② 二人の馴れ初め
"彼"とサン・ジェルマン伯爵との馴れ初めは、こうだ。
彼には、数多くの人心を扇動した事で、ローマに対する反逆罪であるとして、当時のローマ総督ピラトにより、十字架刑が言い渡されていた。
彼はただ、打ちひしがれた人々の心に希望を与え、人としてどう生きるべきかを説いただけだった。アカシックレコードに手が届き、"この世の全ての理"を知った彼だったが、シンプルにただそれを皆に広めただけだ。しかし、その行為が罪に問われたのだ。
その頃、力を持っていたユダヤ教の体制を、或る意味、批判するような格好になったのが睨まれたのかも知れない。それに、説教の合間に、時々人々に見せた、奇跡と呼ばれるちょっとした手品が、不味かったのかも知れないが……。
そんな訳で、彼は今、自分が磔にされる十字架を背負わされて、自らの処刑場である、ゴルゴダの丘へと登る坂道を歩いていた。
だが、彼の心の中に恐れは無かった。何故なら、この後に起こる出来事を、彼は既に把握していたからだ。全ては、アカシックレコードを垣間見たせいであった。
丘の上に到着すると、直ぐにその十字架は設置され、二人の兵たちに運ばれた彼は、今まさに磔にされようとしていた。
事件は、その時に起こった。
時間が止まったのだ。
そして彼は、とある紳士に肩を叩かれ、声を掛けられた。
「貴方には選択権が有ります。ここでこのまま命を落とすか、私と共に来て、別の人生を歩むか。今ここで、選んで下さい」
すると彼は、静かに答えた。
「ああ、キミか。待っていたよ、サン・ジャルマン君。ホントにギリギリのタイミングでやって来たね?」
サン・ジャルマンと呼ばれた紳士は、とても驚いたようだった。
しかし彼は、すぐに平常心を取り戻すと言った。
「やはり貴方には、未来が見えているのですね?……それで、お答えの方は?」
「無論、キミと行くとも。ただし、キミの用事が済んだら、またこの世界に戻すと、この私に約束してくれたまえ」
「それは……何故でしょうか?」
「私にはまだここで、やる事が残っているのだ。それはどんな事なのか……キミも知っているのだろう?」
「そうですね……了解しました。それで行きましょう。やれやれ、レスキューの時に、条件を出して来たのは、貴方が初めてですよ?」
サン・ジャルマン伯爵は、黒いワーゲンビートルの助手席から、身代わり生体人形を出し、イエス・キリスト本人と入れ替えた。これで完全犯罪の出来上がりである。
彼はイエスを助手席に乗せると、現場を去るのと同時に、時間凍結を解除したのだった。その後の時の流れは、歴史に示された通りである。




