4-15 どうやら魔法少女と契約するケモノに転生したらしい
小学生の頃に癌になり、緩和ケアで生きてきたがついに、俺にもお迎えが来た。
しかし、そんな俺の目の前に不思議な映像が流れ、次の瞬間――魔法少女を探さなければならない、という強い使命感が俺を支配した!
その上、窓に映るのは短い手足と可愛い肉球を持つクリーム色の謎の生き物!
これ、まさか、俺……!?
混乱しながらも病室にいた黒マントと大釜を持つ存在を見つけた途端、俺は叫んだ。
「ボクと契約して、魔法少女になってほしいミュ!」
「ぐ、う、うう、ああ……うう……!!」
十歳の時に、癌を発症した。
抗癌治療を続け、気がつけば小児科最年長の十六歳になったが退院はできない。
十三歳の誕生日以降、誰も俺を見舞いにも来なくなったから帰る家がなくなったのだ。
俺と違って俺よりも小さな子たちが、俺よりも先に逝ってしまう。
退院する子は一割にも満たない。
でも、俺のように誰にも見送られない子はいなかった。
苦しい。痛い。全身が、のたうち回るほど痛いのに動かなくて、呻き声を上げるしかない。
命が削られていくのがわかる。
ナースコールに手を伸ばす力もないほど力が抜けて、痛みが、引く。
あ、終わるんだ。
『助けて』
見送ってきた小さな友人たちの顔が浮かんでくる。
この小児科に来てから、歳の近い子と毎日遊んで精一杯生きてきた。
俺の番が来た。
家族に見捨てられて、誰にも見送られることなく。
『助けて』
――頭の中に響く女の子の声。
俺の声じゃなくて……?
無理だよ、俺の方こそ助けてほしい。
そう考えていると歪んだ視界に映像が流れ込んできた。
ドレスを着た少女が、火の手の上がる城の中を駆けている。
真っ黒な幽霊が城の壁や庭を破壊して、火を吐く姿。
なんだこれは? どうなっているんだ?
『うっ……ううっ……助けて……誰か助けてぇ……』
涙が床に散る。
まるでその少女に乗り移っているかのように、走りすぎて息切れ、喉が乾いて、張りついて痛い。
まるで喉に無数の棘を突き刺されているみたいだ。
なにが起こっているのかわからないが、あの黒い幽霊たちに城が襲われている。
そしてこのドレスのお姫様は、隠れながらも城から逃げ出そうとしているのだ。
『お願い、助けて……伝説の魔法少女! セイバー・アスカ、ジャスティ・ルナ、イノセント・ララ、コズミック・プリティー、シャイニング・サン。お願い……お願い……!』
手のひらを空へ掲げる。
場所は教会のようなところ。
だが祈りを捧げている最中、扉が大きな音を立てて破壊された。
振り返ると、あの黒い幽霊たちが押し寄せてくる。
もう、ダメだ……!
『いやあああああ!』
黒い幽霊たちが“俺”に向かって炎を吐く。
生きたまま焼かれる感覚。
肉が、焼ける匂い。
なんで、こんな……! 残酷な……!
嫌だ、俺は……なんで、死ぬ直前に、こんな酷い夢見なきゃいけないんだ!
俺だって助けてほしい!
――死にたくない! 死にたくない……!
「ミュ……」
だから、探さなくてはならない。
別の世界であっても……いや、別の世界でだからこそ伝説の、五人の魔法少女を。
彼女たちならば、惑星ルルルーラを悪幽から助けられる。
「戦いを、強いることになってしまうミュ……。でも……でも、どうか! どうかルルルーラを救うため、ボクと契約して魔法少女になってくださいミュ!」
手を突き出す。
自分のセリフや語尾、手の感覚、視界、ありとあらゆるものがなんかおかしい。
ん? んんん? なんだ? どうなっている?
というか、いったい誰に対して俺は……。
「我が…………魔法少女……!?」
返事が返ってきた!?
驚いて顔を上げると、漆黒のマントに深めのフード、おっかない蒼白いエイリアンのような顔の仮面、そして手には大きな鎌を携えた男。
見るからに……し、死神……。
「正気か、貴様。いや、それよりも……その姿はなんだ? 貴様は確かに人間であったはず」
「こ、これは……」
自分の手を覗き込む。
ぷにぷにの……ピンクの肉球!
クリーム色の毛皮に、短い手足!
窓を向くとカーテンの隙間から見えるピーナッツ型の犬だか猫だからわからない謎の生物が、ベッドの上で驚愕の表情をしている。
………………俺だ。
確信をもって言える。
この変な生き物は、俺だ……!
そして、先程のドレスのお姫様の記憶、意識、知識が定着している。
俺は……|魔法少女を見つけなければならない《・・・・・・・・・・・・・・・・》!
「ボクは、ルルルーラの伝説の魔法少女の力を受け入れられる人を探しに来たミュ! だからどうか、魔法少女になってほしいミュ!」
「まさか……本当に、我に魔法少女になれと言っているのか!?」
「そうだ、ミュ!」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。!
俺はなんでこんなことを見るからに死神に言っているんだ!?
