第四十二話 交通網
「あなた方の主は、我らの街への侵攻途中に討ち取りました」
「そんな……」
「軍勢の多数は捕虜となっており、奴隷ではないですが、行動を抑制する処置をされています」
「この通り、苦痛はありませんが、彼らには逆らえません」
「このような行為をとった理由は、彼らの行軍中の行動からです」
「これに関しても事実であり、反論しようがありません。
むしろ、生かされていることだけでもありがたい……」
「つまり、私達の未来は……」
「私達に恭順し、庇護下に入るか、自力で魔物に抵抗して生きていくかを選んでもらいます」
「……私達もその誓約を受けるのですか?」
「いえ、するつもりはありません。
ただ、誓約を受けた兵士が、街の運用を監視する可能性はあります」
「どんな苦役を課せられるのですか?」
「いえ、何も。普通の生活を送ってもらい、できれば我々の街と交易などを含めて経済的な交流をもっていけたらいいなと」
「え? 守ってもらえるのに、税金は?」
「えーっと、今がどうなってるかわかりませんが、基本的には皆さんには自治をお願いするので、公共的な事業にある程度お金を集める必要はあるかと思いますが」
「自治? 支配ではなく?」
「私は人間の行動に興味はありません。獣人と動物が幸せに生きるために、安全な人間を保護しているだけです。魔物からは守ります。しかし、生活は勝手にしてください」
「我々に損がないように感じるんですが。今までは半奴隷のような生活だったので」
「前の街もそうでしたね、まあ、獣人達の街とも交易してもらいたいですが、商売は公平にやってますよ」
「考える必要もない、我々はタスク様の庇護下に入ります!」
話し合いは、淡々と進んだ。
証拠を早く見せる意味でも、魔物が襲ってこられても面倒くさいので、町の中央にマナで満たしたコアを設置し、魔物を防ぐ聖域を展開する。
やはり、町中には濃厚な魔素が存在していたので、全てマナへと浄化した。
すぐにマナの循環が開始され、清廉な空気が街を満たしだした。
「……なんだか、身体が温かい……」
「空が、綺麗……」
大きな街だったが、住人たちの反応は上々だった。
獣人奴隷たちは全員解放した。
その数が想像よりも多く、俺の悩みの種になった。
「仕方がない、しばらくはここに滞在して近くの森とかで食い扶持を稼がないと……」
「それぞれの街の交通の便を改善しましょう、兵たちを使ってわしも手伝えば、すぐでしょう」
「悪いけど頼むよ、俺とカイは食料調達、カフェは街での獣人達の世話と人間の監視をお願いする」
それからは保護した獣人達の衣食住の確保に奔走した。
近隣の森で狩りをしたり採取をしたり、街周囲の聖域を広めて農場や畜産の基礎を広げていった。
町中の農地も空気が良くなり生育が良くなり、とりあえず飢餓を引き起こすことは回避した。
数ヶ月すると、2つの街をつなぐ街道も整備され、野生馬を確保し、馬車の増産も合わせて物流が飛躍的に改善した。
カンナギ、ウインド(元:ガイアスの街)、フォレス(元:ゼブラートの街)の3都市が街道によってつながることになった。
街道には魔物から手に入れた魔石を利用した簡易聖域を発生させ、魔物との遭遇を激減させた。
世界中で最も安全な街道になっている。
兵士によるパトロールもしっかりと行っており、人間同士の問題も起きなくなっている。
街道沿いに小規模な宿街もでき始めている。
各地で散った村を少しでも安全な場所で生活することを打診して呼び寄せた。
「俺が想像していたよりも、獣人を受け入れてくれるんだな……」
「まぁ、反感を持つ人間は追い出してるのもありますが、住居の安心を与えてくれて、さらに食料も与えてくれて様々な素材を提供して生活を豊かにしている存在をぞんざいには扱わんでしょ」
「衣食足りて礼節を知るってやつか……」
「タスク殿の通達通り、教育という面からも獣人に対する意識を変えさせておる。
数世代も変われば、獣人に対する偏見も完全に無くなるのではないかな?」
「そうなると、嬉しいんだけどね……」
「兄貴! 魔物の群れが街に向かっている、手伝ってくれ!
って、ガイアスさんもいるのか、助かる!」
「わかった!」「おうよ!」
聖域も完全ではない、群れで移動する飢えた魔物が、偶然街を標的にしてしまえば、流石に防げない面もある。
少しづつ堀や壁で街を拡張しているが、まだまだその守りが足りない場所もある。
現場に到着すると兵が魔物の群れと交戦状態になっている。
結構大規模な魔物の群れだ、こちらの兵の装備も整えてなければ、あっという間に蹴散らされていたかもしれない。
「風よ! 魔物共を切り裂け!! ウインドストーム!!」
暴風が魔物たちの集団を巻き上げて切り裂いていく。
ガイアスはそのまま戦場に突入していく。
カイたちも同様に混戦状態の戦場に溶け込んで、つぎつぎと魔物を討ち取っていく。
押され気味だった戦線が一気に軽くなる。
「負傷者は後方に、片っ端に診てくから重傷者からどんどん運んでこい!!」
医者の真似事も、数をこなしていくことでそれなりの精度と練度になった。
戦いは二人に任せて、俺は少しでも被害を食い止める方に力を注ぐ。
「殺すよりも、救う方が、やっぱり性にはあってるな……」
俺は、時間も忘れて、目の前の患者の治療に没頭するのだった……




