⑮ 金環日食
それは5月20日の事だった。
25年ぶりの金環日食が、日本各地で見られると、誰もが盛り上がっていた。
午前7時30分前後が、その現象を、一番確認し易い時間帯だった。
幸い、天候に恵まれた地域がほとんどで、地上では、皆がその様子に注目していた。
しかし、そんな地上の楽しみを他所にして、宇宙空間では、ちょっとした事件が起ころうとしていた。日食の瞬間、真っ黒に見える月を背景にして、何百、何千という、黒いモヤモヤの集団が、地球に向けて降下しようとしていたのだ。
今更言うまでも無く、ソレは四次元からの侵略者たちだった。
暗闇に蠢く漆黒の存在達は、誰の目にも見えないモノだった……そう、ただ一人、彼女を除いては。
その時、地球と月の間の宇宙空間に、立ちはだかっていたのは、またしても黒猫神のバステト嬢だった。彼女は、金色に輝く眼で睨みつけながらこう言った。
「私を誰だと思っているのかしら?この瞳の前では、どんな暗闇の世界も、お見通しなのよ」
彼女はオリハルコンの剣を構えると、宇宙空間を自在に移動し、その黒いモヤモヤたちを、次々に切り裂いて行った。斬られたモノは、真空であるにも関わらず、たちまち炎に包まれ、次々に蒸発してしまうのだ。
バステトは戦士として、無双の強さを誇る者だが、如何せん、相手の数が多かった。少しずつ疲れを見せ始める彼女。やがて周りを、すっかり黒いモヤモヤたちに、取り囲まれてしまった。うっかり憑依でされたら、厄介な事になりそうだ。
しかし、そこにまた、お約束のように、大柄な黒いジャッカルが現れた。
それは、イケメンに変身した、犬王のアヌビスである。
「随分、お楽しみじゃないですか。ボクも混ぜて下さいよ?」
「あら、アヌビス君。ありがとう。でもアナタ、夜目は利かないんでしょう?」
「ご安心を。ボクには、宇宙空間でも使える、強力な臭覚があるんですよ」
「……あら、初耳だわ。そんなバカな事が……?」
彼女が言っている間に、黒いモヤモヤを、どんどん斬って行くアヌビス。
彼はろくに相手を見もせずに、それをやってのけていた。まるで"座頭市"だ。
そして彼は「ボクも伊達に、神を名乗っている訳ではないのでね」と言って笑った。
たった二人の活躍で、その場に居た千匹程の黒いモヤモヤは、やがて、すっかり消滅されてしまった。
「ま、こんなところかしらね?」とバステト。
「いいんじゃないですか?」とアヌビス。
無事に由理子の世界線を守護する事に成功し、満足した二人は、それぞれの時空旅行機に乗り、自分の世界線に帰って行ったのである。




