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凍結世界の無能力魔術師  作者: 馬村ありん
プロローグ
6/12

06.火と風のロンド

ブロードは、高等魔術を生徒や兵士の前で披露する。火と風のロンド。そのすさまじさに、バーリントンは息を呑んだ。

 ブロードのマントの下から現れたのは、銀製の杖だった。円筒形で、指先から肘までくらいの長さしかない。『杖は長ければ長いほどカッコがつく』という生徒たちの風潮(トレンド)に逆らって小ぶりな形状をしていた。

 彫刻や刻印といった装飾は一切なく、それもまた魔術師の杖としては異例なものだった。

 矢の雨が叩きつけるなか、彼はゆっくりした動きで杖を握った片手を上げた。

 マナがブロードの杖の先に吸い寄せられていくのを感じる。まるで宇宙空間に空いていると言う無限の穴のように、貪欲にマナを吸い集めていく。

「こんな大量のマナを集めて消費し切れるのか⁉︎」

 バーリントンは我知らず驚愕(きょうがく)の声を上げた。


 マナは、精霊(スピリット)を呼び起こす。

 赤い輝きは火の精霊(サラマンダー)、緑の輝きは風の精霊(エアリエル)の存在をほのめかしている。

 並の魔術師が操れるのは一つの元素のみ。

 だが、ブロードの杖の先には赤と緑の輝きがうずまいていた。

 ――これは火と風の混成魔術(こんせいまじゅつ)だ。

 冠位魔術師のみが扱える高等魔術――その奇跡をバーリントンははじめて目の当たりにする。

 火と風の力が混じり合う。

 杖の先端を中心に、膨大(ぼうだい)な熱と暴風とがひとつに収束する。

 バーリントンの頬を熱風がかすめる。

 蛮族の潜む樹木を揺さぶる。

 魔力のない者たちにもその恐ろしさが分かるのだろう。勇猛果敢で知られた戦士たちも、武器を放棄して逃亡の態勢を取り始めた。

 しかし、すでに遅いのだ。


「巻き起こせ、火と風のロンド」

 遠くで口にされたはずのその言葉は、なぜかバーリントンの耳にもはっきりと届いた。

 ブロードの杖の先から半球状の光が巻き起こった。膨張(ぼうちょう)しつつ、熱風を振りまきながら、あたり一帯に広がった。

「熱っっ!」

 アンディゴが目を閉じた。遠くで見ているバーリントンたちの目にも光線が突き刺さってくる。

 百の落雷が同時に巻き起こったかのような轟音(ごうおん)が鳴り響いた。

 バーリントンは、悲鳴をあげて床に伏せたアルマの手を握る。彼女は強く握り返した。

 熱波にも負けず、バーリントンは目を閉じぬよう目の前の光景に食い下がった。見届けねばならない。

 学友の姿を。

 冠位持ちの勇士の姿を。


 ブロードの爆発はあたり一体を灰と化した。黒ずんだ焼け野原が、黒ずんだ森が目の前に広がっていた。

 二百人もいた蛮族の戦士たちは残らず灰にされ、息をすって吐くほどの間をおかず、塵芥と化して風の中に消えていった。

「魔術ってのはこんなに恐ろしいものなのかい」

 アンディゴは声を震わせていた。蛮族の襲撃にも動じなかった男が今や怯えきっている。

「言ったでしょう、彼は例外的」

 アルマは丸太敷きの床から起き上がった。

「冠位半月級第五階梯の魔術師。でも、年齢が成人に達していないからそこに留まっているだけ。本来なら最高階位の太陽級にいたっておかしくないひとなんだよ。彼こそ国祖にして偉大なる大魔術師アラバードの生まれ変わりだと思うの!」


 再び空からファイアバードが姿を見せた。その頭を地にふせると、ブロードが背にまたがるのを待つ。ブロードを乗せて、ファイアバードは学院のある首都の東へと飛んでいった。

「ファイアバードが奥に潜む蛮族も焼き殺してきたんだろう。これでもうボクたちの任務も終わりだよ」

 国境に迫った蛮族は倒された。義勇兵の任務は終わった。

 そうか、終わったのか。

 あっけないものだ。

 バーリントンは思った。

 これから長い時間をかけて、うちに帰るのだ。両方の手のひらを広げる。兵士と自分の血で汚れていた。

戦は終わった。これから長い距離をバーリントンは戻ることになる。その後すぐに、ブロードは王より勲章をたまわるのだろう。

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