抑えられていた。


「ただ、このまま帰すわけにはいかないけどね」


 鎮也は六黒を掲げて、影の魔法を発動させ催眠の効果を書き換える。


「いいか、これからお前たちは、これまでしでかした悪事を周囲に自慢しながら治安隊の詰め所に行け、詰め所についたらボスの秘密を知っている限り伝えてこい」

「わかった」


 とんでもない命令でも催眠中のため素直に従うゴロツキたち、これで詰め所で催眠が解けた後でもボスの元へ戻ることは二度とできないだろう。


「鎮也くん、えぐいこと考えるわね」

「この程度ですんで彼らはマスターに感謝するべきだ」


 えげつない鎮也の対応も咲耶もレオフィーナも止めることも無かった。


「とりあえずこれでアレイって子を追いかけられるわね、鎮也くんヤマトを使うんでしょ」

「さすが咲耶、よろしくな」

「まかせて」


 咲耶は帯に収まっているヤマトを鞘ごと取り、刀から剣獣の姿である額に刃を持つ白銀の狼へと変身させた。


「ヤマト、さっき逃げた少年の匂いを追いかけて」


 狼でもあるヤマトは当然嗅覚は鋭い、鎮也たちと意思疎通もできるので警察犬以上の追跡が可能だ。


 三人はアレイが逃げ込んだ小道の反対側に回り込み、そこからヤマトを使い匂いによる追跡を開始した。

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