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4-20 蛇神様のお宅改造記!

実家のすねかじり系自称研究者の犬見瑠華は僻地のフィールドワークで蛇神様に出会う。雑霊に煽られネットを欲しがる蛇神様。その願いを叶えるために奔走する。

 手を伸ばせ。前を見ろ。止まった足には先がない。考えろ。雑に流すな。受け入れるな。


 私は誰だ? 私は犬見瑠華。男だ。

 フィールドワークが趣味の研究者だ。

 人間よりも動物が好きな偏屈者だ。


 ここはどこだ? 私は何をしていた?

 薄目で辺りを窺う。暗い。体を負傷しているか? 頭を打ち付けたか?

 指は動くか? 手には力が入るか? 様子を窺え。近くに襲ってきた相手がいたら危ない。


 森にあった壊れた祠だ。

 あれに触れたのが最後の記憶だ。

 祠に気を取られて背後への注意が欠けたか?


 ……獣に襲われたにしては血が出ている感覚がない。殴られたか?

 体に痛い部分は……ない。少し痺れる様な感覚か。

 毒物だろうか? 低い位置に悪い気体でも溜まっていただろうか? 明るい時間だったから火を使った確認を怠っていたな。

 草木も変色していなかった気がする。木々に異変はなかっただろう。よく見かける木々だった。


 ここまで意識がある以上、一酸化炭素中毒などではないか。オゾン? 雷で発生するが、それなら強い臭いがあるからわかるな。

 森の中、火山地帯でもない場所、窪地でもないのに、悪い気体が溜まっていた?

 人が通れる程に道がある場所で? なくはないのかもしれない。だが可能性は薄いのか?

 量が少なかったから一瞬倒れるだけで済んだ可能性がなくもないのか?


 ……物音の類はこれまでのところない。風で生まれる葉擦れの音は聞こえる。耳は問題ないか?

 落ち葉を踏みしめる音などは聞こえない以上、周囲に人などはいなさそうだ。

 獣の寝息なども聞こえない。クマの類なら土に埋められているだろうが、そういう気配もない。

 なんなんだ? 本当に私に何が起きた?


 指の先、足の先、感覚がある。

 筋肉に力。……問題なく入る。

 腐葉土の香り。木々の青臭さ。問題なし。

 ……起きよう。静かに。枯葉も鳴らすな。


「起きたか、小僧」


 ……。なんかいる。なんかいる。小さい何かがいる。少し離れた石の上に20cmくらいの人型の何かがいる。


「さっきから起きてるだろうに、目も開けんからもう一発雷でも落としてやろうかと思っとったわ」


 ……。いっつあふぁんたじー。


 御伽の世界にでも私は迷い込んだかな?

 精霊の類なのだろうか?

 いや、神霊の類なのかもしれない。


 もう一発という事は私が気絶した原因はこの小さいのなのか?

 何をしやがるんだ。

 ニヤニヤしてるんじゃない。


 私の人嫌いは相手が何を考えているか分からないところからきているんだぞ。

 裏でコソコソ噂した挙句、変な試し行動に巻き込まれるのは煩わしくて仕方がなかったんだ。


「おぉ、おぉ、そう怒るな。苛立つな。我は君の様な存在を待ち望んでいたのだ。今の君の瞳には我が見えるだろう? チャネルが合うというべきか? そう作り替えたのだから」


 ……作り替えた? 意味が分からない。

 視神経というか、視床下部でもいじったというのか?

 霊感なぞ要らんのだが? 詐欺のための道具に過ぎないのだから。

 見るだけで胸糞悪い話とか多くて仕方ない。


「さて拒否権もない話だがしようか」


 酷い話である。この何かが人の形をしているのも苛立たしい。

 動物の形をしたモノであれば神秘性などでまだ許容範囲だったモノを。

 造形は整った童子といったところか? 水干というんだったか、平安時代辺りの服を纏っているところからして、それくらいの時代から生きているモノだろうか? おかっぱ頭だし男女は分からん。


「ここにネット回線が欲しいんだ。雑霊共が盛んに自慢してきてウザくての。この山中まで足を伸ばす様な奇特な連中も久しくおらんし、我を祀っておった村は潰れおった。最後は老人ばかりで子孫繁栄も出来んかったしの。立地が悪くて仕事がないのは我にもさすがにどうにも出来んかったわ」


 ため息ついとる。まぁ、都心から乗り継いで1日かけなければ辿り着けない辺境だ。

 最寄りの駅まで20kmあるのもいただけない。レンタカー屋もない。もちろん駐車場もない。ガソリンスタンドもない。

 そんな場所に何を用意すれば仕事が生まれるのか。金粉でも川に流せばいいか? 無理くりすぎるな。


「分かってる。ここまでネット回線をひくことは厳しい事も。金がないしの。水神じゃ、雷神じゃと祀られても、所詮は山におるだけのちょっと大きくて白いだけの大蛇じゃ。我の今しとる姿の子が環境を整えてくれたから神として過ごせただけの命に過ぎぬ」


 蛇? 蛇? 人間ではない? いいじゃないか! そちらの方が私は好きだ!


