「それぞれの変化」
土曜日。
白石綾子は、橘真由と金田遥と三人で買い物に出かけていた。
少し前のノー残業デーで化粧品は一式揃えた。
今日は、その次——服を選んでもらう日。
「綾子は色白だからね、こういうの絶対似合うよ」
真由が手に取ったブラウスを、白石の体に軽く当てる。
「ほら、鏡見て」
言われるままに立つ。
(……あんまり着たことない感じ)
少し戸惑う白石の横から、遥が別の服を差し出した。
「いつもふわっとしたの多いでしょ」
落ち着いた声。
「もう少しシルエット出るのも、いいと思うよ」
「これなら会社でも着られるし——」
「こっちはデート用ね!」
気づけば、本人以上に二人が盛り上がっている。
(……すごい)
圧倒されながらも、白石は何着も試着を繰り返した。
そして——
「……あ、これ」
試着室のカーテンを開ける。
「これ、どうかな?」
その瞬間。
「いい!」
「いいね」
声が重なる。
さりげなく胸元が開いた、女性らしさを引き立てるブラウス。
オフィスでも、プライベートでも着られそうな一着。
「似合ってる」
遥が短く言う。
「即決ね」
真由も頷いた。
その後も、二人の勢いに押されるように、白石は夏服をいくつか購入した。
「さて」
真由が手を打つ。
「次は一番大事なとこよ」
「……え?」
連れていかれた先は——下着売り場。
「ちょっと真由、声大きいって」
白石が慌てる。
「ていうか、綾子はまだでしょ?」
「……っ!」
「新田くんは知ってるの?」
遥が淡々と聞く。
「言って……ない」
少しだけ視線を落とす。
「でも大丈夫」
小さく笑う。
「新田くん、無理にとかしないと思うから」
「……ラブラブね」
真由が肩をすくめる。
白石は照れたように笑った。
買い物を終え、三人は近くのコーヒーショップに入った。
「はー、楽しかった!」
真由が伸びをする。
「綾子、冬服も一緒に選ぼうね」
「うん、今日は本当にありがとう」
白石はストローで氷をくるくる回しながら言う。
「メイクも上達してきたよね」
遥がふと口にする。
「この前、佐倉が言ってたよ。綺麗になったって」
白石は、少し照れながら微笑んだ。
「それで?」
真由がニヤッとする。
「営業一課のエースは、何か言ってきた?」
「え?」
白石は首を傾げる。
「新田くん? 何も……」
「たぶん気づいてないと思う」
苦笑する。
「男の人だし」
真由と遥が、ちらりと目を合わせる。
「……まあ、そのうちね」
「うん」
「?」
白石はきょとんとするが、それ以上は何も言われなかった。
コーヒーを半分ほど飲んだ頃。
遥が、静かに口を開く。
「そういえば」
二人の視線が向く。
「私、プロポーズされた」
——その瞬間。
「ぶっ……!?」
真由が盛大にむせる。
「え!?ほんと!?おめでとう!!」
白石の声が弾む。
一方で、真由はまだ咳き込んでいる。
「大丈夫?」
遥が淡々と聞く。
「だ、大丈夫……」
ようやく落ち着く。
「……おめでとう、遥」
その言葉の裏で——
(……プロポーズ)
先日の森海斗の顔が、頭をよぎる。
「いつ?」
「どこで?」
「なんて言われたの?」
白石の質問が止まらない。
「誕生日に家で」
遥は少しだけ微笑む。
「結婚前に同棲すると、ダラダラしちゃうって聞いてたけど…」
「ちゃんと、ゴール決めてくれてた」
「いいなぁ……」
白石が素直に呟く。
「……結婚、か」
真由がぽつりと落とす。
遥が視線を向ける。
「真由は?」
「彼氏」
「いないわよ」
即答。
「作る気もないけど」
肩をすくめる。
けれど——
ほんの一瞬だけ、視線が揺れた。
白石と遥が、静かに目を合わせる。
(……そのうち話してくれるよね)
言葉にはしないまま、そう思った。




