⑬ ISSにて
3月11日。日本国内では、東日本大震災から1年を迎え、追悼式が行われていた。その頃、衛星軌道上の国際宇宙ステーションでは、船長のダニエル・バーバンクが、休憩がてら、船窓の外を眺めていた。
ロシアのソユーズの打ち上げが、トラブルにより5月に延期されたため、クルーの交代も先送りとなった。しかし、第30次長期滞在組の6名は、精神的にも肉体的にも、今日も変わりなく、皆、元気だった。
もちろん、衛星軌道上での、様々な実験などが、彼等の主な任務なのだが、もう一つ、彼等が秘密裏に引き継いでいる、ミッションが有った。それは、あの謎の黒い人工衛星、"ブラックナイト"の監視だった。
当然、公式には、そんなモノは、存在しない事になっている。ただ、あのドナルド・トランプが、大統領になった暁には、全てを公表すると、関係者に公言している。
まあ、そんな"おかみ"の動きはさて置き、ミッションは続けなければならない。船長は、そんな事を考えながら、今日も目の前を悠然と通り過ぎて行く、その黒い物体を見送る。
一説によると、数万年も前から、ソレは飛んでいたらしい。ただ、漆黒の宇宙空間を飛ぶ、黒い人工衛星だ。これまでは、そう簡単には、見つからなかったのだろう。
その、まるで日本家屋の屋根にある、瓦のようにカーブした独特のデザイン。それは明らかに、自然に出来た隕石ではない。
何よりも、緩急を付けた、スピードの変化が怪しい。動きを制御するための、何らかの推進装置が有るはずだ。そしてゆっくり飛ぶ時は、地表の映像でも、撮っているのではあるまいか?
上からの情報では、やはりソレは、ニンゲン以外の乗り物らしい。ただ人類にとって、友好的な態度をとる事は、確約されているとの事だった。ならば監視の必要など、無いではないか?
船長がそんな事を、ボンヤリ考えていた時だった。事態は急変した。何とブラックナイトが、何時の間にか目の前に停泊していたのだ。そして船内に、流暢な英語で、以下のような内容の音声が流れた。
「私は、爬虫類族の女王ウアジェト。今年は、地球にとって重要な年。お互いに協力して、地上に居る人類を、守りましょう」
船長がスッカリ面食らって、他の乗組員たちも、慌てて船外を見る中、満足したかのように、その黒い人工衛星は、再びISSから離れて行ったのであった。
……無論この事件が、公式には、記録も発表もされなかった事は、言うまでもない。