「……童子と同じ空気を……? もしや生まれ変わり……?」


 なんか呟いとるがいいとしよう。

 蛇か。蛇。いいよね。可愛いよね。かっこいいよね。きれいだよね。神秘的でもある。

 アルビノな蛇なのか? しかも大蛇と呼ばれるくらいに巨大な? それは神として崇められるのもよく分かる。いいよね。


「とりあえずの。我の力を貸すからいい感じにネットが使える様にしてほしいのじゃ」


 解決は割かし簡単なのか?

 携帯型のWiFiを利用できる様にすれば一先ず問題ないだろう。

 難点は電気がない。建物がない。人里まで何十kmと離れているから電線を伸ばしてもらうわけにもいかないという事か?


「わかった。かつて村があった場所はどこだろうか? そこを拠点にしたい」


 何十年と経てば草木に埋もれ、ほぼほぼ開拓の体をなすだろう。

 だが拓けた土地というか、平野部分と今いる森の中とでは、行動の労力の差が違う。

 木を切って根を掘り起こし均すとか、極力やりたくない。1本で1日仕事になる事だろう。


「案内しようとも。ただあまり期待はしてくれるな。多かった時でも三桁程度しか居らん。最後の村民はちょんまげの頃じゃ」


 ちょんまげ……江戸時代という事か?

 村民がするのだろうか? 侍だったのか?

 開拓者だったのかもしれない。


 200年以上経っている可能性が高いな。

 ほぼ森に帰っている……そう考えた方がいいか。

 使える金属製品もなさそうだ。一度道具を取りに行かないと何も出来ない気がする。


「我の貸し出す力じゃが現状だと力の強化くらいじゃろうか。手のひら一杯分の水を夜に出すくらいはできるが瑣末じゃな。つかんだ魚を気絶させる程度の雷も弱すぎじゃし、神としての格は現状は期待しないでもらいたい」


 ……チートと言える様な能力はないな。

 いや、どういう原理で発生するかも分からないモノだから、ある意味チートか。

 コツコツと使ったら成長したりしないだろうか? 親和性が上がると使える力が強まるとか。


 ……先立つモノが欲しい。大手企業に所属する様な研究員でもないし、実質無職と言われたらお終いのダメなヤツだから。

 いい感じに言えばフィールドワークだが、どこかに依頼されて行っているモノでないから、趣味の山歩きと言われたらそれまでなのだ。

 定点観測ならまだ言い訳がたつが、研究対象もろくに定めてなかったというダメ具合。


 ……まぁ、研究すべき対象が目の前に現れるという幸運がついてきたが。

 だがお金になるか? と言われると微妙。

 いや、方法を選ばなければお金にするのは簡単か。だがそれらは外道だろう。

 チャネルを変えた事で私の目に見える様になったという点も問題か。言い換えれば見せられもしない神に逢ったと言い張る狂人でしかないのだから。


「難しいかの……?」


 幸いなのは物証もとい水が出せる事くらいか?

 どういう原理なのかを確認しなければいけない。

 研究員の知り合いに売れる様なモノであればいいが、ただの水だとしたら厳しいだろう。


「ちなみにだがこの山から離れて、例えば私の家に住まうとかだと難しいだろうか?」


 神の力がこもった水を飲んだら、神が見える様になるとか、徐々にもとになった神の力が宿るとか御利益があったら違うだろうか?

 だがそれは期待し過ぎかもしれない。

 信仰をするモノが増えれば力が増大するとか変化があればいいのだが。


「場所にもよる。だが基本的に我がこの地に根差す様に、他の地域には他の神が居る。この人型を同行させるのも許されない場所も多い。人里は特に多いから難しいと思うぞ。……そう言っとる間にほれ到着じゃ。あそこの木々の辺りが我を祀っていた一族が居った場所じゃ」


 土壁は崩壊しあらゆる場所から木が飛び出している。

 だが大きな邸宅がそこにあった。

 木に埋もれ過ぎて、一度更地にした方がいい感じだが、かつての隆盛を感じる。


 だが少し工夫すれば雨風を凌ぐ分には役立つだろう。

 住むには厳しいが一部屋を綺麗にすれば拠点にはできる気がする。

 洞窟の中で眠るのとどちらがマシか? ではあるが。


「……頑張ってみよう」




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