31土蜘蛛①
ゴールデンウイークが明けた次の休日。
斗真と楓は座座街にいた。
ここは斗真と楓の学校がある隗隗街の三つ隣にある町。
この街も隗隗街と似ていて、近くに妖怪が出そうな雰囲気の山がある。
ゴールデンウイーク中、隗隗街の商店街でキュウリを盗んでいた河童たちが元々住んでいた街だ。
彼らが言うに、座座街の山よりの川辺に住んでいたが、その付近に強力な妖獣が現れたという事で、隗隗街に避難したという話だ。
なので、退魔士である斗真と楓は、その妖獣を退治するために座座街にきた。
斗真はしっかりと新しく手に入れた妖具である『花咲の弓』と、矢筒を持っていた。
今回の相手は妖獣なので、武器は必要だ。
「確認だけど、座座街の川辺近くに現れた妖獣と言うのは…………」
「うん、聞いた姿形から”土蜘蛛”で間違いないよ」
斗真の確認に、楓が答える。
それは数日前の、斗真が相撲で河童のお頭に勝った後、
「それで肝心の妖獣とは、どんな奴だったのですか?」
楓が改めて、河童のお頭から座座街に現れた妖獣の特徴を聞く。
「ああ、ソイツは夜に行動するから、正確な姿は見てねぇんだけどよぉ。たくさんの長い脚に、デカい胴体、口から糸を拭いていた」
「糸…………」
「おら達、河童は犠牲者は出てねぇが、座座街の川辺に住んでいる、おら達以外の妖怪は何人か犠牲になってる」
「それって、もしかして…………」
「そうだな。姿から見て、土蜘蛛で間違いねぇな」
「土蜘蛛?!」
土蜘蛛と聞いて、楓は酷く驚く。
土蜘蛛…名前の通り、蜘蛛の化け物。
由来は昔の日本である大和政権に恭順しなかった土豪たちの名称であると言われている。
容姿は鬼の顔に、虎の胴体、蜘蛛の手足を持つとされている。
平家物語など、日本昔話によく出てくる蜘蛛の怪物だ。
中々強敵そうである。
「お、おお…ど、どうした?」
「あ…いえ、こっちの話です」
河童のお頭は急に驚く楓に意表を突かれたが、とうの楓は何でも無いと言う。
楓は一回深呼吸してから、
「分かりました。退魔士である私が土蜘蛛を退治します」
「おう!助かるぜぇ!」
河童のお頭が助かると言って、大笑いしている中、楓は何か悩んでいる様子を、斗真は見て取れた。
斗真と楓は、座座街の山方面へ歩きながら、
「河童の話では、土蜘蛛は夜にしか現れないのか。だったら夜まで待つしか無いって事かな」
「いいえ、土蜘蛛は夜行性だけど、寝床があるはずだわ。きっと山奥の何処かに、丁度いい穴の寝床があると思う」
「土蜘蛛に詳しいんだな。だったら、その寝床を探して、退治すればいいのか」
「…………ええ、そうね」
やっぱり、楓は土蜘蛛の話題で何かを悩んでいる様子だった。
本人が自ら言わない以上、自分から聞くべきではないと斗真は判断した。
座座街の川辺に早速来た斗真は、楓と二手に分かれることになる。
「山の何処かにある土蜘蛛の寝床を二人一緒に探すのは、非効率ね。ここは二手に分かれて、探しましょう」
「分かった。連絡はスマホでしよう」
「ええ、見つけたら、すぐに知らせて」
そう言って、斗真と楓は分かれて、土蜘蛛の寝床を探すことになる。
二手に分かれてから、数時間が経つが、未だに土蜘蛛の寝床は見つけられていなかった。
「う~ん…見つからないな」
土蜘蛛は大きな蜘蛛とは言え、山の中でソイツの寝床を見つけるのは骨が折れる。
「大きな蜘蛛か」
それはそうと、今回退治する妖獣が強大な蜘蛛の怪物である土蜘蛛と分かって、斗真はふと…異世界にいた巨大な蜘蛛の魔物を思い出した。
その魔物の名前は、マーダースパイダー。
名前の通り、人殺し蜘蛛である。
ソイツは強かった。
巨体の割に動きが素早く、猛毒も使う。
時には、集団で敵を仕留めると言う狡猾さも持ち合わせている。
斗真……いや、異世界に召喚された勇者にとって、マーダースパイダーには深い因縁がある。
何せ、このマーダースパイダー、ただ強いだけではなく、『魔族』がよく使役していた眷属みたいな魔物だったからだ。
集団でマーダースパイダーが村や町を襲っていた背景には、必ず『魔族』がいた。
マーダースパイダーと土蜘蛛、やはり似ているな。
偶然だと思うが。
一方、楓も山の中を歩きながら、土蜘蛛の寝床と思われる大穴を探していた。
「土蜘蛛の習性なら、ここら辺を寝床にするはずなんだけど」
楓は土蜘蛛退治をする今日までに、役所で過去に確認された土蜘蛛の記録を粗方読んだ。
本部を京都府に置く退魔士・支部は全国中にあり、全国にいる退魔士が遭遇し、退治した妖獣の記録は全支部に共有される。
土蜘蛛は妖獣の中では、出現する頻度が比較的多く、被害を出している妖獣である。
しかし、ここ最近…土蜘蛛が出没する頻度がかなり多いのだ。
全国各地で土蜘蛛の出没が確認され、楓が緑鬼との初めて妖獣討伐をする時よりも、まだ正式に退魔士になる前の際、十体以上にも及ぶ”土蜘蛛の群れ”が確認されたのだ。
それによって、土蜘蛛の群れが現れた地域に居た妖怪たちは大きな被害を受けた。
中には、行方不明となった妖怪も。
これが原因で子冬は…………、
「いけない、集中しないと」
楓は頭を振って、余計なことを考えないようにする。
雑念を払って、また山を散策する。
「…………………ん?もしかして、ここが」
そこで、楓は見つける。
車が入れそうな、大きな横穴を。
山の中腹にある崖に、綺麗な横穴があったのだ。
見たところ、自然に空いた穴ではなく、人為的に空けられた穴に見える。
妙なのは、それが妖術で開けられた穴に見えることだ。
楓はなんだか嫌な予感がした。
これは土蜘蛛を調べる上で、役所の記録に乗っていたことだが、最近の土蜘蛛の頻繁的な発生の裏には、何者かが関与しているという事だ。
土蜘蛛が出た現場では、土蜘蛛と一緒に妖術に長けた者たちが度々確認されたらしいのだ。
その妖術に長けた者たちは、顔をお面で隠しているのだが、体に多くの妖気を持っていたそうだ。
しかも、身体能力にも優れ、特殊な能力も使っていたと言う話だ。
人のような姿で、多くの妖気を持っており、妖術に長けている。
それはまるで楓と同じ…………。
ピン!
柊の頭の上にある緋色の髪が一本立つ。
妖獣に反応する〈妖怪センス〉が反応しているという事は、この洞窟で辺りである。
「…………」
楓は暫く、横穴を睨んだ後、スマホで斗真にGPS機能を使って、横穴があった場所を伝える。
すぐに斗真はそっちに行くと、返事があった。
普通なら、斗真が来るまで、待つのがセオリーだろう。
けれど、妙な胸騒ぎがした楓は耳にあるイヤリングを外し、本来の姿である『鬼族』となる。
そして、裸足の上に『飛翔草履』を履き、斗真が来るのを待たずに、横穴に入ってしまう。




