「戻っていく日々」
新田たちが海外出張に出ている一週間。
白石は、ある程度の覚悟をしていた。
——福井のフォローで、かなり手を取られるかもしれない。
だが、蓋を開けてみれば。
最初の一日こそ、細かな確認や対応に追われたものの、
それ以降は、大きなトラブルもなく、業務は驚くほどスムーズに回っていた。
クレームの電話も、ない。
むしろ——
「白石さん、この案件、ここまでで大丈夫ですか?」
福井の声は、前よりも少しだけ落ち着いていた。
「うん、大丈夫。そのまま進めていいよ」
チェック表を見ながら確認する姿も、どこか迷いが減っている。
——ちゃんと、やれてる。
白石は、画面を見つめながら小さく頷いた。
教育とフォローをしながら、
それでも業務は滞ることなく進んでいく。
気づけば、あっという間に一週間が過ぎていた。
金曜日。
その日は、特に残業もなく、定時で仕事を終えた。
パソコンの電源を落としながら、ふと考える。
——新田くん、今日帰ってくるんだっけ。
たしか、金曜の便で戻ると言っていた。
帰り道。
電車に揺られながら、窓の外を見る。
夕方の空は、やわらかく色を変えていた。
——一週間。
会えない時間は、長いと思っていたのに。
「……あっという間だったな」
小さく呟く。
それでも。
こうして思い出すと、少しだけ寂しさが残る。
——そういえば。
ふと、今朝のメールを思い出した。
片山部長から、部署宛に届いていた連絡。
営業一課関係者各位
6月6日(土)11時〜
ABC会館にて、A社主催の展示会が行われます。
本展示会は、A社と契約したOEM品を主題としたものであり、
A社メンバーとの顔合わせも兼ねております。
営業一課全員を招待しておりますので、
営業職の方は名刺の準備をお願いいたします。
また、事務職員も担当の有無に関わらず、
展示会の理解を深めるため、全員参加といたします。
なお、土曜日開催のため、代休申請は別途対応願います。
片山
展示会。
白石にとっては、初めての経験だった。
——どんな感じなんだろう。
頭の中で、なんとなく想像してみる。
スーツの人たち。
名刺交換。
ブース。
説明。
どこか、自分とは少し遠い世界のようにも感じる。
「……何、着て行こう」
ぽつりと漏れた言葉に、自分で少し驚いた。
仕事の場なのに、そんなことを考えている。
でも——
少しだけ、楽しみでもあった。
この週末で、何か見に行こうか。
そんなことを考えているうちに、電車は最寄り駅に到着した。
自宅に戻り、バッグを置く。
静かな部屋。
ふと、スマートフォンに視線を落とす。
——帰ってきたかな。
そう思いながらも、まだ画面は開かない。
ほんの少しの間を置いてから、
ゆっくりと手に取った。
まだ知らない。
この展示会が——
白石と新田の関係を、
大きく動かすことになるなんて。