なんならこの死神、声男だし!
でも体が……いや、意思が! 俺の意思が、魔法少女を見つけることを最優先事項にしている!
いったい俺の身になにが起きたっていうんだ!?
「いいだろう。なってやろう! 魔法少女に!」
了承されちゃったああああああああぁ!?
結構乗り気ーーー!?
「やったぁー! ありがとうミュー! では契約を交わすミュ! 汝、その魂に伝説の魔法少女の力をインストール! 光の戦士、セイバー・アスカの力で、ルルルーラを救いたまえ! ミューーーー!」
「う、うおおおおおおお! ……アスカ・ライトニングライズ!」
俺の体から光り輝くハートの赤い宝石が現れ、死神の方へと円を描きながら飛んでいく。
宝石が死神の手に渡ると、変身の呪文を叫びながら漆黒のマントが赤い光に包まれる。
変身するのか!? 死神が!? 魔法少女に……!?
「煌めく赤い正義! セイバー・アスカ! ここに見参! 正座で清聴しなさい!」
キラン⭐︎
「「………………」」
変身しちゃったぁ。
「まさか、我が本当に魔法少女に変身できるとは」
いや、本当それな。
あのエイリアンが死神衣装着たような感じだったのに、今は十代前半くらいの赤髪ポニーテール美少女。
ひらひらふわふわのミニスカワンピースに身を包み、星を模った赤い杖を手に持っている。
声ももちろん女の子。
さっきのど重低音イケメン不気味ボイスが完全に可憐な少女の声になっているその衝撃。
声優さん変わった?
変わってない方が問題なやつ。
そんなツッコミを入れたくなる。
「ワ、ワァ……! セイバー・アスカの誕生だミュ! さっそく、悪幽を倒しに行くミュ!」
「ガニュバーラ? なんだ? それは」
「悪しき魂の亡霊たち、ミュ! ボクの祖国、ルルルーラを暗黒の炎で覆い尽くし、惑星の生命エネルギーを吸い上げている者たちだミュ」
説明を聞いた途端、セイバー・アスカは眉を顰めた。
意味わからんよな。
俺も意味わからんよ。
しかし、先程のお姫様の記憶、知識があるおかげで“理解”ができている。
悪幽――やつらは異世界からの侵略者。
平和だった惑星ルルルーラ。
人間は存在しない、妖精だけの惑星。
瞬く間に暗黒の炎で覆い尽くし、惑星そのものから生命エネルギーを吸い上げた。
やつらは小さな妖精しかいない惑星ルルルーラを、ものの数日で滅ぼして、時空の裂け目を作り出すと“次の獲物”を喰らいに向かう。
それが、この惑星――!
あのお姫様は、やつらが作った時空の割れ目に飛び込んでこの惑星を救い、伝説の魔法少女を復活させ故郷を復活させるために自らの肉体を捧げた。
そして、死の淵にいた俺と融合した!
そうしなければ、肉体を捧げた彼女がこの惑星で生き残る術はなかったのだ。
彼女は俺に悪いと思っている。
だから妖精の肉体になってしまった俺に、肉体の主導権を譲渡したのだ。
それがいいのか悪いのか……。
まあ、とにかく今の俺を突き動かすのは彼女の意識。
会話はできないが、死にたくない、助けてほしいと強く望んだ俺の“生存”は彼女のおかげで保証されている。
生きていられるのなら、彼女の願いにつき合うのもいいだろう。
俺自身に生きてる目的があるのかと言われると、“生きていること”そのものが目的だったからな。
「生命エネルギーを吸い上げる、だと? そのような存在がこの惑星に?」
「間違いないミュ。ボクはやつらを追ってこの世界に来たミュ! この世界を守り、ボクの故郷を復活させる。そして、やつらを、倒すミュ!」
「……なるほどな……」
なにがなるほど、なのかはわからないが、なんでか知らんがこの人はなにかしら合点がいってしまったらしい。
真剣な眼差しで病室の窓の外を睨むセイバー・アスカ。
さらに険しい表情となり、窓枠に手をかける。
「委細承知した」
マジで? なんで? 今の説明で承知マジ?
「この世界の死者の魂に手を出す不届者。それはまさしく我らが敵に相違ない。殺す」
殺意が高いマジか。
「本来なら死の運命であったここの患者――真崎明日都の魂を回収する予定だったが――」
俺をじっと見つめられる。
俺の、ついさっきまでの、肉体の名前。
そうか、やはり、俺は……。
「異世界からの魂を受け入れ、お前は新たな生命に転生している。そして、その新たな生命がこの世界の倫理に手を加える外敵の存在を伝えた。真崎明日都、お前は新たな生命としての役割を果たさんとしている。ならば、この冥府の王アデスの分霊たる我が魔法少女として前線に立つのは道理! 行くぞ! 案内しろ!」
「了解ミュ!」
窓から飛び出すセイバー・アスカ。
それについて、俺も窓から飛び出した。
驚くべきことにこの新しいもふもふの体は飛べるらしい。
あとなんか冥府の王アデスとか聞こえた気がしたけど多分気のせいだと思う。





