「少しずつ、自分を好きになる」
週明け、月曜日。
いつも通りの朝が、何事もなかったかのように始まる。
デスクに向かう白石を、少し離れた場所から見ていたのは橘真由と金田遥だった。
「あの表情……乗り越えたみたいね」
真由が小さく呟く。
「綾子は強い子だから。頑張ったね」
遥も静かに頷いた。
その視線に気づいた白石が、ふっと笑って二人の方へ歩いてくる。
「今日、ランチどうかな?」
三人ともお弁当を持っていたが、顔を見合わせてすぐに決まった。
「夜に回せばいいでしょ」
そんな軽いやり取りで、約束は成立する。
昼休憩。
オフィスと同じビルに入っているカフェで注文を済ませ、三人は席に着いた。
ひと息ついてから、白石が口を開く。
「二人とも、心配かけてごめんね。私……もう大丈夫だよ」
その言葉に、真由と遥の表情がふっと緩む。
「綾子は頑張り屋さんだから、もっと頼っていいのよ」
真由が優しく言うと、遥も隣で頷いた。
何があったのか——二人はあえて聞かない。
綾子が話したくなったときに、話してくれればいいと分かっているから。
けれど。
「……実はね」
白石の方から、ぽつりと話し始めた。
展示会でのこと。
自分の気持ち。
不安と、嫉妬と、過去の記憶。
新田ともう一度歩み始めること。
全部をざっと話し終えると——
「そっか」
「うん」
二人は静かに受け止めて、そしてふっと笑った。
「良かったね」
その一言が、胸に沁みる。
少しだけ間を置いて、白石が続ける。
「それでね……私、もっと自分に自信を持てるようになりたくて」
真由と遥が顔を上げる。
「メイクとか、ファッションとか……教えてほしいの」
一瞬の沈黙のあと——
「いいじゃない、それ!」
真由が身を乗り出す。
「楽しそう。じゃあ水曜日、仕事終わり行く?」
「うん、行きたい!」
トントン拍子に話が進んでいく。
ひとしきり盛り上がったあと、遥がふと口を開いた。
「私もね、昔は自分に自信なかったよ」
意外な言葉に、白石が目を向ける。
「今もあるわけじゃないけど。子どもの頃からあんまり表情豊かじゃなくて、とっつきにくいって言われて……最後は“ブス”ってレッテル貼られた」
淡々とした口調。
でも、その奥にあったものは、きっと軽くない。
「子どもってさ、自分と違うものとか、周りと同じじゃないものをすぐ比べるもんね。」
真由が頷く。
「分かるわ」
「それで、そのまま大人になって……今の彼に出会ったの」
遥は少しだけ柔らかく笑う。
「メイクもファッションも、ちょっと頑張ってみようかなって思えたのは、その人のおかげ」
白石が、じっと聞いている。
「仕事中メイクしないのは、本当の自分を見てくれる人がいるって思えたから。それ以外は、無理しなくていいかなって」
「前は“数字にメイクはいらない”って言ってたのにね」
真由が茶化すように笑う。
「今も基本はそう思ってるよ」
遥も少しだけ笑った。
そして、白石の方を見る。
「綾子。一緒に綺麗になろう」
「うん!」
少しだけ弾む声。
「あ、でも……デパコスとかは無理で。ドラッグストアで売ってるやつで頑張りたいの」
その一言に、真由が即答する。
「だーいじょうぶよ!私だってドラスト派でこれだけ盛ってるんだから!」
遥がメガネをくいっと上げる。
「私もドラスト派」
三人で、ふっと笑う。
ランチタイムは、穏やかな空気のまま終わった。
また楽しみと思える日が増えた。
本当にこの2人と同期で良かった。
そう思いながら3人並んで店を出ていく。




