「嫉妬と、本音と、その先」前編
7月2週目ーー
オフィスの午後。
コピー機の前で、白石がしゃがみ込み、用紙を補充している。
「白石さん、最近綺麗になってきたわね」
背後から声がして、振り返ると三崎先輩が腕を組んで立っていた。
「え……そうですか?」
少し照れたように笑う白石。
「そうよ。なんか雰囲気変わった。いいじゃない」
そう言って去っていく背中を見送りながら、白石はほんの少しだけ胸が温かくなるのを感じていた。
——気づいてもらえた。
週末に真由と遥に選んでもらったブラウス。
さりげなく胸元が開いた、女性らしさを引き立てる一着。
そして、胸元で新田に貰ったパールのネックレスが光る。
まだ少し落ち着かないけれど、
鏡の前で「いいかも」と思えた自分を、思い出す。
そのとき——
「白石さん、ありがとうね」
隣の課の男性社員が、同じようにしゃがみ込んで声をかけてきた。
「え?あ、いえ……誰かがやらないといけないので」
視線を合わせるでもなく、淡々と答える。
けれど、距離が近い。
しゃがんだままの位置関係。
ふとした拍子に、相手の視線がどこに向いているのか、なんとなく分かってしまう。
(……気のせい、だよね)
そう思って、すぐに立ち上がった。
その様子を——
少し離れたデスクから、新田は横目で見ていた。
何も言わず、ただ視線だけを送る。
けれどその胸の奥に、小さなざわつきが生まれていた。
午後。
外出のためエレベーターホールへ向かう途中。
新田の足が、ふと止まる。
少し先で、隣の課の男性社員が二人、話していた。
「最近さ、白石さん綺麗になったよな」
「あー、わかる。今朝さ、コピー用紙補充してるとき話しかけたんだけど——」
一人が、少し声を潜める。
「角度的にさ……見えちゃって」
「結構あるよな」
その瞬間——
新田の中で、何かが音を立てて切れた。
拳に力が入る。
今すぐ殴りかかりたい衝動。
けれど——
(……ダメだ)
ぎり、と奥歯を噛み締める。
白石との関係は、まだ公にしていない。
ここで何かすれば、
彼女に迷惑がかかる。
何も言わず、その場を通り過ぎる。
外に出る頃には、表情はいつもの営業の顔に戻っていた。
仕事は、問題なくこなせる。
けれど——
胸の奥に残ったものは、消えない。
じわじわと、熱を持ったまま。
(……なんだよ、それ)
自分でも、抑えきれない感情。
静かに、確実に膨らんでいく。




