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第12剣『お約束の決闘』

「私の誘いを断って、こんな素人新人と冒険団(レギオン)を形成しようというのか、あなたは!」


 素人と新人はほとんど似たような意味ではないかとツッコミたくなる気持ちを鎮也は我慢した。


「今すぐにその間違った考えを改め、そんな先の見えない新人よりも私の元へ来てください、必ずやクラスAへと導くことをお約束しましょう」

「結構です!」

「うッ」


 直接ではないが遠まわしに鎮也を無下にするモノ言いに咲耶の眉毛が釣り上がり、今度はスッパリと断った。


「そ、その少年とどんな関係かは知りませんが、仲良しメンバーで冒険団を形成しても不幸になるだけですよ」


 咲耶にすごまれてエルラークは相手を鎮也へと切り替えてきた。


「少年、君はどんな手段で彼女を縛りつけているのですか」

「別に縛りつけてないぞ」

「そうですか、言う気はありませんか、金銭などで縛りつけているなら有る程度は手切れ金を支払う懐の広さを持っていましたが。そうですか、そうですか、でしたら力で示すしかないですね」


 エルラークは自身のギルドカードを取り出した。刻まれたシンボルは三本の交差したラインに星が一つ、咲耶たちと同じランクBだと示している。だが彼が見せたのはランクではなく反対の面、普段は無地で依頼などを受ける場合に個人の細かい情報などが表示されるのだが、今回は『決闘』という文字が日本語で浮かび上がっていた。

 間違いなく鎮也の伯父が組み込んだシステムだ。


「あなたのような学の無い素人は知りもしないでしょうが、これは古代の神々が使われていた文字で私のように博識ある冒険者には『たいけつ』と読めるのですよ」

「プッ!」


 思わず噴き出してしまった鎮也、小学校までしか日本の学校に通っていなかったが、それでもその程度の漢字は読める。気づけば咲耶もエルラークにばれないように肩を震わせ笑いをこらえていた。


「何がおかしいのです」

「い、いや、なんでもない」

「人が親切に古代文字の読みを教えてあげているのに、失礼な素人くんですね、私はこれでも帝都の中汪学院を出ています。私ほど古代文字を読める者はそうはいないのですよ」


 ビシッと決まったようなドヤ顔で咲耶に流し眼までしてくれるエルラークさんですが、おなかの腹筋がプルプルと震えるのを抑えるのに必死な咲耶さんはまったく気がついていませんでした。


「マスター、私はあの文字の読みは苦手なのだが、確か『たいけつ』では無く、『けっとう』と書かれているのでは?」

「な、何をいっている。この中汪学院主席レベルだった私が間違えたとでも」

「え~大変もう上げにくいのですが」


 冒険団登録を担当してくれた男性スタッフが恐る恐る声をかけてくる。


「些細なことではありますが、ギルドシステムについてのことなので訂正させてもらいます。この決闘システムに浮かぶ文字は『けっとう』と読みます。ギルドカードにはありませんが、ギルドシステム本体には古代語の解読機能が付いておりますので」

「な、な、な」


 カッコつけるつもりが墓穴を掘ってしまった。近くで聞いていた冒険者たちからも笑いがもれる。


「素人にわかりやすいよう、『けっとう』よりも簡単な『たいけつ』という言葉を使ってやったのだ、第一対決は試合だが、決闘は手加減無用の命のやり取りまで含まれるのだぞ、いいのか」


 いいのかと聞かれても、ギルドのシステムを使うならどっちにしろ決闘にしかならない。


「面倒だけどもういいや、決闘を受けるよ」


 ここまで騒いで受けないとは流石の鎮也も場の雰囲気的に言いだし辛い。


「良い覚悟です。このランクBのエルラークの決闘を受けるとは、ギルドシステムにのっとり公平に冒険者同士として決闘で勝負をつけましょう」

「ランクBがFに決闘を申し込むのは公平なのか?」

「お約束の展開ですね、期待通りすぎても少し盛り上がりにかけます」

「まあ減るモノは無いし、ここんとこ工房での作業ばっかだったから体を動かしますか」


 ランクBとランクFの戦い、本来なら勝負になるはずもない階級のひらきであるが、過去の世界ではランクSまで登り詰めている鎮也、エルラークにとって真実を知らないことはとても残酷だ。





