⑥ 言霊(ことだま)
「おお、良いですねえ。帰ったら私もソレ、信者の皆に広めますよ」
イエスがそう言って喜んだ。
「なあに、大した事ではない……好きにしたまえ」
そう言いながら、ソクラテスは、少しばかり得意げに見えた。
「そんな事より、聞くところによると、キミは数々の奇跡を成し遂げたそうじゃないか?」とソクラテス。
「ああ、それも、何と言うか……単なる言葉のチカラの成せるワザなのですよ」とイエス。
「……言葉のチカラ?」
「そうです。言うなれば、言霊とでも申しましょうか……」
「ソレは一体どういう……?」
思わず口を挟むサン・ジェルマン。
「申し上げた通りの意味ですよ。私の言葉は、人心のみならず、自然界の全ての事象に変化と影響を及ぼすのです。だからむしろ普段から、やり過ぎないように、チカラのセーブをしているのですよ……そこの彼と違ってね」
イエスはそう言うと、雪村の方に目線を送った。
雪村は、ますます肩身が狭くなり、小さくなっていた。
「とは言うものの、彼ほどではないにしろ、私も些かやり過ぎましたがね。湖の水面を固くして、その上を歩いたり、空気を固めて階段にして、天に昇って見せたり、水をワインに変化させたりしました。ただ、病人を回復させるワザだけは、少しばかり事情が違います」
「……と言うと?」
「私がどんなに、治してあげるための言葉掛けをしても、本人が心の底から、治りたい、いや、治せるんだ!という気持ちを持たないと、そして、元気になった自分を想像できないと、治せるものも治せないのです」
「正に、"病は気から"というヤツだな」
ソクラテスがそう言った。
(古代ギリシア時代から、そう言われていたとは)
伯爵は一人で頷いた。
「それに、つけ加えるならば、このチカラは、人類皆が持っているモノなのですよ」
「……えっ?」更に驚くメンバー一同。
「多かれ少なかれ、ニンゲンは、皆、このチカラを無意識に使っているのです。自分は運がイイと思い、そう口に出して言っている人は、本当に運が良くなったりします。コレは決して偶然では無いのです」
「……そんな?」
「怖いのは、逆の場合です。もしも、この世の大多数のニンゲンが、こんな世界など滅びてしまえばイイと考え、ソレを皆が口々に言い始めたら、人類はあっさり滅亡する事でしょう。そうなってしまえば、私一人では微力過ぎて防ぎようがありません……ですから、そうならないように布教が必要なのです」
イエス・キリストの話は、今すぐ彼の元に入信したくなるほど、説得力が有った。




