第103剣『メタルグロッグ』
久しぶりの本編投稿になります。
「ヒィヒャ~~~~~~!」
帝都ロードイリアを飛び出し街道を疾走する馬車から少女の悲鳴が発せられていた。
馬車を引く馬は額に剣のような角をもつ白銀のブレードユニコーン、トロンバ・トルナード。その手綱を握るのは黒い着物に緋袴姿の長い黒髪の少女咲耶。荷台には道具袋の魔法のカバンを腰に提げた繋ぎ姿の職人風少年鎮也と、先程から悲鳴をあげている幼い十歳くらいの少女リーシャである。
「よっと」
リーシャははじめは濃い色のローブを着て占い師の姿をしていたが、トルナードが首都の門を出て疾走をした瞬間に風圧で吹き飛ばされていた。
飛ばされたローブは鎮也がキャッチして魔法のカバンの中へしまっているが、今度はリーシャの体そのものが風に持っていかれそうになるのを、これまた鎮也が抑えて荷台にとどめている。
「リーシャちゃん、口閉じてないと舌かむよ」
御者台の咲耶から注意をうけるリーシャ、そろそろ整備された街道がおわり、凸凹した山道に突入する。
三人が目指しているのは、一つ山を越えた先にある沼地。そこにリーシャの姉である重剣士カナリーが団長代理を務める冒険団『真紅の秩序』が鉄食い蛙メタルグロッグの討伐依頼を受けて向かったはずの場所。
この討伐依頼事態が偽りの可能性があり、同じ冒険団『真紅の秩序』所属のビンザスにより罠が仕掛けられていることが判明した。カナリーの妹リーシャが姉たちの救出を鎮也たちに頼み、その結果が現在の疾走馬車である。
見た目は廃材を繋ぎ合わせたとしか思えないボロボロ馬車がどうしてこんな速度を出して分解しないのか、リーシャはスピードと共に二重の恐怖に襲われているが、この馬車の所有者が伝説の聖剣鍛冶師であると自分に言い聞かせ、悲鳴をあげるのを両手で口を押えこらえている。
「道はまちがってないよな、口で答えなくていい、首を動かして」
リーシャが間違っていないと首を一度縦に動かした。この中でカナリーたちが受けた依頼書を見ているのはリーシャだけであり、正確な場所がわかっているのも彼女だけなのだ。
山道を登り切り、今度は下り坂へと突入する。
勾配を味方にした馬車はさらなる加速、リーシャが考えていたよりもはるかに短い時間で山一つを走破してみせる。
「鎮也くん、沼地だよ」
「了解」
リーシャを抱えていた鎮也は馬車が停まるのも待たずに飛び降りる。
沼地近くの水分を多く含んだ地面に足をとられることもなく、リーシャを抱えたままなんなく着地する。
加速がつき過ぎ、このままでは止まれないと誰もが思う速度であった馬車も車輪が放電し、泥を巻き上げて逆回転させることで急停止に成功した。あのまま荷台に二人が乗っていれば反動でどこかに投げ出されていたかもしれない。
馬車の車輪が逆回転とか、どうしてあれだけの速度を出して馬車が崩壊しないのとか、普段のリーシャであれば突っ込みを入れていただろうが、今は馬車の構造よりも、罠にハメられたカナリーたちの方が気がかりであるようだ。
「お姉ちゃん! ルー姉さーん! みんなー!!」
鎮也の腕からおり、姉たちの名を呼び続ける。
だが沼地周辺に人の姿はなかった。
「鎮也くん、リーシャちゃん、あれ見て」
御者台を降り、トルナードを馬車から外した咲耶が沼地の先で傾いた馬車を見つけた。
「あれ、お姉ちゃんたちが乗っていった馬車だ」
「間違いないか」
「はい、出発の時に見送りしています。間違いありません」
近づいてみれば、馬車はひどいありさまであった。車軸が抜かれ、御者台もなくなっており、全壊したと言ってもいいありさまの車体が半分以上沼に引き込まれている。
「鉄製の部品がなくなっているな」
抜かれた車軸や板を固定していた釘なども強引に引き抜かれている。馬車が全快したのもそのせいだ。御者台が無くなっているのは、馬を繋ぐために金具が多く使われていた場所だからだろう。
「鎮也くん、これって」
「ああ、メタルグロッグの仕業だな」
