30何も食べなくても良かったみたい
「次はおめぇが相手か」
「はい」
「いいぜ、かかってこい!河童は相撲が好きだ」
斗真は屈伸やアキレス腱など、軽くストレッチをした後、靴と靴下を脱ぐ。
そして、何度か地面をジャンプし、地面が”耐えられるかどうか”を確かめる。
よし、これなら強めに踏み込んでも、大丈夫か。
斗真は円の中に入る。
身体能力を上げるために、斗真は体中に魔力を纏わせる。
それを見ていた河童のお頭は目を少し開く。
「おめぇさん…妖怪じゃないな」
「ええ、俺は妖怪ではなく、妖人です」
「妖人………こりゃあ、何とも珍しい」
そう言って、河童のお頭は体を低くさせ、両手を地面に置く。
「準備は良いか?」
「はい、良いですよ」
斗真も相撲の開始の姿勢を取る。
「斗真、頑張って!」
楓が応援する。
河童たちはお頭の方を応援していた。
「では、はっけよ~い…………」
審判役の河童が右手を下げ、
「残った!!」
勢いよく右手を上げる。
それ同時に、斗真は一気に足に魔力を込める。
次の瞬間。
ドガン!!
高い破裂音と舞い上がる土飛沫と共に、斗真が消える。
河童どころか、楓の動体視力を持ってしても斗真がいきなり消えたように見えた。
「ぐわああ?!」
間髪入れずして、別の方向で河童のお頭の悲鳴が聞こえる。
楓と他の河童たちは何が起きたのか、円の中を見る。
けれど、
「いない」
楓が呟いた通り、相撲を取ったはずの二人の姿が円の中には、いなかった。
代わりに、円からかなり離れた地点に二人は居た。
斗真は立っており、河童のお頭は地面に尻もちを付いていた。
「俺の勝ですね」
「いてて、こりゃ参った」
河童のお頭は尻に付いた土を払いながら、立ち上がる。
「おめぇ、飛んでも無い足の速さしてんな」
河童のお頭は斗真の足の速さを指摘する。
そう、河童のお頭が言った通り、斗真は目に留まらぬ速さで相手を円の外側へ押し出したのだ。
「縮地」により。
退魔士になる試験で妖狐である琴葉の〈炎円宴〉を躱すために、使った技術。
最大まで肉体強化した脚力と地面を蹴る際の地面への魔力放出で、瞬間移動と見まがう速度で移動する。
これは回避だけでなく、その速度を活かした体当たりなどにも利用できる。
斗真が相撲する前に、地面を何度も踏み込んだのは、「縮地」の地面蹴りに対して、しっかり踏み込めるかを確かめるためだ。
因みに、泥田坊との戦いで「縮地」を使わなかったのは、足場が不安定な沼地だったからである。
「約束だ。キュウリは返す」
そう言って、河童のお頭はキュウリを返すのだった。
「ごめんなさい!!」
その後、キュウリを盗んだ河童たちはそれぞれ一人ずつ、楓から「姿化かし」であるイヤリングを借りて、盗みもとである八百屋の元へキュウリを返し、謝すことになった。
結果的に、キュウリを盗まれた全ての八百屋の店主たちは許してくれた。
数日間、店の手伝いで働くと言う条件付きで。
これからキュウリを盗んだ河童たちは、役所から人の姿になれる「姿化かし」を貰うことで数日働くことになる。
取り敢えず、これで商店街からキュウリが盗まれる事件は片が付いた。
斗真と楓は今、今までの帰り道を歩いている最中であった。
「今更なんだけど…………妖怪って、人の食べ物とか食べるんだな」
「ん?」
「ほら、今回河童たちはキュウリを盗んでいて、前に住んでいた座座街では魚を取っていたらしいから。妖怪でも、普通に人の食べ物を食べるんだなって」
河童がキュウリを食べるために、盗んだこと然り。
楓の話では、斗真の学校には4、5人に1人と、多くの妖怪がいる。
そして、斗真の教室だけの話ではあるが、休み時間になると、みんな持参している弁当を食べているし、学食に行ったりしている。
楓も普通に弁当を食べている。
最近仲良くなった猫又の五月も、いろんなスイーツを食べているという話だ。
今頃であるが、妖怪が人の食べ物を食べている事実に、斗真は首を傾げる。
「ああ、それね。別に私達、妖怪は人の食べ物を食べなくても、生きていけるよ」
「え?食べなくても良いのか?」
「私達、妖怪が人の食べ物を食べるのは、人の生活に溶け込むからと、単純に美味しいから」
「美味しい…………妖怪にとっても、人の食べ物は美味しいのか」
斗真は意外そうに眉根を上げる。
つまり、河童たちは美味しいからと理由だけで、キュウリを盗んだのか。
「妖怪は基本的に何も取らなくても生きていける。偶になんだけど、妖気が漂ってる山や神社、お寺とかに行って、妖気を寄りこむことでお腹を満たすの」
「山に妖気?しかも、神社とか寺に妖気があるのも初耳だ」
「日本には、妖気が自然と吹き出す場所がたくさんあるの。殆どが山奥だけど、偶に平地に少なからず妖気が溢れている地点があって、そういう場所に神社やお寺を建てられる。よく神社やお寺に行くと、不思議な力を感じるとか、テレビであるでしょ。あれは妖気があるからだよ」
まさか神社や寺には、そんな秘密が。
「あ~だから、神社や寺でお参りをすると、ご利益があるって言われているのか」
「ううん、妖気はご利益とは関係ない」
楓は首を振って、否定する。
こうして話している内に、話題は自然と妖獣のことになる。
「座座街に現れたって、妖獣。いずれ、私と斗真に退治の指令が役所から出るはず」
そう、今回の事件はこれで終わりではない。
河童の話に出てきた座座街に出た妖獣のことだ。
この妖獣のせいで、河童は住処である川を追い出され、この街である隗隗街に来て、キュウリを盗む結果になった。
その妖獣を退治せねば。
「もし、妖獣を退治する時は、よろしくね」
「ああ、任せろ」
キュウリが盗まれる事件を一旦、解決させた斗真と楓は、座座街の妖獣を退治するまで残りのゴールデンウイークを過ごすのだった。
余談だが、斗真は残りのゴールデンウイークは家で主に、読書とゲーム、アニメの視聴、それ以外にまた楓と五月の買い物の荷物持ちに付き合わされる羽目になった。




