07.表彰式にて
おびえるクラスメイトをさしおいて、戦場で縦横無尽の活躍を見せたブロード・レッドマイア。褒美として、彼のたっての申し出をするのだが……。
厳粛な空気に包まれた講堂では、私語をはさむものは一人もいなかった。
国王が来ているのだ。
日ごろは、生徒たちが研究成果を発表したり、詩や手品といった余興を披露したりするステージで、王冠と赤いマントに身をつつんだ王が、急きょしつらえた玉座に腰を下ろしていた。
国王アラン・アラバード十六世は三十二歳。肩幅は広く戦士然とした体躯をしている。おだやかなまなざしは黒曜石のようにきらめき、豊かな黒髪には油がさされ照りかがやいている。学園にはたびたび足を運んでおり、バーリントンとしては三度目の謁見となった。
その国王が、あつい視線をそそいでいるのが、先の戦場で成果を上げた勇士ブロード・レッドマイアである。
「面を上げよ。ブロード」
王は言った。
ブロードは姿勢を改める。なで肩で女のようだが、身長は男としても高い部類である。謁見のためなのか長い亜麻色の髪の毛すらは頭の後ろで三つ編みにまとめられていた。
「相変わらず器量のいい男よの」王は笑みをもらした。「いささか急な戦闘参加要請にも答えてくれた。お礼を言うぞ。そなたの望みを言うがよい。可能なかぎりこたえてみせよう」
「感謝申し上げます、王様。寛大なる一言、身にあまる光栄にございます。つきましては、学園を出て宮廷魔術師を志願したいと考えています。入廷の資格は満月級以上。まだ受級資格をもちえず半月級の位にある私ですが、特例として、満月級への昇級試験を受けさせていただきたい」
「ふむ」
王は、その鋭角的なあごに手を当てた。
生徒たちの間でにわかに驚きの声がもれた。未成年の分際で宮廷入りだって!? あまりに出過ぎている。前代未聞だ。いくらブロードといえど。いや、ブロードなら必ずやってのけるよ。彼は何せ特別な存在なんだ――生徒たちはささやきあった。
「どうだ、ランドリアルよ。一考できぬか?」
「なりませぬ」
王の左隣にひかえていたのは、王の魔術顧問にして宮廷魔術師にして学園最高権威のランドリアルだ。綿雲のような口ひげの向こうからは、いかつい声が響いた。
「すべては国祖アラバードの決められしこと。背くことは許されませぬ。かの者はまだ十五歳で成人にはあと2年足りない。卒業は認められてませぬ。座して時期を待つようお申しつけなさることです」
ランドリアルは言い放った。
「たしかにアラバードの決め事とあらば変更することは極めて難しい。まあそういうことだ、承服してくれるなブロードよ」
「しかし」
ブロードが食い下がったので、バーリントンははっと息を飲んだ。となりに並ぶアルマもその小さな顔を真っ青にしていた。平静でいるのは、王と魔術顧問とブロード本人だけである。
「一考いただきたいのです。私が予定よりも早く卒業を果たせれば今よりお役立ちできるはずです。今回のような戦列にも最短の手続きで参加できる」
「たしかにお前には才能がある。多くの生徒が卒業と同時に手にする新月級の冠位をすでに得て、さらに冠位は半月級第五階梯まで達している。満月級へ進めぬのは、学卒を果たせぬからの一点に尽きる。そなたとしても大いに不満であろう。我々としてもそなたを宮廷に招くことができれば、どれだけよろこばしいことか」
だが、と王は言った。
「国祖アラバーデュス・アラバードの言は絶対である。その言葉こそはわれらが国の礎。われわれはその言葉に従わなくてはいけない。一切の例外は許されんのだ」
王の言葉に、ブロードは動揺しているように見えた。
見た目としては冷静そのものなのだが、クラスリーダーとして気を配ってきたバーリントンの目には、微妙なレベルにおいて、変化が感知されえたのである。
「なに、あと二年足らずのことだ。時間は短い。学友との時間を大事にして学生としての日々をまっとうするがいい。私も学院の卒業生だが、あれはいいものだぞ。ちまたでは、お前はアラバードの生まれ変わりと信じられているようだが、私もそう信じるのはやぶさかではない。必ずや最高冠位の太陽級へと昇りつめるがよい」
これは王が一国民にあたえる賛辞としては最大級のものであったから、感激にため息もらすものが大勢いた。だが、ブロードはというと、頭を下げつつもひたすらクールに構えていた。
「さて、先ほど述べた理由によりそなたを卒業させることは叶わぬが、それに相当する褒美は授けよう。何か考えておけ。王宮の鳩を渡す。そなたの所望を文にそえて放つがよい。必ずや聞き遂げようぞ」
ランドリアルはビロードの覆いのある真鍮製の鳥籠を持ってきた。中には宮廷との連絡に使われる青灰色の鳩が収まっている。ブロードはうやうやしく鳥籠を受け取った。
ブロードは王に一礼すると、部屋に急ごしらえで敷かれたじゅうたんをおり、生徒たちの並ぶ列へとくわわった。
それから、王はお供を引きつれ学院を後にした。謁見は終わり、そぞろ生徒たちは教室へと戻った。
バーリントンはブロードを見つめる。彼の榛色の瞳の中に強い感情を読み取らずにはいられないのだった。
王に望みを却下されたブロード。その悲しみをバーリントンだけが見ていた。




