第104剣『カナリー救出』
「お姉ちゃん!」
助け出されたカナリーに駆け寄るリーシャ。沼地の泥に足を取られながら、全身が泥だらけになるのも気にせず姉へとすがりつく。
装備していた全身鎧はいたるところが噛み砕かれて、カナリー自身もひどいありさまであったが、彼女はランクAにまでなった冒険者である。最悪の状況になりながらも命だけは強靭な精神力で繋ぎとめていた。
はやく手当をしたいところだが、周囲のメタルグロッグがすんなり帰してくれそうもない。
「ヤマト、カナリーとリーシャを頼む」
鎮也の道具袋から取り出した刀、海軍刀ヤマトが剣の角を持つ白銀の狼へと姿を変え二人の守りについた。
「いくぞ咲耶」
『まかせて!』
残りのメタルグロッグを殲滅するため、大太刀の咲耶を上段に構える。咲耶からは鎮也にしか聞こえない声で心強い言葉が返ってくる。
カナリーの容体が心配なので、鎮也は速度重視で討伐していった。鉄食い蛙との異名を持つメタルグロッグ、金属を扱う職人にとって天敵と言っても過言ではない相手、しかし、鉄と同レベルの固さの肉は素材として重宝もされている。
元が魔物なので魔力の通りもよく武具から魔道具まで活用法はいろいろある。いつもの鎮也なら素材回収のために時間をかけても丁寧に倒していくのだが、今回は何よりも速度。
繰り出される居合いの一刀が数匹をまとめて両断し、魔物素材の中でも一番価値のあるBランクの魔核も砕いていく。素材回収を気にしなければ魔核を砕くことが一番確実に魔物を討伐する方法なのだ。
馬に戻り鎮也の援護に回っていたトロンバ・トルナードの角に貫かれたメタルグロッグはスキル『粉砕』により肉の一欠けらも残さずに吹き飛ばされている。
鎮也とトロンバ・トルナードはわずか数分で十数匹いたBランクの魔物を殲滅してみせた。沼地での戦いであったため全身跳ねた泥で汚れているが、かすり傷一つおっていない。
「すごい、これが伝説にうたわれた力」
カナリーに寄り添っていたリーシャが鎮也たちの戦いに度肝を抜かれていた。
「ああ、私など比べモノにならなかったな、あれでランクFなのか」
「お姉ちゃん、気がついたの」
「あれだけの戦いが見られるなら、死んでいても観戦にくるさ」
「気がついたか」
少女へと戻った咲耶と共に鎮也もカナリーの元へやってくる。
「ルーに散々君たちを下に見るなと言われていた意味が理解できた。これでも私は鋭い方だったのだが、私の目を完全に欺くとは」
「お姉ちゃんが鋭いなんてありえないから」
「な、なんだと」
信じられないと驚愕の表情。カナリーが重症を負っているにも関わらず姉妹漫才をはじめた。
「それで、私が助けられたということは、みなが救援を呼びに行ってくれたのだな」
「え、みんなが救援を」
「違うのか?」
「俺たちはリーシャが、カナリーたちが危ないから助けて欲しいと頼まれたんだ」
「おまえの占いか、それではルーたちはどこに」
「もしかしてビンザ――」
「救援要請の間にすれ違ったのかもしれないね、たぶんギルド本部に向かったんでしょ。今は先にカナリーさんの手当てをしよう」
リーシャが罠にハメたビンザスの名前を言いかけたのを咲耶が遮った。
「すまない、世話をかける」
「お姉ちゃん」
「大丈夫だよ、意識をうしなっただけ」
鎮也たちはロードイリアから最短ルートを通ってこの沼地へきている。カナリーの仲間のルーシアたちが救援を呼びに行ったのなら、途中ですれ違っているはずだ。それに先程、索敵をした鎮也はこの周囲に人がいない事もわかっている。もし魔物にやられていたとしてもカナリーと同じように沼に沈んでいるはずだ。
でも、どこにも姿が見当たらない。
考えられる一番高い可能性はビンザス一味に攫われた。
