第四十一話 奴隷と誓約
「タスク殿、朗報がありますぞ!」
街への移動途中に、野営を行う準備をしていたらガリウスが飛び込んできた。
やや言葉が怪しいことを言っていて理解し難いが、丁寧に聞く。
「何かあったのか?」
「奴隷にしなくてすみますぞ!」
主語がない。
「どういうことだ?」
「いや、実は昨日少しづつ奴隷紋を刻もうと準備していたら、シルフィードが現れて、マナを利用した誓約紋ってのを作ってくれましたぞ!」
興奮しながら魔法陣を見せてくる。
基本的な魔法学的なものはドライアドに習ったが、奴隷紋とその魔法陣が違うことはわかってもどう作用が変化するかまではわからない……
「簡単に言うとどういうことなんだ?」
「奴隷紋は言ってみれば魔法による呪いみたいなもので、対象者の命を喰らう事で行動を支配するんですが、これはマナによる強力なデバフをかけることで行動を阻害します。対象者の命には変化を与えないので、問題行動だけを抑制して、心身に苦痛や負担はかけない事が可能になります。
これはとんでもない発見ですぞ!」
あれ、ガリウスって結構博学だったりするのかな?
目を輝かせながらこの方法がいかに素晴らしいのか早口でまくしたてる。
そのおかげで、とにかくこの方法であれば、俺が望むような結果を得られることは理解できた。
「この方式ならタスク殿も実行可能ですから、今すぐにでも実行しましょう!」
「そうだな、余計なことを考えつく前にやっちゃおう」
それから大量の捕虜に誓約を刻む。
俺たちへの反抗及び悪逆非道な行動を慎む、それと命令の遵守。
あまり細分化すると効果が薄れるので、簡単な行動規範を設定する。
マナを利用し魔素を生み出さない作りになっている。
俺にも簡単に利用可能で、複製しながら一気に捕虜の兵士達に施していく。
「素晴らしい、術者の魔力も使用しないし、継続に魔力を必要とせず自分と周囲のマナを利用してくれるから長期管理も楽になる。これは画期的だ!」
ガリウスは興奮しっぱなしだ。
「良かったな、シルフィードに感謝しないとな」
「そうであった! 今度現れたらたくさん感謝しないとな!」
ガッハッハと笑いながら戻っていく。
入れ替わりでカイとカフェがテントに入ってくる。
「いやー、随分と作業が楽になりました。
凄いですねあの魔法は」
「言う事聞かなくても虚脱感しか無いみたいで、ほうって置けるのもいいわね。
働かざるものは食うべからずだから」
どうやら誓約を行った兵士たちに自分たちで準備をさせることで世話を焼かなくて済むことがすごく楽らしい。大量の捕虜を有することは非常にリスキーだ。
一応縛って自由は奪っているが、いつそんなものは解けるかわからないし、裏切ることが全体の人間を連れての旅なんて辛すぎる。
奴隷紋を刻むにしても準備や術者の消耗は計り知れない。
今回の誓約は刻むだけで後は自家発電で稼働してくれる。
死ねば死体の処理など新たな問題が生まれるが、誓約であればとりあえず放置して問題はない。
したがってくれる人はそのまま労働力になるし、協力する側も、屈辱的な感情が生まれない。
協力すればマナの効果で体調は良くなるし、気分も良くなる。
実は、世界を変える法則の変化が、起きていた。
「この方式は……今までの魔道具の概念も変えますな」
その可能性に気がついたガリウスは、マナや闘気を利用した魔道具開発に傾注していく。
そして、後の世に置いて、気道具の父と呼ばれることになるのは先の話。
街への移動中に世紀の発見をしながらも、俺達は進んでいく。
敵の食料を鹵獲できていなければ、大量の捕虜を維持するのは難しかった。
途中、被害を受けた村に状況説明し、兵士には謝罪と復興を手伝わさせたりした。
俺たちの街の説明と、今からゼブラートの街に向かっている旨を説明した。
とりあえず選択肢一つとして考えて欲しいと伝えて、街へと急ぐ。
「まだ襲われてはいないみたいですね」
カイがいち早く街を発見する。
襲われていればなし崩し的に恩を押し付けられたのだが、まぁ、余計な被害が出ていなくて良かった。
「俺とガイアス、それと隊長についていってもらうカイ、カフェはここで待機してくれ」
「わかったわ、気をつけてね」
「説明と説得は私が行います」
誓約下にある隊長は素直に従ってくれる。
戦いに破れ、殺されずにいるし、それなりに良い扱いをしている事で、恨んだりはしていないそうだ。あの魔法使いの横暴にも辟易していたということで、まぁ、信頼していいだろう。
少なくとも制約があれば裏切られることはないというのはありがたい。
「町の人間全員に誓約させるのですか?」
カイにそう聞かれた。
「いや、基本的には今の兵士たちだけだ。
……そこまでしなければいけないなら、捨て置く。
兵士たちも、街に戻ったら解放しても良い、今裏切られるのが困るから、急場の処置でしか無い」
「また襲ってくるかもよ?」
「魔法使いのいない状態で俺たちに挑んでくるとは思わない、かかってくるなら、次は全員殺す」
「そうね。タスクがそう言うなら従うわ」
「町の人間が、襲いかかってくるなら容赦はしない。
大丈夫、向かってくるものに対しての悩みはないよ」
「わかりました。その旨は皆に伝えておきます」
今でもあの時話した決意は変わっていない。
ゼブラートの首を手土産に、やつの街へと向かう。




