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第二十一話 お願い

 森林火災が呼び水となった豪雨はすぐに止んだようだ。

 足元は深い森の草木のおかげでそこまで悪くない。

 むしろ雨上がり、早朝の森を歩くというのは、思った以上に気持ちがいい。

 

「そういえばドライアドさんや姉さんたち馬車は無事に村に着けたのかな?

 マナ通話も出来なくなっているから……何事もないと良いんだけど……」


 時々木に登り村への方向を確認しながら進む。

 暫く進むと村から炊事の煙が上がっていることが確認できて胸をなでおろす。

 ドライアドさんが作ってくれた道に出ればあとは村まで歩くだけだ。

 並木道を白長靴で歩いていると大学時代の思い出が蘇ってくる。

 友人たちにもう会えないと思うと少しさみしい、やはり馬鹿話もしながらも熱く仕事の話をできる仲間だった彼らとの突然の別れ、お世話になった病院への郷愁が続けて湧き上がる。

 久しぶりに一人で過ごしたからかも知れない……

 今は獣人たちが一緒に居てくれて、彼らとの時間も心地が良い。


「タスク様だ!!」


 村の入口を見張っている獣人が俺の姿を確認し、駆けてきた。

 その背後から凄まじい速さの影が見張りを追い越して俺に抱きついてきた……


「タスクー! タスクー!! 死んじゃったかと思ったー!!」


「アニキー!! うおおおアニキーーー!!」


 そして背後から抱きしめられた。


「タスク……無事で良かった……」


「すまん、心配をかけた。ただいま」


 俺の、居場所はここなんだな。

 皆のぬくもりを感じながら、なんとなくそんな確信をした。



「なるほど、こいつのせいで俺の居場所を捉えられなかったのか……」


 テーブルに置かれたコアは暖かく輝きながら回転している。

 どうやら中途半端なマナの干渉はこいつに吸い込まれてしまい、通話や位置把握もできなくなるみたいだ。

 試しに弟さんにオーラをまとわせてコアをもたせたら危うく干からびそうになっていた。

 完全に満たされていない状態で素手で持つと俺も脱力感に襲われる。


 ドライアドさんはコアについていろいろと調べ物をしたりする時間が増えた。

 俺たちも暇はなかった、増えた獣人たちの住居を整えたり、毎日があっという間に過ぎていった。

 村の規模も大きくなり、奴隷だった獣人たちもすっかり元気になって村のために働いてくれている。

 ようやく日常を取り戻したころに、ドライアドさんから呼び出される。


「……タスク、話していた魔素溜まり、数箇所大きなところがあるの、一緒に来てもらっていい?」


「ああ、早いとこ処分しないとアイツみたいなものが生み出されたら困る」


 ドライアドさんがゲートをつないで、特に魔素が溜まっている数カ所をめぐる。

 すでに魔物化していたり汚れた存在が出ているところもあり、皆でそれらを退治した後に、白衣の力で浄化していく。

 白衣によって浄化されたマナの一部を、コアに貯めながらドライアドさんが目をつけた場所を全て浄化し終える頃にはコアはマナで満たされていた。


 村へ戻ると、ドライアドさんがいつになく真剣な眼差しで俺に話しかけてきた。


「ねぇタスク、わがままを言っていいかしら?」


 美しい瞳でまっすぐと見つめられると、俺の鈍感な心も少しざわついてしまう。


「ドライアドさんがわがままとは珍しいね、なに?」


「だめよタスク簡単に言う事聞いたら!」


「まぁまぁ聞くだけならいいじゃないか姉さん」


 距離が近い、顔を離せと姉さんが間に入ろうとするが、弟さんが止めてくれた。

 真剣な眼差しと態度から、何か事情があることを読み取ってくれたんだろう。


「そのコア、私にくれない?」


 その提案は、ある程度予想していたことだった。

 熱心に調べていたコアとソレに内包される大量のマナは貴重なものだろう。

 特に精霊にとってのマナは空気みたいなものだ、この世界に増えている淀んだ魔素を払ったり、様々なことに利用できるだろう。


「これ? ああ、これだけマナが有れば精霊にとっては大切だもんね。

 いいよいいよ、使って」


「ちょっとタスク! そんなに簡単にその女に、ぷ、ぷ、プレゼントとか!」


「タスク様、この御恩は我が生命の全てを貴方様に捧げます」


 俺が軽い気持ちであげると決めたコア、ドライアドさんは真剣そのものな表情で俺の前に跪いて過分な礼を取る。


「ちょ、ちょっと、大げさだな……?」


「タスクはこの価値を知らないだけ、私達精霊にとっては……とても大事なもの……

 少し、私は精霊界に戻ります。必ず戻ってタスクに恩を返します」


「そのまま帰ってこなくていいわよー」


「ちょっと姉さん、空気を読んで!」


 いつもどおりの姉さんの返しに軽口を返すわけではなく、少し憂い掛かった笑顔を見せる。

 あ、ぐっと来たその表情……


「本当は不安だけど、タスクをよろしくね」


「ふんっ、貴方に言われなくてもわかってるわよ!

 あんまり遅いと私が襲っちゃうからね!」


「そうね……そうなったら、仕方ないわね」


「ドライアドさん? すぐに帰ってくるんでしょ?」


「ええ、ただ、精霊界とこちらの時間の流れは違う。

 できる限り急いで帰ってくるから、みんなもそれまで元気でね」


 さっとゲートを作りくぐり抜けると、ゲートが閉じる。

 ほんの一瞬の別れ……

 軽い別れのつもりだった。

 しかし、それから3年、ドライアドさんは帰ることはなかった。 

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