第二十三話 発展
「驚いたな……この短期間に何が起きた……?」
少なくとも以前来た数ヶ月前はこんな様子ではなかった。
雰囲気が変わっただけではなく、人が多く、物が多い。
活気にあふれて、何よりもみんな笑顔だ。
「あ、あんた……いや、間違いない!」
声をかけられて振り向くと、以前にあった男が立っていた。
「来てくれたのか、ちょっとこっちに来てくれ!」
「あ、ああ……」
人混みの中をその男に連れられて歩いていく、しばらく進み、横道にそれて建物の前で止まる。
「とにかく、ここは俺の家だ。あがってくれ。
色々と話したいことがあるんだ」
表通りから近く、しっかりとした作りの建物で、男も以前の姿とはうってかわって小綺麗な格好をしている。
「あんた、いや、あなたのおかげでこの街は救われた。
それだけじゃない、周囲の村からも人が集まって来た。
なんなんだあの水は? 作物はとんでもない勢いで育つし、人は元気になるし、魔物は水をまくだけで逃げていくし……あんたは何者なんだ?」
「いや、獣人と生きるただの仙人? ってやつらしい……」
「せ、せ、仙人様!? し、失礼いたしました!
このような人里に仙人様がいらっしゃることなんて無いので、数々のご無礼を失礼致しました!」
突然地面に土下座をし始めるのにビビってしまった。土下座あるんだなこの世界……
「いやいや、そんなにかしこまらないでくれ……
なんにせよ街は問題ないならいいんだ」
「ありがとうございますありがとうございます」
「なぁ、魔法使いと仙人って違うのか?」
「はい、魔法使いは魔法を扱い、魔物を倒す力を持つ人間です。
仙人様は、いらっしゃるだけで魔物を退け、大地に実りをもたらす存在……
欲望あふれる世俗に仙人様がいらっしゃることは……ほとんどありません」
「ふむ、まぁ、あんまりみんなにそんな態度取られるような人間じゃないから、このことは内密に」
「ははぁ!!」
「今って物資は街に溢れてるの?」
「はい、お陰様で大豊作、増えた人民を考えても余裕はかなりあります。
家畜もあの水を飲むと病気にもならずにすくすくと育ってくれます!
そもそも誰にも徴収されない作物なんて、考えたこともなかったので……」
「この街では魔石って買い取ってもらえるかな?」
「ええ、魔石は魔道具の力の源、いくらあっても足りませんから」
「そうしたら、魔石を売って食料を買いたいんだけど、商人を紹介してくれないかな?」
「いえいえいえ、仙人様の功績を説明すれば食料ぐらいすぐに集めさせます!」
「いや! ソレは駄目だ、絶対に駄目だ!
それじゃあ俺があの魔法使いの代わりになるだけだ、それに、人間に借りを作るなんてまっぴらごめんだ……」
青年も俺の言葉に、俺が何をされたのか思い出してくれたようだ。
「わかりました。今では街の顔役をやらせてもらっているので、信頼できる商人を必ず紹介いたします。3日いただけませんか?」
「わかった。3日後にまた来る」
「お任せください」
こうして、初めての冬は助けた街のおかげでなんとか乗り越えたのだった。
農業を始めるのに必要なものや家畜なんかも買うことが出来た。
結局それからも街からは色々な物を手に入れている。
森に現れる魔物を倒して魔石を得る。それを街で売って必要なものを買う。
経済圏の一部にうちの村が入ったようなもんだな。
「情けは人のためならず……か……」
「なーにそれ?」
「ああ、俺が居た世界のことわざってやつだな。
人にかける情けっていうのはその人にかけるだけじゃなくて、巡り巡って自分にも返ってくる。
そういう話だな」
「ふーん……平和だったんだねタスクがいた場所は」
「ああ、そうだな、平和過ぎて、色々と狂い始めていたけどな……」
「平和過ぎて狂うって、ちょっとアニキの言うことは理解できないです」
「俺も言っていて理解できてないから大丈夫だよ!」
「どこいくのタスク?」
「パトロール」
「アニキ、最近北の森が騒がしいみたいなので、もし必要なら何人か連れて行ってください」
「わかった。とりあえず偵察だけだからオレ一人で大丈夫。
異常を見つけたら呼びに来るよ」
「わかりました。お気をつけて」
「さーて、私も訓練の続きに戻らないと……」
「ねーさんあんま厳しくして潰さないでくれよ?」
「あら、まだ序の口なのに……カイに告げ口する余裕はあるのね」
あーあ……みんな、頑張れよ……
カイもこめかみを抑えて首を振っている。
カフェの厳しい訓練に対する苦情が、いらぬヤブをつついてしまったようだ。
「タスクさんお疲れさまです!」
「ああ、お役目ご苦労、ちょっと見回りに行ってくる。
獲物が取れたら取ってくる」
「お願いします。いってらっしゃいませ!」
村のまわりには現在急ピッチで堀の作成が進められている。
馬防柵で周囲を囲んでいる簡単な防壁は作っているが、周囲の魔物も少なくは無い。
早いところ安全に暮らせる場所を確保したい。
「さて、行くか……」
白衣の袖を通して俺は森の中を駆けるのだった。




