第二十二話 3度めの冬
「タスク!! カウラの様子が変だってモウが!」
「わかったすぐ行く!」
ドライアドが去ってから3年。村ではベビーラッシュが訪れている。
俺は、獣人相手に医者の真似事をさせてもらっている。
動物相手にはもちろん自信を持って治療にあたっているが、正直獣人相手の医療でコレが最高という気はないが、この世界においては異次元レベルの医療を提供できているらしい。
俺自身も今では経験の積み重ねによって、それなりに対応できている自負はある。
獣人の自己治癒力の高さを引いても、大きく外した治療はしていない。……と思う。
まぁ、実際には俺の知識や技術の問題ではないんだけども……
「タスクさん! なんだか様子がおかしくて……」
「はぁ、はぁ……すみません……タスクさん……」
「気にするなカウラ! ……モウ、いきみ出してどれくらいたった?」
「昼過ぎからだから結構……」
俺は手早く局所麻酔を行って会陰部を切開する。
科学の力とマナの力のあわせ技、カウラは何をしているかもわからないだろう。
「少し、楽になりました……」
「カウラ、よかった……」
「安心するのはこの子が元気に泣いてからにしてくれ!」
切開と麻酔によって弛緩したおかげでズルリと赤子が出てくる。
すでに小型犬くらいの大きさが有るが、人の赤ちゃんの姿をしている。
血色が良くない、少し長い時間子宮内に居たせいで酸素濃度が低くなっている事が予想される。
羊膜を取り去り羊水を吐かせる。
お尻を刺激したり背中を刺激して呼吸を促す。
「鳴け、鳴いてくれ!」
危険な状態だが、俺にはチートな能力が有る。
マナを全身に循環させて生命力を補っていく。
みるみる顔色が良くなり、直ぐに……
「ふぎゃー!! フギャーー!!」
「おっし!」
清潔なタオルで包み込み臍帯を処置する。
カウラに抱かせて、直ぐに会陰部の処置を行う。出血はマナでコントロールしているのでほとんど出血はさせない。本当に便利だ……
縫合してマナを送れば傷も急速に回復する。マジ便利。
そんなわけで、獣人の治療だろうが、マナのおかげで大抵できる。
もう、マナ操作できればそれで良いんじゃないのか? ってレベルで便利で……
「タスクさんありがとうございました!」
「いやいや、無事に生まれてよかったよ。しばらくしたら子供の様子見に来るから」
「ありがとうございました!」
赤子を抱いて嬉しそうな二人を後に家を出る。
「お疲れタスク」
「カフェもお疲れ様、すぐ呼んでくれて助かったよ」
姉さんは今はカフェと名乗っている。
弟さんはカイだ。
増えた獣人たちの治療を初めて、名前がないことが不便だったので全員に名前を名乗ってもらうことにした。
獣人の村には50名を超える獣人が暮らすことになり、みんなが安心して暮らすための環境づくりに村人全員で協力して当たることになり、毎日忙しい日々を送っている。
あれから3年、いまだにドライアドさんは戻ってこない。
「全く、あの女はいつまで待たせるのよ、私の女盛りはもう来てるのに……!」
「カフェは、なんというか義理堅いんだな」
「違うわよ、変な借りを作りたくないだけ!」
カフェはドライアドさんが居なくなってから、変に俺に絡むことが無くなった。
正面からあの女を倒すことが大事! ってことらしい。
最近はとくにカフェに村のことで世話になっていて一緒にいる時間も長い、変にアプローチしてこないでいてくれる今のほうが、正直いい女だなと思う。
相変わらず俺のそういう気持ちは鈍感というか平坦というか……
仕方ないね……マナなんてチートを扱わせてもらってるんだからコレぐらいのことは乗り越えていこう。
「もうすぐ3度めの冬か……」
肌寒い風が吹き抜ける。そろそろ厳しい冬が来る。
「結局人間たちの町は助けて正解でしたね」
カイが冬に向けての備蓄のチェックをしながら話しかけてくる。
一応俺がこの村の責任者的な立場になって、カイとカフェはそのサポートをしてくれている。
「冬になると思い出すな」
獣人たちを救って、ドライアドさんが去ってから最初の冬は厳しかった。
住居はなんとか間に合わせたが、とにかく食料が足りない。
森から得られるものもドライアドさんが居なくなって激減した。
森から果実やきのこなどを探し出してくれるドライアドさんの力を思い知らされた。
本格的な農業を確立しなければいけないときがついた頃には、空から白いものが降ってきた。
とにかく忙しくて、なかなか組織だって動けずに場当たり的な行動になってしまった。
正直、ペットフードで行くしか無いかと思っていたんだが、定期的に町を見に行っている時に、随分と活気だっていることに気がついて、顔を見せることにした。
「まだ数ヶ月でこんなに変わるのか……」
町の中は明るい雰囲気で包まれていた。
道には人が溢れて、お店からは元気な声が聞こえてくる。
街に出ている人もなんというか、以前見たときよりも健康的に見える。
町を歩いていると、声をかけられることになる。
以前話したあの男の農奴だった。