「一緒に見たかったんだ」
水曜日は、思っていたよりもあっという間にやってきた。
朝からどこか落ち着かなくて、仕事をしていても時計ばかり見てしまった。
仕事終わり、ノー残業デーなのでみんな定時を迎えると、帰っていく。
白石は更衣室を出て、新田に言われた会社の最寄駅のロータリーに向かっていた。
普段は電車移動が基本なので、あまりロータリーに来ることもなかったので不安だったが、無事にたどり着いた。
(新田くんは車を取りに行ってから来るから、もう少しかかるよね…)
そう思いながら、空いたベンチに腰掛け、空を見上げる。
白石の働いているオフィスもそうだが、あたりには高いビルや商業施設が多くあり、空が小さい。
しばらくすると、軽くクラクションが鳴り、見ると新田がフロントガラス越しに手を振っていた。
小走りに車に向かうと、新田が助手席の窓を開けた。
「ごめんね、結構待った?」
「ううん、ゆっくり来たから大丈夫だよ!」
白石は一瞬迷い、いそいそと助手席に乗る。
慣れない手つきでシートベルトを着けると、新田はゆっくりと車を走らせた。
「新田くん、車持ってるんだね。知らなかった。」
普段は電車通勤なのは以前話したことがあり知っていた。
今日は退勤後にすぐ車を使いたかったので、車出社したとの事だった。
「運転するのが結構好きで、休みの日もよく乗ってるよ。気分転換にもなるしね…白石さん、車酔いとかする?」
「しないよ!丈夫な体だから!」
力こぶを作ると、新田は小さく笑った。
「もうすぐ着くよ。」
と言われたのは30分ほど走った、街から少し外れた丘…というよりも山の上の駐車場。
2人で降りて、駐車場の奥の木製のフェンスまで進む。
もうそこまで見えている新田の”見せたいもの”が見え、白石は小走りで先にフェンスに着いた。
(なんて綺麗な…)
とても綺麗な夜景だ。
たくさんのビルの光が輝いて、空が広い。
春の涼しい風が胸をキュッとさせる。
さっき駅で見上げた空とは、まったく違う。
同じ街なのに、こんなに遠くまで見えるんだと思った。
(…いろんなことを考えさせられる。)
「綺麗でしょ。
誰かと来たの、白石さんが初めてなんだ。」
いつのまにか新田が追いつき、フェンスに腕を組みながらフェンスにもたれ、夜景を見ながら話した。
「前の職場でも上手くいかなかった時とか、気分転換したい時、嬉しかったとき、ここにきたんだ。」
白石は新田の横顔を見ながら聞く。
「上手くいかなかったときは、こんな多くの光の中の小さな一つに自分は居て、世界はもっと広いんだぞってこの夜景に背中を押してもらったり。
嬉しかったときは、こんな大きな街で自分はできたんだ!って自分を認めることができたり…。」
新田は白石の方を向いた。
「だから、白石さんに見せたかったんだ。」
白石は胸の奥がキュッと音を立てるのを感じた。
春の優しい風が吹き抜ける。
「白石さん、好きです。
付き合ってください。」
新田の”伝えたいこと”が白石の心に沁みわたる。
(私も伝えないと…。)
もう自覚してしまった新田への気持ちを。
「私も新田くんのこと、もっと知りたいって思ってた。
でも、ほんとうは前から知ってたのかもしれない。
入社してきたときからずっと一緒に仕事をして、
どんな人か、なんとなく分かってた。
まだ知らないこともたくさんあるけど…」
心臓の音が大きい。
一呼吸おいて伝える。
「私も、新田くんが好き。
私でよければ、お付き合いしてください。」
新田は優しい笑顔で白石の頭をなでた。
「ありがとう。これからもよろしく。」
そう言って、新田は白石をそっと抱き寄せた。
夜景の光が、少しだけ滲んで見えた。