リーシャもその結論に達したのだろう。だが、そのことを重症のカナリーに伝えるのはまずい、彼女の性格は付き合いの短い鎮也や咲耶でもわかる。攫われたときけば、自身をかえりみずに助けるため動き出してしまうだろう。
「オジロは今レオナと一緒か、屋敷に運ぼうシアがいれば回復を頼める」
「そうだね、お願い。私はちょっと気になることがあるから少し残るよ」
「わかった、ヤマト、トルナード、お前たちも残ってくれ」
回復魔法が使えるオジロはランクA昇格二次試験を受けているレオフィーナが所持している。なので鎮也は、自分の屋敷へ運んで手当てをすることにした。咲耶もそれに同意し自分は調べたいことがあると言い出した。
その申し出を承諾した鎮也は、ヤマトとトロンバ・トルナードを咲耶の手伝いのために残していく。
「透徹、頼んだ」
魔法のカバンから大十手透徹を取り出すとスキル『瞬間移動』を発動させた。
カナリーを抱えた鎮也が帝都の屋敷の庭に姿を現す。
「お帰りなさいませシズヤ様、また新しい女性ですか」
いつものように一番で出迎えてくれたアリアが、鎮也の背中に背負われているカナリーに目を向ける。救援要請をしたリーシャが隣にいるので、カナリーの正体は察していそうだが。
「真紅の秩序のカナリーだ、シアはいるか」
「はい、さきほどオルトハウンドのブラッシングを終え、今はご自身についた泥を落とすために入浴中です」
「すまないがすぐに呼んでくれ、それと」
「治療に使える部屋をすぐに用意いたします」
すべてを言い切る前に事情を理解した万能メイドアリアは素早く動き出す。
遅れて出迎えにきた執事長キャットナに部屋の用意をまかせ、自分は浴場へトレイシアを呼びに行った。
使用人が六十人も暮らす屋敷ではあるが、それでもまだまだ部屋が余っている。百二十年前にはこの屋敷で二百人以上の人間が生活していた。
きれいなシーツに取り換えられたばかりのベッドにカナリーを降ろすと、まだ髪も乾ききっていないトレイシアが駆け込んでくる。
「シズヤさん、カナリーさんは」
交易都市レフティアにてトレイシアはカナリーと一度共同の依頼を受けており知らない仲ではない、カナリーが重症だと聞き全速力でやってきた。
「こっちだ診てやってくれ」
「わかりました」
マルチシスターのトレイシア。多彩な技能を身に着け、四本もの聖雷剣に主であると認められた長い金髪の少女、いつもは三つ編みにしている髪が風呂上りでおろしている姿は新鮮であった。
トレイシアは聖雷剣魂輪刀を持ちカナリーの治療に取りかかる。
手伝いをしているメイドたちに着ている鎧を脱がすようにと指示を出したので、リーシャに付き添いをまかせ男性である鎮也は部屋から退出した。
廊下ではトレイシアを呼んでくれたアリアが待っていた。
「シズヤ様、サクヤ様は?」
「気になることがあって、現場に残っている。俺もこれからすぐに戻る」
カナリー以外の真紅の秩序が行方不明、遺体が見つからなかったので最悪の状態ではないが、おそらくビンザス関係の者に攫われている。
「そうでしたか、ですがその前にあって欲しい者たちがいるのですが。お時間は取らせませんので、お願いいたします」
「あわせたい者?」
「あなたたち」
アリアに呼ばれ、廊下の隅で待機していた四人の女性が鎮也の前へとやってきた。
「え~と」
鎮也には見覚えのない四人であった。メイドの格好をしているが、先日紹介されたネコッタ一族六十人にこの四人は含まれてはいなかった。まだ正確に六十人の名前と顔が一致していない鎮也だが、絶対に紹介されていないと言い切れる自信もあった。
それはどうしてか、彼女たち四人の耳が例外なく人族よりも長くピンと立っているから、これはある妖精族の特徴、人間であるネコッタ一族にはありえない。
そう、彼女たち四人はエルフであった。
「なんで、ウチのメイド服着てるの?」
鎮也が彼女たちを見て、最初に感じた疑問はこれであった。
次は週末までに投稿予定