 成り行きで決闘を受けた鎮也は、エルラークに促されギルド本部の裏手にある訓練場へと移動した。訓練に勤しんでいる冒険者たちをエルラークはランクBの権限を使い無理やりどかさせる。


「ランクBってこんなに権限強かったんだな」

「昔では考えられなかったけど、今は上位ランカーの数が少なくて首都でもない限りランクBは一つの街に十人もいないみたい」

「ライトゥスは私たち以外には居ませんでした」


 咲耶、レオフィーナがそれぞれ仕入れた情報を教えてくれる。


「そんなに少ないのか、とりあえず情報収集の一環としてランクBの実力がどのくらいか測ってみるよ」


 とにかく今の時代を知るために少しでも多くの情報を、そう考えればこの決闘も無駄ではないと鎮也はエルラークと対峙した。


「訓練用の武器ならそこに有るのを使え」


 訓練場の隅には、刃の潰された剣や槍などが並べられていた。


「私は自前の剣を使わせてもらう、強い武器を装備するのも冒険者の実力の一つだ卑怯とは言わないでくれたまえ」


 鞘から抜き放たれた剣は、青白い魔力の光を放っていた。


「私の聖剣に負けるのだ、言い訳には十分でしょう」

「聖剣ね~」


 鎮也は鑑定眼を発動させる。

「―――――――――――――――――――――――――――

【名称】魔剣フラッシャー(演劇用)

【作者】ノエル・タターン

【分類】長剣   【レア度】☆☆(2)

【長さ】105センチ 【重さ】0.5キロ

【魔剣核】魔核D級

【スキル】『発光』……刃が青白く光る。

【補足】演劇用に作られた剣、スキルの発光は舞台演出のために付けられた、刃は一応本物になっている。重さは同サイズの実剣の三分の一くらいしかない。

―――――――――――――――――――――――――――」


 聖剣ではなく魔剣、それも演劇用って。


「おいおい」


 鑑定結果はとてつもないハリボテであった。ついでに見てしまった鎧の鑑定結果も似たようなモノ、これでどうやってランクBになったのであろうか。


「我が聖剣に恐れをなしたか」

「いや、ぜんぜん」

「今さら謝ってももう遅い、早く武器を取りたまえ」


 ため息をつきそうになるのを堪えて鎮也は魔法のカバンから一振りの剣を取りだした。

「―――――――――――――――――――――――――――――――――

 七星剣第七星

【名称】大十手(だいじゅって)透徹(とうてつ)

【製作者】星尾鎮也

【使い手】星尾鎮也

【分類】大十手  【レア度】☆☆☆☆☆☆☆(7)

【長さ】80センチ 【重さ】0.8キロ

【聖剣核】透徹の心

【スキル】

『雷魔法(特大)』…使い手が雷魔法を扱えるようにする(効果:特大)。

『飛打撃』…………打撃が物理的に繋がっている場所へ振動で飛ばせる。

『瞬間移動』………透徹でマーキングした場所へ瞬時に移動できる。

『解錠』……………鍵や結界など閉ざされたモノを解除する。

『武器破壊』………武器に対して破壊力が上がる。

『剣獣化(兎)』……額に角を持つ兎へと擬獣化できる。

【奥義】

『空間移動』視界に入るなら目印がなくても瞬時に移動可能。

【補足】

 時代劇風ファンタジー漫画の岡っ引き主人公が持っていた大十手、妖刀や邪剣など江戸を騒がす刀を片っ端からへし折った。兎のモデルは小学校でやっていた飼育委員で世話をした白兎である。剣獣化にともない角が生え、この世界の一角兎と外見は酷似している。

