08.クラスルーム
戦地の功績を認められ、褒美を賜ることになったブロードをめぐり、クラスメイトたちは大盛り上がり。話の中心人物マイラにしかし、いやみなジリアードが冷水を浴びせる。「ブロードは〈異世界遊行〉を乗り切れるのか?」
その日クラスルームではブロードの話で持ちきりだった。
義勇軍に参加した生徒たちは、ブロードの活躍を誇張して伝え、想像力旺盛な生徒たちは、王がブロードに賜る褒美についてさまざまな意見を述べた。
「彼はいずれ至高の冠位、太陽級を抱くことになるとボクは思うよ」
輪の中心人物のアルマ・プラムが言った。座席の位置の都合上、その輪の中にはバーリントンも巻き込まれてしまっていた。まいったな。ぽりぽりと頭の後ろをかく。
「太陽級の冠位を持っているのは、現世ではランドリアル学長しかいない。でもランドリアル学長すらブロードは凌駕するだろうね」
ロスアルドが言った。戦場での額の傷は癒えているが、回復魔術がうまく働かなかったらしくうっすらと痕が残っていた。
「その通りだ。論を俟たない」「毎朝太陽が現れるのと同じぐらい当然のことさ」
同意の声が相次いだ。
「そうだろうか?」
それだけに異論の声は周囲の耳目を集めた。
「ブロードのすごさは認めよう。だがしかし、太陽級を目指すからには〈異世界遊行〉を果たさねばならない。彼はそれを果たせるだろうか?」
発言の主、ジリアードは皮肉げに眉をひそめた。
「異世界遊行・・・」
その言葉を口にしたとき、アルマの唇はにわかに震えていた。
異世界遊行は、魔術師の到達点とも言える難業であり、冠位・太陽級を得るための最終試験である。王国の領内には異世界へとつながる扉がある。その中をくぐり、王国に「何かよきもの」を持ち帰るという試練だ。回復魔法も異世界より伝えられたと言われている。異世界の扉についてバーリントンは権威と言っていいくらい熟知していた。
「アラバード国二千年の歴史の中で、これまで二千人の太陽級志望者が挑戦した。だがそのうちで何人が生還したと思う?」
ジリアードは言葉を切り、辺りを見渡した。
「たった百と五人だ」
「ふん、そんなことは常識だ。偉ぶっていうようなことでもない」
ロスアルドは言った。腕を組み、ジリアードを見すえる。
「ロスアルド君、考えてみたまえ。ブロードといえどだよ、異世界という場所に耐えられるのだろうか? 異世界の扉は訪れる者によって別々の世界へと導く。そうだろう、バーリントン君」
そう言いながら、ジリアードは長い前髪をかきあげた。
「その通りだ。これまで帰ってきた百五人は別々の世界を報告している」
「ありがとう、扉の守り手の一族よ。つまりだ、ブロードも送られる世界によっては戻ってこれない可能性も大いにあるわけだ。巨人族や鳥人族の世界のように友好的な種族がいるばかりとは限らない。そうだろ?」
「ブロードなら砂漠の世界だって生きのびる。彼は、魔術で飲み水を作れるし、手からパンだって生みだせるんだ。実習で実際に見たもん!」
アルマが言った。彼女が踏まえているのは、古代魔術師のビリエルが訪れた砂漠以外は一切何もない世界のことだ。あるのは途方もない砂漠だけで、百日探索して何も持たず帰ってきたと文献にある。
「女妖術師だけの世界ならどうだ? さしものブロードも虜になってしまうのではないかね?」
「……まあ、女妖術師の世界はむしろ行ってみたいかも」
誰かがつぶやき、また別の誰かがうなずいた。そこは女しかいない世界で、男は尊ばれ誰からも愛されるのだという。この世界を訪れた魔術師ヴィラズはもう一度そこに舞い戻ることを夢見て再度扉をくぐり、以来消息を絶ったと伝えられている。
「サイテー! ブロードはヴィラズとは違うんだもん!」
アルマが美眉をひそめた。
「他にもゴブリンやオークどもが跳梁跋扈する世界、アラバードが姿を消したという未知の世界もある。そんなところに放り込まれたら、ブロードといえど分からないぜ」
ジリアードは意地悪く口の端を歪めた。
「誰のことを話しているんだ?」
音もなく教室に姿をあらわしたのは話題の中心人物、ブロード・レッドマイヤに他ならなかった。
クラスメイトの騒ぎをよそに、クールな様子で教室にはいってきたのは、話題の張本人ブロード。はたして彼の反応は?