「討伐依頼は本物だったってこと? リーシャちゃん。どんな討伐依頼だったか詳しく教えてくれる」
「は、はい、討伐内容はメタルグロッグ五匹の駆除です」
「素材回収とかは?」
「ありませんでした。ただ被害が出る前に至急の駆除をして欲しいと報酬は通常の倍でした。ルー姉さんや
クラネットは怪しんでいたのですけど、ウチはお金が少なくて、それに、たかが五匹のBランクの魔物の駆除をランクA(私たち)が断るわけにもいかず」
主力を失い、ランクA冒険団でありながら所属している冒険者の中で個人ランクAなのは団長代理であるカナリー一人だけであった。昇進試験を受けようと他のメンバーとは話あっていた。だが、ランクAの試験を突破するには、それなりの備えをしなければならない。それには結構な金額が必要なのだ。
主力を失った『真紅の秩序』の所有財産は底を突きかけていた。対立する女性陣と男性陣とは財布を分けているのでリーシャは男性陣の懐事情はしらないが、たいして仕事もしていない様子の彼らが毎日遊んでいられるのは、裏でなにかよからぬことをしていると子供でも理解できた。それが真紅の悪評にもつながっていて、ランクの降格間近ともささやかれている。
「カナリーがランクに拘り強かったもんな、そこを付け込まれたか」
「だね、それでどんな討伐方法をとったの?」
「えっと、お姉ちゃんがどっかから石の武器を買ってきて」
それは鎮也も知っていた。武器が石であると鑑定したのは鎮也であり半銅貨一枚で購入する現場を目撃している。
「鉄のフルプレートを着たお姉ちゃんが囮になって、みんなで攻撃――」
「ちょっと待て、メタルグロッグ相手に鉄の鎧を着てたのか!!」
リーシャの説明を途中で遮り鎮也が叫んだ。鉄の武器を避けていたので装備品も鉄を避けていると思い込んでいた。
「トルナード!」
愛馬を呼ぶ鎮也。ブレードユニコーンが白銀の光を放つとトップヘビーな大剣へと姿を変え鎮也の手に収まった。そしてスキル『索敵』を発動させる。これは風の届く範囲ならどんな相手が潜んでいても存在を探知できるスキル。沼の中までは効果が薄いが、それでも沼の中で動きがあれば表面にも動きがあるはず。
鎮也はその微かな動きも探知する。
「これは、五匹どころじゃないぞ」
索敵の結果、沼の中で数十匹の動く気配を感じた。その中で一か所だけ密度が高い、気配が群がっている場所がある。
地を蹴った鎮也は、沼の中央にトルナードを叩きつけスキル『粉砕』を発動、沼の泥だけを全て吹き飛ばした。
沼の底が顔をだせば、そこにはメタルカラーの蛙たち、そして鎮也が感じた密度の高い場所、そこでは全身鎧を装備したカナリーが大量のメタルグロッグに噛り付かれていた。
「お姉ちゃん!!」
「咲耶!」
「了解!」
名を呼ばれた咲耶が着物をひるがえし、白銀の輝きのもと大太刀へと姿を変える。
破壊力に特化したトルナードではカナリーを助けるのは難しい、鎮也はトルナードから神霊刀咲耶へと持ち替える。
刀となった咲耶は土魔法を使い手に与える。鎮也はヘドロ状の沼底を土魔法で固め、普通の地面のように走り抜けた。そして――
スキル『神斬撃』
「お姉ちゃんッ!?」
鎮也が繰り出した無数の斬撃。
リーシャにはすべての斬撃を目で追うことができなかったが、それでも鎮也の斬撃は間違いなくメタルグロッグごとカナリーも切り裂いたように見えた。
しかし結果は、カナリーに噛り付いていたメタルグロッグだけが斬り飛ばされ、カナリーには斬撃による被害はまったく存在しなかった。
神霊刀咲耶のスキル『神斬撃』このスキルはあらゆるモノを切断し、そして切断しないモノも任意で選択ができる。例え刃が届いたとしても、斬らないと選択したならば、咲耶の刃は対象をすり抜け決して傷をつけることはない。
読んでいただきありがとうございました。続きは今週中にもう一話できたらと思います。
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