第四十話 優柔不断
「所詮は魔法使いの傘を利用して狼藉を図る輩共だ……」
捕虜となった兵士たちの話を聞いていたカフェの言葉に、ガリウスが少しバツが悪そうにしている。
「悪いのはゼブラート一人、俺達は命令されて仕方がなく……」
「その割には、楽しそうに女を抱いていたじゃないか」
「そ、それは……」
カフェが捕虜を殺さず尋問が終わったことに、タスクでさえ少し驚いた。
「嫌な仕事をさせたな」
「仕方ないわよ、これから大きくなれば、こういった仕事も増える。
ってカイに言われてるから……」
「そうか、ガリウス、ゼブラートの方はどうだ?」
「だめだな、あれは根っこからこの世界の魔法使い、年寄だから救いがねぇよ……」
「そうか、残念だけど……俺がやろう」
「いえ、私がやります。そして、せめて有効に使わせてもらいます」
カイの瞳には冷徹な決意が見て取れた。
「しかし、あのバンドは凄いな。
本当に魔法が使えなくなるんだな」
「ガリウスは普通に使えるぞ、大量にマナが込められているから、魔法で魔素に変えられなくなってうまく魔法が使えなくなるんだ」
「魔法使い対策になるわけだ……」
「今回は失敗した。ガリウスに魔人を見せればよかったよ……」
「真っ青な皮膚……タスク殿以外だれもそうは見えない……」
「とにかくコアを抜き取ること、普通に強いし、自爆したりとタチが悪い。
魔法を作り出したのも魔人だから、まず魔法使いよりも格上だ。
魔素が多ければ強力な力を振るうから、できる限り周囲の魔素を浄化してから戦うべきだ」
「まだ私ではそこまでの速度で浄化はできんから……タスク殿を待つしか無いわな」
「まぁ、魔人対策はともかく、あの魔法使いの首を示して周囲の村を取り込むのか、カイ?」
「はい、今回のことで魔法使いの横暴を周知させます。
同時に、魔物が襲わない街の噂も流します。
それに、やつが治めていた都市も、やつが死ぬことで安全ではなくなります。
従うなら良し、従わぬなら魔物に食われて滅びるでしょう」
「コアは手に入ったから、守る手立てはあるが……」
「まずは、きちんと兄貴に従うのが最低条件でしょう。
大都市ですから……ある程度、選別が必要かと……」
「うーん……なんか、悪役みたいだなぁ……人間からしたら、正義の見方ではないのは覚悟してるんだけど、わざわざ敵を作るような方法は取りたくないなぁ……
今回は、攻めてきたから反撃したけど、相手の街を滅ぼしたいわけではないからなぁ。
あまり敵を作れば、結局守れなくなりそうな気がするんだよなぁ……」
「ふつうの民からすれば、魔法使いだろうが、タスク殿だろうが、どっちでも良いんですよね。
結局自分たちが生きる場を提供してくれれば、それを奪うものは敵、自分たちを虐げなければ、魔法使いよりも良い領主ということになりますな」
「良い領主である魔法使いはいないのか?」
「いますよ、たくさん。立派に街を守り、人々を守ることを目的としている魔法使いも居ます。
ただ、実は結果として魔素を作り魔物を呼び寄せている……その事実を知らないのでしょう」
「ゼブラートは、まぁ酷い魔法使いの方だな」
「確かに、思い当たる数名でしかないですが、悪い魔法使いは、必ず参謀的な人間か、愛人的な人間が常にそばにいるように感じますなぁ……いい魔法使いは基本的には自分と同じ様に一人で行動しています……」
「魔人が悪さをしている可能性があるな……」
「負の感情は魔素の質を向上させる、とドライアド様に聞いたことがあります」
「そうだったな。ゼブラートもあまり惨たらしい扱いはするなよ……」
「わかりました」
ゼブラートの私兵は、正直身内に入れるには不安要素が大きすぎた。
魔法使いの看板を利用して狼藉を働くことを自分たちに与えられた特権として受け入れており、それを奪い去ったタスクらを不条理に逆恨みすることは容易に想像がついた。
そもそも、こちらを滅ぼしてやろうと攻めて来たことがことの発端であることは、都合のいい脳みそからはごっそりと抜け落ちているんだろう……
「……気が進まないが、奴隷紋を利用しないと、とても信用はできない……」
「不安要素を押さえて、ちゃんと人道的な扱いを徹底すれば、タスクが気に病むような事にはならないと思うわよ。すごく珍しいけど、奴隷となってもそれなりの生活をしていた獣人も居たわ……」
「俺のいた国では、いや、世界では、奴隷なんてものは前時代的で、憎悪の対象だったからな……、獣人がされていたことを人にするのは、どうなんだと、思っちゃうわけで……
申し訳ないな、決断力のないリーダーで、迷ってばかりだな俺は……」
「タスク殿、その件に関してはこのガリウスとカイ殿に一任してください。
悪いようにはしない、出来る限り多くの人が救える形でやっていきますから」
「……わかった。任せるよガリウス、カイ」
「姉さんはゼブラートの街への根回しをよろしく。
不満を持っていた人間はいいけど、反抗勢力も出来ると思うから、出来る限り先に手を回しておきたい」
「わかったわ」
「兄貴はコアを使えるようにお願いします」
「ああ、任せとけ」
こうして、ゼブラートの街へと移動する。
俺の迷いは、皆を危険に晒す。
それぐらいわかっていながら、俺は悩むことを辞められなかった……