―――――――――――――――――――――――――――――――――」


 発動したままの鑑定眼が透徹の能力を映し出す。

 鎮也の七本の愛剣の中で唯一刃がない十手型、殺さず手加減をするにはとても使いやすい剣である。


「ほう、小生意気にも魔法のカバンを持っていますか、荷物運びには使えるかもしれませんが、その程度では我が冒険団には入れませんよ」

「いや、入りたくないし」

「強がりなど見苦しいだけですよ」


 構えた鎮也を見て、用意ができたと解釈したエルラークは演劇用の剣を振りかぶり真正面から斬りかかってきた。

 剣が動いた後には青白い光の線が尾を引き、見た目にはエルラークが聖剣を使いこなす使い手に見えなくもない。


「神速剣の使い手と呼ばれる私の美技を受け切れるかい素人くん!」


 素早い連続した斬撃が鎮也へと襲いかかってくる。同じサイズの実剣より三分の一程度の重さしかない演劇用の剣、それを振れば誰でも高速剣の使い手になれるだろう。


 でも早さのネタが分かってしまえば、ただの軽い剣、目で追えない速度が出ているわけでもないので、攻撃に重さは一切なく透徹を軽く当てるだけで打ち返せた。

 上から横から、いろいろな角度から攻撃が飛んでくるが鎮也は片手持ちの透徹で全て受け切った。受け切れてしまった。


「なかなか、粘りますね」

「これが本当にランクBの力なのか?」


 現代の冒険者のレベルがどの程度か確認しようと攻撃を受けてみたが、武器も見せかけなら技も見せかけだった。体力も無いようですでに息が上がり始めている。

 それから数度攻撃を受けつばぜり合いとなった。


「ゼェ、ゼェ、ランクF相手に、本気を出すのは、ゼェ、ゼェ、少し、大人げないですが、ちょっとだけ全力でいきます」

「おもいっきり息切れてるぞ」

「うるさい!」


 エルラークの剣が強く発光した。流石演劇用の剣、見た目だけの迫力はかなりある。ネタを知らない冒険者たちには奥義を放つように見えているだろう。


「これ以上は得る情報は無いな」


 鎮也は力を入れてエルラークを後方へ押し返した。


「うわ、ととと」


 尻もちをつきそうになったエルラークが必死でこらえてギリギリで踏みとどまった。

 勝負を決めるため、鎮也は決闘を開始してから初めて攻めに出る。エルラークへ大股で踏み出し、上段から透徹を振り下ろした。


「ランクFの攻撃など」


 鎮也の攻撃をエルラークは剣で受け止める。カンという小さく鈍い金属音が鳴り二人の動きが停止した。

 単純すぎる攻撃、誰もが簡単に受け止められる攻撃だった。しかし……。


「グオォォ」


 苦痛に顔を歪めたエルラークが剣を落とし手首を抑えて崩れ落ちた。


 透徹のスキルの一つ『飛打撃』を使用、剣のぶつかり合った衝撃をエルラークの手首に飛ばしたのだ。たいして強く叩いていないのでケガは軽い捻挫程度ですんでいるはず。


「はい、俺の勝ちでいいよな」


 透徹を首に突き付け勝ちを宣言した。


 取りだしたギルドカードには決闘終了、勝者シズヤと浮かびあがった。


「本当にゲームみたいなシステムだよな」


 あっさりとランクBを倒したしまった新人に野次馬と化していた冒険者たちは無言で見つめることしかできなかった。


「御苦労さま鎮也くん、これで冒険団結成だね」

「おう、ところで冒険団名は何にしたんだ?」

「そんなの決まってるじゃない」

「我々が名乗る名は一つしかない、そうでしょマスター」


 時間を飛び越えたからと言って名乗りを変える必要はない、咲耶が登録用紙に記入した冒険者集団名は百二十年前と同じものであった。






 レフティア総支部長室から訓練場で行われた決闘を眺めていた総支部長カイザン、顔に大きな刀傷を持つ中年の長寿族(エルフ)である彼は総支部長に就任したのは五〇年前、それまでは七〇年ほど冒険者として活動しランクAの階級と戦鬼という二つ名を獲得していた。

 総支部長へ就任できたのも辺境を知りランクAを持つ冒険者だったからだ。


「あの少年、どこかで見たような」


 総支部長になる前、若かった冒険者時代にあったことがあるような感覚が沸いていた。頭の片隅に片づけられ記憶が重要な要素を忘れていると訴えている。だが肝心な部分が思い出せない。


