第三十話 吐露
「ひさしぶりねタスク」
普通に村を歩いていたら、不意に声をかけられ、振り返るとドライアドが立っていた。
あまりのことに、しばらく脳みそが機能停止を起こした……
何度見かしてしまったが、愛からず美しい姿そのままで、間違いなくドライアドだ!
「ひ、久しぶりね! じゃないよ! ドライアドさん!
帰ってきたんだね!!」
思わず抱きしめてしまった……
「……うん。ただいま」
「ああ、ごめん。それにしても心配したよ……」
慌ててドライアドを離すと、ドライアドがその場に跪く。
「タスク様、貴方様のおかげで長きにわたる病に倒れていた精霊王がお目覚めになられました。
精霊を代表し、ここに御礼を申し上げるとともに、我が身の永遠の忠誠をここに誓います」
「ちょ、ちょっとこんな道端で……と、とりあえず家に行こう!」
近くにいた村人にカフェとカイを呼んできてもらう。
家に帰り、なぜか部屋の隅に立っているドライアドさんを席に座らせていたら二人が慌ただしく部屋に入ってきた。
「あんたねぇ! 遅いからもうタスクを襲おうかと思ってたわよ!」
開口一番、カフェがいつもの調子で言うもんだから、思わず吹き出してしまった。
「ちょっと姉さん……久しぶりにあってそれじゃぁ……ドライアド様、おかえりなさいませ」
「様はよしてください。カフェ様、カイ様」
「あれ、二人の名前言ったっけ?」
「さきほど村の方々に話しているのが聞こえてしまいまして。失礼しました」
「……何よ、なんか調子狂うわね……」
「そうなんだよ、急に戻ってきたら変わってるのは、何かあったの?」
「先程お話しました通り、我らが父であり王である精霊王様の病に復調の兆しを見ました。
全ての精霊の感謝の証として、私はタスク様に全てを捧げることに決めたのです」
「いやいやいや、やめてよそんなの、具体的に俺がなにかしたわけじゃないし」
俺が話し終わる前に、カフェがドライアドさんを引っ叩いた……
「何よそれ……あんた、卑怯よ!
タスクはそんなこと望んでいない!
この3年間、どれだけタスクがあんたの帰りを待っていたと思ってんのよ!
タスクが待ってた、タスクが好きなあんたにそんな事言われたら……タスクがどう思うか考えなさいよ!!」
泣き叫びながらカフェは部屋を飛び出してしまった……
「タスク様、わがままを言いますが、姉を追っていただけませんか?」
俺がどうすれば良いのかわからずにオロオロしているとカイが助け舟を出してくれた。
「お、おう!」
すぐに飛び出したが、カフェの姿はすでになかった。
風がまるで俺を誘導するように流れ、自然と俺はそちらに走り出していた。
ドライアドさんが手伝ってくれたんだろう。
村を出て、獣道を進み、湖に出る。
その近くの岩にカフェは腰掛けていた。
「……あの女……余計なことを……」
口では悪態をついていたが、その表情はホッとしたような嬉しさがにじみ出ている。
「隣……いいか?」
返事の代わりに少しずれて座り直す。
座ってみると、ここはとてもいい場所だと気がつく。
村からそれほど遠くない場所にこんな場所があったとは驚きだ。
水面に輝く陽の光が森を輝かせているようだ。
「……いい場所だな」
「うん……」
本当に気持ちがいい。
「タスク……」
「うん? ん……」
振り返ると同時にカフェに口づけされた。
「ふー……全く、あの女は突然帰ってきたと思ったらふざけたこと言うんだから……
コレくらいは文句言わせないわよ。3年も待たせたんだから、文句があるなら、コソコソしてないで出てきなさい!!」
「……文句はありません」
「さっきの発言取り消しなさい」
「……」
「貴方はタスクのことを馬鹿にしてる。
タスクの気持ちを踏みにじっている。
精霊だから人の心がわからないってことはないわよね?
それくらいわかるでしょ?」
「……ごめんなさい」
「謝るんじゃなくて、取り消して。
貴方だってタスクに惹かれているんでしょ?
これ以上私に道化を演じさせないで……」
「あーまてまて、二人で盛り上がってるけど、当事者の俺がほっておかれてるんだが」
「タスク様……」
「あー、でもカフェの言い分は俺の言いたいことと重なってるな。
様をつけないで前のまんまでいい、敬われたくてやったわけでもないし、自分がやったことはなにもないのに過分に敬われるのは気持ち悪い」
「……ごめんなさい……」
「はぁ……いいや、俺に感謝して俺の言うことを全部聞くんだな?」
「はい、精霊界の感謝の気持をそれ以外で表せません」
「わかった。じゃあ命令する。
前と同じように振る舞え」
「……それは……」
「何でも言うこと聞くんだろ?
嘘だったのか?」
「……もう……屁理屈じゃない……
あのね、私だって上の存在に言われてきてるのに、散々な言われようで、少しは頭にくるのよ?」
「なら話せばいいじゃないか、言葉にしてなければ、存在していないのと一緒だぞ」
「ふっふっふ……もう良いわよ! 何だって言ってあげるんだから!」
「ようやく勢いついてきたじゃない、今日は朝まで呑むわよ!」
「え、呑むの?」
「当たり前でしょ、呑まずに愚痴なんて吐けないわよ、それに失恋には酒って相場が決まってるのよ」
「いや、別に失恋とかそういうのないぞ?」
「へ?」
「いや、勝手に話が続いていたけど、俺がドライアド好きかもって思ってたの3年前だし、今ではもうそういう感情が起きなくなっちゃたんだよね」
「はい? なんか今、勝手に振られたよね?」
「え? じゃああたしもチャンス有るの?」
「カフェはずいぶんと家族的な位置づけになってるわけで……」
「よっしゃ!! もう我慢しないわ! タスク大好き! 愛してる!」
「うわちょっと、お、落ち着け、ステイ、おすわり!」
「……やだ……私もタスクのそばにいる!」
「な、何だよふたりとも、いやまじで……意味がわからん!」
もみくちゃにされながら村に逃げ帰ったらカイが宴会の準備をしていた。