第三十一話 急報
「タスク、またアレつくって頂戴ね」
「は、はぁ……」
「タスクぅ~もっと飲んで~」
「んでね、精霊王様に魔人共がちょっかい出してたことが確定になってー……聞いてるのタスク!」
「あータスクぅ~タスクぅ~」
「大変ですねタスク様」
「そう思うなら代わってくれ」
「なによカイ、あっち行ってなさいよ」
「ねーさんが酒もってこいって言ったんでしょ……」
「あー、そこ置いといて。タスクぅ~私ずっと我慢してたんだよぉ~」
「それでね、魔人がどうやって精霊界に影響を与えるか調査するって役目も有るのよぉ~」
「はぁ……」
「うーん、タスクの匂い……滾るぅ……」
「ちょ、ちょっとカフェさん力が強い……」
「でね、タスクには魔人をどんどん倒して、アレをたくさん作って欲しいの!
そうすれば精霊王様がお元気になられるの!」
「あーもう、とんだカオスだよ……」
こういう時に限って急患もこない……こうしてただただ朝までぐっだぐだに絡まれ続けた……
「おはようござ……酒臭っ! ねーさんたちまだ居たの!?」
「ああ、おはようカイ……」
がっしりと腰のあたりを掴まれて微動だに出来ない俺を、カイは見事にカフェとドライアドの腕を外し、代わりに丸めた毛布を抱かせた。近接戦闘、とくに組技でカイに勝てるものはいない。俺もすでに組技では相手にならなくなってしまった。
「助かったよカイ」
「すみませんうちの姉が迷惑をかけました」
「……いろいろ我慢してたんだな……」
「そうですね……なんど愚痴につきあわされたことか……」
「……カイも、すまん……ところで、要件はなんだい?」
「あ、そうでした。すみません、今朝の鍛錬で骨を折った者が出てしまいました」
「おお、わかった。すぐ行こう」
鍛錬中の怪我はやはり一定数出てしまう。
外科症例もたまには出る。
「これならプレートでいけるな……よし、麻酔を……」
「もう眠らせたわよタスク」
「ありがとう、起きたんだな」
「ええ、もうお酒も抜いたから平気……浄化するまで頭が割れるかと思ったわ」
「便利だな、カフェにもかけてやってくれ」
「もうかけたわ、さ、久しぶりだけどちゃんとできると思うわよ」
「頼もしいな」
ドライアドさんによる魔法の補助のおかげで、手術はスムーズに進む。
術後もオーラを利用して自己治癒力を高めるので、たとえ完全骨折でも3・4日でプレートを抜くことが可能だ。創外固定のほうがいい場合も多い。症例ごとに組み合わせを考えるのが整形外科の醍醐味だ。
「腕は落ちてないね、流石」
「あなた達が感じてるほど時間は過ぎてないのよね……それでも、たくさん待たせちゃった……」
「それ言ったらカフェが怒るぞ」
「そうね……」
しばらく診療所から村の様子を眺める。
随分と大きくなった。一つ一つの建物も立派になって、農地や畜舎、人々が生きていく上で必要なものも揃っている。衣服を扱うもの、鍛冶を行うもの、旨い飯を作るもの、村の中で社会が作られてきた。
「ずいぶん立派になったわね」
「ああ、虐げられた存在が寄り集まって、ここまできた」
「人間に……復讐するの?」
「いや、そんな無駄なことをするつもりはない。
俺たちが幸せな生活をすることが、人間への意趣返しになるだろう。
それに、甘いだろうが、人間ともある程度共存したほうが良いと思っている。
人間は賢い、器用だ、そして、数が集まれば強大になる。
魔の物という共通の敵の存在を持って、距離を近づけすぎずに共闘できるのが理想かな」
「……タスクは、カフェさんをどうするつもりなの?」
「今まで通り……とはいかんだろうが、どうもしないよ。
自然に任せる」
「私は?」
「以下同文」
「……なーんか、達観しちゃってつまんなーい」
「しょうがないだろ、そういう存在なんだから」
「……それでも、精神的な高ぶりはなくても、肉体的な快感はあるのよね……?」
すすすっとドライアドさんが身を寄せてくる。
まずいな、気が付かれた。
そう、心の同様は驚くほどないが、気持ちいい事は、気持ちがいいのである。
「まーーーーーーーてーーーーーーーーこの泥棒猫ーーーーーーーー!!」
ドドドドドドと効果音が聞こえてきそうな勢いで、カフェが駆けてきて俺とドライアドさんの間に飛び込んで来た。
「油断も隙きもない!!」
「……チッ」
「おはようタスク、お目覚めのキス-ぶえっ」
「な、に、を、やっているのかな?」
「邪魔しないでよ! タスク-って、あれ? どこに?」
仙人の力を使い自らの気配を極限まで消して撤退した。
こっそりと村を囲む見張り台の上で森から流れてくる心地よい風を感じながら休んでいると、急速に村に近づいてくる気配を感じる。
俺は見張り台から飛び降りて、村の入口に急いだ。
すでにカイとカフェ、ドライアドさんが入り口で報告を受けていた。
「街に敵が迫っています。街からの話し合いの使者を殺し、すぐにでも襲いかかる勢いです!」
「そうか、最低限の防衛隊を残して、全員出発する。
急げ!!」
「先行して状況を聞いておきます」
「頼んだ」
カイは音もなく森の中へと消えていく。
俺達とカフェ達も大急ぎで準備を整え街へと出立する。
街に到着すると同時に、逆側の門に敵が襲いかかるのであった。