「総支部長!!」


 カイザンが頭を捻っていると、総合支部長室へ一人の女性が焦った様子で駆け込んできた。彼女は受付スタッフをまとめている女性で総支部長カイザンの信頼厚い幹部である。


「どうかしたか?」

「先ほど決闘騒ぎが有りまして」

「それならここから眺めていた、新人が決闘を受けるなど自惚れがすぎるが、それよりあのランクBの冒険者の方が問題だ、不正でもしない限りあの程度でランクBにはなれんだろ」


 辺境ギルドをまとめる男、数多くの冒険者を見てきたカイザンにとってあれほど弱い冒険者がランクBになどなれるわけがないと断言できる。


「その件は後ほど調査させます、代表が変わってから深紅の秩序にはいい噂を聞きませんから」

「そうしてくれ」

「ですが、それよりも問題は対戦した新人たちの方です」

「新人たち?」

「彼をリーダーに据えてランクBの二人が冒険者集団結成の申請をしてきました」

「Fをリーダーにするのはどうかと思うが、別に違反ではないだろう」

「それが申請した冒険団名に問題が、彼らはよりにもよって『七星剣(セブンセイバーズ)』と申請してきたのです」

「なんだと!!」


 七星剣(セブンセイバーズ)。それは百二十年前の昔、この帝国で一番有名であった冒険者集団。十人にも満たないメンバーで帝国と戦い、当時の皇帝に謝罪させたという武勇と悪名を併せ持つ最強の冒険団、今でも彼らの逸話は伝説やお伽噺として語り継がれている。


「ギルドシステムには弾かれなかったのか」


 これまでにいくつもの集団が伝説に憧れ七星剣と名乗ろうとしたが、いまだに解明されていない創設者たちが作り上げたギルドシステムはどのメンバーからの登録申請も受け付けなかった。推測では、ランクSまで上り詰めた冒険団の名を使うには申請した冒険団が役不足だとギルドシステムに判断されたからだと考えられていた。


「それが、システムを通過しました」

「ま、まさか、他に二人はランクBと言ったな」


 実力が伴っているとシステムが判断したのか、それとも申請したメンバーが以前と同じメンバーだったからシステムが許可をだした。


「その二人は女性か?」

「はい、すでに二つ名が付いており、月光の舞姫と光剣の騎士と呼ばれています。元鉱山街ライトゥスにてたった二週間でランクBまで昇進しています」

「舞姫に光剣だと……」


 カイザンの中で思い出せなかった記憶の幕が取り払われた。カイザンはあの少年を知っている、合った事もある。それも百二十年前の新人時代に。


「……戻ってきたんだ」

「総支部長?」

「戻ってきたんだ、あの人たちが」


 いつもの威厳が消えた総支部長カイザンは震えながら呟いた。


「すぐに聖剣の情報を集めるんだ」

「聖剣ですか?」

「そうだ、オークションの出品物から骨董店に至るまで聖剣の情報ならなんでいい」


 七星剣の目的は何か、何をしにこのレフティアに来たのかカイザンは悟った。可及的速やかに合わなければならない、このレフティアで事件を起こされる前に、だが接触をするためにも手土産は必要だ。


「わかりました、至急指示をだします」

「それとウーゴット商会の情報も集めろ」

「ウーゴット商会、総支部長あそこは!」


 幹部の女性も狼狽する。ウーゴット商会とはレフティアの裏を牛耳る組織であり、街の発展にも大きく係わっている。街の有力者とも繋がりは深く冒険者ギルドでも迂闊には手を出せない相手、そんなことはカイザン自身もよく理解している。


「あそこを全面的に敵に回しても構わん、情報収集を優先しろ責任はワシがとる」


 ウーゴットを敵に回せば交易都市レフティアでは生きていけない、それでも調べろと命令を下す。あまりの総支部長の決意に幹部の女性は何も言い返すことができなかった。


「確実にぶつかるぞ。七星剣は必ずウーゴット商会とぶつかる。そうなった時、レフティアへの被害は最小限に抑えなければ」


 かつてランクAの冒険者まで上り詰めた男が決しの覚悟を抱き決闘の終わった訓練場を眺めた。そこにはもうランクFの新人の姿はなくなっていた。

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