㉕ イエスの帰還
西暦2013年1月1日。つまり元旦の火曜日。時刻は午前9時。
イエス・キリストは、以前の約束通り、自分の世界に帰る事になった。
彼はこれから、元の世界で、鮮やかな復活劇を見せ、更に数々の奇跡を成し遂げて行くのだ。
「名残惜しいですね」
サン・ジェルマン伯爵は言った。
「一通り、やるべき事が済んだら、また遊びに来ますよ」
イエス・キリストは、気楽そうに、そう言った。
「連絡は、ソレでお願いしますね?あと何かお困りの際も……」
伯爵は、先程イエスに渡した、黒い腕輪型デバイスを指し示した。
「了解です」
イエスは笑顔を見せた。
帰り道のエスコートは、本人からのたっての希望で、ジャンヌ・ダルクが務める事になった。彼女はもう、シルバーのビートルの、運転席で待機している。こっそり戸籍を偽造して、運転免許を取ったのだ。敬虔なクリスチャンである彼女にとっては、この上ない名誉な事なのだろう。
もちろん、一人きりでは心もとないので、後部座席には雪子が、後見人として収まった。イエスはそんなクルマの、助手席に座ったのである。
「それじゃあ、皆さん、またお会いしましょう」
イエスがそう言って、助手席の窓から手を振った。
地下駐車場に居た、チームの面々も皆、手を振り返し、地上へと出て行くビートルを、見送ったのだった。
「結局、彼はエリクサーを飲みましたよ」
伯爵は、隣で手を振っていたソクラテスに、そんな報告をした。
「彼ほどの人物が、物理的な肉体での、永遠の命を選ぶとはな……」
ソクラテスは、意外だという顔で、そう言った。
「彼はまだ、この三次元世界でやりたい事が、たくさん有るようですから……ソクラテス先生は、まだ迷っていらっしゃるのですね?」
「うん。もう少し待ってくれ……まあ、その内に、老衰で死んでしまっても、構わんよ。それまでキミたちに、せいぜい人生の何たるかを、教授してやるよ」70歳を過ぎた老人は、そう言って笑った。
こうして、2012年の危機は去った。
だが、まだまだ四次元世界からの不満分子は、居るはずだ。
それに、アラハバキの連中も、全滅したとは思えない。ヤツラもしぶといのだ。
これまで通り、こつこつ時空調査を続けよう。
イエス・キリストという、強い味方も、コチラに付いた事だしな。
そんな事を思いながら、サン・ジェルマン伯爵は、また、決意を新たにしたのである。




