⑨ 元旦の月面にて
話は少し遡る。
ソレは丁度、村田京子が、亜空間レストランで、イエス・キリストの訪問に驚いていた頃の事である。
NASAの月面探査機、グレイルAは2011年12月31日に、グレイルBは2012年1月1日に、それぞれ月周回軌道に到達した。
その久しぶりの訪問を、月の裏側の地下基地で、キャッチする者たちが居た。それは、惑星ニビル由来の、鳥族の生き残り。つまり、カグヤ・イシュタルの同胞たちだったのである。
元々その基地兼研究施設は、カグヤの父親がチーフを務め、あの1969年以来、長い間、ニンゲンたちからの、月世界の侵略行為に、備えて来ていた。
しかし、先の1999年の戦いで、カグヤの父親と、その同胞の多くが失われ、その後は少人数で細々と、活動を継続していたのである……ただ現在は、ちょっとした助っ人も同席して居た。
そこにやって来た、今回の珍客である。
アポロシリーズの訪問時に、これ以上、月面を探るのはやめるように、あの手この手を使って、再三説得した。しかしニンゲンたちは、また月面探査を始めるつもりらしい。
今までも、決して鳥族に征服欲が有るせいで、ニンゲンを月から遠ざけようした訳ではない。むしろ彼等は、ニンゲンの飽くなき征服欲にこそ、警戒心を抱いて居るのである。
ソレは、これまでのニンゲンの歴史を振り返れば、明らかな事である。またぞろ、月面の資源の取り合いが、戦争の元に成るに違いないのだ。
そんな未熟な人類にはまだ、月の世界を明け渡す訳には行かなかった。そこで今回彼等は、その助っ人のチカラを借りて、一計を案じた。
何と、"神"を出現させたのである。
……もちろんソレは、立体ホログラム映像である。
が、効果は、絶大であった。
巨大な白い人影が、探査機のカメラに捉えられると、直ぐにそのデータは、NASAの部外秘扱いとなった。似たような経験が、アポロ20号の時にも有った事を、彼等は再び想起したのだ。
今後もニンゲンが、月に対して、どうアプローチを変えて来るのかは、分からないが、月の鳥族たちは、出来る限り、紛争の元を作らないように、立ち回る覚悟だった。
これ以降、ロシア、中国、インド、日本などの探査機が、続々と月軌道にやって来る事になるのだが、ソレに対して、彼等がどう対処して行くのかは、また別の話なのである。
「おかげ様で、探査機の活動が控え目になったよ」
鳥族の一人が、その助っ人に礼を言った。
「なんのなんの……餅は餅屋、ニンゲンの事はニンゲンにって事ですよ」
サン・ジェルマンの顔をした、その男は答えた。しかし彼は、我々の知らない素材で出来た、衣服を着ていた。彼は、別の時間軸のサン・ジェルマンなのだ。
「また、こんなトラブルが有ったら、いつでも、我らサン・ジェルマンズにご用命あれ」
そう言って、余裕の笑みを見せた彼は、その場を去って行った。
地球の真田雪子の元に滞在するカグヤは、そんな月の同胞たちの苦労を、知る由もないのであった。




