㉒ 不肖の弟子
「そんなモノ、わざわざココまで見に来なくとも、アカシックレコードに、書いてあるだろうに……」
「どうしても、三次元世界の肉体を使って、ライブで体験してみたかったのです。すみません、見逃して下さい」
「分かった。もう演説も、イイところは済んだだろう?今スグ戻りなさい。我々も、悪意の無いモノにまで、目くじらは立てないよ。まあ、似たような事をしているこのワシも、他人の事を言えた義理では無いからな」
「ありがとうございます……それでは、先生のお出でを、アチラの世界でお待ちしております」
プラトンの気配は、そのセリフと共に、目の前からすっかり消えてしまった。
その場に残され、抜け殻になった白人男性は、自分の身に起こっていた事象が理解出来ず、キョトンとしていた。
「ヤレヤレ……やはり我々三次元世界の存在は、高次元から見たら、ただの盤上の駒に過ぎないのかも知れないな」後に残されたソクラテスは、そんな独り言を呟いたのだった。
「ソクラテス先生、何か問題でも在りましたか?」
やがて杉浦鷹志が、近づいて来てそう言った。
「いや、大した事は無いよ」
ソクラテスは、そう言って誤魔化した。
相手が弓子や由理子だったら、そう簡単には行かなかっただろう。鷹志で良かったのである。
しかし、コチラの世界で優遇してもらっている義理も有るので、亜空間レストランに戻った後、この件については、こっそりサン・ジェルマン伯爵には、伝えておいた。
伯爵は「ありがとうございます。大変参考になる事実ですね」と言って、何か一人で納得しているようだった。
今のソクラテスには、迷いが有った。毒杯を飲んで、潔くアチラの世界に行くはずだった自分が、この三次元世界で生き永らえて居る。その結果、未来の世界で、様々な貴重な体験が出来ているのは、確かだった。
しかし、四次元世界の住人になれば、アカシックレコードに頻繁にアクセス可能になり、それはこの世界での、物理的な体験など、遥かに凌駕するモノになるだろう。
それなのに何故、彼等は、わざわざこちらの者に憑依してまで、この三次元世界に介入して来るのだろう?
そんなに四次元世界が詰まらない所なのか?あるいは、三次元世界に未練が残る者が多いのか?この件については、今後も検討の余地が有る。
そして、伯爵から再三に渡って提案されている、若返りの術と、不老不死の薬の施術をどうするかは、その後考えたら良かろう。彼はそう思ったのだった。




